消費者マインドと経済状況の対比
資本市場のセンチメントは、リセッション(景気後退)が回避できるのではないかという見方へ着実に変化しつつあります。同時に起こっているインフレ率の低下と合わせると、リセッション回避は金融緩和への道を開くことになります。バンク・オブ・アメリカが最近公表したグローバルファンドマネジャー調査は特に、この見方を強調しているように思われます。この、よりポジティブなムードには、地政学的リスクが続いている状況が反映されていないことはさておき、消費者信頼感が実際のマクロ状況をどの程度反映しているかについては疑問が生じます。
一方、中国はロックダウンから予想以上に急速に回復しており、欧州におけるエネルギー価格高騰のショックは予想されたほど深刻ではありませんでした。その結果、世界経済にとっての2つの主要なリスクは軽減されましたが、これらの要因はまだ、全体的な経済指標に反映されていません。200以上の幅広いデータセットに基づく弊社の経済活動指標「Macro Breadth Growth Index」は、ほぼすべての主要先進国と新興国におけるマクロ経済の悪化によってマイナスの影響を受け、1月に14カ月連続となる下落を記録しました。しかし、この点に関して、ユーロ圏(3カ月連続で改善)とインドが例外となったことは注目に値します。対照的に、米国経済がリセッション入りを回避できるかどうかは、まだはっきりしません。リスクは根強く残っているものの、米国は底堅い労働市場の恩恵を受けており、失業率は35年ぶりの低水準に下がっています。
インフレに関しては、物価上昇のペースがさらに鈍化していることから、緩和の兆しが見えています。さらに、インフレ上昇率の指標である弊社の「Macro Breadth Inflation Index」は、6カ月連続で下落しています。この傾向は、世界の消費者物価指数の上昇率が12月に6.7%(ピークは2022年第3四半期の7.8%)と軟化したことによって裏付けられていますが、根底にあるインフレ圧力は依然として非常に強いままです。
インフレ率の前年比の伸びが鈍化したとはいえ、これを持続的かつ広範にわたるディスインフレーションの兆候と考えるべきではありません。実際、過去の経験からだけでも、上昇したインフレ率は数年にわたりごくゆっくりとしか下落しない傾向にあることが分かっています。それに加え、人口動態、脱グローバル化、脱炭素化といった長期的な要因も物価を押し上げています。このほかにも、エネルギー価格や賃金上昇などが消費者に転嫁される中、インフレ要因が現在、インフレバスケットの主要な要素にも波及しつつあります。
こうした状況を考えると、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)も欧州中央銀行(ECB)も、現行の金融引き締め路線から離脱する可能性は低いと思われます。これは、性急な政策転換や金利低下への回帰を期待する人々はもちろん、誰にも歓迎されないでしょう。日本銀行でさえ、これ以上手をこまねいているつもりはないようです。イールドカーブコントロール政策を緩めようとする最近の日銀の動きは、わずかとはいえ日本の債券利回りの再上昇を可能にしており、長期にわたるゼロ金利あるいはマイナス金利環境から脱却しようという日銀の最初の一歩と解釈すべきです。
結局のところ、マクロ経済リスクは依然として非常に大きく、インフレ圧力はしばらく続くということになります。中央銀行の抑制的な金融政策スタンスは、金融市場が現在織り込んでいるよりも長く続く可能性があります。
このような状況下では、次のような株式と債券への戦術的な配分が考えられます。
- 株式と国債・社債については、市場の評価額は中立的な水準に近付いたものの、大部分についてはまだ割安とはいえません。
- 特に米株式市場は、他の市場に比べ株価の高さが際立っています。その一因は、米国株の安全な避難先としての地位にあり、そのおかげで過去にも全般的に高い株価を付けていました。
- 先行きに対する世界のファンドマネジャーの懐疑的な見方はほとんど変わっておらず、彼らは依然として慎重なポジションを取っています。同時に、バンク・オブ・アメリカの調査は、リセッションの懸念が和らいでいることを示しています。キャッシュポジションは小幅な減少にとどまり、歴史的に見れば、依然としてかなり高い水準にあります。つまり、資本市場のビッグプレーヤーは、この機会に株式のポジションを増やすはずであり、それはおそらく、このセグメントを全体的に下支えする効果をもたらすでしょう。
- 長期的な戦略的観点から見ると、株式からのリターンのポテンシャルが必要になると思われますが、短期的な戦術的観点からは、株式と債券のウェイトを中立にすることが考えられます。
今週のチャート
投資テーマ:配当-波乱な環境における底堅さ
- 新型コロナのパンデミックに見舞われた2020年以降、配当性向は回復を続けており、2022年も同様でした。ストックス欧州600指数に占める有配株の割合は、2019年のコロナ前の水準には戻っていないものの、この1年の間に伸び続け、ほぼ90%の大台に近付いています。同様に、S&P 500種株価指数では、パンデミック時に失った分をほぼ取り戻しました。
- 過去に高配当の恩恵を主に受けていたのは、欧州株の投資家でした。1978年から2022年末までを5年ごとに区切って各投資期間を分析すると、市場の下落局面において高配当が全体のパフォーマンスを安定させるのに貢献したことが分かります。5年間の年率換算リターンに基づくと、配当により、株価の下落分が部分的に補われていました。
- MSCI欧州インデックスについては、1978年から2022年末までの全期間で、配当が株式投資の年率換算トータルリターンのおよそ35%を占めました。北米(MSCI北米)とアジア太平洋(MSCI太平洋)では、配当が全体のパフォーマンスに占める割合はそれぞれ26%強と31%弱で、どちらも4分の1を上回っていました。
- 一般に、配当は企業利益に比べ変動が大きくありません。これは、ロバート・シラー氏 からのデータに基づく弊社独自の計算が実証しています。
- 歴史が示すように、配当は、新型コロナのような嵐をすべて切り抜けられるわけではありませんが、ある程度の確実性――混乱の時代において特に歓迎される――をもたらす働きをします。そうすることで、配当は、投資のトータルリターンに有意義な貢献をすることができます。