貯水不足に対処する
水の利用可能性は、生活のカギを握るものですが、その水の利用可能性が近年、圧迫されるようになっています。世界的な干ばつの深刻化、水インフラの老朽化、水の需要と供給の不均衡の増大は、そこに暮らす人々や産業活動、そして人々の生活を支える農業部門に大きな圧力をもたらしています。
要点
- 貯水は、水不足を防いで水の利用可能性を守るために不可欠です。
- 過去50年にわたり、世界の自然の貯水量は、約27兆m³減少しました1。
- 貯水バリューチェーン全体にわたる投資は、水不足とそれに関連する水力発電問題に対処するのに役立ちます。
水ストレスの影響を軽減するために、水不足の時期に水の利用可能性を高めるのに役立つ持続可能な水供給・貯水ソリューションが必要とされています。
貯水不足の増大
出所:World Bank: What the future has in store – A New Paradigm for Water Storage, February 2023.
水の安全保障に不可欠な貯水
水ストレス関連の課題への対処において、貯水が重要な持続可能な水管理技術とみなされることは滅多にありません。しかし、天然・人工の貯水とその混合型の貯水は、長期にわたる干ばつや予測の難しい降水量の影響を軽減するのに以下の点で役立ちます。
- 雨が降らない期間中、住民や産業のさまざまなニーズを満たす
- 水力発電(設備容量と発電量で最大のエネルギー源)を支える
- 洪水による環境・社会的リスクを軽減する
- 全季節を通じて水路交通へのアクセスを確保する
貯水が地域社会、企業、地域にもたらす恩恵を考慮すると、既存の天然の貯水池(帯水層、湖、湿地帯)を保全し、向上させるとともに、人工の貯水システムの刷新と開発に投資することが極めて重要です。
コロラド川流域:危機に瀕する天然の 巨大貯水池
水の過剰使用が問題となっているコロラド川への依存度が高い米国の7州が最近、水の消費量を削減し、この水路の保護に取り組む協定を結びました。ちなみに、コロラド川は、以下のための重要な水源となっています。
- 4,000万人以上への飲料水の供給
- 国内有数の農地への灌漑水の供給2
- 周辺8州への水力発電の供給
- 年間約600億米ドル相当の穀物と家畜の生産に必要な水(オリンピックサイズのプール600万個を満たすのに必要な水に相当)の供給3
この協定に基づき、2026年まで300万エーカーフィート(オリンピックサイズのプール600万個を満たすのに必要な水に相当)の節水が実施され、 バイデン政権が成立させたインフレ抑制法からコロラド川流域の水域、都市、先住民コミュニティに12億米ドルが補償されることになっています4。
全体的に、インフレ抑制法の予算のうち100億米ドル以上が干ばつ救済や洪水の緩和、国内の水インフラの気候変動対策に向けられています。超党派インフラ法(2021年)や飲料水・廃水インフラ法(2021年)を通じて米政府が900億米ドル以上の予算を割り当てている中、水に100億米ドルを投資するのは素晴らしいことですが、水がようやく、しかるべき注目を集めていることを示すさらなる証拠を得ることが重要となります。
最近成立した協定は、まさに時宜を得たものでした。コロラド川流域は、20年にわたり干ばつに見舞われている5一方、雪解け水が例年に比べ劇的に減少したことが、川の水位と、パウエル湖およびミード湖というコロラド川流域の2大貯水池の水位の低下を加速させています。
水力発電への貯水問題の影響
この憂慮すべき事態は、広範囲に影響を及ぼしています。というのも、コロラド川水系は周辺の地域社会に水を供給しているだけでなく、この地域の重要な経済要因であり、米国経済に年1.4兆ドルを貢献し、近隣州における1,600万人の雇用を支えているからです8。さらに、コロラド川流域が干上がると、電気代や水道代にも大きな影響が及ぶ可能性が高く、水位の低下につれ電気代や水道代も上がるでしょう。電力需要が上がり続ける中で貯水池の水力発電能力が低下すれば、太陽光や風力などの代替的な再生可能エネルギー源のためのインフラ建設を検討しなければならなくなります。
注目すべき数字として、ミード湖のフーバーダムとパウエル湖のグレンキャニオンダムは現在、流域7州の住民約400万人に水力発電による電力を供給しています9。
また、コロラド川流域だけでなく米国全体の観点から河川流量の減少や貯水池の水位の低下の影響を考えた場合、水力発電が米国の再生可能エネルギーの発電量全体に占める割合は28.7%、米国の発電量全体に占める割合は約6.2%であることにも留意する必要があります10。
こうした状況下では、既存の水力発電能力を回復させ、新たな水力発電能力を構築するために、さらに資金を振り向けることが今まで以上に急務となっています。
貯水のバリューチェーン全体にわたって投資する
貯水槽の漏れの修理、貯水池の堆積物の除去、貯水池から人々や企業への水の輸送の管理、貯水ライフライクルへの対処といった、すぐに成果の出る解決策は、十分な水供給を確保するためにもちろん欠かせませんが、貯水問題に包括的に対処するには、そうした手っ取り早い解決策にとどまらない取り組みが必要となります。
より広く、体系的な観点から持続可能な水管理を考えるということは、バリューチェーン全体にわたりイノベーターとイネーブラーを特定することを意味します。これは、帯水層や湿地帯といった、淡水の大半が貯えられている天然の貯水池を理解し、モニタリングし、保全するのに役立つ技術から、特定の気候条件や現地の条件、地域の条件に合わせた人工の貯水システムを設計する企業まで、多岐にわたります。環境への影響を最小限に抑え、貯水池の効率性と多様性を最大化することが極めて重要です。
とりわけ、全体的なアプローチに従って持続可能な形で貯水能力を管理し、既存の貯水能力を回復させるとともに新たな貯水能力を構築するためには、天然、人工、混合型の貯水能力を組み合わせて、それぞれの持つダイナミクスを調和させる統合的なソリューションが必要とされています。
1 World Bank: What the future has in store – A New Paradigm for Water Storage. February 2023
2 Washingtonpost.com: Colorado river drought explained. May 2023
3 Farmland.org: Colorado River Challenges Pose Risks to Western Agriculture. April 2023
4 U.S. Department of the Interior: Biden-Harris Administration Announces Historic Consensus System Conservation Proposal to Protect the Colorado River Basin. May 2023
5 Agu.org: The Colorado river basins worst known megadrought was 1800 years ago scientists discover. June 2022
6 Washingtonpost.com: Colorado river drought explained. May 2023
7 Ibid
8 Nature.org: Economic Impact of the Colorado River. April 2023
9 Slate.com: The Colorado River’s Urgent Lesson for Energy Policy. February 2023
10 Energy.gov: Hydropower basics