日本株月次レポート:2026年8月
Tail Wagging the Dog
日経平均株価は7万円を達成したあと7月にはいりAI・半導体銘柄を中心に調整しました。米大手ハイテク企業のAI関連設備投資の継続性と、競争激化で実際の収益にどれだけ寄与するのかという市場の疑念が強まり、株安となる場面がありました。
2026年上半期の株高は、高ベータ・AI・半導体関連銘柄への資金集中によるものでした。一部エコノミストは、世界経済を支えている牽引役はAI投資であり、この巨額投資なかりせば、世界の経済成長は極めて低調であったと指摘し、テクノロジー・アナリストが行う個別企業の設備投資予想をマクロ分析に組み込んでいます。これほどまでにAIが景気に与える影響が大きくなっていることを鑑みれば、株式市場においてもAI関連企業が物色の対象となったのは当然であったと考えます。
株式市場は活発な売買を可能とする流動性を提供する場として、あらゆる時間軸や異なるリスクの取り方をする投資家の思惑を反映しながら、日々変動します。しかし、ひとたび大多数の投資家が同じ方向に向けて資金を傾けたりレバレッジをかけて賭け金を増幅させると、将来の利益成長の期待を急速に織り込むことになり、バブルとの懸念されることもしばしばあります。
ジョンズ・ホプキンス大学のジョン・ヤスダ准教授(政治学部・東アジア研究学科長)は、“AIブームが「バブルかどうか」という問い自体にはあまり意味がなく、むしろ問われるべきは、企業の価値を見定める市場の仕組み”であると指摘しています。同氏によれば、米国が40年にわたって世界に広めてきたのは「市場が最もよく知っている」という考え方であり、合理的な投資家が効率的な市場で取引する以上、彼らが決める価格は定義上正しいはずだ、という前提です。しかし現実には、とても合理的とは言えないほどの資金の集中が市場で頻繁に見うけられると同氏は指摘します。(注1)
そもそも市場とは、実態以上に株価が変動する可能性を常に内包しているものなので、バブルか否かという問い自体にはあまり意味がないというのが同氏の考えと理解します。むしろヤスダ氏の問題提起は、株価形成において企業業績の実態を映す力と、需給の結果としての資金フローが動かす力のどちらが優勢になっているのか、そして後者が優勢な局面において市場がそれを適切に調整する機能を保持しているのか、という点にあると受け止めています。短期的なマネーフローを予測することが株式投資で利益を得る最善の方法になってしまう事態を、同氏は危惧しているのだと考えます。
多くの投資家が思い描く将来像は、エージェントAIやヒューマノイド・ロボットが働き方を一変させる「第二の産業革命」であり、関連企業の株価は大きく買い上げられました。通常、株式市場が織り込む予想期間は6〜12カ月先程度といわれるのに対し、AIによる中長期的な変革期待はそれよりもはるかに長い時間軸を見据えたものと思われ、この時間軸の齟齬のため巨大なマネーフローが短期の株価形成に強く影響し、振幅も拡大していると捉えています。しっぽが犬を振り回す(tail wagging the dog)状況と言えるかもしれません。当社は、足元の変動にかかわらず、株価はいずれ企業の実力に見合う水準へと収斂していくと考えており、引き続き長期的な目線を持って、個々の企業が生み出す本源的な価値を見極めながら投資判断を積み上げていきたいと思います。