米連邦準備制度理事会
労働市場の軟化が9月の利下げ観測を強める ── 今後の利下げペースには依然不透明感

米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月17日の会合で政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド金利の誘導目標レンジを4.00~4.25%にする見通しです。
要点
• 米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月17日の会合で政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド金利の誘導目標レンジを4.00~4.25%にする見通しです。
• 短期金利市場では、年内残り3回のFOMC会合すべてで利下げが実施されるとの見方が強まっており、これは初夏の時点でほぼ1回分しか織り込まれていなかった状況から大きな変化です。
• 米国の雇用市場の減速は、こうした利下げ観測の高まりを裏付ける材料となっています。今後、利下げ期待を覆す可能性があるとすれば、インフレ指標が予想を上回る形で継続的に上昇する場合に限られると思われます。
• 米国債市場では、景気循環的な要因と構造的な要因が重なる中、イールドカーブのスティープ化が最も確信度の高い見通しとなっています。ただし、夏の間にこのポジションの一部利益確定を行いました。 為替市場では、米ドルが景気減速や構造的な逆風に直面していると考えており、複数通貨に対して米ドルを売るというスタンスを引き続き支持しています。
米連邦準備制度理事会(9月16日-9月17日)の見通し
パウエルFRB議長は、ジャクソンホールで開催された中央銀行関係者の会合において、金融政策の方向性がハト派寄りに傾いていることを示唆しました。その後発表された米国の雇用統計¹(年次ベンチマーク改定を含む)も、FRBが景気の下振れリスクにより敏感に反応する姿勢へと変化しているとの見方を強める結果となりました。FRBが最近公表したベージュブック²でも、米国経済はここ数ヵ月ほぼ停滞しているとされており、多くの地区連銀が「経済活動にほとんど変化がない」と報告しています。夏場の労働市場も同様に低調でした。FRBは6月の経済見通しで、2025年と2026年の成長率を下方修正し、失業率とインフレ率の予測を引き上げましたが、次回の経済見通しでは、さらに景気の下振れリスクを織り込む可能性があり、それが2025年・2026年の政策金利見通しの引き下げにつながる可能性もあります。
米国の関税政策の影響は、インフレ指標にじわじわと現れ続けており、FRBが重視するコアPCE³インフレ率は前年比2.9%⁴と、目標を大きく上回っています。一方で、実質GDP成長率は2024年と比べて半減しており、今後数ヵ月間で消費者の実質所得はさらに圧迫される見通しです。こうしたマクロ環境は、FRBが今月から利下げサイクルを再開する余地を広げるものですが、インフレ率が依然として目標を上回っていることを踏まえると、9月の利下げ幅は0.50%より小さい0.25%にとどまる可能性が高いと見ています。9月以降の利下げペースについては、労働市場のさらなる悪化の程度が鍵を握ると考えられます。ただし、インフレが予想以上に上振れするような展開になれば、見通しは複雑化する可能性があります。
今後のFRBの政策見通しにおいて、大きな不確定要素となり得るのが、トランプ政権からFRBに対する制度的な圧力の高まりです。トランプ前大統領は、FRB理事会の構成を変更しようとする動きを強めており、2026年5月に任期満了を迎えるパウエル議長の後任として、「成長重視」の候補者を据えようとする動きが取り沙汰されています。こうした政治的な動きが強まる中で、今後数ヵ月のうちに、短期金利市場ではFRBの最終的な政策金利が、現在の長期的中央値である3%を大きく下回る水準まで織り込まれる可能性もあります。 米国債の利回り曲線や米ドルに対する基本的な見通しは、ここ数ヵ月間ほぼ変わっていません。米国の経済や政策の流れは、引き続き米国のイールドカーブのスティープ化を引き続き支えていると見ていますが、最近ではその関連ポジションを一部調整しました。インフレの上振れリスクが依然として残る中、FRBの独立性に対する懸念も高まっていることから、インフレ連動債(TIPS)⁵への投資も有効と見ています。為替市場では、米国経済が景気循環的・構造的な課題に直面していることを背景に、米ドルに対して弱気の見方を維持しています。
¹ 米労働統計局(Bureau of Labor Statistics)、2025年9月5日
² 米連邦準備制度理事会、2025年9月4日
³ 個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)
⁴ ブルームバーグのデータ、2025年9月10日時点
⁵ 米国財務省インフレ連動債(TIPS: Treasury Inflation-Protected Securities)