Two-Minute Tech
ベンチャーキャピタルでいいのか、いけないのか、(AIへの投資は)それが問題だ
今日のAI革命は、重要な次の2点において従来のディスラプションサイクルとは異なります。すなわち、AIスタートアップはテクノロジーの構築に膨大なリソースを必要とします。しかし、ベンチャーキャピタル(VC)会社の資金提供の姿勢は厳しくなっています。
- テクノロジー大手と比較して、AIスタートアップはリソースが限られ、資本へのアクセスにも制約があるため、事業運営上の重大な課題に直面しています。
- マイクロソフトは、出資とインフラ面の支援により、オープンAI(OpenAI)の内部抗争の解決に大きな役割を果たしました。
- 公開株式市場は、AI関連アプリケーションの成長ポテンシャルから利益を得る機会を提供します。
発表から約1年、オープンAIのチャットGPT(ChatGPT)は投資家コミュニティや一般大衆の注目を集めてきました。世界中の人々はそれを実際に試して、人工知能(AI)がいかにして産業に革命をもたらし、複雑な問題を解決し、人間の生産性を向上させる力を持つかを自分の目で確かめることが可能でした。これは、テクノロジーやAI分野の長期投資家として、弊社が長年抱き続けてきた未来像です。
このような中で、AIへの投資は公開企業の株式を通じて行うべきか、それともベンチャーキャピタルの分野により大きなチャンスがあるのか、多くのお客様から質問が寄せられています。過去に数多くのイノベーションサイクルにおいて、機敏なスタートアップが既存の大手企業を完全に打ち負かしてきたことを考えると、この考え方は理解できます。それほど過去に遡らなくてもディスラプションの実例は数多く見つけられます。たとえば、ソーシャルメディアと既存メディア、eコマースと実店舗の小売店、動画ストリーミングと(従来型の)「リニア」TV、ライドシェアとタクシーの関係など、枚挙に暇がありません。
しかし、今回は事情が異なるかもしれないと弊社は考えます。なぜなら、AIスタートアップは現在、同業の超大手企業と比較して以下の通り非常に不利な立場にあるからです。
- テクノロジー大手は、大容量の計算能力に必要なインフラ、大規模な法人営業部隊、膨大なデータリポジトリなど、不可欠なリソースにはるかに容易にアクセスできます。スタートアップは、巨額の資本にアクセスできない限り次の段階に進めず、とても太刀打ちできません。
- 現行の金融引き締め環境下では、多くのスタートアップにとって、革新的なアイデアを推進するのに必要な資本へのアクセスは容易ではありません。このため、AIスタートアップがテクノロジー分野の巨大な「既存企業」と提携する必要性が生じており、上場企業における投資機会を創出しています。
代表例:サンフランシスコを拠点とするオープンAIで最近繰り広げられたドラマについて考えてみましょう。さる11月に当時の理事会がCEOのサム・アルトマン氏を解任しましたが、内部の反乱によりアルトマン氏は復帰し、理事会は大幅に刷新されました。
マイクロソフトは、この主導権争いの解決にあたり陰の立て役者となりました。法人向けソフトウェアの巨人マイクロソフトは、オープンAIの営利部門に49%出資しており1、かなりの影響力を持っていました。オープンAIは、計算インフラ、収益化の機会、資金の面でもマイクロソフトに大きく依存しています。マイクロソフトはオープンAIの理事会に大きなプレッシャーをかけ得る絶好の立場にあり、この問題は最終的にマイクロソフトに有利な形で解決されました。アルトマン氏はCEOに復帰し、マイクロソフトは刷新された理事会に代表1名を送ることとなりました。
明らかに、マイクロソフトとオープンAIの共生関係は、両社がそれぞれ単独で事業を行った場合よりも良い結果をもたらしました。マイクロソフトのおかげで、現在のオープンAIは先般の経営問題以前よりも安定性が高まっています。また、オープンAIのイノベーションのおかげで、マイクロソフトには新たな商品化の機会が数多く生まれています。実際、弊社のグラスルーツ・リサーチ・チームによる最近の調査によると、ナレッジワーカーの67%がマイクロソフトの提供するAIを活用したチャットボット「コパイロット(Copilot)」に高い関心を示しており、69%がいずれはコパイロットが必要になるだろうと考えています。さらに、コパイロットを採用しているソフトウェア・エンジニアリングのユーザーは、ほぼ導入直後に生産性が30~50%向上したと報告しています2。.
同様に、他のテクノロジー企業も注目すべき提携関係を結んでいます。アマゾンは世界的に活躍するテクノロジー企業ですが、オープンAIの競合企業であるアンスロピック(Anthropic)の主要な投資家です。アマゾン ウェブ サービス(AWS)はアンスロピックの主要クラウドプロバイダーでもあります。アンスロピックは、AWS上で開発者に基盤モデルを利用できるようにする予定です。米国を拠点とし世界的に事業を展開するコンピューター・テクノロジー企業のオラクルは、コーヒア(Cohere)という別のAIスタートアップに投資しました。コーヒアは、オラクル・クラウド・インフラストラクチャ上で構築された生成AIサービスを提供しています。
AI関連アプリケーションからの増大する収益を取り込むために、先見性のある超大手企業が足場を固める動きが、次第に明らかになりつつあります。つまり、公開株式市場は、生成AIが生み出す価値創造を追求する上で優れた手段になり得るということです。エキサイティングな成長の機会は、実際には目の前に潜んでいるのです。