Interpreting China
中国の「新たな枠組み」の理解が投資家にとって重要な理由
中国の「新たな枠組み」を理解することは投資家にとってどれだけ重要でしょう。中国が打ち出した最近の3つの戦略が互いに補完し合っている状況は、世界における中国の役割がどのように変化しているかを理解する際に役立ちます。
要点
- 中国が打ち出した3つの戦略(一帯一路構想、中国標準2035、中国製造2025)が互いに補完し合っている状況は、世界における中国の役割がどのように変化しているかを理解する際に役立ちます。
- 中国標準2035は、中国が世界的な技術標準で主導権を握ることを目指すプロジェクトです。一方、産業政策である中国製造2025において、中国はハイテク分野と先進的な製造基盤の急速な拡大を目指しました。
- 一帯一路構想も、中国の「グローバルサウス(主に南半球に位置する新興国・途上国)」への影響力を高めています。この構想には151カ国が参加しており、世界の人口の75%、GDPの50%超をカバーしています。
- この新たな発展の局面や、3つの戦略の組み合わせがもたらす影響は非常に大きなものとなるでしょう。投資家にとって、その発展を注視し、地政学的レベルでどのような反応を引き起こしているのかを理解することが重要です。
国際標準策定機関でリーダーシップを発揮する取り組みは、「一帯一路」のような大規模な開発戦略と同様の大きな取り上げ方はされないかもしれません。しかし、「中国標準2035」プロジェクトは、地政学的な領域とともに、経済と技術の両分野における中国の野心を強く物語っています。確かに、特定の領域における国際標準およびそれに基づく規範や手順に影響を与えることは、国内のイノベーションと技術的リーダーシップを促進する上で強力な効果をもたらす可能性があります。中国は、「デジタルシルクロード」の枠組みの中で、たとえばアジアとヨーロッパを結ぶ陸上ケーブル網の構築など、大規模なインフラプロジェクトを開始しています。国際標準策定機関における中国のリーダーシップの高まりは、中国経済の現在の発展状況についてのみならず、これが技術エコシステム、貿易圏、地政学に関して中期的に広範な影響を与える可能性についても教えてくれます。
図表1:中国によるデジタル化の野心達成への道筋
主要な政策戦略の概要
出所:MERICS. MPOC_No.7_ChinasDigitalRise_web_final_2.pdf (merics.org)
中国経済の軌道に関して、西側諸国向けに安価な商品を大量生産する低コスト経済から、イノベーションと技術的リーダーシップに基づく経済への移行が、しばらく前から見られてきました。実際、2015年に初めて発表された「中国製造2025」戦略計画は、航空宇宙、バイオテクノロジー、IT、医薬品、ロボット工学などの分野にわたり、中国の製造能力を労働集約型から技術集約型の生産に移行することを明確な目的としています。しかし、現在明らかになりつつあるのは、中国がますます幅広い分野でアジェンダを設定し始める中、いかに中国の技術的リーダーシップの成長が広範な影響を及ぼし得るのかということです。
事実、単一国のインターネット基盤として世界最大であることの恩恵を急速に受けて、中国はAIなどの分野でキャッチアップしつつあります。これは、機械学習に不可欠な大量のデータ、力強いデジタルネイティブなカルチャー基盤、そして次のテクノロジー競争に勝つことへの非常に強いこだわりを意味します。量子コンピューティングに関しても、中国は非常に急速な進歩を遂げ、複雑な問題を解ける非常に強力なコンピュータを構築しています。この分野において、中国は公的助成金で米国とEUの双方をリードしています1。
図表2:中国によるAI研究の急速なキャッチアップ
1年間に発表されたAIに関する論文数(地域別、2003~2017年)、Elsevier調べ
出所:Shoham, Yoav et al. (2019). “Artificial Intelligence Index 2018 – Annual Report”. AI Index. http://cdn.aiindex.org/2018/AI Index 2018 AnnualReport.pdf. Accessed: March 13, 2019. MPOC_No.7_ChinasDigitalRise_web_final_2.pdf (merics.org)
図表3:中国とEUが量子コンピューティングへの公的助成金で大きくリード
発表された政府助成金の計画額2(単位:10億米ドル)
出所:Quantum computing use cases - what you need to know | McKinsey
注:端数処理の関係で合計値は必ずしも100%にはなりません。
もちろん、中国と米国は依然として世界の二大大国です。そして、特に中国がより強力なグローバルプレーヤーへと進化(中国・フェーズ3)する中、両国間の摩擦は構造的となり今後も続くでしょう。ご承知のとおり、昔からこのような摩擦の行方は多くの場合、貿易や産業競争をめぐる紛争の形をとります。しかし、今後数年間において私たちは、より深化し、そして単なる貿易や市場をめぐる競争を超えた現実を目にするかもしれません。中国がAIや6G通信などの分野で独自の技術インフラをさらに開発するにつれて、異なるインフラや標準を使用する米国や欧州経済からの分岐、あるいは分離が起こるでしょう。
このような分岐が発生した場合、またはその影響があまり顕著ではないとしても、それでも最終的には幅広い実務分野にわたる「テクノロジーの半球」を完成させることになる場合、多くの新興国は自国の将来の立ち位置を決める必要があるでしょう。また、中国が一帯一路構想を通じて、経済的および技術的支援などにより多くの新興国に関与していることを考慮すると、中国が将来的に「グローバルサウス」に属する世界各地の新興経済大国の多くを取り込むであろうことは容易に想像がつきます。
一方で、中国の技術的リーダーシップが高まることで、西側の企業や政府は中国企業との新たな付き合い方や協力方法を模索する必要が出てくるでしょう。たとえば、中国企業は、6G、EVS、コネクテッドモビリティなど、今後数年から数十年で重要となるさまざまな分野でリーダーとしての地位を確立し、重要な特許を取得しています。実際、モノのインターネット(IoT)やデジタルツインなどの分野における新たな標準の普及や、(立法者と消費者の双方にとって重要となる)炭素排出量のような指標の電子認証プロトコルの開発においては、メタプラットフォーム(プラットフォームのプラットフォーム)の形による相互運用性と移植性が重要になります。このため、企業やその他のステークホルダーは新たな協力の仕方を模索する必要が生じるでしょう。
このように、「中国標準2035」プロジェクトは、中国がさまざまな分野で技術リーダーおよびイノベーターとしてどのように台頭しつつあるのかを示唆してくれます。しかし、このことはまた、このリーダーシップの効果が、より広範な地政学的および経済的分野にどのように波及し、影響を与える可能性があるかについても示しています。実際、標準をめぐる競争と、競合し合うテクノロジー半球が出現する可能性は、デジタル・ダーウィニズムの登場を意味しています。つまり、そこでは競合する企業同士が新興技術を迅速に活用し、それぞれのセクターにおいて重要な、そしておそらくは支配的な優位性を獲得しようと努めるのです。はっきりしているのは、中国の発展が新しくエキサイティングな局面に移行する中で、中国の台頭するリーダーシップとアジェンダ設定能力は、拡大を続ける将来の重要分野において、あらゆる種類の投資家と市場参加者に大きな影響を与えるだろうということです。
図表4:一帯一路構想
1 Quantum computing use cases—what you need to know(McKinsey)
2 過去に発表された助成金の合計。助成金の拠出スケジュールは国により異なります。