Embracing Disruption
データセンターの「渇き」を持続可能な形で癒すには?
データセンターの水需要の増大に対応するために、持続可能な水冷ソリューションへの投資が必要とされています。
要点
- 人工知能(AI)の普及に伴い、ハイパースケールデータセンターが増加しており、それらのデータセンターを冷却するための水の需要も増え続けています。
- 水不足の地域で稼働しているデータセンターは特に、水の使用量を大幅に削減する必要に迫られています。
- データセンターの水需要の増大に対応するために、持続可能な水冷ソリューションへの投資が必要とされています。
データの流れは技術革新の生命線ですが、地球上の水の流れは世界の活動を支えています。世界中で増え続ける、大量の熱を放出するデータセンターを冷却することも、その役割の一つです。2023年9月現在、こうしたデータ処理施設は世界各地に9,000以上存在し、その半数以上が米国にあります1。
2023年の世界各国のデータセンター数
出典:スタティスタ。2023年9月現在。
「(米国では)データセンターのサーバーの直接的なウォーターフットプリントの5分の1は、中程度から高度の水ストレスを抱える流域から取水されている。また、サーバーの半分近くは、電力の全部または一部を水ストレス地域に所在する発電所に頼っている4」
コンピューティング能力の需要増大——背景には(大規模)人工知能アプリケーションの学習などがある——とデジタルインフラへの依存度の高まりに伴って生じているのが、大量のエネルギーに対する需要です。2020年には、世界の必要電力のおよそ1~2%がデータセンターで消費され、うち4割以上が冷却目的で使われました2。
この冷却用エネルギーの消費量の大幅な増加と並行して、冷却水の需要も増大しています。最近の研究3によれば、「世界のAIを動かすための取水量は、2027年には42~66億立方メートルに達する可能性があり」、その量は「デンマークの年間総取水量の4~6倍、英国の年間総取水量の半分に相当」します。
OECD主要国におけるデータサービスの水需要の内訳を見てみると、データの流れを維持するために水が極めて重要な役割を果たしていることがいっそう浮き彫りになります。
データ利用のための水の年間総消費量に占めるエネルギー関連の水消費量(%)
出典:Javier Farfan, Alena Lohrmann:Gone with the clouds:Estimating the electricity and water footprint of digital data services in Europe.ScienceDirect.2023年8月現在。
膨大なデータ、乏しい水
水不足の地域や地域社会は、データセンター事業者に対し、水使用量を大幅に削減し、冷却用の水使用の効率化を図るソリューションを導入するよう迫っています。すでに地元への水供給が逼迫している乾燥地帯の地域社会とデータストレージ事業者との間の深刻なあつれきに対処するために、革新的で持続可能な節水技術が必要とされています。水冷式データセンターは、多くの空冷式データセンターよりもエネルギー消費量が10%ほど少なく、したがって二酸化炭素排出量も10%前後少ないことを考えると、これはいっそう当てはまります5。
データセンターの「渇き」を癒すためのイノベーター企業の取り組み
- 再生水を処理・利用して淡水需要を削減
冷却水と廃水処理に関する技術、製品、サービスを手がけるある世界的企業は、データセンターの冷却システムで再生水を利用できるようにする先進的な水処理ソリューションを提供しています。再生水や高度処理水を、飲用水に代わるコスト効果の高い持続可能な水として使用することは、すでに乏しい地域の水資源を保護し、淡水の取水を大幅に減らすことにつながります。
この企業はさらに、飲用水や再生水から(異常な)汚染物質を除去する高度な膜技術や化学技術も開発しています。
こうした技術を利用できるようにすることは、蒸発せずにデータセンターの冷却システムから地方自治体の下水に排出される、無機物を多く含む「ブロー水」の処理に不可欠です。
- 電力と排出量を減らす水冷ソリューション
熱伝導、分離、流体操作製品を提供するある世界的企業は、繊細な機器を腐食から守る独立した冷水ループと一緒に、天然の冷却水源(河川や湖、海洋、雪解け水など)と冷却装置で生成した冷気を組み合わせてデータセンターの加熱を防ぐ水冷ソリューションを無料で提供しています。持続可能な副次的影響として、この方法は機械的冷却の必要性を効率的に減らすことができ、結果的に電力消費量と排出量の削減につながります。
- モニタリングを通じて漏水リスクを低減
水保護製品を製造・提供するある世界的な企業は、ネット接続された完全自動の水モニタリング・止水ソリューションを提供しています。このソリューションは、24時間365日リアルタイムで漏水やオーバーフローを検知することができます。データセンター事業者がコストのかかる操業停止を防ぎ、修理や保守の遅れを回避するのに役立ちます。
- 相対湿度を下げて、大幅な節水を実現
温度と空気循環に加えて、相対湿度(RH)は、データセンターの理想的な稼働環境を保つために重要な数値です。カリフォルニアを拠点とする多国籍テクノロジーグループが試験プロジェクトで最低RHを20%から13%に下げたところ、約40%の節水を実現しました6。
- データセンター設計の最適化による節水
水使用量を削減するための現場での対策に加えて、データセンターの設計段階で、より持続可能な水消費を実現するための最適化を図ることもできます。たとえば、気候中立データセンター協定(CNDCP)に署名した欧州の事業者は、飲用水を使用する寒冷地のすべての新しいデータセンターについて、2025年1月1日までに水ストレス地域ではフル稼働時に最大水使用効率性(WUE)0.4 L/kWhを満たすように設計することを公約しました。 既存のデータセンターについては2040年末までに、冷却システムを交換する際、CNDCPの定める水使用効率性の目標値0.4 L/kWhを満たさなければなりません7。
水使用効率性(WUE)とは、データセンターの水使用量をエネルギー消費量と関連付けて捉えるために使われる指標です。データセンターのWUEを算出するための計算式は、以下のとおりです。
WUE=データセンターの水消費量(単位:リットル[L])
IT機器の消費電力(単位:キロワット時[kwh])
原則として、データセンターのWUE比率が低いほど、水資源を効率的に使用していることになります。
サステナブル意識をもって投資する:水保全ソリューションを促進する手段
データ消費が放物線を描くように増加したことは、AIの普及 やデジタル化の進行のような構造的なメガトレンドを反映しており、新しいデータセンターに関するトレンドも同じ方向に進む可能性が高いことを意味します。この動きは、データセンターを動かすためのエネルギーと冷却するための水の両方に対するニーズの増大と密接に関係しています。どちらの資源も世界的に需要が高いため、水保全の取り組みを優先し、画期的なデータセンター冷却ソリューションを採用している革新的企業を突き止めて投資することは、最も貴重な天然資源の保全に役立ちます。
さらに、投資家は企業と積極的に関わり、取水量だけでなく、水ストレス地域からの取水割合も開示するように働きかけることで、透明性の向上を促すとともに、水消費量を削減するためのソリューションを見つけるように企業を後押しすることができます。