Achieving Sustainability

2023年の水事情—歴史の繰り返しか、それとも単なる一致か?

乾燥した天候パターンや歴史的な水位の低下は、水のレジリエンスに関するソリューション提供企業への投資強化が緊急の課題であることを示しています。

要点
  • この冬の干ばつや全体的に乾燥した天候パターンは欧州を越えた現象であり、水不足、水質、水の利用可能性の問題に早急に対処する必要があることを示しています。
  • 自国の生活水準を維持するために、世界各国の政府は、気候変動が水の利用可能性とアクセスのしやすさに及ぼす影響に対処し、緩和する必要に迫られるでしょう。
  • この難題を解決するには、民間セクターと力を合わせて、ソリューション提供企業を支援するビジネス環境を作り出す必要があります。

水のテーマにとって波乱に富む年だった2022年

欧州全土で記録的な干ばつ、オーストラリアで洪水、インドでは4月に記録的な高温、そして世界中で森林火災が発生しました。パキスタンではモンスーンによる洪水で国土の3分の1が水没し、農業セクターが壊滅的な打撃を受け、800万人が避難を余儀なくされました。アフリカの角(つの)では3年連続でラニーニャ現象の天候パターンが発生し、ソマリアの一部が今世紀に入り2度目の飢きんとなる瀬戸際に追い込まれました1

これらはすべて、世界の気候が根本的に変化する前兆であり、地球温暖化に起因するものです。世界経済にも広範囲に影響が及ぶことが予想されますが、今後の課題に十分な準備ができているようには思えません。

予期せぬ場所でその影響が現れる可能性があります。河川の水位低下により交通機能が停止し、輸送コストが上昇しています。農業は最も大量に水を使う産業であり、世界の水消費量の70%を占めますが2、真水不足の影響を受けて、すでに高騰している食料価格にさらに圧力がかかる恐れがあります。また、水位の低下は、原子力発電所や水力発電所の発電量の低下につながり、エネルギー価格にも上昇圧力がかかる可能性があります。

2022-2023年の冬には、欧州や世界の複数の地域が厳しい干ばつに見舞われましたが、これは冬には非常に珍しい現象です。ポー川やライン川などの欧州の主要水路は、真冬にもかかわらず記録的な低水位を経験しました。スペイン、ポルトガル、イタリア、トルコなどの国々では降水量が少なく、農業用水や都市用水の供給量を減少させました。干ばつは水力発電にも影響を与えて、電力価格を上昇させ、代替エネルギー源へのニーズを高めました。アルプスの降雪不足のため、フランス、スイス、イタリアなどの国々では、春から夏にかけて融雪量が減少するでしょう。このため、2023年1月末現在の積雪水量(SWE、水に換算してどれだけの質量が雪に蓄えられているかを示す指標)は、過去10年間の平均SWEと比較して35%低い水準でした3。イタリアの河川を流れる水の約60%が雪解け水であることを考えれば、少ない降雪量は新たな干ばつの季節がもうじき到来する前触れである可能性があります。

キール世界経済研究所(IFW)の研究4によると、ライン川の低水位が30日間続いた場合、内陸水運全体が約25%制限されます。また、同じ前提条件で、工業生産は約1%減少します。

同じIFWの分析の推定によると、2018年後半の低水位の期間に、工業生産の水準は最大で-1.5%の影響を受けました。

ドイツ連邦統計局(Destatis)の報告5によると、2022年の最初の5カ月間に輸送された全貨物の86%(7,110万トンに相当)は、その全部または一部の行程をドイツで最も重要な内陸水路であるライン川を利用して運ばれています。

干ばつが深刻または進行中であり、大混乱を引き起こしてさらなる圧力を生み出している国・地域の事例

干ばつが深刻または進行中であり、大混乱を引き起こしてさらなる圧力を生み出している国・地域の事例
フランス
2022-2023年の冬に、フランスは空前の干ばつに見舞われました。干ばつは少なくとも夏の終わりまで続くと見込まれています。この干ばつは、水力発電量を減少させて電力価格の上昇を引き起こし、ウクライナ戦争とガス価格高騰の影響をさらに悪化させました6。フランスは水不足にも直面しており、一部の農家では収穫量を減らしたり、耕作地の一部を完全に耕作放棄したりする必要がありました。政府は、市民に節水と節電を呼びかけ、近隣諸国からの電力の輸入を増やす7など、状況に対処するための措置を講じています。しかし、専門家の警告によれば、これらの対策は十分ではない可能性があり、フランスは代替エネルギー源に投資を行い、将来の干ばつに備えて水の管理方法を改善する必要があります。エマニュエル・マクロン大統領は、水をもっと注意して使うよう消費者に呼びかけるとともに、「豊かさの終わり」を宣言しました8。政府は、地下水源からの取水量を10%削減することで、深刻化する水不足に対処する意向です。これは、年間40億立方メートルの削減に相当します9。計画されているもう一つの対策は漏水防止です。漏水はフランスにおける水の損失全体の20%を占めています10
イタリア
イタリアも同様に厳しい干ばつに苦しんでいます。その結果、農業用水や生活用水の利用可能量が大幅に減少し、給水制限や食料価格の高騰につながっています。干ばつには、気候変動、降雪量の減少(前述)、不適切な水の管理方法など、さまざまな要因が絡んでいます。政府はこの状況に対処するため、影響を受けた地域への水の供給の増量、水インフラへの投資、節水活動の推進などの取り組みを開始しています。これらの取り組みは、排水処理、水道施設の改善、主要な水関連インフラの更新、農業セクターの灌漑システムの近代化に特化した、44億ユーロの復興計画基金を活用するものです11
スペイン
スペインにおける平均利用可能水量は1980年から12%も減少しており、さらに2050年までに14~40%減少する可能性があります12。これにより、スペイン政府は水消費量の節減を目的とした新たな干ばつ対策を導入するに至りましたが、水への依存度が高い農家や企業などの間で懸念が生じています13。この対策には、灌漑に利用可能な水量の削減が含まれており、農業セクターにおける大量の雇用損失につながる恐れがあります。スペインは、近年たびたび深刻な干ばつを経験してきましたが、干ばつによって作物に大きな被害がもたらされ、水不足への懸念が高まりました。政府の危機対応は不十分であると一部では批判されています。また、多くの人が、気候変動や持続可能性の低い農法など、干ばつの根本的な原因に対処するために取り組むべき課題が多くあると主張しています。
地域へのフォーカス:カタルーニャ州

2023年3月上旬以降、カタルーニャ州政府は、水の供給量が激減したために厳しい水の使用制限を行っており、224自治体のカタルーニャ州民約600万人が影響を受けています14

今回行われた節水対策は次のとおりです。

  • 農業用水使用量の40%削減
  • 工業用水使用量の15%削減
  • 住民の水使用を1日あたり230リットルに制限
  • 点滴灌漑またはじょうろによる以外は公園や庭園(公共・民間ともに)における散水禁止
トルコ

報告によると、今冬トルコは記録上最も乾燥した冬となっており、多くの地域では平年の降水量のほんの一部しか雨が降っていません。このため、干ばつや水不足が懸念されており、作物の栽培を灌漑に頼る農家にとっては特に問題です15。政府は、節水技術の奨励や水管理を改善するためのインフラ投資など、対応措置を講じています16。しかし、水の無駄遣いの抑制や、農業の効率性の向上など、長期的な水の安全を確保するために取り組むべき課題は多いと専門家は警告しています。総投入水量の43.6%が「無収水」(漏水、パイプの破損、不正確な水道メーター、盗水などが原因で失われている水のこと)である17という事実を考慮すれば、そのような対策の緊急性は明白です。

アフリカの角(つの)

アフリカの角は、数十万人が命を落とした2011年の飢きんよりもさらに深刻な干ばつの傾向に直面しています18。最も影響を受けているのは、エチオピア、ケニア、ソマリア、ウガンダです。アフリカの角には、エチオピア高原に「アフリカの給水塔」と呼ばれる地域があります。この地域には、アフリカ最大のインフラプロジェクトで、アフリカ最大の6,000メガワット級水力発電所である「大エチオピア・ルネサンスダム」があります19

青ナイル川にあるこの水力発電プロジェクトは、エチオピアと、農業や発電をナイル川の水流に依存する下流の隣国エジプトとの緊張関係に再び火をつけました。エチオピアは、このダムについて国家の根幹に関わる重要性を主張していますが、エジプトは、ダムが自国の水の安全保障に対する極めて重大な脅威であると考えています。当地域における現在の干ばつのパターンは、両国間の地政学的緊張を悪化させ、水をめぐる将来の紛争の前触れとなる恐れがあります。

水関連の投資支出に対するニーズの高まり

温暖ながら乾燥した欧州の冬が春に変わる中、水関連の問題は引き続きメディアなどで大きく取り上げられています。水関連インフラへの投資は、再び投資家の注目を集め、政治的議題となっています。したがって、水のテーマは投資家にとって長期的な成長機会であり続けると弊社は考えます。水の需給の不均衡が現行水準から拡大すると見込まれる中、生活水準を維持しつつ気候変動の課題に対処するためには、水関連産業のバリューチェーン全体に沿って対象を絞った投資を検討し、増やしていくことが重要です。

幸いなことに世界的に水関連の支出は増加しており、政府、企業、農家ともに緊急に設備投資を行う必要性を認識し始めています。もう一つの朗報は、漏水の修理や水の無駄遣いの抑制といった迅速な成果は、比較的少ない労力でどこでも実現可能なことです。多くの場合、そのようなレジリエンスの問題に必要なソリューションを提供しているのは、有名企業です。ある大手農機具メーカーは、第1四半期における業績の大きな伸びを発表しましたが、これは農機具セクター全体にとっての先行指標と見ることが可能です。

弊社の見解では、水関連企業の健全なファンダメンタルズや、さらに興味深いバリュエーションの水準を踏まえると、水関連企業への投資の見通しは全体的に非常に魅力的です。当セクターで最近見られるM&Aの動きは、中期的に健全なビジネスが期待されていることのもう一つの指標といえます。個々の企業の利益は、今後数カ月間にわたって特に重要な役割を果たし、アクティブ運用のマネージャーにとって好ましいシナリオを生み出す可能性が高いでしょう。全体的に見て、弊社は、市場参加者が銘柄、セクター、国レベルで「勝ち組」と「負け組」を区別する傾向を強めるとともに、テーマや銘柄をアクティブに選択するアプローチが役に立つものと考えます。同時に、市場のバリュエーションはその多くが1年前よりもはるかに魅力的です。

したがって、弊社では、水不足や水質の問題に対して、質とレジリエンスの面でソリューションを積極的に提供し、水資源の持続可能性の向上に貢献する企業に投資機会があると考えています。

1. UNHCR Impact of Drought on Protection in Somalia, October 2022
2. https://www.oecd.org/agriculture/topics/water-and-agriculture/
3. https://www.rinnovabili.it/ambiente/cambiamenti-climatici/livelli-nivologici-alpi/
4. https://www.ifw-kiel.de/fileadmin/Dateiverwaltung/IfW-Publications/Saskia_Moesle/KWP_2155_low_water_econ_activity.pdf
5. https://www.destatis.de/EN/Press/2022/08/PE22_N053_463.html
6. https://www.cleanenergywire.org/news/catastrophic-winter-drought-france-bodes-ill-europes-power-production-2023
7. Ibd.
8. https://www.euronews.com/2023/02/25/macron-says-it-is-the-end-of-water-abundance-as-he-opens-french-agricultural-show
9. https://www.connexionfrance.com/article/Practical/Environment/Water-management-expert-throws-doubt-on-French-minister-s-drought-plan
10. Ibd.
11. https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/P-9-2022-002655_EN.pdf
12. https://www.lamoncloa.gob.es/lang/en/gobierno/councilministers/Paginas/2023/20230124_council.aspx
13. https://newseu.cgtn.com/news/2023-02-10/Water-scarcity-Spain-s-new-drought-measures-threaten-mass-job-losses-1hjwF1AeZTa/index.html
14. https://elpais.com/espana/catalunya/2023-02-28/cataluna-amplia-las-restricciones-de-agua-a-seis-millones-de-personas-ante-la-peor-sequiadel-siglo.html
15. https://www.dailysabah.com/turkiye/turkiye-fears-droughts-amid-lowest-rainfall-this-year/news
16. Ibd.
17. https://www.researchgate.net/publication/309486811_Urban_Water_Losses_Management_in_Turkey_The_Legislation_and_Challenges
18. https://www.aljazeera.com/news/2023/2/22/drought-in-horn-of-africa-worse-than-in-2011-famine-experts
19. htttps://www.amacad.org/sites/default/files/publication/downloads/Daedalus_Fa21_09_Verhoeven.pdf
20. https://www.weforum.org/impact/sustainable-water-management/

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