欧州中央銀行理事会
ECB理事会の見通し:2%水準を引き続き容認へ
インフレがついに目標水準に達し、経済が底堅さを見せる中、ECBは広く中立金利と見なされる2%水準での政策金利維持を容認する見通しです。
要点
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欧州中央銀行(ECB)は、預金ファシリティ金利を2%に据え置く見通しです。
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インフレがついに目標水準に達し、経済が底堅さを見せる中、ハト派が強く主張できるような材料は統計データ上ほとんど見当たりません。
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今回の利下げサイクルで、ECBが2%とされる中立金利を下回ってくる可能性を市場が十分に織り込む一方、ユーロ圏経済は一時的な停滞局面に入りつつあります。このため、ドイツ長期金利の相対的なアウトパフォーマンスを見込みます。
ECB理事会(10月30日)の見通し
インフレがついに目標水準に達し、経済が底堅さを見せる中、ECBは広く中立金利と見なされる2%水準での政策金利維持を容認する見通しです。従来の方針は10月の政策理事会でも維持される見込みです。しかし、おそらく2026年3月には、1.75%までの利下げがあると予想します。ECBのインフレ見通しは、12月に目標水準を下回る可能性があり、現実のインフレ率が2026年初めにはこれに追随すると見込まれます。たとえ小幅でもインフレ目標を下回る状態をECBが長く許容しすぎれば、後になっての大幅な利下げや、長期にわたる低金利の維持を迫られるリスクがあります。
9月11日の前回会合で、インフレが予測期間を通じて目標を下回る見通しなのにもかかわらず、ECBは預金ファシリティ金利を2%に据え置きました。ラガルド総裁は、2027年のインフレ見通しを「(2%に近い)大きめの1.9%」と呼んでこの目標未達を重要視せず、ECBはそのような「わずかな」乖離に反応したり、「過剰な政策調整」を行ったりはしないと示唆しました。総裁は「ディスインフレのプロセスは終わった」と主張したほか、政策スタンスは「適切な位置にある」と述べ、タカ派的な見解を示しました。
前回の議事録では、政策理事会メンバーに目標値を中心とした適度な変動を許容する用意があることが確認されています。しかし、議事録にはハト派的傾向が見られました。つまり、インフレリスクに関して下方リスクを指摘する人数(「some」)が、上方リスクを指摘する人数(「few」)を上回ったのです。ラガルド総裁も9月30日の演説でトーンを和らげ、「ディスインフレは終わった」から「インフレショックは終わった」に表現を変えました。それでも、成長率が平均に近い水準にあり、インフレ率が2%前後で推移し、失業率が6.3%近辺で安定している限り、ECB理事会は政策金利2%に強くこだわると見られます。追加利下げの必要性は、引き続きハト派に立証責任があります。
以下の通り、10月会合では、ハト派が強く主張できるような材料は統計データ上ほとんど見当たりません。
- 成長:ECBは、米国の関税の影響を反映して、第3四半期のGDP成長率を前期比0.0%、第4四半期を0.2%と予測しています。速報値ベースの実体データは弱い動きを示しており、第3四半期の鉱工業生産は前期比0.3%の減少、小売売上高は0.1%の減少となる見通しで、ECBの悲観的な見通しを裏付ける内容となっています。しかし、第3四半期の総合PMI(購買担当者景気指数)は平均51.0となり、前期比0.3%程度のトレンド成長率と整合的な水準でした。月末発表の第3四半期GDP速報値で、実態がより明らかになると思われますが、ユーロ圏経済の底堅さに対する見方は引き続き変わりません。2026年度予算案では、GDPの0.5%に相当する大幅な財政拡大が示されています。また、8月の失業率は6.3%とほぼ横ばいでした。
- インフレ:エネルギー価格のベース効果とサービスインフレの高止まりによって、9月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は前年同月比2.2%に上昇しました。しかし、その後エネルギー価格はさらに下落し、欧州委員会の景況感調査でも販売価格見通しは低下しています。さらに、対象を拡大して2027年に導入予定のEU排出量取引制度(ETS2)には多くの国が反対しており、その影響は同年のECBのインフレ見通しを0.2ポイント引き下げると見られます
12月、ユーロシステムのスタッフは2028年の見通しを初めて公表します。現時点での見通しでは、スタッフは消費者物価指数(HICP)上昇率の見通しを、2026年は1.6%、2027年は1.7%、2028年は1.8%とする可能性がありますが、これは2%のインフレ目標に対して2021年以降で最大の累積的な下方乖離となります。それにより理事会が緩和姿勢に傾く余地が生じる一方、現実のインフレ率は依然として2%近辺にとどまり、コアインフレとサービスインフレはそれぞれ2%と3%を上回ると見られるため、緩和への抵抗が続くことも考えられます。
しかし、再びエネルギー価格のベース効果によって、2026年初めに現実のインフレ率は2%を大きく下回る見込みです。目標を下回る見通しと相まって、ECBは長期間にわたりインフレ目標を達成できない状況に直面することになります。たとえ経済活動や労働市場が(弊社の予想通り)堅調に推移したとしても、ECBに利下げの余地はあるはずです。弊社は、引き続き3月に25ベーシスポイントの利下げを見込みます。
まとめ
10月会合では、ハト派色の強い示唆がいくつかあると予想されますが、まだ決定的な動きはありません。「データ依存」と「会合ごと」は引き続き重要なキーワードであり、ECBの政策運営は予測よりも現実のデータに基づくものとなるでしょう。
ドイツのイールドカーブは、2年・10年のブルフラット化を見込みます。今回の利下げサイクルで、ECBが2%とされる中立金利を下回ってくる可能性を市場が十分に織り込む一方、ユーロ圏経済は一時的な停滞局面に入りつつあります。このため、ドイツ長期金利の相対的なアウトパフォーマンスを見込みます。