深いリラックスムードの市場
株式市場をざっと見ると、投資家が現在、深くリラックスしているという印象を受けるかもしれません。主要なセクターは年明けから活況といっていい状態であり、一部の市場はウクライナに対する戦争が始まる前の水準に回復すらしています。センティックスが示す投資家のセンチメントは、主要地域で上昇に転じました。特に、将来に対する期待感が大きく高まっています。インベスターズ・インテリジェンスの調査によれば、米国の個人投資家の大半は強気で、その数は増加傾向にあります。同時に、S&P 500種株価指数のネットショートポジションは低下を続けています。これは、投資家がヘッジポジションを減らしていることを意味します。さらに、世界のGoogle検索で「bull market(強気市場)」がトレンド入りしており、強気心理が目下の話題となっているようです(「今週のチャート」を参照)。
短期指標となることの多いテクニカル要因も健全です。一部の主要な株式市場では、株価指数は30日移動平均線と200日移動平均線の上を安定的に推移しています。相対力指数は、部分的に若干の過熱感を示すだけにとどまっています。コモディティ価格からのシグナルは、強弱まちまちです。ブルームバーグ・コモディティ指数は引き続き下落しており、特に原油価格は下落基調にあります。ウクライナへの攻撃とその結果生じた天然ガス不足に端を発したショックは、ガスの貯蔵水準が上昇し、ロシアに代わる新たな供給源が確保されるのに伴い薄れつつあります。欧州と米国のガス価格差は縮小に向かっており、圧力が弱まっていることを示唆しています。天然ガスにはまだ世界市場が存在しないため、両大陸の状況の違いはそのまま価格に反映されています。しかし、最近のエネルギー価格下落にはおそらく、もう一つ理由があります。成長懸念が増大し、コモディティ需要の減退に対する不安に拍車をかけていることです。
また、明るいセンチメントに覆い隠されていますが、アナリストの利益予想は下方修正される一方であり、このトレンドが反転する兆しはまだ見えていません。さらに、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏加盟国のために算出するシステミックストレス指標(Composite Systemic Stress Index:CISS) は、かなり前から上昇を続けています。セントルイス連邦準備銀行が算出する金融ストレス指数も同様です。こうした動向は、金融引き締めという背景に照らして考える必要があります。結局のところ、表面下の動きは、市場参加者が気を緩めすぎるのは禁物であることを示しています。
全世界における「bull market(強気市場)」の検索件数(Google Trends)
来週を考える
深いリラックスムードは、インフレ圧力が後退し、中央銀行がアクションを起こす必要性が低くなったおかげでスムーズに成長軌道に戻れるのではないかという期待感から生じていると思われます。この状況の中、来週発表される指標がそうしたリラックスムードを支えるかどうかが特に重要となります。来週は、今後の先行きを予測する景況感指標の発表が目白押しとなっています。まず月曜日に消費者信頼感指数が発表され、火曜日にはユーロ圏と米国の製造業購買担当者景気指数(PMI)の速報値が発表されます。これらの3つの指標は最近、楽観的な見方が強まっていることを示しており、同じく火曜日に予定されている日本のじぶん銀行PMIとは対照的です。水曜日には、焦点はドイツのIfo企業景況感指数に移るでしょう。現状判断は最近少し悪化しているものの、期待指数は改善を続けています。木曜日には、米国のシカゴ連銀全米活動指数と米国の新規失業保険申請件数が発表されます。全米活動指数は秋から冬にかけて弱くなり、最近は横ばいになっています。新規失業保険申請件数はおそらく、労働市場がタイトであることを改めて浮き彫りにするでしょう。注目の個人消費支出(PCE)デフレーターが連邦準備制度理事会(FRB)の今後の政策緩和を示唆するものになるかどうかはまだ分かりません。
全体的に、来週はセンチメント、テクニカル要因、指標の発表によって全体的な状況が乱れることはおそらくないでしょう。したがって、表面下では多少の緊張があるものの、市場参加者は引き続きリラックスして過ごせそうです。
リラックスした1週間となりますように。