Embracing Disruption

デジタル・ダーウィニズム:新たなディスラプション

2022/02/08
Abstract architecture

Summary

ディスラプション(破壊的な変革) はこれまでも常に身近にありましたが、私たちは今、「適者生存」の新しいデジタル時代へと移行しつつあります。弊社は、気候テック や人工知能(AI)など、この新しい変化の大きな原動力になっている重要テーマを明らかにしました。ディスラプションは今や、投資家のポートフォリオ構築において不可欠な要素になっています。

要点

  • ディスラプションはもはや、テクノロジーセクターに限られた現象ではありません。ハードウェアやソフトウェア、そして「ビッグデータ」で起きている革新的進歩は、ディスラプションが今では私たちの生活のあらゆる部分に及んでいることを意味しています。
  • テクノロジーを起点とする大きな変化が、一種の「デジタル・ダーウィニズム」を引き起こしています。これは優位をめぐる競争であり、勝者の定義を変えるとともに、新たな投資機会を生み出しています。
  • テクノロジーの優位をめぐる闘いは、広範にわたって共振を起こしています。例えば、各国が世界のデータをこれまで以上に支配しようと競い合っていることからも、地政学的緊張が高まっていることがわかります。
  • これだけの規模のディスラプションは不安定化の要因になるものの、投資家はこのグローバルな変化に乗じて成長の可能性を求めることができます。テーマ別投資 とサステナビリティが今後、またとない投資機会 をもたらす可能性があります。

ディスラプションに対するこれまでの理解を、今こそ再考すべきです。ディスラプションはかつては主にテクノロジーセクターに関わるもので、配車サービスやレンタル、食品デリバリーなど従来から存在する方法を揺るがす新しいプラットフォームがその中心でした。ところが現在、ハードウェアやソフトウェアにおける革新的進歩ととてつもない規模のデータの普及により、私たちの生活のより幅広いセクターと領域に、猛烈なスピードでかつてないほどの破壊力が押し寄せています。

これが一種の「デジタル・ダーウィニズム」を引き起こしています。つまり、一部のビジネスを市場から排除し、ほかのビジネスが圧倒的な市場シェアを獲得して世界の地政学的秩序にすら影響を及ぼしかねないような、グローバルな現象となっています。その名の由来である進化の過程と同様、デジタル・ダーウィニズムは細胞レベルの変化であり、私たちが暮らす世界を変えています。とはいえ、投資家には明るいニュースがあります。成長機会と収益機会への投資により利益を獲得することはもちろん、現実の世界にプラスの成果をもたらすことにも貢献できるのです。


新たなディスラプションに対応するための投資の3つの重要テーマ

1. 気候変動とテクノロジー

ジョン・ケリー米気候変動担当特使 は、2021年5月、ネットゼロ排出の達成に必要とされる排出量削減のうち、半分は「まだ存在していないテクノロジーによって実現されるだろう」と述べました。炭素の相殺を目指すAIを駆使した市場や、改良された送電インフラに至るまで、「気候テック」の進歩が地球温暖化のインパクトを軽減する一助となり得ます。

digital-darwinism-box-1 PwCによると、気候変動危機に取り組む企業への投資は、2020年6月までの1年間の248億米ドルに対し、翌2021年6月までの1年間では875億米ドルにのぼりました1。また2013年以降、ベンチャーキャピタルの全資金の60%以上が、電気自動車分野も含むモビリティや輸送に関連したテクノロジーに投入されています(図参照)。特定のセクターで発生する温室効果ガス(GHG)の量とそのセクターに対する投資額の間には、関連性がみられません。例えば、同じ期間に製造業セクターに振り向けられた資金はわずか9%でしたが、同セクターが排出した温室効果ガスは29%を占めています。この状況は、気候に的を絞った新しいテクノロジーに出資する重要な機会が存在することを、投資家に示しています。

 

 

排出削減技術の多くが資金不足の可能性
世界の排出量に占める割合と気候テクベンチャーの投資の割合(課題分野別)

digital-darwinism-chart
出所:PwC「気候テックの現状」2021年版。


2. データと接続性

世界人口の多くがデジタルでつながっているということは、破壊的イノベーションが猛烈なペースで世界を席巻する可能性は十分にあると言えるでしょう。インターネットとの接続を持つ世界人口が1980年代初めにはほぼ0%だったのに対し、現在その人口が60%を超えている2という事実を考えてみてください。この接続性により、1日に全体で2.5クインティリオンバイトのデータがれています3。さらに、モノのインターネット(IoT)4は2021年に9%成長し、接続デバイス数 は123億台に達しています5。現在中国がリードしている「6G」テクノロジーは、5Gの100倍以上の通信速度を持つ可能性があります。このテクノロジーが「スマートホーム」や「スマートシティ」を遥かに超え、経済、社会、環境に関わる重要課題への取り組みを後押しするかもしれません。

digital-darwinism-box-2では、これらすべてのインフラと、そこで送受信されるデータは何をもたらすのでしょうか。一部で「メタバース」とも呼ばれる、次世代のインターネットにより、バーチャルな世界とオンラインの世界がいっそう近くなる可能性があります。例えば、歴史あるローマの村落に「足を運ぶ」よりも本で読む方がいいという学生が、果たして何人いるでしょうか。あるいは、キッチンのリフォームにあたり、工事の始まる前にリフォーム後のキッチンを「見て回る」ことを望まない人がいるでしょうか。メタバースは、特定の分野に関わる企業に新たな収入源をもたらす可能性があり、特に、消費、教育、娯楽、電子決済システムなどがそれに当てはまります。

 

3. 人間と機械 

歴史上には、生命を進歩させた進化上の大躍進がありました。つまり、本来の「生物学的な破壊」です。今私たちは、これに似た瞬間に近づきつつあるのかもしれません。機械学習とAIにより、2045年までに「シンギュラリティ(技術的特異点)」—機械が人間の知能を超える瞬間—が訪れるとの見方もあります7。例えそうした瞬間が訪れないとしても、新しいテクノロジーは生活の質と人生の長さに多大な影響をもたらしています。

次々と新たなテクノロジーが導入され、一方でコストが着実に低下するなかで、科学が「ムーアの法則」をどのようにたどってきたのか考えてみてください。急成長を遂げるゲノミクス8は、遺伝疾患の早期発見と治療への期待を与え、新型コロナウイルス感染危機に新しい解決策をいち早く導入することにもつながりました。ナノテクノロジー9分野では科学者たちが注入可能な「液体網膜プロテーゼ」を開発しており、目の不自由な人が視力を取り戻すことがいずれ可能になるかもしれません10


「デジタル・ダーウィニズム」に備える

チャールズ・ダーウィンやほかの自然主義者が「適者生存」をもとに進化論を説いたように、私たちは今、競争の勢力図が各企業の適応能力と繁栄の力によって書き換えられているのを目の当たりにしています。ただ、この競争における「勝者総取り」が技術的優位にもたらす意味、およびそれに伴って生じる影響は、広範な共振を起こします。おそらくは、これが地政学的緊張の核心にあり、例えば米国と中国間の貿易をめぐっては、このことが顕著に表れています。データを支配することは、権力を手に入れることなのです。一方、デジタル化されたビジネスは保護が必須のため、堅牢なサイバーセキュリティが必要不可欠になっています。世界のサイバー犯罪に関連する損失は、2015年には3兆米ドルでしたが、2025年には10兆5,000億米ドルに上昇するおそれがあります11。これは、サイバーセキュリティ自体が急速に成長しつつある産業であることを意味しています。サイバーセキュリティに対する世界の支出は、2021~2025年の5年間に 1兆7,500億米ドルを超えると推定されています12


投資家にとっての2つの重要ポイント

1. ポートフォリオの構築方法を再考する

低金利、かつ成長と収益の可能性が限られている 目下の環境では、ポートフォリオ構築にこれまでとは違うアプローチをとること、すなわち、ディスラプションがもたらす機会を活かせるアプローチを採用することが重要です。コアとなる分散型ファンドに加え、投資家は以下の分野を検討することが必要でしょう。

  • テーマ別投資は、このディスラプションの波が生む機会を投資家が利用するのに有効です。「健康な暮らし」や「スマートシティ」などに焦点を絞ったテーマ別ファンドが、セクターや地理をもとに投資を分類する従来からの方法とともに、将来的な機会や新しいプリズムに触れる好機を提供する可能性があります。
  • サステナビリティは、どのような形であれ、今や投資家が必ず検討すべき事項です。なかでも気候変動との闘いは必須であり、世界で危険なほどの破壊力を持つものの1つになっています。幸いなことに、投資家は、現実世界に変化を引き起こす投資へとポートフォリオ調整を行うことが可能です。「グリーン」ボンドや「ブルー」ボンドを利用すれば、金融プロジェクトを気候変動や海洋保護に具体的に関連付けることができます。ただし、現在、サステナビリティは気候という枠を超え、私たちの生活のあらゆる領域に影響しています。国連の持続可能な開発目標と足並みを揃えた投資は、世界中の国、組織、企業、個人が地球の保護、貧困解消、世界のコミュニティの生活改善のために連携することを促進できます。投資家の立場からみると、ディスラプションとサステナビリティは密接に関わっています。このディスラプションの時代の勝者を見極めるには、サステナビリティという要素を用いて投資先企業のレジリエンス、成功、息の長さの根源を正しく評価することが、これまで以上に重要です。

2. 投資プロセスにおいて破壊的テクノロジーの力を利用する

「新たな」ディスラプションを存分に活用するために、投資家はその投資プロセスに新しい、場合によっては破壊的なテクノロジーを取り入れる必要があるでしょう。
グロース投資かバリュー投資、ファンダメンタル分析か定量分析にかかわらず、長期投資のソリューション作成に盛り込むあらゆる要素を考慮します。ポートフォリオ・マネージャー はビジネスモデルとバリュエーションの評価、サステナビリティに関わる要素の分析のほか、経営陣やコーポレートガバナンス、企業文化の評価も行わなければなりません。極めて重要なのは、企業やトレンドに関して入手可能な急増するデータを世界中の複数のソースからリアルタイムに利用する能力です。そうしたデータを専門的に分析し、適切なことに注力する能力も、同様に重要です。

アリアンツ・グローバル・インベスターズでは、金融や「成果連動」などのアルファを追求するポートフォリオ・マネージャーを支援するツールを絶えず開発し、市場環境の変化に直面するなかでも機動性を維持しています。弊社が投資プロセスで使用するデータは、これまでにないほど増加しています。AIや自然言語処理(NLP)を複数言語で導入し、最新のインサイトをすぐに利用できるようにしています。

ディスラプションは本質的に不安定です。それでも、ディスラプションがもたらす機会や、その波及を有利に転換させるためにも、ディスラプションは受け入れるべきものだと弊社は考えています 。

1粒の米はどのように急増しえるのか

チェスの起源に関するインドの民話を思い出してみましょう。この目新しいゲームに喜んだ王は、見返りに何が欲しいかとゲームの発明者に尋ねました。その人物は、チェス盤の最初の1マスに米1粒、2マス目に2粒、3マス目には4粒というふうに、1マスごとに米を倍増させることを求めました。王は、一見控えめなこの要求を受け入れました。ところが、64マス目に達したとき、王が渡すべき米粒は18クウィンティリオン、つまり深さ1メートルの米の層でインド全土を覆うに十分な量にまで増えたのです。

1. 出所PwC, “State of Climate Tech 2021” report, December 2021.
2. 出所DataReportal, “Digital around the world – global digital insights”, October 2021.
3. 出所SeedScientific.com, “How much data is created every day?”, 2018.
4. IoT: 物理的なモノにセンサーを搭載し、接続と制御を可能にする高度に接続された世界。 
5. 出所FirstPoint, “Top 4 challenges in IoT data collection and management", October 2021.
6. 出所CloudNine.com, “Perspective on the amount of data contained in 1 gigabyte”.
7. 出所Futurism.com, “Kurzweil claims that the singularity will happen by 2045”, February 2017.
8. ゲノミクスゲノムのマッピングや編集の可能性、生物の遺伝的指示一揃いを扱う研究。
9. ナノテク分子スケールで物質を操作する技術。1ナノメートルは100万分の1ミリメートル。
10. 出所DigitalTrends, “Nanotech injection successfully restores vision in blind rats”, July 2020.
11. 出所Cybersecurity Ventures, “Cybercrime to cost the world $10.5 trillion annually by 2025”, November 2020.
12. 出所:EINNews.com, “Global cybersecurity spending to exceed $1.75 trillion from 2021-2025”, September 2021.

13の地政学的危機から投資を学ぶ

2022/03/02
Investment lessons from 13 geopolitical crises

Summary

投資家がウクライナ・ロシア紛争をうまく切り抜けるために、弊社は1953年以降に起きた13の類似事例について分析しました。結論から言うと、地政学的なイベントよりも、根底にある経済的要因が市場のより大きな原動力になる傾向にあります。従って、投資家は引き続き原油価格、インフレ率と中央銀行の対応を注視すべきでしょう。

要点

  • 過去に起きた13の地政学的危機について検証したところ、「砲声で買え」という古い相場格言を裏付けるものはありませんでした。
  • 世界的な危機の発生後には、必ずではないものの株価がいくぶん上昇したり、「安全」資産が売られたりするケースが見られますが、パフォーマンスをより大きく左右したのは危機とは無関係の要因であることがわかりました。
  • 今日の投資家にとって、インフレが主要な懸念材料となる状況が続くでしょう。原油価格の上昇がインフレ率を押し上げる一方、各国の中央銀行はインフレ抑制したいと考えています。
  • 弊社は株式については、引き続き慎重な見方をしています。市場は長年にわたって堅調なパフォーマンスを享受しており、今後数週間はウクライナ危機がさらなる下げ相場を招きかねない状況にあります。
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