ジレンマ抱える中央銀行

消費者物価のインフレは減速しつつありますが、世界中の多くの国ではいまだに基調物価圧力が非常に強く、コアインフレを中央銀行の目標(ほとんどの場合、2%前後)を上回る水準に押し上げています。インフレの勢いを弱め、労働市場の逼迫を和らげるために、金融政策当局は金融政策を十分に引き締め、目標とする需要の鈍化を図る必要があります。これは、厄介な課題です。金融政策当局は、リセッション(景気後退)や金融危機を引き起こすことなく経済活動を冷やす最適なバランスを見つけなければなりません。足元の景気はいまだに底堅いものの、これからの1年で低迷する可能性が高まりつつある現状は、中央銀行が抱えるこのジレンマをさらに難しいものにしています。特に米国の地方銀行と商業用不動産セクターで金融の緊張が続く中、金融政策ミスのリスクが高まっています。

弊社独自のグローバル・マクロ指数は、4月に3カ月連続で上昇しましたが、この上昇は全体にわたるものではなく、限られた地域やセクターがけん引していました。中国とユーロ圏のマクロ経済指標は改善したものの、米国、英国、日本の経済指標が軟調だったために、若干相殺されました。サービスセクターの勢いは堅調だった一方、ほとんどの国で製造業とGDPが引き続き重しとなりました。
対照的に、弊社独自のマクロ・インフレ指数は、4月に9カ月連続で下落しましたが、物価とサービス価格の基調はほぼ変化がありませんでした。主要金利は上昇を続けました。

この環境で、金融政策当局はどのような手を打つ可能性があるでしょうか。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月に利上げサイクルを休止する道筋をつけ、フェデラルファンド金利は現在5~5.25%となっています。一方、欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)はそれぞれ、秋までに主要金利をさらに50ベーシスポイント(bp)引き上げると予想されます。これら3つの中央銀行はいずれも、たとえ若干リセッションに傾いても、「より高く、より長い」利上げ路線を堅持し、2024年に入ってからもしばらく金利を安定的に維持するとみられます。先物市場は2023年後半から米国が利下げに転じると見込んでいますが、積極的な利下げは時期尚早であるように思われます。日本銀行を見ると、イールドカーブコントロールは年内にさらに調整される可能性が高いでしょう。次のステップでは、マイナス金利にピリオドが打たれるかもしれません。

全体として、世界の金融市場の注目はおそらく、短期的な景気回復から中期的なリセッションリスクの高まりへと移ると思われます。

今週のチャート

世界のインフレ率 インフレ率の概況(調査対象:76カ国)
赤:インフレ率が2%超、緑:インフレ率が2%未満

出所:AllianzGI Global Global Capital Markets & Thematic Research, Refinitiv Eikon Datastream, 2023年4月現在

来週を考える

このような背景を考えると、経済活動と基調インフレがどのように動いていくかは興味深いところですが、これからの1週間に発表される重要な経済指標は、あまり多くありません。とはいえ、その中には、大きな注目を集めそうなものもあります。一部の指標は、今後のインフレの行方についてヒントを与えてくれるでしょう。それに加えて、特に米国では、リセッションの可能性はまだ排除できません。

月曜日には、欧州連合の鉱工業生産指数と米国のニューヨーク連銀製造業景気指数が公表されます。コンセンサス予想では、後者は著しく下落するとみられています。

火曜日は、中国発の指標が注目の的になるでしょう。鉱工業生産高と小売売上高は、前年同期比で大幅に上昇すると予想されます。この結果は、中国だけでなく世界経済全体にとって明るい材料になると思われます。同じ日に、金融市場参加者を対象とするアンケート調査などに基づいたドイツのZEW景況感指数も発表されますが、こちらはそれほど注目されないでしょう。ifo指数に続き、この指数も上向くと予想されます。米国の小売売上高と鉱工業生産指数も火曜日に発表を控えており、収斂する方向に進むとみられます。コンセンサス予想では、小売売上高は上昇し、鉱工業生産指数は横ばいになると見込まれています。

木曜日は、米国の新規失業保険申請件数、フィラデルフィア連銀景況指数、中古住宅販売戸数の公表が予定されており、米国に注目が集まるでしょう。

最後に、金曜日はドイツの生産者物価指数が発表されます。これは、ドイツのインフレの動向について重要なシグナルとなる可能性があり、前年同月比の数字が引き続き減速したり、前月比の数字がさらにマイナス圏に落ち込んだりした場合は、特にそうなるしょう。さらに、英国のGfK消費者信頼感指数も発表されます。「戴冠式効果」が目に見える形で表れ、指数を押し上げるかどうかが明らかになります。

全体として、指標は強弱まちまちで、インフレ圧力の低下を示す可能性は低いと予想されます。主要な株式市場の相対力指数などで測定されるテクニカルな環境は、落ち着いているように見受けられます。そのため、来週の市場は横ばいで推移すると予想されます。

 

大きなジレンマに直面することのない1週間となりますように。

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