Stewardship Principles

ドイツ企業が筆頭独立取締役を受け入れるべき理由

2022/07/04
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Summary

ドイツで最近、数社が監査役会に筆頭独立取締役(LID)という役割を導入しました。これらの事例は、ドイツの他の企業にとって有用なロールモデルを示しています。LIDは、信頼を高め、取締役会と投資家との間のコミュニケーションを向上させるのに役立ちます。さらに、ドイツ企業に不足していることの多い、十分なコミュニケーションの下での独立性と透明性の高いサクセッションプランニングを促進することにもなると思われます。

要点

  • LIDは、会長に直接問題提起することができない、あるいはしたがらない他の取締役、経営幹部、投資家等のステークホルダーのための独立した窓口となります。
  • ドイツの既存の二層型のコーポレート・ガバナンス構造においては、一般に従業員によって指名される副会長の地位と競合することなくLIDを設置することができます。
  • 原則的には、LIDが指名委員会1の委員長を務め、投資家との対話をはじめ、会長の後継者を指名するプロセスを主導する役割を担います。

ガバナンスの観点から、弊社は、企業のトップにおいて責任分担が明確にされ、取締役会にチェック・アンド・バランスの仕組みが確立されていることが望ましいと考えています。さらに、取締役会と投資家の間に、コミュニケーションとエンゲージメントのチャネルが複数存在することが重要とも考えています。

2021年の議決権行使シーズン中、ドイツで今後全国に広がる可能性のある出来事がありました。上場企業2社が監査役会に筆頭独立取締役(LID)を設置したのです2。ドイツでは一般的ですが、2社とも二層型の取締役会構造を有しており、どちらのケースにおいても現任の会長は独立性に欠けるとみなされていました。2社のうち1社は、シーメンス・エナジーで、新しい会長は親会社の元CEOでした。もう1社のフレゼニウス・メディカルケアの会長は、20年以上にわたり同社の取締役を務めていた人物でした3

今年に入り、SAPは、独立性に欠ける会長に対する投資家の懸念に対応するためにLIDを設置すると発表しました>4。このケースでは、投資家との対話の促進も設置の目的となっています。弊社は、これらの事例におけるLIDの導入を歓迎するとともに、他のドイツ企業も後に続くことが望ましいと考えています。

LIDは、上級独立取締役とも呼ばれ、多くの既存の市場においてガバナンスの重要な構成要素となっています。フランスと米国では、このポストは、会長がCEOを兼任する場合に釣り合いを取るためによく使われています。さらに、英国とアイルランドでも、LIDの役割は、リーダーシップ構造とは関係なく上場会社の取締役会に定着しています。

しかし、ドイツで広く採用されている二層型の取締役会制度では、会長とCEOの役割がすでに分離しており、LIDの設置にあまり適していないように思われるかもしれません。また、ドイツの共同決定取締役会5にはすでに、従業員代表によって選出された副会長がいると指摘する向きもあるでしょう5。そのため、LIDは既存のガバナンス制度に必ずしも適合するものではないとみなされるかもしれません。けれども、このような見方は、LIDがもたらす付加価値を正しく認識していません。ドイツには、LIDを導入することで、現行のガバナンスの枠組みの中ではうまく対処できていない領域に対処できる状況があります。

筆頭独立取締役の役目とは

LIDは、完全に独立した立場にある取締役として、「平時」においては会長に助言し、取締役会が効果的に機能できるように協力します。LIDはまた、会長に直接問題提起することができない、あるいはしたがらない他の取締役、経営幹部、投資家等のステークホルダーのための独立した窓口となります。

緊急時や会社が危機に直面している場合は、LIDが状況の解決に一役買うことが期待されます。たとえば、会長や経営幹部では投資家などの外部のステークホルダーと効果的にコミュニケーションを取れない場合、LIDがその役割を果たすことになります。また、LIDが会長のパフォーマンスを評価し、後継者の指名と就任のプロセスを主導する役割を果たしているケースも見られます。

他国の経験から、LIDは会長あるいは取締役会全体と投資家との間の重要な仲介役となりうることが分かっています。今後の最適な戦略について見解の相違がある場合や投資家が会長との対話に不満を抱いている場合、あるいは監査役会の議長が独立した存在でないとみなされている場合は、特にそうです。

ドイツの環境におけるLIDの役割

LIDの概念をドイツに導入することは、一筋縄ではいかないかもしれませんが、LIDの役割が企業にも投資家にも付加価値をもたらすと考えられる状況がいくつかあります。

  1. サクセッションプランニングや新会長への移行の最中は、投資家が取締役会の将来の構成について話し合うために誰にアプローチすべきかが必ずしも明確ではありません。退任する会長はもはや適切な窓口ではなく、副会長(通常は従業員代表)は、そのような決定に責任を負う存在でもなければ、株主の利益を客観的に代表する存在でもありません。このような状況において、LID―原則的には、指名委員会の委員長―が新会長の選任プロセスを主導し、独立した見解を代表することで、選任プロセスへの現会長の関与を避けることができます。LIDは、その立場上、投資家にとって会長に代わるコミュニケーションチャネルとなり、移行中ずっと窓口の役目を果たします。LIDの役割と指名委員会の委員長という役割を組み合わせることで、ドイツ企業に不足している、十分なコミュニケーションの下での独立性と透明性の高いサクセッションプランニングを促進することにもなると思われます。
  2. 会長の独立性や資格、パフォーマンスについて投資家がもっともな懸念を抱いている場合、会長と投資家の対話が対立的なものになることがあります。取締役会、会長、株主をつなぐ重要な仲介役として活動するLIDは、投資家が懸念と期待をオープンに表明できるようにし、取締役会全体に投資家の見解を認識させることができます。こうした状況においては、取締役会への独立した客観的なチャネルを持つことで、率直かつ建設的な対話が可能となります。これは結果的に、取締役会と投資家との間の信頼構築につながります。
  3. 企業とその取締役会は、グローバル経済の悪化、経営陣に対する社会の信頼を損なう訴訟、社会的にマイナスイメージを生み出すような大規模な取引事件、あるいはここ数年の新型コロナウイルスのパンデミックのような困難に見舞われることがあります。こうした状況において、会長の取る姿勢が経営陣の戦略的な意思決定とあまりにも強く結び付いていると、独立性を欠いているとみなされます。そのような場合、LIDは取締役会、経営陣、投資家との間のコミュニケーションの手段となり、投資家と社会一般からの信頼を強めることができます。また、諸外国の経験から、困難な状況において、指名・ガバナンス委員会の委員長を務めているLIDが会社の評価額に影響しかねない訴訟などのガバナンス上の問題の解決に役立つことが分かっています。

ガバナンスの枠組みへの重要な付加価値

LIDの役割はドイツの二層型の共同決定的な取締役会制度に大きな付加価値をもたらすと考えられます。LIDは、監査役会の委員長を補完する独立した役割であるべきです。また、原則として指名委員会の委員長がその任に当たるべきではあるものの、サクセッションプランニングと株主の懸念への対応に加えてガバナンス全体と訴訟問題も担当する指名・ガバナンス委員会の委員長がLIDを務めることもできます。

何よりも重要なこととして、この役割は会長の代役ではなく、会社とその投資家の利益のために補完的な権限と責任を行使する存在でなければなりません。LIDを任命した場合、投資家からは、会長とLIDという2つの役割によって建設的かつ実際的な責任分担を確立して、この2つのポジションに求められる職務を割り振り、それぞれが自分の役割を効果的に遂行できるようにすることが期待されるでしょう。こうした職務の範囲について投資家を納得させるために、LIDの役割と責任に関する明確な開示が求められます。



二層型の取締役会構造

指名・ガバナンス委員会は、取締役の選出と良好なガバナンスの確保に責任を持つ取締役で構成されます。
監査役会と経営委員会は、主にドイツ企業に見られる取締役会構造における二層の組織です。
ご注意:ここに挙げる上場企業は、あくまでも説明のための例であり、証券、戦略、投資商品、サービスの売り込みまたは購入の勧誘とはみなされないものとし、また、投資の助言や推奨にあたらないものとします。
コーポレート・ガバナンス | SAP投資家向け情報、2022年2月
5デロイト、The German Supervisory Board: A Practical Introduction for US Public Company Directors, 2021:従業員数が2,000名を超える企業の大部分では、監査役会メンバーの半数が従業員によって選ばれている一方、従業員数が5002,000名の企業では、3分の1が従業員選出となっています。

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