Two-Minute Tech
生成AIは、銀行のゲームチェンジャーになりうるか?(パート1)
生成AIは、銀行業に革命を起こそうとしており、「これをもっと安くできるか」という議論から「顧客関係をどれだけ深められるか」という議論への転換をもたらします。
- 銀行は非常にデータリッチな企業であり、それゆえに機械学習やデータアナリティクス、回帰分析などの初期のAIテクノロジーを採用してきました。
- 銀行はこれまで、主に効率化とコスト節減のためにAIを利用してきましたが、あまりにも多くの銀行が同じ戦略を取っているため、結果として業界全体で手数料が低下する傾向に陥っています。
- 生成AIは、顧客との間により深く、より有意義な関係を築くことで、このスパイラルから銀行業界を脱却させる可能性があります。
銀行とテクノロジーとの関係は数十年前から、問題をはらんでいます。新しいツールに継続的に投資しなければ、同業他社に後れを取るリスクや、より安価で使いやすい金融商品を提供できる新興企業の餌食になるリスクがあります。これはもちろんどの業界でも起こることですが、銀行手数料に関しては、「底辺への競争」になります。業界全体で効率化が進むと、同じサービスをより安く提供するところが必ず出てきます。次の主要なテクノロジーの波である人工知能(AI)と、それが銀行業界に与える影響については、こうした状況を背景に考察することになります。言うまでもなく、AIは何年も前から銀行業務と金融サービスにおいて重要な役割を担ってきました。しかし生成AIは、従来のAIとは一線を画します。生成AIは、テクノロジーがはらむ負のループ から銀行業界を脱却させ、顧客との間により深く、より有意義な関係を構築できるようにする可能性を秘めています。
銀行業における従来のAIの用途
銀行は、極めてデータリッチな企業であり、デジタルと物理的な領域の両方にわたり、数十億件の顧客取引や顧客とのインタラクションを処理しています。このようなデータは、AIの生命線であり、それゆえに銀行は長年にわたり、以下のようなAIツールに多額の投資をしています。
- AIを活用した取引アルゴリズムや戦略
- 独自のAIを駆使した決済処理方法
- 不正発見と金融規制遵守の強化に役立つリスク管理ツール
- AI搭載のチャットボットなどのサポートサービス
- 顧客の好みや過去の行動に基づいてオファーや商品をパーソナライズする「レコメンダー」システム
このようにデータが事業の中心にあるため、銀行はとりわけ積極的にAIやその他のデジタル技術を採用してきました。実際、金融サービス企業(なかでも銀行業が主要な業種)は、テクノロジーと通信セクターを除けば他のどのセクターよりも多くのAI人材を採用しようとしています(グラフを参照)。
AI人材求む:銀行をはじめとする金融セクターは採用ラッシュ
セクター別に見た、大型株の求人広告に占めるAI職の割合
出所:RavenPack, Empirical Research Partnersによる分析、 2023年6月23日現在。直近12カ月の求人広告に基づく。
生成AIは、従来のAIでは想像すらできなかったことを実現できる
では、新規採用されたこれらの人材は、何をしているのでしょうか。生成AIが登場する前は、銀行は機械学習やデータアナリティクス、回帰分析などの初期のAIに力を入れていました。これらの方法は、パターンマッチングシステム(たとえば、実際に不正が確認された事例と比較することで、特定の取引を不正の可能性があるものとしてタグ付けする決済承認システム)に近いものです。
しかし、生成AIはそれまでのアプローチとは根本的に異なっており、銀行が社内データの力をフルに解放することを可能にします。事業部門を横断して多種多様な構造化・非構造化データを取り込み、そのデータ間のつながりの影響を学習することで、生成AIは経営幹部が銀行の内外におけるリスクと機会をより明確に把握し、理解できるようにします。生成AIは意思決定を、事案ごとのパターンマッチングに基づく作業から、銀行のオペレーションや顧客との関係をどうやって最適化するかという体系的な視点へと引き上げるでしょう。
次の記事では、こうした領域をいくつか掘り下げます。