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意外な強さ見せる欧州市場
今週末に予定されているドイツの総選挙は、ユーロ圏で相反する状況が生じている中で行われます。一方では、経済指標は期待外れの結果が続いており、ドイツ政府は最近、2025年の国民総生産(GDP)成長率予想を1.1%から0.3%に引き下げました。対照的に、市場はかなり前向きになっています。欧州全体の株式指数は2月半ばまでに10%近く上昇、ドイツの代表的指数であるDAXも年初からほぼ15%上昇しており、米国の主要株価指数を大きくアウトパフォームしました。
市場は、ドイツの選挙による転換に備えているのでしょうか、それとも他の要因が働いているのでしょうか。
市場参加者の間に、選挙後の経済政策の改善を期待する向きがあるのは確かです。今回の選挙後に退陣する連立政権の末期は、不満や不信感の広がりが目立ち、ドイツ経済が抱える課題への対応能力の欠如が露呈していました。国内企業にとってより有利な方向への規制・税制政策の転換を期待する声が広がっているように見受けられます。市場ではまた、財政政策による十分な経済支援の足かせとなってきた「債務ブレーキ」の緩和期待も高まっています。
しかし、現在の欧州株のパフォーマンスについては、ドイツ国外の要因が、ドイツ国内の要因と少なくとも 同程度の影響力を及ぼしているように思われます。
第1の理由として、米国株式市場において一部銘柄への集中度が非常に高いことに加えて、ユーロ圏の景況感が上昇していることがあります。ポートフォリオリスクを意識する投資家は、キャッチアップの余地があり、バリュエーションがそれほど高くない市場への配分を増やそうとしたと考えられます。製造業景況感指数が欧州の景気循環の底打ちを示唆し始める中、こうした分散化の流れが欧州株にとって追い風になった可能性があります。
2つ目の理由として考えられるのは、市場が米新政権の行動を予測する時間を十分に持っていたことです。米国の関税引き上げが米国以外の経済活動に与える脅威は広く周知されていたため、この脅威を成長期待に織り込む余地が十分にありました。このことは、欧州株以外の市場も裏付けています。たとえばドルは、関税引き上げによるリスクを管理する手段として市場では一般にロングポジションが取られる通貨ですが、トランプ大統領の2期目の就任以来、アンダーパフォームしています。
起こりうる脅威が織り込まれていることのほか、欧州の政策決定全般の転換に対する期待も要因として挙げられます。その背景の一つに、米国の政策的取り組み、特にウクライナ戦争停戦をめぐるロシアとの対話により、欧州の政策当局者が歳出拡大と景気をより積極的に下支えする環境作りに向けた決断を迫られるという認識があります。
新型コロナのパンデミック前のトレンドと比較すると、このようなセンチメントの改善を示しています。欧州企業の収益予想は、2023年から昨年末まで、米国企業が見せた回復に大きく遅れを取っていました。しかし、ここ数カ月の間に、欧州の株価指数のアウトパフォーマンスと時期を同じくして、回復めいた動きが起こっています。少なくとも、年初来の欧州株のアウトパフォーマンスは、分散型ポートフォリオのメリットを改めて確認させる役割を果たしています。
来週を考える
週末の選挙後も、ドイツの経済指標が引き続き注目されます。Ifo企業景況感指数は、2025年初頭のドイツ経済のムードを映し出すでしょう。直近のZEW景況感指数の上昇は、改善への期待が持続する可能性が高いことを示唆しています。対照的に、第4四半期のGDP改定値は生産縮小を確認する結果となる見込みであり、労働市場のデータに失業率の何らかの改善が表れるには、まだ早いようです。週の終わりには、2月の消費者物価指数(CPI)速報値が発表され、ドイツとユーロ圏のインフレ率の減速が続いているかどうかが示されます。
ユーロ圏全体については、欧州委員会が毎月行っている景況感調査の結果がGDP予測の材料として広く使用されています。2024年は、成長の低迷を反映していたとはいえ、小幅な上昇で終えました。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が好むインフレ指標であるコア個人消費支出(PCE)が発表されます。FRBのインフレ目標をやや上回る上昇となる見込みですが、その上昇幅は2024年よりも縮小すると予想されます。つまり、前年比インフレ率は低下すると見られます。米国ではまた、耐久財受注が12月の減少からの回復を示すと予想される一方、第4四半期GDPの改定値が2025年に向けた景気の勢いをうかがう手がかりとして注目を集めるでしょう。
最後に日本では、東京CPIが発表されます。この指標は最近、経済全体がインフレ傾向にあることを示唆しています。また、成長を測る大まかな材料となる小売業販売額と住宅着工件数も控えています。
ドイツの新連理政権(願わくば、参加政党の少ない連立)の発足と政策公約が待たれます。