生物多様性保全 の危機:COP15から見えてきた7つのポイント

地球上の生物種の多くを絶滅から救う取り組みが時間との戦いとなる中、最近開催されたCOP 15会議で世界各国が生物多様性保全の危機に対応するための計画に合意しました。しかし合意の成功は、あらゆるステークホルダーが、国際的な生物多様性目標に沿った資金の動員と、危機の2つの側面である気候変動と生物多様性の損失に取り組むことに主眼を置き、密接に協力できるかどうかにかかっています。

要点
  • 2022年12月のCOP 15開催に至るまでの4年に及ぶ交渉、そして会期中2週間にわたって繰り広げられた活発な議論の結果として、2015年にパリで達成された気候温暖化に関する1.5℃目標の合意に匹敵する合意が成立しました3
  • 最も注目される目標は、2030年までに世界の陸域、内水域、沿岸・海洋域の少なくとも30%を効果的に保全・管理することを掲げています1
  • しかし、2030年までに現在の生物多様性のための国際支援を3倍に増やすという約束4は、生物多様性の損失と戦うには十分でないかもしれません。
  • 今後は、生物多様性の保護とクライメートトランジションとのつながりを強める必要があると弊社は考えています。

自然の劣化を食い止めるための大規模な行動計画がこのほど合意されたことを受け、国際的な保全活動に大きな弾みがついています。しかし、「自然界にとってのパリ協定の瞬間」と呼ばれるこの合意の成功は、今後数十年のうちに生物多様性の損失を逆転させるための資金を確保できるかどうかにかかっています。

モントリオールで開催された国連生物多様性会議(COP15)は2022年12月、それまでの4年に及ぶ交渉と会期中2週間にわたる活発な議論の末、さまざまな保全目標を定めるポスト2020年グローバル生物多様性フレームワーク(GBF)1を196カ国が採択して幕を閉じました。合意された内容は、大がかりなものですが、それは必然といえます。国連によれば、100万種以上の動植物が絶滅の危機に瀕しており、その多くは数十年以内に絶滅する恐れがあります2。気候変動は近年、政府や投資家から大きな関心を集めています。今回の合意をきっかけに、2023年は生物多様性が気候変動と同等の重要な課題として扱われるようになるでしょう。以下に、今回の合意に対する弊社の7つの所見をまとめました。

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 1.「30 by 30」目標の合意:自然界にとってのパリ協定の瞬間

最終合意に盛り込まれた目標の中で最も注目されるのは、2030年までに世界の陸域、内水域、沿岸・海洋域の少なくとも30%を効果的に保全・管理することを目指す「30 by 30」合意です。この合意はまた、劣化した生態系の少なくとも30%を回復させることも目標に掲げています(現状では、保護対象となっているのは陸地の17%、海洋の10%)5。一方、こうした保護対象地域における有害な活動を明示的に排除するには至りませんでした。それでも、今回の合意の重要性は、今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑えるように努めるという2015年のパリ協定に匹敵するものです。

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2. 地球の守り手の保護が不可欠

自然界を保護するためには、そのスチュワード(管理人)となる地域社会を守る必要があるため、今回の合意には社会的保護も盛り込まれています。特徴的な側面は、先住民族コミュニティの権利の保護と、保全における彼らのスチュワードとしての役割が認識されたことでした。先住民族コミュニティが世界の人口に占める割合は5%にすぎません。しかし、彼らの活動と理解は、地球の生物多様性の80%を守るのに役立ちます6。今回の合意は、先住民族が主導する保全モデルが標準となるべきであり、意思決定への先住民族コミュニティの参加が不可欠であることを明確にしています1。 
 
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3. 予算は拡大したものの、まだ不十分

地球上最も豊かで最も繊細な動植物の生息地の多くは、開発途上国にあり、その保全には資金が必要です。会議では、開発途上国への資金拠出を増やし、2025年までに年200億米ドル、2030年までに年300億米ドルにするという約束がなされました1。この金額は、生物多様性に対する現在の国際支援の2倍、3倍に相当します。しかし、気候の場合と同様、資金の問題はまだ満足のいく形で対処されていません。発表された資金拠出は一つのスタートではありますが、2030年までに生物多様性の損失を逆転させるために必要な1年当たり推定7,000億米ドルの資金不足を埋めるには、ほど遠い水準です。

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4. 環境に有害な補助金と有害な廃棄物の削減という重要な合意

過去10年間の生物多様性目標の主な失敗として挙げられてきたのが、環境に有害な補助金です。これに対応するため、各国政府は今回の会議で、林業、農業、水関連の分野で生物多様性に悪影響があるとされる補助金を年5,000億米ドル減らすことで合意しました1。また、世界の食品廃棄物を半減させ、有機性廃棄物を少なくとも5割削減するという目標も合意されました。その他の目標には、農薬と有害な化学物質の使用を半分以上減らすことや、2030年までにプラスチック汚染の撲滅を達成するために取り組むことなどが盛り込まれました1

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5. 自然への影響に関する企業開示に向けた土台作り

今のところ、事業活動が自然に与える影響について企業に要求される開示は、環境に関して義務付けられている開示ほど厳しくありません。今回合意されたフレームワークでは、自然資本に関する義務化は見送られました。現在、そのような詳細な開示要件を設けている国はごく少数にとどまっています。とはいえ今回の合意には、各国政府に大企業や金融機関による「生物多様性へのリスク、依存、影響」の開示を徹底するよう求める内容が盛り込まれました1。生物多様性の影響を評価するさまざまな指標についてコンセンサスに到達することは困難だとしても、この動きは、重要な土台作りになります。

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6. 保全のための戦いにおいて金融業界の力を利用する

生物多様性の危機を逆転させるには、政府以外のステークホルダーの助けが必要です。この会議と並行して発表された2つの重要なイニシアティブは、協調的なアプローチが可能であることを示していました。一つは、合計24兆米ドルを超える資産を運用する150の金融機関がGBFの採択を各国政府に呼びかける声明を発表したことでした7。そしてもう一つは、自然と生物多様性の損失の縮小に向けた企業の意欲と行動の促進を目指す世界的な投資家エンゲージメントのイニシアティブ「ネイチャー・アクション100」が発足したことです8。このイニシアティブの目的は、生物多様性の損失を逆転させるためにシステム上重要とみなされる主要セクターの企業に関与し、コミットメント、行動、公共政策活動を促すことにあります。

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7. 次は、生物多様性と気候のつながりを強める番

現在、焦点は、2024年にトルコで開催される次の生物多様性会議(COP16)に移ってきています。GBFの支持を表明した196カ国すべてが、生物多様性に関する戦略と行動計画を、生物多様性のための資金不足を埋める戦略とともにアップデートする必要があります。そのような行動は、生物多様性の損失に対処しない結果としてもたらされるリスクに対する関心を高めるとともに、このトピックに政治的・財政的支援を集中させるのに役立ちます。こうした取り組みをきっかけに、先に述べた7,000億米ドルの資金不足をどうやって埋めるかという議論が活発化することが期待されます。弊社では、生物多様性とクライメートトランジションとの間には強い相互関係と相互依存性があると考えています。そのつながりが正式に認識されていないことが、十分な資金を振り向けることを妨げる要因となっています。このつながりを正式に認識し、民間セクターや特に影響力の大きいセクターの貢献についてより明示的な指針を示すことにより、必要な緩和と適応のための措置に対する関心が高まり、ひいては生物多様性危機を抑制するための取り組みを後押しすることになるでしょう。
 

1 Convention on Biological Diversity, Nations Adopt Four Goals, 23 Targets for 2030 in Landmark UN Biodiversity Agreement, 2022 https://prod. drupal.www.infra.cbd.int/sites/default/files/2022-12/221219-PressRelease-Final.pdf
2 United Nations Environment Programme Nature’s Dangerous Decline ‘Unprecedented’ Species Extinction Rates ‘Accelerating’, 6 May 2019
3 United Nations, Paris Agreement 2015 https://unfccc.int/sites/default/files/english_paris_agreement.pdf
4 Paulson Institute; Nature Conservancy; and the Cornell Atkinson Center for Sustainability, Financing Nature: Closing the Global Biodiversity Financing Gap, 2020
5 Protected Planet Report, 2020 https://livereport.protectedplanet.net/
6 WWF, Recognizing Indigenous Peoples’ Land Interests is Critical for People and Nature, 2020
7 Principles for Responsible Investment 150 financial institutions, managing more than $24 trillion, call on world leaders to adopt ambitious Global Biodiversity Framework at COP 15, 13 December 2022
8 Nature Action 100, https://www.natureaction100.org/

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