アジアとFRBの金融政策のデカップリング
アジアと米国のマクロ経済環境の相違を考えると、アジアの中央銀行はまもなく、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げサイクルからデカップリングするでしょう。
米国では、マネーの野放図な膨張、コロナ時代の過剰な財政刺激策、構造的な労働力不足を背景とする根強いコアインフレ圧力に対処するため、FRBがフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を「より長く、より高く」維持すると予想されます。
しかし、米国とは異なり、アジア諸国の大半は今後、成長が鈍化し、ディスインフレ(インフレ低下)が加速し、実質金利が上昇する可能性が高くなっています。そのような動きを受け、アジアの中央銀行は利上げを停止することによってFRBからデカップリングし、近いうちに金融緩和のために利下げを開始することになると思われます。
- 成長の鈍化。世界経済の成長の鈍化は、アジアの外需に打撃を与えています。また、コロナ禍後の消費回復にかげりが生じていることで、この地域の内需も弱まっています。名目政策金利の引き下げは、国内貸付の成長を安定させ、自国通貨安を促すのに役立ちます。
- ディスインフレの加速。アジアはコロナ禍の間、経済を過剰に刺激するような財政・金融政策を取りませんでした。そのおかげでコアインフレは抑制されており、最近のインフレ高騰は、主に供給サイドによるものでした。その上、アジアの労働市場の大半は、需給のバランスがほぼ保たれており、米国のような構造的制約は見られません。
- 実質金利の上昇。ディスインフレが進むにつれ実質政策金利は上昇し、アジアの中央銀行は、実質金利が景気抑制的な領域に入らないように名目金利の引き下げを早めなければならなくなります。日本銀行はこうした状況を考慮し、イールドカーブ・コントロールの変動幅を拡大すると日本の実質金利が時期尚早に上昇しかねないことを懸念して、ハト派的姿勢を崩していない可能性があります。
アジアの金融緩和は、特に国内セクターの成長を下支えすると思われます。最も恩恵を受けるのは、中国、日本、インド、インドネシアなどの内需主導国でしょう。香港、シンガポール、韓国、台湾、マレーシア、ベトナムなどの輸出志向国も恩恵を受けるものの、世界の需要の減退がより大きな足かせになるとなると予想されます。
今週のチャート
新興アジアのインフレ率(前年比)
来週を考える
来週発表される経済指標から、他の地域の経済の動き、特に産業セクター、労働市場、インフレ、消費者マインドの動向が見えてくるでしょう。
月曜日は、中国が7月の公式な製造業・非製造業購買担当者景気指数(PMI)を発表します。また、米国のマーケット・ニュース・インターナーショナル(MNI)シカゴ・ビジネス・バロメーター指数も発表され、市場予想では、6月の41.5に対し7月は43.5に改善するとみられています。日本からは、6月の小売売上高成長率と鉱工業生産成長率、そして7月の消費者態度指数が発表されます。ユーロ圏の7月の消費者物価指数(CPI)の速報値とコアCPIインフレ率も同日に発表されます。
火曜日には中国の7月の財新製造業PMIが発表され、民間セクターの直近の経済状況を判断する手がかりとなるでしょう。また、6月の米国の月次建設支出も発表を控えており、市場予想では5月の0.9%からやや減速して0.6%になるとみられています。さらに、7月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数の発表も予定されており、46.6と弱いながらも6月の46からは改善が見込まれています。
水曜日は、米オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)の7月の雇用統計が発表されます。市場予想では、雇用の増加が鈍り、6月の49万7,000人増から減少するとみられています。木曜日は、米国の2023年第2四半期単位労働コスト速報値が発表され、第1四半期の前期比4.2%上昇から2.6%上昇へ鈍化すると予想されています。
金曜日は、米国の非農業部門雇用者数統計、失業率、平均時給で締めくくられます。7月の非農業部門雇用者は、6月の20万9,000人増から減速し、18万人増になると予想されています。7月の失業率は、前月と変わらず3.6%になる見込みです。平均時給の伸びは、インフレへの影響という点で、注目を集めると思われます。
みなさんの投資と高リターンとのデカップリングが決して起こりませんように。