Climate | ~ 3 min read
カーボン取引:いまこそ変革のとき?
カーボン市場を利用すると、企業は購入したカーボンクレジットまたはカーボンオフセットを自社の炭素排出量と取引でき、その結果、自社の排出量を減らすことができます。ただ、脱炭素化を進めるためのこれらの市場の役割については意見が分かれており、変革が必要であることを浮き彫りにしています。
カーボン取引市場には、マンダトリー(義務)とボランタリー(任意)という2タイプの市場があります。マンダトリーカーボン市場(またはコンプライアンス市場)は欧州連合の汚染者負担原則1に基づいたもので、排出量の多い企業は毎年一定数のクレジットを購入しなければなりません。ボランタリーカーボン市場(VCM)では、政府や企業がカーボンオフセットを購入することでその排出量を減らすことができ、その購入代金は脱炭素プロジェクトに活かされます。
建設的な仕組みのように思われますが、これらの市場はこれまでの展開のなかで常に課題を抱えてきました。カーボンの価格格差の拡大は、その主たるものです。マンダトリー取引におけるカーボンの価格は、各地の既存市場全体で10倍もの差があります2。また、ボランタリー市場とマンダトリー市場の間でも、カーボンクレジットの費用はトン当たり5~100米ドルもの開きがあります。
もう1つの課題は、マンダトリーカーボン市場が設立から18年経過していながらも、業界基準の欠如が原因でごく限られた進展しか遂げていないことです。現在、世界の温室効果ガス排出量のうち、マンダトリー市場のカーボン取引でカバーされているのは20%にも満たない状況です。規制の欠如が大きな障壁となり、ボランタリー市場の拡大も阻まれています。両市場がグローバルに発展するためには、段階的変革 が必要です。
ボランタリー市場は、不可避の排出に対応するための重要手段とみられています。そのなかで明るいニュースは、2023年に入りカーボン取引に重要な改革と進展があったことです。例えば、欧州の新しい規制や、カーボン取引の地域市場の増加、ボランタリー市場向けの新しい運用規則などは、大きな前進です。ただ、このような進展について理解したり、同意したりするのは、なお難しい面があります。では、こうした状況でカーボン市場はどこに向かうのでしょうか。
成功への道をみつける
このところ、ボランタリーカーボン市場十全性イニシアチブ (VCMI)の実施規則のような、新たな動きがみられます。弊社はこれを歓迎しています。この規則は、ボランタリーのカーボンクレジットを完全性の高い状態で使用するための指針を示し、これによって企業を支援することを狙いとしています。弊社はマンダトリーのカーボン取引について、現在の規模からグローバル市場へと発展する可能性があると考えています。しかしながら、ステークホルダーが消極的なために、その前進が阻害されているとみられます。さらに、カーボンオフセットの積極的な増加予想を実現するのに欠かせない厳格かつ明確な規制が不足している ことで、事態が複雑化しています。
結局のところ、カーボン価格の基準値に対するコンセンサスが必要です。コンセンサスが生まれることで、排出除去のためのソリューションを考案するインセンティブが働き、これが排出量削減という重要目標の達成を後押しするでしょう。