米連邦準備制度理事会
最も無難な道:再び保険的利下げへ
FOMCは10月28日・29日の会合で金利を25ベーシスポイント引き下げる見通しです。「保険的利下げサイクル」の軌道は維持され、政策金利は2026年半ばまでに、3.375%のより中立的な水準に向けて引き下げられる可能性があります。
要点
- FOMCは10月28日・29日の会合で金利を25bp引き下げる見通しです。「保険的利下げサイクル」の軌道は維持され、政策金利は2026年半ばまでに、3.375%のより中立的な水準に向けて引き下げられる可能性があります。
- 量的引き締め終了の議論は加速する見込みで、10月か12月に決定が下される可能性があり、遅くとも来年第1四半期までにはバランスシート縮小が終了する見通しです。
- 物価と雇用の二つの使命をめぐる相反するシグナルを踏まえ、今後の動きとターミナルレート(利下げの最終到達点)の行方は、引き続き統計データに大きく依存する見通しです。大幅な金融緩和を求めるトランプ政権からの継続的な政治的圧力により、見通しはさらに不透明になっています。
- 米国イールドカーブのスティープ化は引き続き弊社の最有力シナリオです。米ドルは依然として景気循環の影響と構造的な逆風に直面していると考えられ、それが複数通貨に対する米ドルのショート(売り)ポジションへの確信を裏付けています。
米連邦準備制度理事会(10月28日-10月29日)の見通し
米連邦準備制度理事会(FRB)は、雇用重視へと政策対応方針を転換し、9ヵ月間の中断の後、9月に利下げサイクルを再開しました。前例のない政治的圧力の中で、パウエル議長はこの動きを「リスク管理的な利下げ」と述べ、インフレは依然として高止まりしているものの、労働市場に対する潜在的な下振れリスクを抑えるために、やや引き締め的な水準から金融緩和へと政策の舵を切りました。
10月14日、全米企業エコノミスト協会(NABE)の年次総会での講演でパウエル氏は、9月の会合以降、経済見通しにほとんど変化がないことを指摘しつつ、雇用に対する下振れリスクの高まりを強調しました。このような状況下、また米政府閉鎖の影響で会合間に入手できる統計データが限られる中で、政策当局は最も無難な道を選択し、10月の会合で25ベーシスポイントの追加利下げを行うものと見込まれます。歴史的に、保険的利下げが単発で終わったことはほとんどありません。したがって、さらなる利下げは、昨年9月から12月にかけて実施された3回連続の利下げ(合計100bp)の動きをなぞるだけでなく、1980年以降における過去の「保険的利下げサイクル」(4回中3回でFRBが最初の利下げから90日以内に追加利下げを実施)とも一致するものです。
経済・政治・貿易環境の不透明感や、今年に入り労働需給の両面で急速な鈍化を見せている労働市場の「奇妙な均衡」を踏まえると、政策決定は引き続き統計データに大きく左右される見通しです。今後のインフレ統計(10月24日に発表予定のCPI)や、労働市場統計(政府閉鎖に伴い9月雇用統計の公表が遅延中)が、FOMCの決定に影響する可能性はありますが、いずれかの指標で大きな上振れサプライズがない限り、利下げは必至と見られます。
逆に、地方銀行セクターやプライベートクレジット市場における緊張の高まりは、より大きな50bpの利下げをFOMCに検討させる動機となり得ます。しかし、これについては、潜在的な負のシグナル効果(FRBは経済や金融システムを従来よりもはるかに脆弱だと認識していると捉えられること)との比較検討が必要となります。 また、パウエル議長はNABEでの講演の中で、短期金融市場が引き締まりつつある「いくつかの兆候」を挙げ、FRBが今後数ヵ月以内にバランスシート縮小を終了する可能性を示唆しました。銀行の準備預金は引き続き「潤沢」な水準にあり、当局は資産縮小の終了時期を判断するため、資金調達環境と流動性指標を引き続き注視しています。米政策当局は量的引き締め(QT)を遅くとも来年第1四半期に終了し、その発表が10月か12月に行われる可能性が高いと弊社は予想します。 市場の観点から見ると、完全に織り込み済みである25bpの利下げ実施は、FRBにとって最も無難な選択と思われます。据え置きの決定は予想外のサプライズとなり、市場の変動を引き起こし、少なくとも短期的な資産価格の下落につながる可能性があります。より広く言えば、いかなる金融緩和の影響も、その意図がどのように受け取られるかに左右されます。最も楽観的なシナリオは、FRBが成長や雇用に対する下振れリスクに備えて保険的な利下げを継続するも、結果的にリスクは顕在化せず、その一方でインフレ上昇は一時的との見方が広まるというものです。
金融緩和が政治的理由によると受け止められ、かつインフレが長期化すれば、より悲観的なシナリオとなる可能性があります。その場合、利下げは投資家にネガティブに受け止められ、特に米国債の長期ゾーンで影響が顕著となる可能性があります。過去の金融緩和局面とは異なり、金価格の上昇に拍車がかかる可能性もあります。
いずれにせよ、FRBが関税によるインフレを今回も単なる「一時的な」供給ショックと見なす姿勢を示しており、2021〜22年の判断誤りを繰り返しかねない状況を考慮すると、FRBによる重大な政策ミスのリスクは極めて高いままです。