Best Styles x Behavioural Finance
感情的・社会的バイアスとその回避方法

人間が意思決定を行う方法には、理性的で思慮深い方法と、本能的で衝動的な方法の2つがあることは古くから知られています。ゲーテの『ファウスト』では「心に宿る二つの魂」と表現され、行動経済学者ダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』で「二つの思考システム」と呼びました。一般的には、肩に座って囁く「理性的な天使」と「本能的な天使」として語られることもあります。
人類の歴史の始まりにおいて、両方の天使はそれぞれの役割を果たし、生存と繁栄に貢献しました。本能的な天使は、ライオンやサーベルタイガーなどの捕食者から逃れるために瞬時の判断を可能にし、理性的な天使はマンモス狩りや農作業の計画など、集団での協力を支えました。 現代の人間も、依然としてこの二人の天使に頼って意思決定をしています。しかし、現代の都市ではジャガーやクマに遭遇することは稀であり、本能的な天使は本来の目的以外の分野でも意思決定に影響を与えるようになっています。特に投資においては、本能的な天使への無意識の依存とそれに伴うバイアスが、非効率な結果を招くことがあります。 本稿では、日常生活で私たちが陥りがちな感情的・社会的バイアス、それが投資に与える影響、そしてBest Styles戦略におけるSystematic Equityがそれらのバイアスをどのように回避しているかを解説します。
チョコレートとチューリップ ― 群集心理に従う本能的な天使
2024年、ドイツのスーパーマーケットでとある製品がブームとなりました。話題の製品はレジ横に陳列され、タバコや高級酒と並んで購入制限がかかるほどの人気となりました。その結果、模倣品も登場し、家庭で再現する方法を紹介する動画も拡散されました。 その製品とは「ドバイチョコレート」。ピスタチオクリームと中東の伝統菓子クナーファを詰めたチョコレートバーです。SNSでインフルエンサーによって紹介され、瞬く間に話題となり、消費者が殺到しました。記事執筆時点では、100gあたり5.99ユーロで取引されており、通常のミルクチョコレート(1.49ユーロ)と比べて高価です。


投資においても、本能的な天使は群集心理に陥りやすく、17世紀オランダの「チューリップバブル」がその代表例です。現在ではオランダの代名詞であるチューリップは、当時諸国に導入されたばかりでしたが、大流行しました。裕福なオランダ人たちは、希少なチューリップの球根に投資し、より高い価格で転売できると期待して投資機会を見出していました。その球根は、1637年初頭には熟練職人の年収の10倍もの価格がつきましたが、同年2月に市場は崩壊する結果となりました。
その後も、数多くの投資バブルが発生しました。1929年の株式市場の暴落、1989年の日本の資産バブル、1990年代のドットコムバブルなど、投資バブルは繰り返されています。群集心理は小規模な場面でも発生します。最近では、GameStopなどの「ミーム株」や一部の暗号資産も、SNSによる過熱で価格が一時急騰しました。本能的な天使――そしてその群集バイアス――は、長期投資においてはめったに良き助言者とならないことが往々してあることに注意を払う必要があるでしょう。
トイレットペーパーとカジノ ― 本能的な天使の気分に左右される行動
2020年春、コロナ禍によるロックダウンが始まると、消費者は「必需品が手に入らなくなる」という非合理的な恐怖に駆られました。


客観性と冷静さ ― Best Stylesが理性的な脳を活用する方法
Best Stylesは「感情的な天使」に耳を傾けず、理性的な洞察に基づいて投資を行う、規律あるアプローチです。株式市場の構造に関する学術的研究を活用し、より高いリターンを目指します。システマティック・エクイティのアプローチは、データと定量的プロセスに基づいており、人間の感情やメディアによるブームなどの社会的影響によるバイアスを受けません。統計分析に基づく事前定義されたルールに従って運用されます。コンピューターは恐怖や欲望を持たず、気分や楽観・後悔にも左右されません。リスクを継続的かつ一貫して測定・管理し、機会を冷静に捉えます。市場の高揚期に過剰投資することも、下落時にパニック売りすることもありません。株式は、事前に定義された基準を満たす場合のみ投資され、満たさなくなった場合に売却されます。コンピューターはチョコレートもチューリップも買いませんが、金融市場の投資家はしばしば、群集心理に陥ることがあり、株価が過熱した後に急落することがあります。一方で、システマティック・エクイティは、広範なデータソースを用いて各銘柄を評価することで、こうした落とし穴を回避します。このアプローチは、報告されている損益状況やバランスシート項目などの「事実と数値」に基づいて、客観的かつ規律ある方法で情報を処理します。人気ではなく証拠に基づいて資本を配分することで、流行を追いかけるリスクを減らします。