市場展望インサイト

ゴーン・サーフィン—流動性の波に乗る

ここ半年間、多くの「市場のサーファー」は控えめに波に乗っている状態だったと言えます。天候の変化を恐れ浅瀬にとどまった者は、大きな波に乗るチャンスを逃しました。プロサーファーのベサニー・ハミルトンは、次のように記しています。「人生はサーフィンのようなもの。インパクトゾーンに巻き込まれても、立ち上がらなければならない。なぜなら、次にどんな波がくるかはわからないから」。これは、投資や金融市場にも当てはまります。幾つかの素晴らしい波が既に去ってしまったことは事実です。それでも、おそらくこれから押し寄せようとしている波もあります。それは、非常に大きく美しい流動性という波です。

米連邦準備理事会(FRB)の「ミスター・トゥー・レイト(遅過ぎる男)」ことジェローム・パウエル議長の利下げペースにトランプ大統領が不満を抱いていることは、周知のとおりです。トランプ氏は、自分の望みを実現するためならどんな手段も厭わない姿勢を明確にしています。予定されるFRB本部の改修費用に対する同氏の批判は、その顕著な例です。トランプ氏からの中傷を脇目にジャクソンホールで行われたパウエル議長のスピーチは、米金融政策に転機が訪れていることを示しました。雇用が下振れするリスクが一段と高まる一方、インフレ見通しは依然として不透明です。トランプ氏は、忠実なEJ・アントニ氏を労働統計局長(BLS)に指名したことで、自身に有利な雇用データが公表されることを期待している可能性があります。

利下げはほぼ確実とみられますが、どの程度の利下げになるかは結果を待たなければなりません。市場は20261月末までに2回の利下げを織り込んでいますが、これを上回る可能性もあります。2025年も残り3カ月となりましたが、年内に借り換え予定の短期、中期、長期の米国債は約64,000億ドルに上ります。つまり現時点で、FRB1回の利下げは、米財務省にとり約150億ドルの経費削減に直結するかもしれないのです。

このことは弊社の見解に何を示唆しているのでしょうか。ごく短期的には、危機に備えよということかもしれません。FRBの利下げを懸念する日銀が利上げに踏み切る可能性もあるでしょう。ただし、長期的にみれば、その必要はありません。弊社は、年内にS&P 500がさらに5%以上上昇するとのかねてからの見解を維持しています。市場コンセンサスも弊社予想に徐々に近づき始めています。さらに弊社は、強気相場が持続し、15%超上昇する可能性もあるとみています。未来は誰にも予言できませんが、意見を持つことはできます。弊社のファンダメンタル評価では、株式市場のリスクはまだ上昇の余地があります。

マルチアセットに対する考察:ハイライト

戦略的戦術の展望—株式リスクはなお上昇傾向にあります。過去6カ月の力強い上昇局面では、買いの好機となる一時的な下落の余地がありませんでした。リスク資産への配分を大きくする(70%超)ことを目指しつつ、戦術的なリスク低減に備える必要があります。デュレーションの動きは不透明なままですが、短期的には低下傾向、中期的には上昇傾向にあります。約言すれば、全般にイールドカーブのスティープ化が予想されます。為替動向に関しては、米ドルは下落のリスクがあり、これが引き続き金の追い風になるかもしれません。

米小型株—米国株の中で最も人気がないセグメントの1つで、バランスシートの行き過ぎた拡張や、賃金インフレの重大リスクなどが原因で完全に取り残された状態です。今夏には、ヘッジファンドを中心に多くの投資家の間でラッセル2000が空売り対象として選択されました。米経済が金利低下、財政刺激策、規制緩和にさらされる中で、このセグメントの利益が回復する可能性があります。

新興国市場債券—この資産クラスはここ数年、投資家からほとんど注目されていませんでしたが、米ドル安によって潮目が変わりました。投資に当たっては、好ましい人口動態と経済の力強さという概念が引き続き主な論点となります。ただ、欧米各国は多くの新興国ほど財政を抑制できておらず、このことで流れが大きく変わったと弊社はみています。キャリーは依然として魅力的で、新興国通貨は米ドルに対して割安の水準にあります。

見解はさまざま

トランプ氏の「解放の日」関税がインフレにもたらす影響について、「教科書的経済学」に基づくFRBの見方では、関税が消費税のように作用してインフレ率を上昇させ、米国の経済成長を阻害するというものが優勢でした。これまで米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを先送りにしてきた理由も、主にこの見解によるものでした。一方、トランプ政権は、中国を中心とする多くの貿易相手国が、利益の最大化よりも雇用維持などほかの要因を優先させていると主張しています。欧米企業はパンデミック後、かつてないほど価格決定力を強め、その利益率を大きく上昇させました。政権側は、関税コストの吸収は平均回帰をもたらすに過ぎず、企業がこれを敢えて受け入れるとみています。今後のインフレ動向に対する結論はまだ出ていません。弊社はインフレがさらに上昇すると予想していますが、その理由は関税ではありません。自明のことを敢えて指摘すると、トランプ大統領が望むのは150bpの利下げです。FRBとそのメンバーに対する批判や、今後の米国の貿易枠組み制定に関与しているスティーブン・マイラン氏のFRB理事就任はいずれも、FRBがトランプ大統領の見解に足並みを揃える方向に作用しています。FRBの政策リスクに注意が必要です。

純然たる錯覚

米雇用統計が8月に大きく下方修正されて以来、労働市場が米経済の一番の弱点になったかにみえます。FRBの直近の利下げも雇用市場の悪化を受けてのことでした。8月の統計公表から間もなく、下方修正を遅延させたとの理由でトランプ氏がエリカ・マッケンターファー労働統計局長を解任したのも、何ら驚きではありませんでした。弊社はこの解任劇について、統計データをさらに政治問題化するための単なる口実に過ぎないとみています。ここで、冗談を込めてちょっとした比較をしてみましょう。

「デービッド・カッパーフィールドのマジックで最も有名なのが、自由の女神像を消すイリュージョンでしょう。このトリックでは、自由の女神を見えなくするために幕が引かれ、次に舞台が動きます。背景幕が落とされると、錯覚によって自由の女神像が姿を消します」(出所:Google AIモード検索

この文の「デービッド・カッパーフィールド」を「ドナルド・トランプ」に、また「自由の女神像」を「米インフレ」または「米景気後退」のいずれかに置き換えてみてください。

皮肉がややきつ過ぎることは承知しています。とはいえ、経済指標をめぐるさまざまな騒動を考えると、インフレ(および経済成長)が既に転換点を迎えている中での目下のリスクは、FRBが利下げで八方塞がりになってしまうことです。米国のコアインフレおよびスーパーコアインフレをみてみると、コアインフレがなお下落しているのに対し、スーパーコアインフレは底入れしています(下図参照)。3つ目のラインは帰属家賃*を表し、コアCPIの重要な構成要素です。帰属家賃は推定値であり、遅行性の指標です。

住宅の「住まい」としての価値に対して、住宅所有者がどれだけ支払うか。

米国のコアインフレ、スーパーコアインフレと帰属家賃

出所:Bloomberg Finance L.P、2025年9月21日時点。

過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。

認識のズレ

BofAの直近のファンドマネージャー調査に基づけば、投資界がFRBの「教科書的」シナリオを採用していることは明白です。投資家の77%が「スタグフレーション(トレンドを上回るインフレとトレンドを下回る経済成長)」を予想しており、「好景気(トレンドを上回る経済成長とトレンドを上回るインフレ)」を予想する投資家はわずか9%にとどまっています。この数値が実際に逆であっても不思議ではなく、驚きといえます。現時点の米国は、1) 貿易戦争は終了したのも同然、2) 利下げが実施される見込み、3) 「大きくて美しい」減税法案は企業の設備投資を大幅に増加させる見通し、4) 規制緩和の波が訪れようとしている、という状況です。これに加え、米国以外の地域では数々の財政刺激策が講じられています。利下げを祝福しましょう!

BofAファンドマネージャー調査に示された向こう1年間のグローバル経済に対する投資家の見解

出所:BofA Fund Manager Survey、2025年9月時点。

過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。

Top Insights

市場展望インサイト

日本銀行(日銀)は10月の会合で政策金利を0.5%に据え置く一方、次の利上げに向けた地ならしを行う見通しです。利上げ時期はおそらく12月と考えられますが、1月にずれ込む可能性もあります。

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FOMCは10月28日・29日の会合で金利を25ベーシスポイント引き下げる見通しです。「保険的利下げサイクル」の軌道は維持され、政策金利は2026年半ばまでに、3.375%のより中立的な水準に向けて引き下げられる可能性があります。 

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インフレがついに目標水準に達し、経済が底堅さを見せる中、ECBは広く中立金利と見なされる2%水準での政策金利維持を容認する見通しです。

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