議決権行使シーズン2023:4つのキーポイント

議決権行使は、株主が投資先の企業におけるさまざまな事項に影響力を与えることを可能にします。従来は標準的なガバナンス関連のトピックが議案の中心を占めていましたが、気候変動や多様性(ダイバーシティ)といった環境面と社会面——ESGの「E」と「S」——が存在感を増しているように見受けられます。本稿では、この点をはじめ、2023年の議決権行使シーズンのトレンドをまとめています。

サマリー

  • 弊社は、議決権行使方針において環境・社会面への配慮を強化しています。直近の議決権行使シーズンは、これらのトピックの重要性を改めて確認するものとなりました。
  • セイ・オン・クライメート(Say on Climate)決議への支持が低下する中、取締役会に責任を負わせることが、企業に見られる重大な環境・社会問題に対処する重要な手段になりつつあります。
  • 米国では、株主決議に反映される課題が目まぐるしく変化しており、今シーズンは特にリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)が重要性を増しています。
  • 経営陣には持続可能性に関する重要な事項を企業戦略に組み込むインセンティブが必要ですが、弊社は、企業がどのように意義ある環境・社会・ガバナンス(ESG)の重要業績評価指標(KPI)を策定しているかに注目しています。

株主総会での決議の大半は、取締役の選任、監査役の指名、報酬方針の承認といった典型的なガバナンス事項に関係しています。一方で、環境・社会問題も投票決定において次第に重要になっています。

弊社は、総合的な議決権行使方針の中で、気候変動、プラネタリーバウンダリー、包摂的な資本主義という弊社の3つの主要な持続可能性テーマに沿って、環境・社会への配慮を拡充しています。企業の気候戦略を評価するための議決権行使ガイドラインの策定も、その一例です。

 

議決権行使を通じて持続可能性に影響を与える

弊社は議決権代理行使 を、取締役会と経営者に持続可能性に関する方針と実践に対する責任を取らせる重要な手段とみなしています。積極的な持続可能性目標を掲げても、強固なガバナンスがなければ意味をなさないからです。

持続可能性は、さまざまなチャネルを通じて議決権行使の決定に反映されます。決議の中には、経営陣が提案する企業のクライメート・トランジション戦略に対する株主投票(「セイ・オン・クライメート」と呼ばれる)などを通じて、あるいは気候ロビー活動や排出量報告に関連する株主決議という形で、投資家が自らの考え方を直接表明できるようにするものもあります。しかし、より間接的なアプローチもあります。たとえば、報酬方針への投票に際して環境・社会的パフォーマンスを考慮に入れるにあたり、弊社は企業に対し、その報酬方針にESG KPIを盛り込むことを求めます。さらに、取締役選任議案も、投資家が持続可能性に関するパフォーマンスに対する不満を表明するのに利用する主要な議案になりつつあります。たとえば、取締役会が持続可能性の問題に関して十分な手腕を示していない場合、あるいはジェンダーや人種の多様性が不足しているとみなされる場合などです。

本稿では、2023年の議決権行使シーズンから見えてきた4つの環境・社会面に関するキーポイントをご紹介します。

1.セイ・オン・クライメート:決議件数が減少

弊社はセイ・オン・クライメートを、企業にその気候目標に対する責任を負わせるのに有効な手段とみなしています(弊社の記事「セイ・オン・クライメート:期待に応えられるか?」をご覧ください)。2022年に大幅に増加したセイ・オン・クライメート決議は、2023年上半期には大幅に減少しました。この減少は、一部の有名機関投資家が、気候戦略に責任を負うべきは投資家ではなく経営陣であるとの理由からセイ・オン・クライメートに反対していることを反映していると思われます。けれども、これとは異なる傾向も見られます。フランスでは、フランスの機関投資家全体が気候変動問題を強く支持している状況を受け、セイ・オン・クライメートの義務化を検討しています。

弊社が2022年に投票したセイ・オン・クライメート決議は、およそ50件に上りました。しかし今年は、通常はこの種の投票が集中する上半期で23件にとどまりました。欧州では、セイ・オン・クライメート決議のほとんどが英国とフランスの企業によって提出されている状況に変わりはなく、他の国でこの決議が提出されるケースはわずかにとどまっています。欧州以外では、セイ・オン・クライメートが最も盛んなのはオーストラリアである一方、米国では、国内投資家から引き続き懐疑的に見られているために、広く受け入れられていません。

気候戦略とその進捗報告書に関する投票は、今年が3年目となります。セイ・オン・クライメート決議への投票率の低さに企業がどう対処しているかということをはじめ、投資家の懸念への企業の対応には、問題が見られました。さらに、いったん株主投票に付された会社の気候変動計画が後になって変更されることも、弊社が目にした新たな問題です。

弊社は一般に、企業は投資家の懸念に迅速に対応し、その懸念にどう対処するかを表明すべきと考えています。あるオーストラリア企業への弊社のエンゲージメントは、その一例です。2022年に実施された同社のセイ・オン・クライメート決議に対する支持が低かったことを受け、弊社は持続可能性の取り組みに対する取締役会の監督が十分でないことを突き止めました。取り組みに進捗が見られなかったことを踏まえ、弊社は取締役に説明責任を取らせるために、持続可能性委員会の委員3名の再任に反対票を投じる決定を下しました。

弊社はまた、たとえセイ・オン・クライメート決議が過年度に一定の支持を得ていたとしても、気候戦略や気候目標に重要な修正がある場合は株主投票に付すことが、良好なガバナンス慣行であると考えています。2023年は、これを理由に取締役の選任に反対票を投じることによって、弊社の懸念を強調することを決定しました。

2. 米国の株主決議:環境・社会的なトピックに強い焦点

米国では、持続可能性関連の問題は通常、株主決議を通じて株主総会の議案に取り上げられます(弊社の記事「株主決議を通じて米国の慣行に影響を与える(Shaping US practice through shareholder resolutions) 」をご覧ください)。今年は、株主決議の件数が過去最多となる一方、支持率は全般的に落ち込んでおり、過去最高を記録した2021年の33.3%から約21.6%に低下しています1

こうした傾向にはさまざまな理由があります。米国内における反ESGの動きを背景に、一部の資産運用会社がより慎重な姿勢を取っていることもその一つです。さらに、決議の件数が増えるにつれ、決議の質もまちまちになっています。また、反ESGの提案が増えている(全体の約10%)一方で、その支持率は全体的に低水準(2.4%)にとどまっています2

弊社は、世界的にどの企業に対しても、一貫した方針に基づき株主決議に投票するアプローチを取っています。決議が株主の利益にかなうものであり、かつ過度に細かい条件を課すものでなければ、通常支持します。弊社の投票実績を見ると、人権関連の決議のほか、環境・気候変動に関する懸念やロビー活動を取り扱う提案を支持する割合が高いことが分かります(図表1を参照)。

株主提案のテーマの中心は引き続き、気候変動、政治への働きかけ、人権が占めていますが、株主提案に反映される課題は目まぐるしく変化しています。たとえば、2023年は、リプロダクティブ・ライツに関係する株主決議が大幅に増加しました。背景には、連邦最高裁判所が2022年6月に、1973年のロー対ウェイド判決を覆したことがあります。これらの決議は、リプロダクティブ・ライツの問題を、潜在的な労働力リスク、データプライバシー、政治的支出のアンバランスといったさまざまな角度で取り上げていました。弊社はこれらの決議の多くを、従業員の健康への不平等な影響を緩和する手段として、概ね支持しました。また、反ESG的なトーンの決議の増加も見られました。弊社はこれらの決議について、弊社の方針に基づいて検討した上で投票しましたが、決議の提出はあくまでも投資家に関連する要請の範囲内で行うべきと考えています。

図表1:米国の株主決議に対する弊社の支持

図表1:米国の株主決議に対する弊社の支持

出所:Allianz Global Investors, 2023年6月30日現在

 

3. ESGのKPI:欧州の大企業では標準に

2022年に弊社は、欧州の大企業に対し、経営陣の報酬プランにESG KPIを含めるのが望ましいとの考えを表明しました。たとえば、排出量の多い企業は、経営陣が気候変動に迅速に対応するためのインセンティブとして、温室効果ガス削減目標をKPIに含めることが望まれます。通常は、事業にとって重要であり、ひいては企業戦略に関連するESG KPIを採用する必要があります。弊社の2023年の議決権行使の実績を検証したところ、欧州の大企業の大半が報酬プランにESG KPIを組み込んでいました。これは心強い

しかし、まだ改善の余地があります。弊社は、企業が明確で透明性が高く、測定可能なKPIを設定することを期待していますが、現時点ではそうしたKPIはあまり導入されていません。たとえば、ジェンダー多様性に特化したKPIは、基礎となるKPIが明確でないスコアカード方式よりも望ましい指標です。さらに弊社は、報酬の支払いが正当化されるかどうかを投資家が判断できるように、KPIやその基礎となる目標、達成状況に関する透明性の高い報告を企業に求めています。

弊社は、サステナビリティKPIと財務KPIに同じ透明性基準を期待しています。これは、財務目標が未達となった場合にサステナビリティKPIが「報酬の保証」として利用されるのを防ぐため、特に重要です。最後に、経営陣へのインセンティブ報酬 は、積極的な目標を達成した場合に限り与えられるべきであり、健全なコンプライアンスの枠組みの整備といった通常の任務の一部である行為については対象とすべきではないと考えます。

4. ジェンダーと人種の多様性:取り組みの進展はまちまち

弊社は、ガバナンス体制において多様性が真摯に受け入れられている—―ジェンダーバランスの取れた人員構成と多種多様な技能と経験を持つ人材の登用によって示される——ほど、投資家により良い成果をもたらす可能性が高いと考えています。そのため、ジェンダーと人種の多様性に関する議決権行使ガイドラインを導入しました(後者は英国と北米にのみ適用)。取締役会に占める女性の割合が3割に届かない場合、指名委員会の委員長の選任に反対票を投じます。

英国、フランス、イタリアでは、規制や上場規則の影響もあって、取締役会レベルの男女比目標の達成に向け順調に進んでいるように見受けられます。それに対し、スウェーデンやスイスなどの国では、まだ取締役会の多様性に大きな不足があり、株主投票にかけられるケースが生じています。一方、フランスや英国などでは、ハードルをさらに上げて、取締役会における女性比率を40%とする要件や提言が導入されています。

英国の企業では、「パーカー・レビュー」をきっかけに近年、人種の多様性が議案として取り上げられるようになりました。この点に関しては非常に大きな進展が見られ、弊社の議決権行使の対象である英国企業のうち、取締役会に人種的マイノリティの取締役が一人もいない企業はごくわずかです。対照的に北米は、まだ多くの課題が残っています。弊社は今年、弊社の方針に従って、取締役会における人種の多様性が不十分であることを理由に12社の指名委員会の委員長選任に反対票を投じました。今後も、このトピックについて企業へのエンゲージメントを続けていく所存です。人種の多様性はまた、他の国でも非常に重要な意味を持つようになっています。しかし、場所によっては、多様性データの透明性に関して規制による制約が課せられており、投資家が議決権行使ルールを幅広く実施できないところもあります。

今後について

投資判断において持続可能性がますます重要性になっていることを受け、弊社は議決権行使のガイドラインと行動に、環境・社会問題を積極的に取り入れるようにしています。弊社がこれを重視しているのは、重要な持続可能性問題については取締役会が説明責任を負うべきであり、経営陣にはこれらの問題を企業戦略・目標に組み込むインセンティブが必要と考えているからです。進捗が不十分であると判断した場合には、今年から事前に議案への賛否を公表することによって、より強く意見を表明するようにしています。弊社は、気候変動、プラネタリーバウンダリー、包摂的な資本主義という弊社の3つの持続可能性テーマに沿って企業を選定しており、気候変動への取り組みが弱い場合や労働者の基本的権利が尊重されていない場合に懸念を表明しています。2024年については、気候への配慮を組み込んだ議決権行使方針をさらに多くの企業に適用することを検討しています。また、ジェンダーの多様性に関する議決権行使ルールを強化することも検討しています。

1Sustainable Investment Institute https://siinstitute.org/ as of July 2023
2Sustainable Investment Institute https://siinstitute.org/ as of July 2023 
3FCA上場規則は、ロンドン証券取引所に上場している(または上場を目指している)企業に適用される規則を定めています。
4The Parker Review, https://parkerreview.co.uk/

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