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債券戦略クォータリー:
流動的な債券市場に、新たな投資機会が出現
インフレ、金利、経済成長の動向の変化は、複雑な市場環境を生み出しています。中央銀行がインフレの抑制と市場における金融リスクの抑制のバランスを取ろうとしていることから、市場のボラティリティは当面続く可能性が高いものの、国債や社債に銘柄選択の機会が生じつつあります。
要点
- 債券の多様性は、投資家が今後数カ月の世界経済の成長の低迷と利上げを乗り切る道筋を描くのに役立つと考えられます。
- ボラティリティが高まり、金利の方向性が見えない中、国債の利回りはレンジ相場になる可能性があり、投資家は投資機会を狙うことができます。
- 中央銀行の利上げサイクルが終わりに近付くのに伴い、2023年中に金利カーブがスティープ化し始める可能性があります。
- 企業レベルでは、多くの投資適格発行体の見通しは悪くない状態が続くと思われます。弊社は、ハイイールド債市場が妥当な価格水準に戻るとみています。
債券市場は、歴史的なリセットを経て、現在流動的な状態にあります。市場のボラティリティは、インフレを中心とする経済指標の変化や金利設定の先行きをめぐる不透明感を受けて、高止まりしています。
弊社が見るに、2023年の第1四半期は、中央銀行が直面する大きなジレンマをさらに強める結果になりました。中央銀行は、急激な利上げが一因となって生じている金融安定リスクを抑制しつつ、予想よりも根強いコアインフレとの戦いを続けなければならないでしょう。2022年9月・10月の英国債市場の危機や、2023年第1四半期の米国の地方銀行と欧州の銀行セクターで起こった危機のように、このところ市場が危機に見舞われるケースが目立っています1。
これに対応するため、中央銀行が「より高く、より長い」利上げと合わせて、市場に断続的に流動性を注入する可能性があります。
良いニュースは、利回りの上昇によって債券市場の魅力が高まっているということであり、このアセットクラスの多様性は、投資家が複雑な市場見通しを乗り切る道筋を描くのに役立ちます。当面は、底堅い労働市場が世界的なリセッション(景気後退)の懸念を和らげる働きをしています。また、国ごとの経済や政策の違いは、債券投資家に幅広い投資機会をもたらします。手始めに、利上げサイクルが進んでいて、インフレ調整後の利回りが上昇している、満期までの残存期間の短い主要国国債を検討することが考えられます。
債券への資産配分状況のサマリー
主要金利 |
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国 |
クロスマーケットの相対価値戦略に重点。実質利回りがより高い国債を選好(例:ドイツや日本よりも米国) |
デュレーション |
よりレンジバウンドな市場(例:米国)で戦術的に取引。逆張り戦略を強める中、より長いデュレーションを選択 |
イールドカーブ |
利上げサイクルが終わりに近付いている米国でスティープ化の可能性。ユーロ圏は、スティープ化は時期尚早 |
インフレーション |
ユーロ圏を小幅にオーバーウェイト。インフレ圧力が緩むか、より適切に織り込まれるのに伴い、エクスポージャーを縮小 |
通貨 |
他地域に対する米国経済の循環的な成長のアウトパフォーマンスが弱まる中、米ドル安のシグナルが強まる |
社債 |
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投資適格債(IG) |
ヒストリカル分析に基づくと、リセッションに入って3カ月後がリスク追加に有利なエントリーポイント |
ハイイールド債(HY) |
ベータをニュートラルからややアンダーウェイト。スプレッドのクッションが大きくなっていることからBB/B債の投げ売り時にリスクを追加する構え |
ハイブリッド |
急激なディスカウントにかかわらず転換社債と、金利リスクの軽減のために変動金利優先証券を選択的に組み入れ |
証券化 |
現在魅力の薄い企業に分散、銀行がリスクの一部を抱える場合は格付の高いトランシェを選好 |
地域 |
HYについてはユーロより米ドルを適度に選好、IGについては逆にユーロを選好。アジアHYのアンダーウェイトを縮小する余地が拡大 |
セクター |
潤沢な資本と、多様な資金源・収益源を有するシステム上重要なEUと米国の銀行をオーバーウェイト |
エマージングマーケット債券 |
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ハードカレンシー建てソブリン債 |
米金利、中国、ロシア・ウクライナ等の逆風が弱まる。資金の流れがより有利に転換。魅力的なキャリー |
現地通貨建てソブリン債 |
インプレがピークを付ける中、一部に魅力的なデュレーションの機会。米ドル安を受けリターン期待が高まる可能性 |
ハードカレンシー建て社債 |
社債のファンダメンタルズとキャリーは全般的に魅力的で、デュレーションは相対的に低い。中国の逆風は和らぎつつある |
上記の見解は、市場環境の変化を反映させるために定期的にアップデートされており、ポートフォリオの構築における検討事項とは関係ありません。過去のパフォーマンスは、必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。
世界経済の成長は低迷、リセッションリスクに注意
世界経済の成長率は今後数カ月にわたりトレンドを下回る水準で推移すると予想されます。弊社のベースケースでも、グローバルエコノミストのコンセンサス予測でも引き続き、世界成長が低迷すると見込んでいます(図表1を参照)。他地域に対する米国経済のアウトパフォーマンスは、ユーロ圏と中国の先行きに関する悲観的な見方が後退したこともあり、低下しつつあると弊社はみています。
しかし、中央銀行による最近の利上げが今後数カ月の経済活動を圧迫することが予想されます。金融引き締めの影響は、最近の米国の雇用統計や銀行が貸出基準を引き締めていることを示す調査結果でも明らかです。さらなる金利引き上げのリスクを考えると、世界的なリセッションの可能性はまだ無視できません。
中国経済が予想より早く再開したことは、他の主要先進国における経済の低迷を一部相殺する役割を果たしています。しかし、米国や欧州における新型コロナによるロックダウン後の経済再開に比べると、中国の需要への影響はあまり大きくはないと予想されます。
新興市場では、2023年の成長見通しに対する期待は低下を続けています2。一方で、中国の最近の経済再開と予想よりも好調な欧州の経済活動は、世界経済の成長に追い風となり、新興市場を下支えするものと思われます。
市場への影響
- ユーロ圏周縁国の債券を検討する。ソブリン・クレジット市場では、イールドカーブのスティープ化が主要国国債に追加の利回りをもたらす可能性がある中、予想を上回る欧州の成長により、ユーロ圏周縁国の債券に投資機会が生じると考えられます。
- 中国の経済再開の恩恵を受けるところを探す。中国のロックダウンの解除と観光・貿易の需要回復は、世界経済の減速によって一部相殺される可能性が高いと考えられます。したがって、アジアへの投資機会をうかがう場合は、米国や欧州よりも中国への輸出が多い国々、たとえばインドネシアやマレーシア、シンガポールなどを検討するとよいでしょう。
- 利益に重点を置く。長く深いリセッションの懸念が後退する中、企業レベルでは、多くの投資適格発行体の見通しは悪くない状態が続くと思われます。しかし、消費と消費者心理への圧迫、そして強いインフレが利益に与える影響の大きさを判断するため、これから数四半期は企業利益に注目すべきでしょう。
- B格付の発行体に注目する。弊社の見解では、ハイイールドクレジット市場は、浅いリセッションが織り込まれるにつれ、弊社から見て妥当な価格水準に戻りつつあります。先行きは悪化していますが、好調な水準からの低下です。ターミナルレート、成長、個人消費支出をめぐり、依然として不確実性が漂っていることから、慎重な姿勢を取るのが賢明でしょう。経済の先行きが不透明な中、B格付の発行体は、ハイイールド市場においてヘッジの役割を果たすかもしれません。
図表1:一部の市場は急激な減速に直面している
出所:Thomson Reuters Datastream, Bloomberg, Consensus forecasts, Allianz Global Investors GmbH. 2023年2月現在のデータ。
インフレは緩和に向かうも、高い政策金利が2023年見通しの主要なリスクに
世界のインフレ圧力は、需要の低迷と労働市場の緩和を背景に、2023年中に和らぐと予想されます(図表2参照)。しかし、コアインフレが依然として高い(中央銀行の目標を大きく上回る)ことと、このところ緩和の兆しが見えてきているとはいえ労働市場がまだタイトな状態にあることから、中央銀行は金融引き締め政策を転換することには消極的でしょう。
米連邦準備制度理事会(FRB)が示した最新の経済見通しでは、2023年にあともう1回の利上げが示唆されています。全体的に弊社は、「より高く、より長い」政策スタンスを維持したいというFRBの意向を債券市場が過小評価していると考えています3。したがって、インフレ指標であるコア消費者物価指数(CPI)が減速しているとはいえ、政策金利を高い水準にとどめておきたいという中央銀行の意向が引き続き、2023年の主要なリスクになるでしょう。
ユーロ圏では、投資家は金利の動向を慎重に見守る必要があると思われます。欧州中央銀行による最近の積極的な利上げにかかわらず、この地域の実質金利は、年内にインフレを目標の2%に戻すにはまだ低すぎると弊社は考えています。
対照的に、多くの新興市場は、引き締めサイクルの終わりに近付いている可能性があります。FRBの政策スタンスを見ると、一部の新興国の中央銀行は、足元で成長見通しが弱まりインフレ率が低下しているにもかかわらず、なかなか利下げに転換できないのではないかと思われます。
市場への影響
- トレーディングレンジを織り込む。ボラティリティが高まり、今後数カ月の金利の方向性が見えない中、国債の利回りは、一定の高値と安値の間で推移するレンジ相場が続く可能性があります。こうしたトレーディングレンジを見極めて、その中でポジションを取ることが、不確実な投資環境を乗り切るのに役立つかもしれません。
- 高格付の短期債に注目する。多くの中央銀行の利上げサイクルが終わりに近付くのに伴い、2023年中に金利カーブがスティープ化し始める可能性があります。そのような状況では、クーポンの支払いと、債券が満期に近付くにつれ債券の価格が額面価格に戻る効果の両方から利益を得る、正の「キャリー・ロールダウン」エクスポージャーを通じて、満期までの残存期間が中短期の高格付け債券に焦点を当てることが好ましいでしょう。
- 実質利回りに注目する:インフレの先行きが不透明な環境では、「実質利回り」、つまりインフレを考慮した後の利払いによるリターンに注目することが考えられます。この場合、ニュージーランドやメキシコ、米国など、弊社の見解では中央銀行の利上げサイクルがより進んでいる市場が対象となります。
- 欧州の銀行への投資機会を探る:ここ数週間、利上げによって金融システムが圧迫されていることもあり、銀行ストレスが大きく取り沙汰されています。しかし、欧州の銀行では、金利の変動に対する預金の感応度が低く(つまり、銀行が規制保護の対象となる預貯金を市場金利に近い金利で払い出すことを強制されない)、変動金利型の住宅ローンが大きな割合を占めているためにローンの金利改定が比較的早い国に投資機会があると考えられます。
図表2:インフレが頭打ちになっている兆しがある
出所:Bloomberg, Allianz Global Investors GmbH. Data as at February 2023.
1 3月のシリコンバレー銀行とシグネチャーバンクの破綻を受け、米国の地方銀行の健全性について疑問が生じました。欧州では、同月に、UBSが政府仲介による救済措置において、ライバルのクレディスイスを買収することに同意しました。
2 出所:Global Economic Prospects, World Bank Group, January 2023.
3 出所:Summary of Economic Projections, Federal Reserve, March 2023.
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