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2025年の展望:分散投資への新たな道
米国の選挙結果が確定したことで、リスク性資産の見通しは明るくなったようです。今後ボラティリティは高まる可能性がある一方で、米国と世界経済のソフトランディングが視野に入りつつあります。市場は利下げサイクルを織り込んでいるものの、インフレの再燃によって利下げが頓挫するリスクも依然として残っています。弊社は、リスク選好の調整、そしてプライベート・デットやインフラなどの非流動性資産の追加を通じて、今こそアセット・アロケーションを再検討すべきだと考えています。関税引き上げや貿易戦争の可能性が高まる中、アクティブ運用は世界経済の変化に対処するために必要不可欠となるでしょう。その過程では、選択的であることがカギとなります。
要点
- 弊社は米国経済について、インフレが鈍化し、景気後退を回避できるソフトランディングを基本シナリオとしています。
- 世界経済の乖離(米国の経済成長のペースが欧州と日本を上回る)は、第2期トランプ政権の下でも続く可能性があります。
- 利下げが予想通りに実施されれば、債券市場は下支えされる見込みです。ただし、インフレは再燃のリスクがあり、投資家は利下げが遅れた場合の混乱の可能性に備えるべきでしょう。
- 投資家は、現在は現金や低リスクのマネー・マーケット・ファンドとして保有している資産を、「中リスク」の債券やプライベート・マーケットの投資機会に再配分し、高リスクのエクスポージャーを有する分野とのバランスをとることで、リスク選好を再検討すべきかもしれません。
- 欧州の新規制による個人投資家からの資金流入増で、プライベート・デットとインフラの伸びが加速するため、非流動性資産はますます重要な分散投資ツールとなる可能性があります。"
専門家による2025年の展望については、以下のセクションをご覧ください。
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ソフトランディングが期待されるが、トランプ・リスクに注意
"成長は依然として維持されているものの、インフレ圧力のさらなる低下を妨げるほど強くはないため、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的な利下げは可能な状況にあるというものです。"
シュテファン・ホーフリヒタ ヘッド、グローバル・エコノミクス&ストラテジー
米国経済は、景気後退が近いという予想を裏切り続けています。弊社は2025年についても、2024年を若干下回るものの、他の主要先進国を上回るペースの成長が続くと予想しています。弊社は米国経済と世界経済について、景気後退を伴うことなく成長が減速し、インフレが鈍化するという「ソフトランディング」を引き続き基本シナリオとしています。弊社の予想では、2025年の米国の成長率はほぼトレンド成長率並みの約2%となる見込みです。
ユーロ圏の成長は1%未満とより緩やかです。欧州最大の経済圏であるドイツでは、昨年に引き続き2024年も経済が縮小しています。日本経済は勢いを失っています。弊社は2025年のユーロ圏と日本のGDP成長率をトレンド成長率に近い1%強と予想します。
先進国の経済活動は、全体として2024年初頭の弊社予想よりも堅調に推移しています。ほとんどの金融市場参加者の見解では、この緩やかな成長トレンドは2025年も続くとみられます。同時に、インフレ率はわずかに低下し、中央銀行の目標である2%に一段と近づくと予想されます。
ワイルド・カードは、ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に就任した後に何が起きるかということです。トランプ氏が予定している多額の財政支出は、米国の成長を短期的に押し上げる可能性があります。しかし、トランプ氏が米国の貿易相手国に課すと主張している関税引き上げの影響は、欧州の景気見通しを曇らせる恐れもあります。トランプ氏の選挙公約が政策としてどの程度実行されるかを見極めることが必要です。米国経済の底堅さは新規雇用者数と企業の増益によって支えられている
経済指標は、現時点では弊社の緩やかな成長シナリオと一致しています。米国では、過去2~3四半期の労働市場のモメンタムは明らかに減速していますが、企業は毎月、新規採用を続けており、家計支出の支えとなっています。このような心強い状況に加え、企業収益も小幅ながら増加し続けています(図表1参照)。企業収益は事業支出の重要なけん引役であり、したがって経済全体の重要な先行指標でもあります。弊社の結論は、成長は依然として維持されているものの、インフレ圧力のさらなる低下を妨げるほど強くはないため、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的な利下げは可能な状況にあるというものです。このようなシナリオ下で、金融市場の債券、株式はともに好調に推移するでしょう。
インフレの再加速と地政学的リスクに注意
しかし、こうした穏当な環境は、まだ確実ではありません。米国では、インフレが再加速するか、景気後退に陥る大きなリスクが残っています。なぜでしょうか。米国では2023年終盤に金利がピークを打ってから、金融市場は総じて好調に推移してきました。金融環境が全体的に緩和され、企業と家計の資金調達がより容易かつ安価になっていることが経済成長を支えています。しかし、(たとえば、トランプ新政権下で政府支出が増加することによって)成長が予想よりも加速した場合、景気循環によるインフレが起きる可能性が高いでしょう。米国経済は、過去の強力な金融緩和の遅行効果、脱グローバル化、人口動態による賃金動向、脱炭素化といった基調的なインフレ圧力との戦いを現在も続けています。したがって、成長が実際に加速した場合、FRBと金融市場が利下げのペースを再考しなければならなくなるリスクがあります。
一方で、弊社が2024年に景気後退リスクの理由として挙げた要因もいくつか残っています。たとえば、今後の景気後退の先行指標として信頼性が高い逆イールドカーブは、2024年9月に再びスティープ化し始めたばかりです。これは直近4回の米国の景気後退の数カ月前にも発生しています。さらに、地政学的リスクが、特に第2期トランプ政権を巡る不透明感の中で、多くの投資家の心理的重石となっています。中東やウクライナでの紛争がさらにエスカレートした場合、特にそれによってエネルギー価格が急上昇した場合は、世界の成長とインフレの見通しが不透明になる恐れがあります。しかし、通常、地政学的イベントは市場に長期的な影響を与えることはなく、短期的にボラティリティを急上昇させる傾向があります。
ソフトランディングを見据え、リスク性資産を選好
こうした要因は、弊社の金融市場に関する見通しをどのように形成しているのでしょうか。弊社は米国経済のソフトランディングを予想していますが、こうした予想は、米国株が割高で、社債のスプレッドがタイトであり、市場のボラティリティが疑わしいほど低く、上振れする可能性があるにもかかわらず、リスク資産を保有し続けることを意味します。弊社は、国債の利回りが秋の軟調相場を経て再び魅力を増してきたと考えています。通常よりダイナミックな動きが予想される今後数カ月の市場環境では、アクティブなポートフォリオ運用アプローチが不可欠となるでしょう。
図表1:米国の企業利益は堅調を維持
米国の国民所得・生産勘定非金融企業利益成長率(前年比、%)
出所:LSEG Datastream、AllianzGI Economics & Strategy。2024年11月現在のデータ。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
ビル・クリントンのアドバイザーだったジェームズ・カービル氏の有名な言葉を借りれば、「経済こそが問題」です。経済のファンダメンタルズ(金融政策を含む)は2025年の金融市場の見通しを左右するでしょう。政治的な展開も重要ですが、副次的な役割を果たすにとどまると弊社は考えています。
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世界的にボラティリティが高まる中、新たなアプローチを模索
“弊社は世界の支配的なメガトレンドが2025年以降も続くと予想しています。今や、エネルギー転換とサステナビリティに関する要素は多くの市場参加者のアプローチに組み込まれています。現在の気候変動への適応と影響の緩和に向けた取り組みの勢いを考えると、たとえ米国の「グリーン」政策が巻き戻されたとしても、一部で懸念されているほどの悪影響は及ぼさないと見込まれます。"
ヴィルジニー・メゾヌーヴ 株式、グローバルCIO
世界の株式市場は、米国の選挙結果を受けて、新たな政治環境を評価しつつあります。米国の政府政策の方向性の変化がインフレを誘発する可能性はやや懸念されるものの、弊社は2024年の成長とインフレの軌道を踏まえ、主要先進国がソフトランディングを実現し、大規模な景気後退は回避できるとのシナリオに引き続き自信を持っています。実際、世界の多くの地域、特に米国では景気の底堅さが見受けられます。
米連邦準備制度理事会(FRB)による9月の利下げは予想通りでしたが、それでも利下げ幅が(一部で予想されていた25ベーシスポイントではなく)50ベーシスポイントだったことをサプライズとして受け止める向きもありました。今後については、景気の底堅さと関税のインフレ効果によってインフレ率の低下トレンドが止まる可能性を踏まえ、市場は金利正常化の見通しを再び見直すでしょう。特に米国でその傾向が強まるとみられます。
超大型株の先を見据える
世界の株式市場、そして特に米国の株式市場は第2次トランプ政権の見通しについて強気に見えますが、貿易や移民などの分野で政策が根本的に変わることによる潜在的影響に関して、投資家は警戒心を保ち、不透明感の高まりに留意すべきでしょう。市場の楽観を支えている一因は、新政権下でさまざまなセクター、特にテクノロジー・セクターの規制緩和が予想されることです。米国市場の集中度は1930年代以来の水準に達しています(図表2参照)。弊社は規制緩和が、市場の裾野拡大という好ましい展開の引き金となり、それによって超大型株以外の企業、特にテクノロジー・セクターの企業が恩恵を受ける可能性があると予想しています。
図表2:米国株式市場の集中度は歴史的水準に到達
大型株の時価総額(75パーセンタイルとの対比*)
* 銘柄ユニバースは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、アメリカン証券取引所(AMEX)、またはナスダック(NASDAQ)証券取引所に上場しており、株価、株式数、収益データが存在する米国株から構成されています。1985年より前の時系列データは、CRSPから取得したKenneth Frenchデータ・ライブラリのデータに基づく推定値であり、NYSE上場銘柄の時価総額分布を反映しています。
出所:Compustat、CRSP、Kenneth R. French、Goldman Sachs Research、2024年。米国以外では、中国は直近で1兆4,000億米ドル相当の新たな景気刺激策パッケージを発表しました。このパッケージは地方政府の債務再編を促し、経済の不動産セクターへの依存からの脱却を支援するよう設計されています。景気刺激策の規模は、一部ウォッチャーにとっては期待外れでした。しかし、この動きは間違いなく正しい方向への一歩であり、米国新政権の方向性が明確になるにつれて、中央政府はさらなる措置を実施すると予想されます。中国の直近のデータはマクロ経済環境の安定化を示しており、金融セクターには回復の兆しさえ見られます。
投資家は依然として中国にかなり懐疑的ですが、直近のイニシアチブは、規制当局が緩和的な財政・金融政策を積極的に実施しており、資産価格を押し上げようとしていることを明らかにしています。これはわずか数カ月前とは全く違うスタンスです。
インドの状況は大きく異なっています。中国の場合、人口動態が重石となりつつありますが、インド経済は人口ボーナスの恩恵(若年層が多く、人材のスキルがますます向上している)を享受し始めています。現在、インドには複数の強みがあり、それが今後数年間でセクターを問わず生産性を高めるでしょう。
政府の財政支出、関税、防衛にかかわる政策が市場を形成
米国の選挙結果に対する株式市場の反応は前向きですが、課題も残っています。最大の懸念は米国の政府債務の持続可能性です。議会に設置されている議会予算局(CBO)は、米国の債務対GDP比率が2029年に第二次世界大戦後のピークである105%を超え、107%に達すると予想しています。これほどの水準の公的債務を無視することはできず、投資家はインフレと金利への潜在的影響を注視する必要があるでしょう。
しかし、選挙後にニュースになっているのは、関税の大幅引き上げなどの貿易障壁に関する見通しです。すべての輸入品に10%または20%の一律関税、中国からの輸入品に60%の関税を課すというトランプ氏の公約がどこまで実現するかは不透明です。しかし、こうした措置は米国のインフレ要因となり、欧州と中国の成長に影響を与える可能性があります。弊社は世界の支配的なメガトレンドが2025年以降も続くと予想しています。今や、エネルギー転換とサステナビリティに関する要素は多くの市場参加者のアプローチに組み込まれています。現在の気候変動への適応と影響の緩和に向けた取り組みの勢いを考えると、たとえ米国の「グリーン」政策が巻き戻されたとしても、一部で懸念されているほどの悪影響は及ぼさないと見込まれます。
また、懲罰的な関税が設定される可能性を考慮すると、世界的なサプライチェーンの再編や、新たなテクノロジーと地政学的問題が企業の生産のオンショアリングやリショアリングをどのように促進するかも重要なテーマです。米国政府の「アメリカ・ファースト」への回帰は、既存の世界秩序における現在進行中の変化を加速させる可能性があります(特に、太平洋の両側で競い合う「テクノロジー・ヘミスフィア」の出現と、あらゆるセクターで最先端テクノロジーの急速な導入を促進するデジタル・ダーウィニズムの面で)。
しかし、仮に世界の政治情勢に予想外のショックが起きなかったとしても、主要国間の緊張関係の高まりは、防衛支出の増加につながる公算が大きいでしょう。ウクライナ戦争は、21世紀の戦争が根本的に変化したことを明らかにしています。新たなタイプの軍拡競争が勃発した場合、各国は後れを取りたくないと考えるでしょう。防衛支出の増加は一部のセクターと企業にとって追い風となりますが、世界的な債務水準がさらに上昇するリスクがあります。
株式ポートフォリオの構築に関する再考
弊社の現在のポートフォリオ構築に関する見方は、2025年まで高水準のボラティリティが続くという予想を反映しています。現在、多くの投資家が「バーベル型」のアプローチを選好しています。これはポートフォリオにおいて、一方では低リスク資産、もう一方では高リスク資産のウェイトを高めるというアプローチです。弊社は、バーベルを崩し、ピラミッド型の株式ポートフォリオの構築を再検討することを推奨しています。ピラミッドの最下層、すなわちポートフォリオの最大のセグメントでは、ボラティリティを吸収するためのマルチファクター・アプローチを採用すべきです。これをベースとして、第2層ではグロース、バリュー、配当の各スタイルで真にクオリティの高い銘柄を探す必要があります。最後に、ピラミッドの最上層では、確信度の高い投資アイデア(たとえば、人工知能やエネルギー転換といったメガトレンドの追跡など)を反映した銘柄や、地域銘柄(中国やインドへの投資など)を選別します。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
米国で新たな政策が導入され、それが為替市場に波及効果をもたらすことによって、金利サイクルの同期性が世界的に低下する可能性があります。これはストック・ピッカーにとって有利な市場を生み出し、為替変動、グローバルなサプライチェーンの再編、新たな関税がビジネスモデルに与える影響の相互作用を理解することが今まで以上に必要不可欠になるでしょう。
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経済成長の乖離を踏まえたアクティブな運用
"利下げを予防的に前倒しするという変化は、FRBが過去の景気サイクルから教訓を得たことを示唆しています。かつては、政策上の制約が存在する期間が長過ぎたため、景気後退リスクが必要以上に高まる傾向がありました。"
マイケル・クラウツバーガー 債券、グローバルCIO
2024年は前年に続き国債投資家にとってジェットコースターのような年となっています。世界の成長は乖離しており、米国経済がその他の地域に対して相対的にアウトパフォームしていることが引き続き世界の債券・為替市場を動かす主要因となっています。短期的には、こうした見方は、トランプ氏が米国の次期大統領に当選したことで強まっています。これは今後の米国の財政・貿易政策の予想を踏まえたものです。それでも、インフレ見通しは世界的に改善しており、コア・インフレ率は主要国中央銀行の目標値に徐々に回帰しています。これは、G10諸国全体で利下げサイクルが進展するという期待を強めており、今年を通して国債市場を下支えしてきました。
教訓を学ぶ
米連邦準備制度理事会(FRB)は、2024年の「利下げ競争」に加わるのは遅かったものの、そのアプローチが大きく変化していることを示しました。その変化とは、物価の安定と並ぶもう一つの使命を構成する最大雇用を改めて重視するというものでした。利下げを予防的に前倒しするという変化は、FRBが過去の景気サイクルから教訓を得たことを示唆しています。かつては、政策上の制約が存在する期間が長過ぎたため、景気後退リスクが必要以上に高まる傾向がありました。FRBの行動は、少なくとも現時点では、2025年中に米国がソフトランディングする可能性を高めています。たとえ、歴史的に見てソフトランディングが稀であったとしてもです。
世界の他の地域では、マクロ経済環境は一段と厳しいものになっています。中国経済は、国内需要が持続的に回復するという期待を裏切ることとなりました。主な要因は不動産セクターにおける数年来の債務削減です。中国経済は、過去20年間の日本と同様、デフレ・スパイラルに直面しているのではないかとの懸念が高まっています。ユーロ圏では、経済成長率は最高でもわずかなプラスで、最大の経済圏であるドイツは2年連続の景気後退のリスクにさらされています。当然ながら、欧州の中央銀行もアプローチを変化させています。現在、市場は2025年上半期まで欧州中央銀行の政策決定会合のたびに利下げが行われることを織り込んでいます。中国の政府当局もデフレ・スパイラルの恐ろしさを認識しています。当局は一連の金融、財政、市場刺激策を発表しており、2025年の中国の成長見通しがわずかに明るくなるのではないかとの期待が生まれています。2025年を見据えると、金融・財政政策のスタンスは世界各国、特にユーロ圏以外の成長見通しの支えとなっています。ただし、弊社は経済の軌道は国によって異なると予想しています。債務を取り巻くファンダメンタルズ、金融政策の波及、財政支援の程度によって、軌道がどのように変わるかが決まります。トランプ氏が米大統領として2期目を務めること、およびそれが今後の米国の貿易政策に与える影響は、世界の前向きな成長見通しにとって最大の課題となるでしょう。トランプ氏の政策によって、前年に続いて債券市場と為替市場のボラティリティが高まる可能性があります。
また、マクロ経済と地政学的環境によって、2025年にリスク資産市場のボラティリティが高まる可能性も確実に上昇しています。
機敏性、そしてアクティブ運用が求められる
弊社は、こうしたリスクを踏まえ、債券が資産クラスとして魅力的であると考えています。ただし、2025年の課題を乗り切るには、デュレーション、イールドカーブ、為替、スプレッド、インフレ連動商品を網羅した機敏な投資アプローチが必要となるでしょう。対象商品の厳選がカギであり、したがって弊社はアクティブ運用が必要不可欠と考えます。
弊社は、世界的なマクロ経済環境や政策環境が、米国とユーロ圏におけるイールドカーブのスティープ化に対する弊社の確信を裏付けているとみています。弊社はイールドカーブのスティープ化を見越して短期債に強気なポジションを取り、長期債へのエクスポージャーを削減しています。これは金融政策の緩和と財政赤字の拡大で、投資家が長期債の保有で十分なリターンを得られないという見方を裏付けているためです。弊社はアウトライトのデュレーション・リスクを避け、このポジションを選好しています。弊社はイールドカーブのスティープ化を見越したポジションとのバランスを取るために、日本のイールドカーブのフラット化を見越したポジションも選好しています。20年以上ぶりに日本経済にインフレの兆しが見られる中、日本銀行は利上げとバランスシートの縮小を通じて金融政策の正常化を図る途上にあります。
債券市場のボラティリティは2025年も高止まりする可能性が十分にあるため、弊社は市場環境の変化を踏まえ、ポートフォリオの金利感応度を調整することで、デュレーションを戦術的に取引するのも良いアイデアだと考えています。米国で利回りが急上昇し、市場が(可能性は低いものの)ハードランディングの可能性を織り込まないなど、過度に楽観的な兆候を見せるようであれば、弊社はリスクを積み増すことになるでしょう。国の選択もカギとなります。デュレーションに関するリスク・リワードのダイナミクスが好ましい国としては英国とオーストラリアが挙げられます。弊社は現在、市場がこれらの国の利下げサイクルを完全に織り込んでおり、魅力
的な実質利回りが提供されていると考えています。リフレーション・リスク
現在の環境では、ポートフォリオをインフレから守るためのポジションをある程度構築することも理にかなっています。物価上昇を引き起こす可能性がある要因は複数存在します。たとえば、現在織り込まれている緩和的な政策の程度、貿易戦争、地政学的な不透明感による原油およびエネルギー価格の急上昇リスク、そしてサプライチェーンの短縮や気候変動の政策的影響といった構造的問題です。弊社は、こうしたリスクが全体としてブレークイーブン・インフレ率に十分に織り込まれていないと考えています。
為替市場では、米国のその他地域に対する相対的なアウトパフォーマンスは、2025年を通してやや縮小する余地があります。これは米ドルにとって不利になると予想されます。ただし、このプロセスはスムーズに進まず、米国の貿易政策に左右される可能性があると考えます。トランプ氏の勝利は、まずは米ドルにとって追い風となっていますが、それが長続きするかどうかは依然として不透明です。
スプレッド資産については、新興国デットが地政学的リスクの高まり、市場のボラティリティ、挙、FRBの利下げ予想の変化にもかかわらず、底堅い推移を示しています。2025年に向けた新興国市場のファンダメンタルズは堅調で、投資資金の流れは新興国債券に戻りつつあるようです。現在の環境では、弊社は現地通貨建て債券と一部のハードカレンシー建てハイイールド・クレジットに豊富な投資機会があるとみており、米ドルの方向性を予想することは目指していません。新興国通貨については、弊社はレラティブ・バリューのアプローチを選好し、通貨間の一時的な価格差から利益を得ることを追求しています。
社債に関しては、ハイイールド債のスプレッドはかなりタイト、投資適格債はややタイトとなっています。金利の低下に伴い、スプレッドがタイトでも、多くの投資家はマネー・マーケット・ファンドからクレジットへと資産の一部を再配分すると弊社は考えています。クレジットの利回りは引き続き魅力的で、堅調なテクニカル条件の支えとなっています。ハイイールド債については、現時点ではスプレッド・デュレーションを延長しても十分な利回りプレミアムが得られないため、短期クレジットを選好する根拠が強まっているとみられます。主に高格付け企業が発行する変動利付債も、引き続き魅力的な利回りスプレッドを提供しています。また、これらの資産は、予想が想定していなかった方向に変化し、インフレ率と金利が長期にわたって高止まりした場合でも、ヘッジとしての役割を果たします。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
弊社は2025年の米ドルの動向を注意深く観察します。米国経済のその他地域に対する相対的なアウトパフォーマンスは、2025年も米ドルを押し上げ続けるでしょうか。それとも、米ドルはすでに買われすぎであり、市場は米国以外の経済成長について悲観的過ぎるのでしょうか。
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ダイナミックなアプローチが必要
“十分に分散されたポートフォリオから出発することが重要であり、ボラティリティの積極的な管理はポートフォリオをダイナミックに保護するためのカギとなります。弊社は、株式市場の一部で集中度が懸念すべき水準に上昇しており、市場環境が混乱する可能性が高いことから、ボトムアップの銘柄選択とアクティブな運用に重点を置く必要があると考えています。“
グレガー・MA・ハート マルチアセット、グローバルCIO
2025年は、リスク資産、特に株式が引き続き好調さを維持し、アクティブ投資家全体にとって好ましい年明けとなると予想されます。歴史的にみて、年初数ヵ月間は、市場は好調を維持します。直近の経済指標、特に米国のデータは引き続き堅調で、企業の売り上げと利益を押し上げています。弊社は米連邦準備制度理事会(FRB)が(少なくとも当面は)利下げを継続し、市場の流動性を高めると予想しています。
トランプ氏は法人税率の引き下げと規制緩和を公約しています。これは2016年以降と同様、市場にさらなる堅調さをもたらすとともに、企業の利益率を押し上げるでしょう。こうした施策によって、株式市場が平静に推移した場合、投資家は株式のポジションを積み増す可能性があります。
弊社は、こうした環境が米国株、とりわけ以下のセクターにとって特に好ましいとみています。
- 小型株はすでに魅力的なバリュエーションを提供しているとみられます。弊社は小型株が財政支援と経済成長によってさらなる恩恵を受けると予想しています。
- テクノロジー・セクター全体は、割高なバリュエーションにもかかわらず、エネルギー価格の低下と、トランプ政権下で独占禁止法違反に対する規制が弱まる見込みであることに支えられて、好調なパフォーマンスを維持するでしょう。
- 米国の銀行は急速な規制緩和の見通しによって恩恵を受けるでしょう。
米国株が欧州株をアウトパフォームすると弊社が予想する理由の1つは、米国経済が欧州より堅調に成長していることにあります。しかし、株式市場と現在の国内経済を混同すべきではありません。たとえば、ユーロ・ストックス50指数を構成する多くの企業は売上高の大部分を米国で得ており、米国経済の底堅さの恩恵を享受する立場にあります。
しかし、欧州市場には十分な投資がなされておらず、バリュエーションは魅力的ではあるものの、テクノロジーや人工知能の大国である米国と中国に後れを取っています。労働法などの構造的な欠点も欧州企業にとって逆風となっています。一方、中国の状況は依然として不透明です。中国経済は構造的な問題によって停滞しているものの、政策の後押しによって恩恵を受ける可能性があります。
デカップリング(非連動)が大きなトレンドに
ハイイールド債は、総じて底堅い経済状況によって恩恵を受ける可能性が高いでしょう。しかし、弊社のマルチアセット・ポートフォリオでは、特に個人投資家が前向きな景気サイクルの末期に流動性の高い資産を好む傾向にあることを踏まえ、米国ハイイールド債よりも株式を選好します。
弊社は、株式に関する見通しとは逆に、欧州債券は米国債券とは連動しない可能性があると考えています。インフレは低下傾向にありますが、欧州連合はより困難な環境に直面しています。特にドイツでは総選挙が迫っており、フランスでは政府が不安定化する可能性があります。
2025年に注目すべきファクターの1つは、米新政権の財政政策とそれが市場にもたらす影響によってリフレーションが発生した場合に、FRBがどのように対応するか、という点です。米ドルは過大評価されていますが、通常の環境であれば、FRBが利下げを実施し、リスク資産がディフェンシブ資産をアウトパフォームするに伴い、米ドル安に向かうはずです。しかし、トランプ氏の財政支出計画によって景気が過熱した場合、FRBは利上げを強いられる可能性があります。このシナリオはリスク資産に悪影響を与えるでしょう。割高なバリュエーションと2020年3月以降の大幅な上昇を踏まえると、株式市場は2025年に状況を再評価するために立ち止まるかもしれません。
このシナリオでは、新興国市場の現地通貨建て債券が悪影響を受ける可能性があり、市場との相関が低い柔軟なアセット・アロケーションの魅力が高まります。債券市場はすでに景気が過熱するリスクをある程度織り込んでいます。これは2024年9月から第4四半期にかけて米国のイールドカーブがフラット化していることから明らかです。しかし、インフレが再燃し、FRBの対処に遅れが生じているとの印象が再び強まった場合、いわゆる債券自警団(債券の売却を通じて、好ましくない政策に反対)からの圧力が高まる可能性があります。長期米国債の需要の変化を観察することが、今後の市場リスクを評価するカギとなるでしょう。
長期的には、トランプ氏が過激な地政学的政策を押し進めた場合、脱ドル化が勢いを増す可能性があります。このようなシナリオでは、他の経済圏が独自の通貨ブロックの構築を目指すと考えられます。
地政学的要因がコモディティに影響
コモディティは通常、多額の財政支出が実施され、利下げが行われる環境で好調なパフォーマンスを上げる傾向にあります。しかし、今回は違うかもしれません。トランプ氏は原油とガスの採掘を拡大することを望んでおり、供給が増加する可能性があります。また、ロシアとウクライナの戦争が終わり、原油・ガス価格にさらなる圧力を与える可能性も考えられます。原油価格は、直近の1バレル当たり70~90米ドルから約50~70米ドルに下落することもあり得ます。テールリスクに関しては、イスラエルとイランの緊張関係の高まりが原油価格の短期的な急騰を招く可能性があります。
銅は中国の短期的な景気回復の恩恵を受けるかもしれません。金は米ドルや実質利回りから乖離していることによって引き続き選好されており、緊迫した地政学的環境で新興国市場の買い手に支えられています。
2025年はアセット・アロケーションに対する機敏なアプローチが必要不可欠となるでしょう。十分に分散されたポートフォリオから出発することが重要であり、ボラティリティの積極的な管理はポートフォリオをダイナミックに保護するためのカギとなります。弊社は、株式市場の一部で集中度が懸念すべき水準に上昇しており、市場環境が混乱する可能性が高いことから、ボトムアップの銘柄選択とアクティブな運用に重点を置く必要があると考えています。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
2025年初頭は米国の関税引き上げと報復の可能性が主要なリスクとなりますが、市場の注目は、米国の財政政策と移民制限の影響評価へと急速に移行するでしょう。どちらも債券の利回りとインフレ率に影響を与え、ある時点で株式市場が影響を吸収することが困難になる可能性があります。
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魅力的な投資機会
"いわゆるプライベート・マーケットの民主化により、より多くのプライベート・キャピタルが移行のために利用可能になるとともに、個人投資家もこの資産クラスの成長ポテンシャルに関与できるようになります。"
デボラ・ズルコウ グローバル投資責任者
2024年の取引と資金調達は前年の減速を経て増加に転じました。2025年に向けて、弊社は案件組成の増加によるモメンタムの高まりを予想しています。過去2年間のプライベート・デットへのシフトは今後も続くとみられますが、エクイティについてもバリュエーションが再評価されています。価格が正常化する中、市場での取引は増えています。バリュエーションは、インフレ、利上げ、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機といった悪材料が生じる前の水準には依然として達していません。
地政学的危機もプライベート・マーケットとバリュエーションに影響を及ぼしています。しかし、この資産クラスは、変動金利とインフレ連動という特性によって、不透明感が高い時期を乗り切れることを証明しています。さらに、地政学的危機は短命に終わる傾向があるのに対して、プライベート・マーケットの投資家の投資期間は往々にして長く、数十年に及ぶ場合もあります。
2025年は、プライベート・マーケットでの資金調達が増えると弊社は考えています。投資家は、ボラティリティの高い環境で実現された足下のパフォーマンスに満足しています。金利が再び低下する中、市場環境はリバランスされつつあり、魅力的な条件の新たな投資機会につながると見込まれます。特にプライベート・デットでは、投資家は大規模かつ拡大途上にあるユニバースから投資先を選択することができ、インパクト、セカンダリー、インフラ・デット、テーマ別プライベート・クレジット、そして機関投資家が存在感を増している貿易金融に新たな投資機会が存在します。
投資は緊急を要する
欧州中央銀行元総裁、マリオ・ドラギ氏は、最近発表した報告書の中で、欧州連合が競争力を維持するにはデジタル・トランスフォーメーション、グリーン・トランジション、防衛などの分野に年間7,500億~8,000億ユーロの投資を行う必要があると推定しています1。
投資は緊急を要していますが、財政赤字も拡大しています。プライベート・キャピタルなくしては、こうした投資を実現することはできないでしょう。これは投資家にとって魅力的な投資機会であり、またプロジェクトの再評価による魅力的なリスク・リターン特性を期待できます。道路と公共交通の近代化、デジタル・インフラとデータセンターの建設、社会インフラと公益施設の建設といった多くの巨大プロジェクトが資金調達を必要としています。これらのプロジェクトには、確固たる実績と、長期プロジェクトの経験を有するパートナーが必要です。
インフラは国家の経済と社会の発展を推進します。2024年の激しい選挙サイクルの中で、一部のプロジェクトは遅延していますが、こうしたインフラが担っている基本的サービスの重要性に鑑み、新政権が成立すれば未完のプロジェクトへの取り組みが進むでしょう。ポピュリズムが台頭し、政治的な不安定性をもたらしている状況では、生活に不可欠なサービスの提供は特に重要です。
「インパクト」が重要性を増す
新たなプロジェクトは引き続き環境、社会、ガバナンスの側面を考慮したものとなるでしょう。プライベート・キャピタルが社会にとってプラスの影響を生み出し、投資家にリターンをもたらす一方で、脱炭素化とデジタル化を支える必要があることを反映して、インパクト・プライベート・クレジットが重要性を増しています。弊社はこのトレンドが継続し、アジアやその他の地域の機関投資家から広く関心を集めると予想しています。これらの機関投資家は、エネルギー転換の推進に寄与する戦略への関心を深めています。
弊社が継続すると考えているもう1つのトレンドはセカンダリーの成長です。セカンダリーは、プライベート・エクイティでは商品として確固たる地位を築いていますが、プライベート・デットおよびインフラ・エクイティのセカンダリー市場は依然として確立の途上にあります。セカンダリーは資本の投入を加速させるだけでなく、ポートフォリオの分散にも貢献します。プライベート・デットとインフラのプライマリー市場の規模に加え、流動性の制約を考慮すると、2025年のセカンダリー取引は大幅に増加すると予想されます。これらの取引を利用できるのは、プライマリー投資家としての優れたネットワーク、取引を執行するための社内ノウハウ、重要な案件を大幅なディスカウントでクローズするための交渉力を持つ投資家でしょう。
最後に重要なこととして、欧州長期投資ファンド(ELTIF)2.0規制の導入に伴い、現在のプライベート・マーケットは個人投資家にとってよりアクセスしやすくなっています。いわゆるプライベート・マーケットの民主化により、より多くのプライベート・キャピタルが移行のために利用可能になるとともに、個人投資家もこの資産クラスの成長ポテンシャルに関与できるようになります。アナリスト・プラットフォームのScope GroupはELTIFの資産額が2026年末までに300億~350億ユーロに増加すると予想しており、来年は少なくとも20本の新たなELTIFが市場に加わる見込みです2。とはいえ、投資家はプライベート・マーケット投資の特徴(投資期間の長さなど)とそれに伴うリスクに留意する必要があります。投資家は、知識を得た上での判断を下すため、助言を求めるべきでしょう。
同じ志を持ったパートナー
プライベート・マーケット投資は多くの機関投資家のポートフォリオにおける重要な柱です。弊社はプライベート・デットとインフラが引き続き魅力的な投資機会を提供すると考えています。規制の改正によって、現在、プライベート・マーケットはより多くの顧客が投資可能になっており、それに伴い、新たな投資家層が情報に基づいた判断を下せるようにするための責任も大きくなっています。顧客が拡大し、資金を必要とするプロジェクトが増え、プライベート・マーケットでのプレーヤーが減少する中で、多くの新規プロジェクトが発生し、多くの企業が資金を必要とすると予想されます。その傍らには、長年のノウハウと経験に裏付けられた実績と、同じ志を持つパートナーが立っているでしょう。
図表3:北米と欧州が主要市場争奪戦
地域別インフラ運用資産残高(AUM)*
出所:Preqin
* AUMの数値は人民元建てのファンドを除く。
年末現在の金額。二重計上を避けるため、合計金額からセカンダリーとファンド・オブ・ファンズを除外している。2025年に投資家が注意すべきことは何か?
未来への投資はインフラへの投資を意味します。既存インフラの更新に加え、デジタル化からエネルギー転換まで、進歩と成長を加速させるには巨額の投資が必要です。弊社は2025年に数多くの投資機会が、特にインフラ・デットの分野で生まれると予想しています。
1 EUの競争力: 未来を見据える – 欧州委員会、2024年9月。
2 新時代:2023/2024年ELTIF市場概要、Scope Fund Analysis、2024年5月15日公開
ソフトランディングが期待されるが、トランプ・リスクに注意
"成長は依然として維持されているものの、インフレ圧力のさらなる低下を妨げるほど強くはないため、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的な利下げは可能な状況にあるというものです。"
シュテファン・ホーフリヒタ ヘッド、グローバル・エコノミクス&ストラテジー
米国経済は、景気後退が近いという予想を裏切り続けています。弊社は2025年についても、2024年を若干下回るものの、他の主要先進国を上回るペースの成長が続くと予想しています。弊社は米国経済と世界経済について、景気後退を伴うことなく成長が減速し、インフレが鈍化するという「ソフトランディング」を引き続き基本シナリオとしています。弊社の予想では、2025年の米国の成長率はほぼトレンド成長率並みの約2%となる見込みです。
ユーロ圏の成長は1%未満とより緩やかです。欧州最大の経済圏であるドイツでは、昨年に引き続き2024年も経済が縮小しています。日本経済は勢いを失っています。弊社は2025年のユーロ圏と日本のGDP成長率をトレンド成長率に近い1%強と予想します。
先進国の経済活動は、全体として2024年初頭の弊社予想よりも堅調に推移しています。ほとんどの金融市場参加者の見解では、この緩やかな成長トレンドは2025年も続くとみられます。同時に、インフレ率はわずかに低下し、中央銀行の目標である2%に一段と近づくと予想されます。
ワイルド・カードは、ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に就任した後に何が起きるかということです。トランプ氏が予定している多額の財政支出は、米国の成長を短期的に押し上げる可能性があります。しかし、トランプ氏が米国の貿易相手国に課すと主張している関税引き上げの影響は、欧州の景気見通しを曇らせる恐れもあります。トランプ氏の選挙公約が政策としてどの程度実行されるかを見極めることが必要です。
米国経済の底堅さは新規雇用者数と企業の増益によって支えられている
経済指標は、現時点では弊社の緩やかな成長シナリオと一致しています。米国では、過去2~3四半期の労働市場のモメンタムは明らかに減速していますが、企業は毎月、新規採用を続けており、家計支出の支えとなっています。このような心強い状況に加え、企業収益も小幅ながら増加し続けています(図表1参照)。企業収益は事業支出の重要なけん引役であり、したがって経済全体の重要な先行指標でもあります。弊社の結論は、成長は依然として維持されているものの、インフレ圧力のさらなる低下を妨げるほど強くはないため、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的な利下げは可能な状況にあるというものです。このようなシナリオ下で、金融市場の債券、株式はともに好調に推移するでしょう。
インフレの再加速と地政学的リスクに注意
しかし、こうした穏当な環境は、まだ確実ではありません。米国では、インフレが再加速するか、景気後退に陥る大きなリスクが残っています。なぜでしょうか。米国では2023年終盤に金利がピークを打ってから、金融市場は総じて好調に推移してきました。金融環境が全体的に緩和され、企業と家計の資金調達がより容易かつ安価になっていることが経済成長を支えています。しかし、(たとえば、トランプ新政権下で政府支出が増加することによって)成長が予想よりも加速した場合、景気循環によるインフレが起きる可能性が高いでしょう。米国経済は、過去の強力な金融緩和の遅行効果、脱グローバル化、人口動態による賃金動向、脱炭素化といった基調的なインフレ圧力との戦いを現在も続けています。したがって、成長が実際に加速した場合、FRBと金融市場が利下げのペースを再考しなければならなくなるリスクがあります。
一方で、弊社が2024年に景気後退リスクの理由として挙げた要因もいくつか残っています。たとえば、今後の景気後退の先行指標として信頼性が高い逆イールドカーブは、2024年9月に再びスティープ化し始めたばかりです。これは直近4回の米国の景気後退の数カ月前にも発生しています。
さらに、地政学的リスクが、特に第2期トランプ政権を巡る不透明感の中で、多くの投資家の心理的重石となっています。中東やウクライナでの紛争がさらにエスカレートした場合、特にそれによってエネルギー価格が急上昇した場合は、世界の成長とインフレの見通しが不透明になる恐れがあります。しかし、通常、地政学的イベントは市場に長期的な影響を与えることはなく、短期的にボラティリティを急上昇させる傾向があります。
ソフトランディングを見据え、リスク性資産を選好
こうした要因は、弊社の金融市場に関する見通しをどのように形成しているのでしょうか。弊社は米国経済のソフトランディングを予想していますが、こうした予想は、米国株が割高で、社債のスプレッドがタイトであり、市場のボラティリティが疑わしいほど低く、上振れする可能性があるにもかかわらず、リスク資産を保有し続けることを意味します。弊社は、国債の利回りが秋の軟調相場を経て再び魅力を増してきたと考えています。通常よりダイナミックな動きが予想される今後数カ月の市場環境では、アクティブなポートフォリオ運用アプローチが不可欠となるでしょう。
図表1:米国の企業利益は堅調を維持
米国の国民所得・生産勘定非金融企業利益成長率(前年比、%)
出所:LSEG Datastream、AllianzGI Economics & Strategy。2024年11月現在のデータ。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
ビル・クリントンのアドバイザーだったジェームズ・カービル氏の有名な言葉を借りれば、「経済こそが問題」です。経済のファンダメンタルズ(金融政策を含む)は2025年の金融市場の見通しを左右するでしょう。政治的な展開も重要ですが、副次的な役割を果たすにとどまると弊社は考えています。
世界的にボラティリティが高まる中、新たなアプローチを模索
“弊社は世界の支配的なメガトレンドが2025年以降も続くと予想しています。今や、エネルギー転換とサステナビリティに関する要素は多くの市場参加者のアプローチに組み込まれています。現在の気候変動への適応と影響の緩和に向けた取り組みの勢いを考えると、たとえ米国の「グリーン」政策が巻き戻されたとしても、一部で懸念されているほどの悪影響は及ぼさないと見込まれます。"
ヴィルジニー・メゾヌーヴ 株式、グローバルCIO
世界の株式市場は、米国の選挙結果を受けて、新たな政治環境を評価しつつあります。米国の政府政策の方向性の変化がインフレを誘発する可能性はやや懸念されるものの、弊社は2024年の成長とインフレの軌道を踏まえ、主要先進国がソフトランディングを実現し、大規模な景気後退は回避できるとのシナリオに引き続き自信を持っています。実際、世界の多くの地域、特に米国では景気の底堅さが見受けられます。
米連邦準備制度理事会(FRB)による9月の利下げは予想通りでしたが、それでも利下げ幅が(一部で予想されていた25ベーシスポイントではなく)50ベーシスポイントだったことをサプライズとして受け止める向きもありました。今後については、景気の底堅さと関税のインフレ効果によってインフレ率の低下トレンドが止まる可能性を踏まえ、市場は金利正常化の見通しを再び見直すでしょう。特に米国でその傾向が強まるとみられます。
超大型株の先を見据える
世界の株式市場、そして特に米国の株式市場は第2次トランプ政権の見通しについて強気に見えますが、貿易や移民などの分野で政策が根本的に変わることによる潜在的影響に関して、投資家は警戒心を保ち、不透明感の高まりに留意すべきでしょう。市場の楽観を支えている一因は、新政権下でさまざまなセクター、特にテクノロジー・セクターの規制緩和が予想されることです。米国市場の集中度は1930年代以来の水準に達しています(図表2参照)。弊社は規制緩和が、市場の裾野拡大という好ましい展開の引き金となり、それによって超大型株以外の企業、特にテクノロジー・セクターの企業が恩恵を受ける可能性があると予想しています。
図表2:米国株式市場の集中度は歴史的水準に到達
大型株の時価総額(75パーセンタイルとの対比*)
* 銘柄ユニバースは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、アメリカン証券取引所(AMEX)、またはナスダック(NASDAQ)証券取引所に上場しており、株価、株式数、収益データが存在する米国株から構成されています。1985年より前の時系列データは、CRSPから取得したKenneth Frenchデータ・ライブラリのデータに基づく推定値であり、NYSE上場銘柄の時価総額分布を反映しています。
出所:Compustat、CRSP、Kenneth R. French、Goldman Sachs Research、2024年。
米国以外では、中国は直近で1兆4,000億米ドル相当の新たな景気刺激策パッケージを発表しました。このパッケージは地方政府の債務再編を促し、経済の不動産セクターへの依存からの脱却を支援するよう設計されています。景気刺激策の規模は、一部ウォッチャーにとっては期待外れでした。しかし、この動きは間違いなく正しい方向への一歩であり、米国新政権の方向性が明確になるにつれて、中央政府はさらなる措置を実施すると予想されます。中国の直近のデータはマクロ経済環境の安定化を示しており、金融セクターには回復の兆しさえ見られます。
投資家は依然として中国にかなり懐疑的ですが、直近のイニシアチブは、規制当局が緩和的な財政・金融政策を積極的に実施しており、資産価格を押し上げようとしていることを明らかにしています。これはわずか数カ月前とは全く違うスタンスです。
インドの状況は大きく異なっています。中国の場合、人口動態が重石となりつつありますが、インド経済は人口ボーナスの恩恵(若年層が多く、人材のスキルがますます向上している)を享受し始めています。現在、インドには複数の強みがあり、それが今後数年間でセクターを問わず生産性を高めるでしょう。
政府の財政支出、関税、防衛にかかわる政策が市場を形成
米国の選挙結果に対する株式市場の反応は前向きですが、課題も残っています。最大の懸念は米国の政府債務の持続可能性です。議会に設置されている議会予算局(CBO)は、米国の債務対GDP比率が2029年に第二次世界大戦後のピークである105%を超え、107%に達すると予想しています。これほどの水準の公的債務を無視することはできず、投資家はインフレと金利への潜在的影響を注視する必要があるでしょう。
しかし、選挙後にニュースになっているのは、関税の大幅引き上げなどの貿易障壁に関する見通しです。すべての輸入品に10%または20%の一律関税、中国からの輸入品に60%の関税を課すというトランプ氏の公約がどこまで実現するかは不透明です。しかし、こうした措置は米国のインフレ要因となり、欧州と中国の成長に影響を与える可能性があります。
弊社は世界の支配的なメガトレンドが2025年以降も続くと予想しています。今や、エネルギー転換とサステナビリティに関する要素は多くの市場参加者のアプローチに組み込まれています。現在の気候変動への適応と影響の緩和に向けた取り組みの勢いを考えると、たとえ米国の「グリーン」政策が巻き戻されたとしても、一部で懸念されているほどの悪影響は及ぼさないと見込まれます。
また、懲罰的な関税が設定される可能性を考慮すると、世界的なサプライチェーンの再編や、新たなテクノロジーと地政学的問題が企業の生産のオンショアリングやリショアリングをどのように促進するかも重要なテーマです。米国政府の「アメリカ・ファースト」への回帰は、既存の世界秩序における現在進行中の変化を加速させる可能性があります(特に、太平洋の両側で競い合う「テクノロジー・ヘミスフィア」の出現と、あらゆるセクターで最先端テクノロジーの急速な導入を促進するデジタル・ダーウィニズムの面で)。
しかし、仮に世界の政治情勢に予想外のショックが起きなかったとしても、主要国間の緊張関係の高まりは、防衛支出の増加につながる公算が大きいでしょう。ウクライナ戦争は、21世紀の戦争が根本的に変化したことを明らかにしています。新たなタイプの軍拡競争が勃発した場合、各国は後れを取りたくないと考えるでしょう。防衛支出の増加は一部のセクターと企業にとって追い風となりますが、世界的な債務水準がさらに上昇するリスクがあります。
株式ポートフォリオの構築に関する再考
弊社の現在のポートフォリオ構築に関する見方は、2025年まで高水準のボラティリティが続くという予想を反映しています。現在、多くの投資家が「バーベル型」のアプローチを選好しています。これはポートフォリオにおいて、一方では低リスク資産、もう一方では高リスク資産のウェイトを高めるというアプローチです。弊社は、バーベルを崩し、ピラミッド型の株式ポートフォリオの構築を再検討することを推奨しています。ピラミッドの最下層、すなわちポートフォリオの最大のセグメントでは、ボラティリティを吸収するためのマルチファクター・アプローチを採用すべきです。これをベースとして、第2層ではグロース、バリュー、配当の各スタイルで真にクオリティの高い銘柄を探す必要があります。最後に、ピラミッドの最上層では、確信度の高い投資アイデア(たとえば、人工知能やエネルギー転換といったメガトレンドの追跡など)を反映した銘柄や、地域銘柄(中国やインドへの投資など)を選別します。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
米国で新たな政策が導入され、それが為替市場に波及効果をもたらすことによって、金利サイクルの同期性が世界的に低下する可能性があります。これはストック・ピッカーにとって有利な市場を生み出し、為替変動、グローバルなサプライチェーンの再編、新たな関税がビジネスモデルに与える影響の相互作用を理解することが今まで以上に必要不可欠になるでしょう。
経済成長の乖離を踏まえたアクティブな運用
"利下げを予防的に前倒しするという変化は、FRBが過去の景気サイクルから教訓を得たことを示唆しています。かつては、政策上の制約が存在する期間が長過ぎたため、景気後退リスクが必要以上に高まる傾向がありました。"
マイケル・クラウツバーガー 債券、グローバルCIO
2024年は前年に続き国債投資家にとってジェットコースターのような年となっています。世界の成長は乖離しており、米国経済がその他の地域に対して相対的にアウトパフォームしていることが引き続き世界の債券・為替市場を動かす主要因となっています。短期的には、こうした見方は、トランプ氏が米国の次期大統領に当選したことで強まっています。これは今後の米国の財政・貿易政策の予想を踏まえたものです。それでも、インフレ見通しは世界的に改善しており、コア・インフレ率は主要国中央銀行の目標値に徐々に回帰しています。これは、G10諸国全体で利下げサイクルが進展するという期待を強めており、今年を通して国債市場を下支えしてきました。
教訓を学ぶ
米連邦準備制度理事会(FRB)は、2024年の「利下げ競争」に加わるのは遅かったものの、そのアプローチが大きく変化していることを示しました。その変化とは、物価の安定と並ぶもう一つの使命を構成する最大雇用を改めて重視するというものでした。利下げを予防的に前倒しするという変化は、FRBが過去の景気サイクルから教訓を得たことを示唆しています。かつては、政策上の制約が存在する期間が長過ぎたため、景気後退リスクが必要以上に高まる傾向がありました。FRBの行動は、少なくとも現時点では、2025年中に米国がソフトランディングする可能性を高めています。たとえ、歴史的に見てソフトランディングが稀であったとしてもです。
世界の他の地域では、マクロ経済環境は一段と厳しいものになっています。中国経済は、国内需要が持続的に回復するという期待を裏切ることとなりました。主な要因は不動産セクターにおける数年来の債務削減です。中国経済は、過去20年間の日本と同様、デフレ・スパイラルに直面しているのではないかとの懸念が高まっています。ユーロ圏では、経済成長率は最高でもわずかなプラスで、最大の経済圏であるドイツは2年連続の景気後退のリスクにさらされています。当然ながら、欧州の中央銀行もアプローチを変化させています。現在、市場は2025年上半期まで欧州中央銀行の政策決定会合のたびに利下げが行われることを織り込んでいます。中国の政府当局もデフレ・スパイラルの恐ろしさを認識しています。当局は一連の金融、財政、市場刺激策を発表しており、2025年の中国の成長見通しがわずかに明るくなるのではないかとの期待が生まれています。2025年を見据えると、金融・財政政策のスタンスは世界各国、特にユーロ圏以外の成長見通しの支えとなっています。ただし、弊社は経済の軌道は国によって異なると予想しています。債務を取り巻くファンダメンタルズ、金融政策の波及、財政支援の程度によって、軌道がどのように変わるかが決まります。トランプ氏が米大統領として2期目を務めること、およびそれが今後の米国の貿易政策に与える影響は、世界の前向きな成長見通しにとって最大の課題となるでしょう。トランプ氏の政策によって、前年に続いて債券市場と為替市場のボラティリティが高まる可能性があります。
また、マクロ経済と地政学的環境によって、2025年にリスク資産市場のボラティリティが高まる可能性も確実に上昇しています。
機敏性、そしてアクティブ運用が求められる
弊社は、こうしたリスクを踏まえ、債券が資産クラスとして魅力的であると考えています。ただし、2025年の課題を乗り切るには、デュレーション、イールドカーブ、為替、スプレッド、インフレ連動商品を網羅した機敏な投資アプローチが必要となるでしょう。対象商品の厳選がカギであり、したがって弊社はアクティブ運用が必要不可欠と考えます。
弊社は、世界的なマクロ経済環境や政策環境が、米国とユーロ圏におけるイールドカーブのスティープ化に対する弊社の確信を裏付けているとみています。弊社はイールドカーブのスティープ化を見越して短期債に強気なポジションを取り、長期債へのエクスポージャーを削減しています。これは金融政策の緩和と財政赤字の拡大で、投資家が長期債の保有で十分なリターンを得られないという見方を裏付けているためです。弊社はアウトライトのデュレーション・リスクを避け、このポジションを選好しています。弊社はイールドカーブのスティープ化を見越したポジションとのバランスを取るために、日本のイールドカーブのフラット化を見越したポジションも選好しています。20年以上ぶりに日本経済にインフレの兆しが見られる中、日本銀行は利上げとバランスシートの縮小を通じて金融政策の正常化を図る途上にあります。
債券市場のボラティリティは2025年も高止まりする可能性が十分にあるため、弊社は市場環境の変化を踏まえ、ポートフォリオの金利感応度を調整することで、デュレーションを戦術的に取引するのも良いアイデアだと考えています。米国で利回りが急上昇し、市場が(可能性は低いものの)ハードランディングの可能性を織り込まないなど、過度に楽観的な兆候を見せるようであれば、弊社はリスクを積み増すことになるでしょう。国の選択もカギとなります。デュレーションに関するリスク・リワードのダイナミクスが好ましい国としては英国とオーストラリアが挙げられます。弊社は現在、市場がこれらの国の利下げサイクルを完全に織り込んでおり、魅力
的な実質利回りが提供されていると考えています。
リフレーション・リスク
現在の環境では、ポートフォリオをインフレから守るためのポジションをある程度構築することも理にかなっています。物価上昇を引き起こす可能性がある要因は複数存在します。たとえば、現在織り込まれている緩和的な政策の程度、貿易戦争、地政学的な不透明感による原油およびエネルギー価格の急上昇リスク、そしてサプライチェーンの短縮や気候変動の政策的影響といった構造的問題です。弊社は、こうしたリスクが全体としてブレークイーブン・インフレ率に十分に織り込まれていないと考えています。
為替市場では、米国のその他地域に対する相対的なアウトパフォーマンスは、2025年を通してやや縮小する余地があります。これは米ドルにとって不利になると予想されます。ただし、このプロセスはスムーズに進まず、米国の貿易政策に左右される可能性があると考えます。トランプ氏の勝利は、まずは米ドルにとって追い風となっていますが、それが長続きするかどうかは依然として不透明です。
スプレッド資産については、新興国デットが地政学的リスクの高まり、市場のボラティリティ、挙、FRBの利下げ予想の変化にもかかわらず、底堅い推移を示しています。2025年に向けた新興国市場のファンダメンタルズは堅調で、投資資金の流れは新興国債券に戻りつつあるようです。現在の環境では、弊社は現地通貨建て債券と一部のハードカレンシー建てハイイールド・クレジットに豊富な投資機会があるとみており、米ドルの方向性を予想することは目指していません。新興国通貨については、弊社はレラティブ・バリューのアプローチを選好し、通貨間の一時的な価格差から利益を得ることを追求しています。
社債に関しては、ハイイールド債のスプレッドはかなりタイト、投資適格債はややタイトとなっています。金利の低下に伴い、スプレッドがタイトでも、多くの投資家はマネー・マーケット・ファンドからクレジットへと資産の一部を再配分すると弊社は考えています。クレジットの利回りは引き続き魅力的で、堅調なテクニカル条件の支えとなっています。ハイイールド債については、現時点ではスプレッド・デュレーションを延長しても十分な利回りプレミアムが得られないため、短期クレジットを選好する根拠が強まっているとみられます。主に高格付け企業が発行する変動利付債も、引き続き魅力的な利回りスプレッドを提供しています。また、これらの資産は、予想が想定していなかった方向に変化し、インフレ率と金利が長期にわたって高止まりした場合でも、ヘッジとしての役割を果たします。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
弊社は2025年の米ドルの動向を注意深く観察します。米国経済のその他地域に対する相対的なアウトパフォーマンスは、2025年も米ドルを押し上げ続けるでしょうか。それとも、米ドルはすでに買われすぎであり、市場は米国以外の経済成長について悲観的過ぎるのでしょうか。
ダイナミックなアプローチが必要
“十分に分散されたポートフォリオから出発することが重要であり、ボラティリティの積極的な管理はポートフォリオをダイナミックに保護するためのカギとなります。弊社は、株式市場の一部で集中度が懸念すべき水準に上昇しており、市場環境が混乱する可能性が高いことから、ボトムアップの銘柄選択とアクティブな運用に重点を置く必要があると考えています。“
グレガー・MA・ハート マルチアセット、グローバルCIO
2025年は、リスク資産、特に株式が引き続き好調さを維持し、アクティブ投資家全体にとって好ましい年明けとなると予想されます。歴史的にみて、年初数ヵ月間は、市場は好調を維持します。直近の経済指標、特に米国のデータは引き続き堅調で、企業の売り上げと利益を押し上げています。弊社は米連邦準備制度理事会(FRB)が(少なくとも当面は)利下げを継続し、市場の流動性を高めると予想しています。
トランプ氏は法人税率の引き下げと規制緩和を公約しています。これは2016年以降と同様、市場にさらなる堅調さをもたらすとともに、企業の利益率を押し上げるでしょう。こうした施策によって、株式市場が平静に推移した場合、投資家は株式のポジションを積み増す可能性があります。
弊社は、こうした環境が米国株、とりわけ以下のセクターにとって特に好ましいとみています。
- 小型株はすでに魅力的なバリュエーションを提供しているとみられます。弊社は小型株が財政支援と経済成長によってさらなる恩恵を受けると予想しています。
- テクノロジー・セクター全体は、割高なバリュエーションにもかかわらず、エネルギー価格の低下と、トランプ政権下で独占禁止法違反に対する規制が弱まる見込みであることに支えられて、好調なパフォーマンスを維持するでしょう。
- 米国の銀行は急速な規制緩和の見通しによって恩恵を受けるでしょう。
米国株が欧州株をアウトパフォームすると弊社が予想する理由の1つは、米国経済が欧州より堅調に成長していることにあります。しかし、株式市場と現在の国内経済を混同すべきではありません。たとえば、ユーロ・ストックス50指数を構成する多くの企業は売上高の大部分を米国で得ており、米国経済の底堅さの恩恵を享受する立場にあります。
しかし、欧州市場には十分な投資がなされておらず、バリュエーションは魅力的ではあるものの、テクノロジーや人工知能の大国である米国と中国に後れを取っています。労働法などの構造的な欠点も欧州企業にとって逆風となっています。一方、中国の状況は依然として不透明です。中国経済は構造的な問題によって停滞しているものの、政策の後押しによって恩恵を受ける可能性があります。
デカップリング(非連動)が大きなトレンドに
ハイイールド債は、総じて底堅い経済状況によって恩恵を受ける可能性が高いでしょう。しかし、弊社のマルチアセット・ポートフォリオでは、特に個人投資家が前向きな景気サイクルの末期に流動性の高い資産を好む傾向にあることを踏まえ、米国ハイイールド債よりも株式を選好します。
弊社は、株式に関する見通しとは逆に、欧州債券は米国債券とは連動しない可能性があると考えています。インフレは低下傾向にありますが、欧州連合はより困難な環境に直面しています。特にドイツでは総選挙が迫っており、フランスでは政府が不安定化する可能性があります。
2025年に注目すべきファクターの1つは、米新政権の財政政策とそれが市場にもたらす影響によってリフレーションが発生した場合に、FRBがどのように対応するか、という点です。米ドルは過大評価されていますが、通常の環境であれば、FRBが利下げを実施し、リスク資産がディフェンシブ資産をアウトパフォームするに伴い、米ドル安に向かうはずです。しかし、トランプ氏の財政支出計画によって景気が過熱した場合、FRBは利上げを強いられる可能性があります。このシナリオはリスク資産に悪影響を与えるでしょう。割高なバリュエーションと2020年3月以降の大幅な上昇を踏まえると、株式市場は2025年に状況を再評価するために立ち止まるかもしれません。
このシナリオでは、新興国市場の現地通貨建て債券が悪影響を受ける可能性があり、市場との相関が低い柔軟なアセット・アロケーションの魅力が高まります。
債券市場はすでに景気が過熱するリスクをある程度織り込んでいます。これは2024年9月から第4四半期にかけて米国のイールドカーブがフラット化していることから明らかです。しかし、インフレが再燃し、FRBの対処に遅れが生じているとの印象が再び強まった場合、いわゆる債券自警団(債券の売却を通じて、好ましくない政策に反対)からの圧力が高まる可能性があります。長期米国債の需要の変化を観察することが、今後の市場リスクを評価するカギとなるでしょう。
長期的には、トランプ氏が過激な地政学的政策を押し進めた場合、脱ドル化が勢いを増す可能性があります。このようなシナリオでは、他の経済圏が独自の通貨ブロックの構築を目指すと考えられます。
地政学的要因がコモディティに影響
コモディティは通常、多額の財政支出が実施され、利下げが行われる環境で好調なパフォーマンスを上げる傾向にあります。しかし、今回は違うかもしれません。トランプ氏は原油とガスの採掘を拡大することを望んでおり、供給が増加する可能性があります。また、ロシアとウクライナの戦争が終わり、原油・ガス価格にさらなる圧力を与える可能性も考えられます。原油価格は、直近の1バレル当たり70~90米ドルから約50~70米ドルに下落することもあり得ます。テールリスクに関しては、イスラエルとイランの緊張関係の高まりが原油価格の短期的な急騰を招く可能性があります。
銅は中国の短期的な景気回復の恩恵を受けるかもしれません。金は米ドルや実質利回りから乖離していることによって引き続き選好されており、緊迫した地政学的環境で新興国市場の買い手に支えられています。
2025年はアセット・アロケーションに対する機敏なアプローチが必要不可欠となるでしょう。十分に分散されたポートフォリオから出発することが重要であり、ボラティリティの積極的な管理はポートフォリオをダイナミックに保護するためのカギとなります。弊社は、株式市場の一部で集中度が懸念すべき水準に上昇しており、市場環境が混乱する可能性が高いことから、ボトムアップの銘柄選択とアクティブな運用に重点を置く必要があると考えています。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
2025年初頭は米国の関税引き上げと報復の可能性が主要なリスクとなりますが、市場の注目は、米国の財政政策と移民制限の影響評価へと急速に移行するでしょう。どちらも債券の利回りとインフレ率に影響を与え、ある時点で株式市場が影響を吸収することが困難になる可能性があります。
魅力的な投資機会
"いわゆるプライベート・マーケットの民主化により、より多くのプライベート・キャピタルが移行のために利用可能になるとともに、個人投資家もこの資産クラスの成長ポテンシャルに関与できるようになります。"
デボラ・ズルコウ グローバル投資責任者
2024年の取引と資金調達は前年の減速を経て増加に転じました。2025年に向けて、弊社は案件組成の増加によるモメンタムの高まりを予想しています。過去2年間のプライベート・デットへのシフトは今後も続くとみられますが、エクイティについてもバリュエーションが再評価されています。価格が正常化する中、市場での取引は増えています。バリュエーションは、インフレ、利上げ、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機といった悪材料が生じる前の水準には依然として達していません。
地政学的危機もプライベート・マーケットとバリュエーションに影響を及ぼしています。しかし、この資産クラスは、変動金利とインフレ連動という特性によって、不透明感が高い時期を乗り切れることを証明しています。さらに、地政学的危機は短命に終わる傾向があるのに対して、プライベート・マーケットの投資家の投資期間は往々にして長く、数十年に及ぶ場合もあります。
2025年は、プライベート・マーケットでの資金調達が増えると弊社は考えています。投資家は、ボラティリティの高い環境で実現された足下のパフォーマンスに満足しています。金利が再び低下する中、市場環境はリバランスされつつあり、魅力的な条件の新たな投資機会につながると見込まれます。特にプライベート・デットでは、投資家は大規模かつ拡大途上にあるユニバースから投資先を選択することができ、インパクト、セカンダリー、インフラ・デット、テーマ別プライベート・クレジット、そして機関投資家が存在感を増している貿易金融に新たな投資機会が存在します。
投資は緊急を要する
欧州中央銀行元総裁、マリオ・ドラギ氏は、最近発表した報告書の中で、欧州連合が競争力を維持するにはデジタル・トランスフォーメーション、グリーン・トランジション、防衛などの分野に年間7,500億~8,000億ユーロの投資を行う必要があると推定しています1。
投資は緊急を要していますが、財政赤字も拡大しています。プライベート・キャピタルなくしては、こうした投資を実現することはできないでしょう。これは投資家にとって魅力的な投資機会であり、またプロジェクトの再評価による魅力的なリスク・リターン特性を期待できます。道路と公共交通の近代化、デジタル・インフラとデータセンターの建設、社会インフラと公益施設の建設といった多くの巨大プロジェクトが資金調達を必要としています。これらのプロジェクトには、確固たる実績と、長期プロジェクトの経験を有するパートナーが必要です。
インフラは国家の経済と社会の発展を推進します。2024年の激しい選挙サイクルの中で、一部のプロジェクトは遅延していますが、こうしたインフラが担っている基本的サービスの重要性に鑑み、新政権が成立すれば未完のプロジェクトへの取り組みが進むでしょう。ポピュリズムが台頭し、政治的な不安定性をもたらしている状況では、生活に不可欠なサービスの提供は特に重要です。
「インパクト」が重要性を増す
新たなプロジェクトは引き続き環境、社会、ガバナンスの側面を考慮したものとなるでしょう。プライベート・キャピタルが社会にとってプラスの影響を生み出し、投資家にリターンをもたらす一方で、脱炭素化とデジタル化を支える必要があることを反映して、インパクト・プライベート・クレジットが重要性を増しています。弊社はこのトレンドが継続し、アジアやその他の地域の機関投資家から広く関心を集めると予想しています。これらの機関投資家は、エネルギー転換の推進に寄与する戦略への関心を深めています。
弊社が継続すると考えているもう1つのトレンドはセカンダリーの成長です。セカンダリーは、プライベート・エクイティでは商品として確固たる地位を築いていますが、プライベート・デットおよびインフラ・エクイティのセカンダリー市場は依然として確立の途上にあります。セカンダリーは資本の投入を加速させるだけでなく、ポートフォリオの分散にも貢献します。プライベート・デットとインフラのプライマリー市場の規模に加え、流動性の制約を考慮すると、2025年のセカンダリー取引は大幅に増加すると予想されます。これらの取引を利用できるのは、プライマリー投資家としての優れたネットワーク、取引を執行するための社内ノウハウ、重要な案件を大幅なディスカウントでクローズするための交渉力を持つ投資家でしょう。
最後に重要なこととして、欧州長期投資ファンド(ELTIF)2.0規制の導入に伴い、現在のプライベート・マーケットは個人投資家にとってよりアクセスしやすくなっています。いわゆるプライベート・マーケットの民主化により、より多くのプライベート・キャピタルが移行のために利用可能になるとともに、個人投資家もこの資産クラスの成長ポテンシャルに関与できるようになります。アナリスト・プラットフォームのScope GroupはELTIFの資産額が2026年末までに300億~350億ユーロに増加すると予想しており、来年は少なくとも20本の新たなELTIFが市場に加わる見込みです2。とはいえ、投資家はプライベート・マーケット投資の特徴(投資期間の長さなど)とそれに伴うリスクに留意する必要があります。投資家は、知識を得た上での判断を下すため、助言を求めるべきでしょう。
同じ志を持ったパートナー
プライベート・マーケット投資は多くの機関投資家のポートフォリオにおける重要な柱です。弊社はプライベート・デットとインフラが引き続き魅力的な投資機会を提供すると考えています。規制の改正によって、現在、プライベート・マーケットはより多くの顧客が投資可能になっており、それに伴い、新たな投資家層が情報に基づいた判断を下せるようにするための責任も大きくなっています。顧客が拡大し、資金を必要とするプロジェクトが増え、プライベート・マーケットでのプレーヤーが減少する中で、多くの新規プロジェクトが発生し、多くの企業が資金を必要とすると予想されます。その傍らには、長年のノウハウと経験に裏付けられた実績と、同じ志を持つパートナーが立っているでしょう。
図表3:北米と欧州が主要市場争奪戦
地域別インフラ運用資産残高(AUM)*
出所:Preqin
* AUMの数値は人民元建てのファンドを除く。
年末現在の金額。二重計上を避けるため、合計金額からセカンダリーとファンド・オブ・ファンズを除外している。
2025年に投資家が注意すべきことは何か?
未来への投資はインフラへの投資を意味します。既存インフラの更新に加え、デジタル化からエネルギー転換まで、進歩と成長を加速させるには巨額の投資が必要です。弊社は2025年に数多くの投資機会が、特にインフラ・デットの分野で生まれると予想しています。
1 EUの競争力: 未来を見据える – 欧州委員会、2024年9月。
2 新時代:2023/2024年ELTIF市場概要、Scope Fund Analysis、2024年5月15日公開