2025年のユーロ圏:基調的な改善続く
水が半分入ったグラスを見て「半分も入っている」と考えるか「半分しか入っていない」と考えるかというたとえ話は、客観的には中立的な状況でも見る側のバイアスによって認識が左右されることを示すのによく使われます。バイアスを排除してクリスマスシーズンを前に2025年を振り返ってみると、欧州は不満よりも安堵できる材料が多いように思われます。特に年末の休暇期間が近付く中、「欧州のグラスはいい具合に満たされつつある」と言ってよいでしょう。
2025年は悪い方向に転がりかねない要素がたくさんありました。ウクライナ紛争は相変わらず解決が見えず、トランプ大統領の関税措置は多くのユーロ圏諸国が依存する国際貿易関係に大きな衝撃を与えました。ユーロ圏経済そのものも決して良い状態で年明けを迎えたわけではありませんでした。
しかし、最新の第3四半期国内総生産(GDP)統計を見ると、ユーロ圏は懸念されたよりはうまくこれらの荒波を乗り切っていることが明らかになりつつあります。第3四半期の成長率は決して目覚ましいものではありませんが、再び上振れとなり、過去のショックが薄れて基調的なモメンタムが徐々に改善しているという印象を強めました。GDPは前期比0.3%増となり、第2四半期の0.1%増から緩やかに加速しました。GDP成長の内訳を見ると、総固定資本形成(+0.9%)、政府消費(+0.7%)、そして小幅ながら家計消費(+0.2%)がプラスに寄与しています。長らく失望の種だった国内需要が今や成長を牽引しています(「今週のチャート」参照)。実際、第3四半期のGDP成長率への純輸出の寄与度はマイナス0.2ポイントでした。
主要国別の内訳を見ると、成長を主導したのはスペイン(+0.6%)とフランス(+0.5%)でした。ただし、フランスの好調さが持続する可能性は低いと見られます。対照的に、イタリア(+0.1%)は辛うじてプラス、ドイツ(0.0%)は横ばいにとどまりました。ドイツは長らくユーロ圏全体の足を引っ張ってきましたが、来年の財政拡大政策は明るい材料となるでしょう。
来週の欧州中央銀行(ECB)会合は、こうした建設的な成長環境を背景に開催されます。ECBは政策が「良い位置」にあるという自信をもってフランクフルトでの12月会合に臨むことになります。インフレ率は目標近辺で推移しており(総合インフレ率は前年比2.2%、コアインフレ率は同2.4%)、成長率はトレンドに近く、労働市場も安定しています。こうした状況を考えると即時の利下げが行われる可能性は低いと言えます。政策理事会が2026年初頭に微調整的な利下げを行う選択肢を残す可能性はあるものの、見通しの改善によりその余地は狭まりつつあります。
第3四半期GDPが前期比0.3%増と予想外の伸びを示したことで、ECBの2025年の成長率見通しは1.4%(従来予想は1.2%)に上方修正される可能性が高く、2026年も1.2%へと小幅に引き上げられるでしょう。2026年のインフレ予測は、エネルギー価格の影響の剥落と排出権取引制度(ETS)をめぐる調整を反映して、1.8%へと若干上昇する可能性があります。とはいえ政策当局者は、これまでハト派的姿勢を取ってきた面々も含めインフレ目標からのわずかな乖離を理由に行動を起こすべきではないと示唆しています。ラガルド総裁は安定性を再確認し、成長の改善と下振れリスクの低下を認める一方、次の動きとして市場が織り込む利上げ観測をけん制するようなことは避けると予想されます。
今週のチャート
出所:Bloomberg、2025年12月9日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
来週を考える
米政府閉鎖による発表の遅れを取り戻すため、また、クリスマス休暇前に発表を前倒ししたいという思惑もあり、来週は非常に多くの経済指標の発表と中央銀行の会合が控えています。主要各国で発表される購買担当者景気指数(PMI)の速報値から、製造業が関税引き上げの影響で引き続き苦境に立たされ、堅調なサービス部門に後れを取っているかどうかが明らかになるでしょう。
米国では、10月と11月の雇用統計が最も重要となります。市場予想では民間部門の雇用者数は小幅増加、失業率は横ばいと見られていますが、一部の民間調査は雇用者数の減少が続いていることを示唆しています。来週はまた、10月の小売売上高も発表され、軟調だった9月から勢いを取り戻すと見られます。他にも、住宅統計、消費者物価指数(CPI)、そしてFRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)コア価格指数が控えています。
ユーロ圏では、前述の通り、ECBは政策金利を据え置くと予想されます。また、ZEW景況感指数が発表され、循環的なモメンタムを判断する手がかりとなるでしょう。
ECBとは対照的に、英国ではイングランド銀行が25bpの利下げを実施する見込みです。その他の指標に関しては、労働市場データが最近、雇用の減少ペースが緩やかになっていることを示しています。CPIのトレンドは緩やかに減速を続けると思われ、小売売上高成長率も低調な状態が続きそうです。
日本では、日本銀行が25bpの利上げを実施し、極めて緩やかな金利正常化路線を継続すると見られます。週の初めには日本の主要な景況感調査である短観、週の終わりには全国消費者物価指数が発表されます。
心安らぐクリスマスと新年をお過ごしください。