Two-Minute Tech
インフラとエネルギー投資は、AI成長の促進・阻害を左右する
AIの急速な台頭は、2030年までに世界経済にプラス13兆米ドルの効果をもたらす可能性がありますが1、その将来の成長は、2つの見落とされがちな要素、つまりインフラとエネルギーに大きく依存しています。データセンターからエネルギー効率の高い技術に至るまで、産業がどのように適応しようとしているのか、理解を深めましょう。
- インフラは、AIの進化に不可欠なものです。データセンター用半導体チップの使用の推定は、今後数年間で、2023年の5.1百万個から、46百万個 へと、9倍に急増する可能性を示唆しています2。
- AIは、全体のエネルギー消費量を増加させており、2030年までに、全米の電力消費量の最大7.5%が、データセンターによって占められる可能性があります。
- 需給のギャップを埋めるために、企業はスマートグリッド、ソフトウェア最適化、エッジ・コンピューティングなどへの転換を進めています。
過去10年間で、人工知能(AI)は、産業全体と日常生活に革命をもたらしました。AIに採用率は、セクターを超えて急増しており、ある推計では、AI技術は、2030年までに世界経済の生産高にプラス13兆ドルの効果をもたらす可能性があると見積もられています。
この爆発的な成長は、AIが世界全体のイノベーションと生産性を加速する上で極めて重要な役割を果たすことを裏付けるものです。しかし、弊社の視点から見ると、AIの未来の成長の鍵を握っているのは、あまり議論されることのない2つの要素、インフラとエネルギーです。
インフラがAIにとって重要である理由
インフラは、AIのイノベーションと進化のバックボーンとしての役割を果たします。インフラは、AIソリューションの開発、展開及び運用を支えるために必要となる計算能力、データ管理能力及びセキュリティを提供します。AIの利用が拡大するにつれて、より多くのデータがAIアルゴリズムによって生成及び処理されます。それらの情報は全て安全に処理され、効率的な場所に保管される必要があります。
- データセンターは、堅牢なストレージ・ソリューションと効率的な管理システムを提供しますが、既存のインフラを拡張するには巨額の投資が必要となります。これによって、組織はより巨大なデータセットを扱い、ドメインを超えてAIソリューションを展開することが可能になります。
- 半導体チップは、データセンターのバックボーンであり、データを処理して、数十億件の計算結果を高速に導き出し、サーバーをはじめとする電子機器を機能させることができます。しかし、現在のAI市場の成長に対応するために、データセンターにおけるチップの需要は、2023年の5.1百万個から、2027年には46百万個へと、今後数年間で9倍以上に増加すると、一部の専門家は考えています。
- データセンターについては、立地が重要です。自律走行車、医療診断、及び工業オートメーションなどといった、リアルタイムでのAIの用途には、迅速な意思決定のために低レイテンシーが求められます。このためには、より高速なレスポンスタイムを実現し、AIアプリケーションのパフォーマンスを高めるために、より多くのデータセンターを建設することが必要になる可能性があります。
グローバル・データセンター用のAIチップ出荷は増加の一途をたどっている
出所:企業報告、Mercury Research及びNew Street Researchによる推定及び分析、2024年1月4日現在。2024年から2027年の数値は推定値。
AIがエネルギー・グリッドに及ぼす影響
エネルギーは、AIの成長の促進・阻害に影響しうる、もう一つの重要な要素です。2030年までに、米国の総電力消費量の最大7.5%が、データセンターによって占められる可能性があり3、ある推定によれば2030年末までに、使用量が2022年の126テラワット/時から、390テラワット/時へと3倍にも増加する可能性があることが示されています4。エネルギー消費量はAIシステムの運用コストに直接的な影響を与え、そのための発電が、環境に対して顕著なマイナスの影響をもたらす可能性があります。
こうした需要は何に起因するものなのでしょうか。その多くは、スマートセンサー、自律走行車、「モノのインターネット」(IoT)機器などのAI対応型の機器やアプリケーションによるもので、既存の通信ネットワークや送電網にさらなる負荷を与えます。これらのテクノロジーが効果的に機能できるかどうかは、高速なインターネット接続及び途切れることのない電力供給にかかっています。
それでは、そのためにどのような対応がなされているのでしょうか。弊社は、今後数年間にかけ、いくつかのトレンドによって、AIの電力消費の状況が決まっていくであろうと予想しています。
- スマートグリッドは、リアルタイムで需要と供給のバランスを調整することや、送電を最適化すること、エネルギー損失を最小化することに貢献し、より強靭で、サステナブルなエネルギー・インフラの構築を可能にします。
- よりエネルギー効率の高いプロセッサーや専用のAIチップをはじめとするハードウェア設計の進化は、電力消費の大幅な削減につながります。
- ソフトウェア最適化技術は、パフォーマンスを損なわずに電力使用量を最小化するために重要な役割を果たします。モデル・プルーニング、量子化、低消費電力推論アルゴリズムなどといったツールやテクニックは、精度を犠牲にすることなく、エネルギー効率を高めることを目的としています。
- クラウド・リソースへの依存度を軽減し、データ転送をできるだけ少なくするために、エッジ・コンピューティングやオンデバイスAI処理などを推進する動きも継続する可能性が高いでしょう。こうした変化は、レイテンシー及びプライバシーの面で改善をもたらすだけでなく、処理のために一元化されたサーバーにデータを送信する必要性をなくすことによって電力消費量の削減にもつながります。スマートフォンからIoT機器に至るまで、様々な用途において電力消費量を削減します。
結論
人工知能の需要の拡大は、既存のインフラ及びエネルギー展望を再構築し、投資家にとって興味深い展開をもたらす可能性があります。
- インフラ構築:AIを拡張可能にするには、巨額の投資が必要になります。弊社は、データセンター建設、チップ製造、ネットワーク・インフラ開発に関与している企業に投資機会を見出しています。
- エネルギー効率ソリューション:AIシステムのエネルギー消費量増加を踏まえ、企業はハードウェアとソフトウェアを最適化する新たな方法を見出そうとしています。スマートグリッド・テクノロジーは、サステナビリティを促進しつつ、AIによるエネルギー需要の充足に貢献することもできます。
- エッジ・コンピューティング:エッジ・コンピューティング・テクノロジー、低消費電力推論アルゴリズム、並びにモバイル機器及びIoT機器用AIチップの開発に関わる企業は、「エッジAI」の構築から恩恵を受けられる可能性があります。このアプローチは、レイテンシー及びプライバシーを改善するだけでなく、クラウド・リソースへの依存度を軽減し、低消費電力及び効率性の向上につながります。
1 AI performance processing | McKinsey
2 Corporate reports, Mercury Research and New Street Research estimates and analysis, as at 4 Jan 2024. 2024-2027
3 Barrons.com: How AI Is Sparking a Change in Power. As of 14 March 2024
4 Barrons.com: AI chips electricity usage. As of 16 March 2024