日本株月次レポート:2026年7月
7万円相場を支える構造的ゆがみ
2026年初頭、ほぼすべてのストラテジストは日本株式市場に対して強気な見通しを持っていました。半年前、約5万円だった日経平均に対して、年末予想の平均は6万円前後でした。上期においては、米国・イスラエルによるイラン攻撃や長期金利の急騰といった下押し圧力はあったものの、6月にはすでに日経平均株価7万円を突破しました。急ピッチな上昇にもかかわらず、当社見通しも含め、多くのストラテジストは強気姿勢を維持しており、その主な理由としては、AI関連企業の業績が当初の想定を上回り続けていることにあります。
株式の価値は、利益創出力(一株当たり利益)と成長期待(バリュエーション)の掛け算によって決まります。AI関連企業の利益拡大が続き、今後の成長期待も高いため、日経平均の急上昇をバブルと見なす声は多くはありません。
一方で、こうした利益成長とは別の力学が株式市場を押し上げているとの指摘もあります。世界経済がインフレ局面にある中、伝統的な資産配分の主役であった債券が機能しにくくなっています。インフレ率が高止まりする環境では長期金利が上昇しやすく(債券価格は下落)その結果、債券への投資を控え、インフレヘッジとして株を買うという資金フローが拡大しているとの分析もあるようです。
この動きは、株式市場の内部構造にも表れています。現在の日本株市場では、高ベータ銘柄と低ベータ銘柄の二極化が進んでいます。高ベータといわれるAI・半導体関連など景気感応度の高い銘柄には資金が集中する一方、安定性重視の企業には資金が向かいにくい状態が続いています。指数が上昇していても、市場全体が一様に強いわけではなく、二極化の差は拡大しています。インフレヘッジとして株式を保有する投資家は、インフレの恩恵を享受しやすい高ベータ株を選好する傾向があるため、AI銘柄がその受け皿になっているという側面があるとも指摘されています。
こうした株式へのインフレヘッジ需要が拡大する背景には、日本固有のマクロ構造問題があると考えます。日本銀行の利上げペースはビハインドザカーブといわれ、緩和的な金融環境が続いています。このため円安圧力がかかりやすく、輸入コスト上昇を通じた物価高が続いています。この物価高対策として財政支出が検討されているため、債券市場では金利上昇傾向となっています。金利上昇は本来は通貨高要因となりますが、現在の日本の金利上昇の要因が期待インフレ率の高まりや財政懸念であれば、円が積極的に買われる可能性は小さいと考えられます。
為替介入のけん制があるため加速度的な円安は抑えられていますが、こうした「円安・インフレ・金利高」の負のサイクルからの脱却が困難になっていると市場に見透かされているため、株式によるインフレヘッジの資金フローが拡大していると考えます。
現在の株高が、債券や現金の保有を控え、物価上昇に強い資産の一つとしての資金配分に支えられている側面があるとしても、日々運用活動をしていると、”理由はどうあれ株式市場があがっているのだからよいではないか“、という空気感が市場全体に漂っているように感じます。円安が続けば、外国人投資家からみると投資妙味は限定されることになります。もし外国人投資家が為替ヘッジ(円売り・自国通貨買い)を伴う日本株投資を拡大させれば、ますます円安を推し進めることになり、「円安・インフレ・金利高」の負のサイクルが続くことになりかねません。
AI関連銘柄はこうした消去法的資金フローを吸収するだけのファンダメンタルズの強さと流動性を持ち合わせているため、現在はバブルとの懸念を与えることなく、株式市場は上昇を持続させているという構図と考えます。AI銘柄依存相場から、本格的な強気相場へと昇華させるには、日本経済の実質成長という裏付けが欠かせません。中長期的には日本株式市場の方向性を決めるのは金融環境ではなく、日本企業と日本経済が実力でどれだけ成長できるかにかかっています。