Sustainability | ~ 4 min read
気候行動:人権
国家としての気候方針と気候行動が2050年までに排出量をネットゼロ目標まで削減するために不十分である場合、その国は国民の人権を侵害していることになるのでしょうか。スイスに対する最新の裁定は、それを肯定しています。
スイスが熱波に見舞われた4月、欧州人権裁判所は、気候変動への対応が不十分であることによって、スイスの気候方針が人権を侵害しているという裁定を下しました。この訴訟は、スイスの市民団体「Senior Women for Climate Protection(気候保護を支持する高齢女性)」によって申し立てられたものであり、スイスの気温上昇が、健康問題の原因になっていると主張していました。
女性らは、熱波の間は家から出ることができないと主張し、これは私生活及び家族生活が尊重される権利を侵害していると訴えました。
同裁判所は、欧州理事会1の46カ国に、欧州人権条約(ECHR)を遵守させる権限を付託されています。スイスの気候方針に関する同裁判所の裁定は、人権と気候変動の影響を直接結びつけたという点において、重要な意味を持っています。
この訴訟は、「国家当局によって、気候変動が生命、健康、幸福及び生活の質に及ぼす悪影響から、個人が効果的に保護される権利」を概説するECHRの第8条を参照しています。同裁判所は、スイスによる気候変動対応方針に「重大な不備」があると認めました。
この裁定は、気候変動による未来の影響を緩和するために、欧州諸国が規制や施策を導入しなければならないことを意味しています。これらの規制や施策を定義するにあたっては一定の自由度が与えられていますが、各国には、自国のカーボンフットプリントにおいて、輸入排出量を含む大幅な排出量削減と、ネットゼロ目標を支援することが期待されています。
不作為による影響
スイスは、この決定を批判し、自国の気候方針の妥当性を再確認しました。同裁判所には制裁を科する権限はありませんが、おそらく、各加盟国の裁判所はこの裁定を考慮に入れることになるでしょう。このため、この評決は、方針と規制の焦点を改めてより厳密にネットゼロ目標に沿ったものにするよう欧州諸国に促す可能性があり、これは企業を始めとするステークホルダーにも影響を及ぼすかもしれません。そして、これによって、特に気候関連リスクが高まっている証拠がある地域においては、不備や不足のある気候方針に対する社会的・政治的な圧力が高まる可能性もあります。
欧州以外でも、この裁定のタイミングは、多くの諸国がパリ協定の1.5℃目標に沿った「国が決定する貢献(nationally determined contributions: NDC)」を更新すると考えられる時期と重なっています。さらに、その他の国際人権裁判所、特に米州地域において係争中の類似訴訟の結果も注目に値します。
弊社は、気候行動と公平性・包括性の間の相互のつながりを理解することが、不可欠であると考えています。このため、弊社のサステナビリティへのアプローチは、気温上昇だけでなく、気温が上昇した世界において公平に生活することにも焦点を当てているのです。
1 欧州理事会は、ヨーロッパ大陸における代表的な人権団体であり、1949年の発足以来、欧州全体で民主主義、人権及び法の支配を推進しています。