Summary
投資家がウクライナ・ロシア紛争をうまく切り抜けるために、弊社は1953年以降に起きた13の類似事例について分析しました。結論から言うと、地政学的なイベントよりも、根底にある経済的要因が市場のより大きな原動力になる傾向にあります。従って、投資家は引き続き原油価格、インフレ率と中央銀行の対応を注視すべきでしょう。
要点
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このような局面では、「砲声が聞こえたら買え、勝利のラッパが聞こえたら売れ」1という古い相場格言を拠り所にする投資家もいるでしょう。しかし、それは果たして得策と言えるでしょうか。弊社は、近年に起きた現状に類する13の事例を取り上げ、地政学的危機と金融市況の関連性について分析しました(下記のリストを参照)。
近年に起きた13の危機に対する市場の反応
弊社の分析では、世界的な危機が株式、債券、コモディティまたは為替相場に及ぼす影響について、明確な結論を導き出す方法は見つかりませんでした。相場が力強く反発したことはあったものの、そうでないこともありました2。
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危機後に顕著な強気相場となったこともあり、例えば、二度にわたるイラク戦争後は、いずれも市場が好転しました。ただ弊社は、そうした価格反発は、さらに大きな要因によって引き起こされたとみており、なかでも、景気後退が最終盤に差し掛かっていたこと(1991年)、ITバブル崩壊からの回復期にあったこと(2002~2003年)が大きいと考えています。
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危機後に顕著な下げ相場となった事例として、2008年のロシアによるジョージア侵攻を受けて市場は大きな圧力にさらされました。しかし、それは政治的な危機ではなく世界的な金融危機がもたらしたものと考えられます。
その他の多くの事例をみても、株価に顕著な変動は見られませんでした。全体として、下のグラフが示すように、世界的な危機の発生後には市場が好転する傾向が見てとれ、米国債などの「安全」資産は平均的に見て価格がやや下落し、利回りの上昇につながりましたが、上記の事例で示したように、パフォーマンスを大きく左右した要因は地政学的危機とは無関係であると考えられます。これは弊社が過去の事例から導き出した重要な結論であり、「砲声で買え、勝利のラッパで売れ」という格言を裏づけるものではありません。むしろ投資家は、経済全体の健全性と業界および収益の見通しに基づいて売買の意思決定を下すべきでしょう。
株価は世界的な危機の発生後に反発する傾向があり、特に冷戦終了後はそれが顕著に
13の危機発生時(下記リスト参照)のS&P500種指数のパフォーマンス(%)
危機発生後は投資家が「安全」資産から逃避するため利回りが上昇する傾向がある
13の危機発生時(下記リスト参照)の米10年債利回りのパフォーマンス(bp)
出所: Allianz Global Investors, Refinitiv Datastream, GFD. Calculations based on market developments around GDR (17/3/1953); Hungary (28/10/1956); Cuban crisis (10/10/1962); Czechoslovakia (21/8/1968); Poland (13/12/1981); oil crisis 1 (6/10/1973); oil crisis 2 (16/1/1979); Iraq war 1 (17/1/1991); Iraq war 2 (19/3/2003); Arab Spring in Tunisia (17/10/2010); Georgia (1/8/2008); Crimea/Ukraine (3/3/2014); US-North Korea (8/8/2017). Past performance is not indicative of future results.
ウクライナ危機に対する市場の反応
ウクライナ戦争が始まってから、少なくとも主要市場では明らかなパニックの兆候は見られていません。いわゆる「恐怖指数」―ボラティリティ・インデックス(VIX)―は現在35前後で推移しています。これは長期平均である20前後を大きく上回ってはいるものの、ここ数年に記録した極大値(50超)には遠く及ばない水準です。現実的には、投資家が相場を不安定に感じているかにかかわらず、ウクライナとロシアの紛争が勃発して以降も値動きは比較的抑えられています。S&P500種指数は今年初めの最高値から10%以上低下したとことも事実ですが、米株価は歴史的にみてなお高水準にあるといえるでしょう。さらに言えば、欧州株の下落幅もさほど著しいものではなく、ロシアを除く新興市場の株価にもあまり変動は見られません。
原油価格の動きはこれとは異なります。エネルギー価格は大幅に上昇し、WTI(西テキサス地方の中質原油)とブレント原油価格はいずれも1バレル100米ドルを超えており、これは2年前と比べ2倍ほどに達しています。こうした状況は経済成長率に影響を及ぼすとみられています。過去には、原油価格が2年以内に2倍に上昇し、景気後退を招くケースが繰り返しみられました。
こうした背景を踏まえると、米国連邦準備制度理事会( FRB)をはじめとする中央銀行が既に公表している金融政策の正常化を先送り、あるいは停止するとみるのが妥当でしょう。しかし弊社は、この考えには懐疑的です。その大きな理由は今後のインフレ見通しにあります。原油価格の高騰により、インフレ率は従来の想定以上に押し上げられる可能性があります。さらに、企業や家計のインフレ期待が上昇し続けることも考えられます。エネルギー価格の上昇に伴い、インフレ率がさらに押し上げられる可能性があるからです。2021年末以降、中央銀行が潜在的なインフレ圧力と労働市場の逼迫に言及する機会が増えており、弊社の分析によると、インフレ率の年間変動幅は縮小するとみられるものの、中期的には西側諸国の中央銀行が目標とする2%を超える水準で推移する可能性が極めて高いと予想されます。
加えて、FRBは日頃から政策金利だけではなく、金融市場全般が引き締まることが望ましいと発言しています。株価の下落や貸出金利および社債利率の上昇が緩やかである限り、そうしたFRBの姿勢が変わる可能性は低いでしょう。
このような背景から、弊社は当面の間株式には慎重な見方を続けています。市場は長年にわたって堅調なパフォーマンスを享受しており、今後数週間はウクライナ危機がさらなる下げ相場を招きかねない状況にあります。
今回分析対象とした13の市場変動危機
冷戦期 | 1981年 | ポーランドの戒厳令 |
1968年 | チェコスロヴァキア侵攻 | |
1962年 | キューバ・ミサイル危機 | |
1956年 | ハンガリー侵攻 | |
1953年 | 東ドイツ(GDR)の動乱 | |
石油危機 | 1979年 | イラン革命後のオイルショック |
1973年 |
OPECの石油禁輸措置 |
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湾岸戦争 | 2003年 | 第2次イラク戦争 |
1991年 | 第1次イラク戦争 | |
アラブの春 | 2011年 | 中東諸国の騒乱 |
ロシアの軍事行動 | 2014年 | クリミア危機(ウクライナ) |
2008年 | ジョージア侵攻 | |
北朝鮮の敵対行為 | 2017年 | 米朝緊張 |
1この格言の由来は、ロンドンの金融業者ネイサン・ロスチャイルドが1810年に残した言葉とされることが多い。
2出所: AllianzGI research, Refinitiv Datastream. S&P 500 returns after the start of the first Iraq war (17 January 1991) were 19.0% for the 3-month period and 16.2% for the 6-month period. S&P 500 returns after the start of the second Iraq war (19 March 2003) were 13.8% for the 3-month period and 18.6% for the 6-month period. Past performance is not indicative of future results.
S&P500種指数は広く米国株式市場の動きを反映しているとされるアンマネジド型の指数で、投資家は指数に直接投資できない。
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