日本株月次レポート:2026年9月
インフレ下で高まる資産運用会社の役割
2026年4-6月期の日本の上場企業の決算は、事前の高い市場期待をさらに上回る強い業績モメンタムでした。AI・半導体需要の急拡大に加え、その波及効果の幅が広がり関連材料メーカーや建設業界といったサプライチェーン上の多くの企業が恩恵を享受し、収益拡大の裾野の広がりが確認されました。
一方、同じ4-6月期の実質GDP速報値は、これとは異なる側面を映し出しています。同期間の実質GDPは前期比年率1.1%増と3四半期連続のプラス成長を確保したものの、事前の市場コンセンサス(約2%)を大きく下回りました。予想との乖離の要因のひとつは、GDPの過半を占める個人消費が8四半期ぶりにマイナスへ転じたことでした(注1)。マイナス幅はわずかで、テクニカルな要因も含まれていましたが、堅調な消費回復が期待されていただけに肩透かしを食ったかたちとなりました。
企業業績が好調で賃上げも続く中での個人消費の停滞というこの一見矛盾した状況は、個別企業への取材や当社独自のグラスルーツ®調査(注2)を通じて、その輪郭を確認できます。富裕層向けの高付加価値品や、訪日外国人需要を取り込む百貨店のような業態は円安の追い風も受けて堅調な一方、食品や日用品など低価格帯を主戦場とする小売業では、値上げに対する家計の節約志向を背景に苦戦する企業も見られます。
実質賃金は年初以降プラスを維持していたことから、当社は消費回復に一定の期待ができると想定していました。しかし実際には消費者心理は昨年より悪化している兆しも見受けられます。しばしば「K字型」と表現される二極化現象において、マクロの消費関連指数からは読み取りにくいものの、資産を保有する層と物価上昇の影響を受けやすい層との格差が一段と広がっているように見られます。
日本株市場は、名目GDP成長率(G)が名目長期金利(R)を上回る「G>R」の構図が維持されていることを背景に、一時的な乱高下を伴いながらも上昇基調を保っています。この不等式を個人・家計の視点に引き直せば、名目賃金上昇率(g)と資本収益率(r)の比較という類似の構図として捉え直すことができます。名目賃金は上昇しているものの、広い概念の資本収益率(株式のキャピタルゲイン・配当や不動産の賃料などを含む)には及ばず、トマ・ピケティが指摘した「r>g」を想起させる状態に陥り、資産を保有する層がより豊かになるという格差の拡大が続いているものと考えられます(注3)。
金融庁が掲げる「資産運用立国」やインベストメント・チェーン構想は、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることを想定しています。そのためには、企業価値向上の果実を賃上げだけでなく資本所得としても享受できる環境づくりが重要と考えます。この観点から、資産運用業界はエコシステムにおいて重要な役割を担う立場にあると考えます。資産運用業協会副会長であり、大手運用会社社長を務める大関洋氏は、運用会社は「個人に向けて長期投資に耐えうる運用商品を提供し、その利点を知ってもらう。どういった企業に投資して社会にいかに貢献しているか情報発信に努め」るべきであると述べ、「安心して投資できる市場は自然には形成されない」と問題提起しています。そして、「『貯蓄から投資』を一時的なマネーゲームで終わらせてはならない。そのためには資産運用会社が健全なハブとなり、預かった個人の資金を使って企業と社会を育むサイクルをつくり出す必要がある」と提言しています(注4)。
資産運用会社は運用力を磨くことに加え、長期の投資哲学を発信し、幅広い投資家層を作り出す信頼を醸成するための継続的な取り組みが求められると考えます。
注1:参考:内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部、2026年4-6月期四半期GDP速報(1次速報)令和8年8月17日、https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf
注2:当社HP 「グラスルーツ・リサーチ®について」
注3:トマ・ピケティ、『21世紀の資本論』、みすず書房、2015年1月
注4:ニッセイアセットマネジント 社長 大関 洋、「令和版『株式の大衆化』と資産運用立国」、日本経済新聞(夕刊)2026年8月27日、5面(「十字路」 欄)