米国の銀行:ファースト・リパブリック・バンクの破綻後に注目すべき5つの要因

2カ月の間に3つの銀行破綻が世間を賑わせたことで、投資家は米国の銀行セクター全体の健全性に注意深い目を向けるようになっています。弊社では、最近のファースト・リパブリック・バンクの救済により、破綻連鎖のリスクは和らぐとみています。しかし、他にもニュースで取り沙汰されている銀行があることから、今後もストレスが待ち受けている可能性があります。本稿では、「デジタル取り付け」リスクの高まりをはじめ、これからの数カ月にわたって注視すべき5つの要因を取り上げます。

要点
  • 米国の地方銀行が最近、深刻な問題に見舞われていることを受け、米国の銀行セクターの健全性に対する注目が強まっています。
  • 投資家は、融資の引き締めの影響や信用損失の規模など5つの要因について、さらなる圧力の兆候がないか注意深く見守る必要があると思われます。
  • 今回のストレスはまた、デジタル時代において、取り付け騒ぎのリスクから身を守ることが次第に難しくなっていることを浮き彫りにしています。

何が起こったのか?

3月のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャーバンクの破綻に続き、ファースト・リパブリック・バンクも最近、米国の銀行セクターにおけるストレスが原因で破綻しました。ファースト・リパブリックが第1四半期に1,000億米ドルあまりの預金が流出したことを明らかにした後1、規制当局が介入し、JPモルガン・チェースへの資産売却を促しました2。これは、2008年の金融危機以降最大の米銀の破綻となりました。この救済後、米国の他の地方銀行の株価も下落しています3

このセクターの今後は、どうなるでしょうか。

弊社の見解

ファースト・リパブリックの資産がJPモルガンに売却されたことにより、米国の銀行セクターに危機が広がるリスクは低下したと考えられます。この買収が発表された後のコメントで、JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者は、さらなる銀行破綻の懸念を払拭しようと努めました4。同氏が指摘した通り、保険対象外預金残高と、米国の急速な利上げによって価値を失った長期固定金利資産の両方を大量に抱えている米国の銀行は、ファースト・リパブリックとSVBを除けば比較的限られています。残る4,500の米銀の中には、依然として追加の支援を必要としているところや、その後新たに世間の注目を集めているところもあることを考えると、ファースト・リパブリックの買収は、現在のパニックに終止符を打つものではないかもしれません。しかし、うまくいけば米国の大手銀行の健全性をめぐる懸念の収束の始まりとなります。

とはいえ、高金利環境によるストレスの中、今後数カ月にわたり、米国の銀行システム全体において5つの領域を注意深く見守る必要があると思われます。

米国の銀行システムにおいて注視すべき5つの領域

  • 融資引き締めの影響:
    銀行のビジネスモデルは、預金を受け入れ、融資として貸し出すことで成り立っています。米連邦準備制度理事会(FRB)による積極的な利上げのサイクルの結果、現金が再び価値を持つようになり、多くの預金者は国債やマネー・マーケット・ファンド、ノンバンク商品などが提供する高い金利に引き付けられています。同時に、量的引き締めは、銀行システムから預金を流出させる働きもしています(図表1参照)。こうした要因の結果、銀行は預金を確保するためにより多くのコストを負担しなければならなくなり、利益率の低下と融資意欲の抑制につながっています。この利益率の低下の可能性から、昨年が米国の銀行にとっての「ピーク」だったのではないかとの見方も出てきました。より広い観点から見ると、結果として生じる信用供与の引き締めは、経済全体にも影響を与え、企業や家計の投資能力を制限する可能性があります。

    図表1:米銀の預金残高(単位:10億米ドル)
    図表1:米銀の預金残高(単位:10億米ドル)

    出所:全商業銀行の預金残高。データは、連邦準備制度理事会による。セントルイス連邦準備銀行から取得。2023年5月2日現在のデータ。

  • 信用損失の規模:
    ここ数四半期、銀行融資の債務不履行―信用損失とも呼ばれる―がじわじわと増えています。新型コロナ渦では、パンデミック当初の段階で実施された大規模な財政刺激策に支えられて信用損失が歴史的な低水準となり、その後経済が再開してからも、低い失業率、堅調な賃金の伸び、新型コロナ時代に蓄積した貯蓄に助けられ、低水準にとどまっていました。しかし現在、サブプライムの自動車ローンやクレジットカードなど、借り手のストレスの先行指標となる領域において特に、信用損失の水準が上昇しています。重要な問題は、信用損失がどこまで増大するかということです。
  • 不動産ストレスの深さ:
    米国の銀行システムが保有する商業用不動産債務のうち、オフィスはおよそ4分の1を占めています。在宅勤務の増加によるオフィスの価値の下落と金利上昇は、規模の割にこのセクターに大規模なエクスポージャーを積み上げている銀行にとってストレスとなる可能性があります。銀行システム全体では、信用損失は対処可能と思われます。しかし、大手銀行のエクスポージャーは限られている一方、このセクターに積極的に貸し出してきた一部の中小銀行は、この信用サイクルを乗り切るために今後数年、苦戦するかもしれません。
  • 未実現損失の大きさ:
    金利の上昇に伴い、銀行が保有している証券の多くは、その市場価値が低下しています。同様に、固定金利の銀行融資の多くも、その公正価値が低下しています。多くの銀行は、財務諸表上で公正価値(時価評価額)の減損を認識していないため、これらのリスクが実現した場合の自己資本への影響について、いささか懸念が生じています。すべての銀行が一様にこの問題に直面するとは考えられないものの、一部の規模の小さい地方銀行に影響する可能性のある領域です。
  • デジタル取り付けのリスク:
    デジタル時代では、取り付け騒ぎのリスクから身を守ることが次第に難しくなっています。預金者はどこからでも即座に口座から口座へ現金を移動することができ、ソーシャルメディアは懸念や噂の素早い拡散を可能にしています。規制当局と銀行は、預金者が現金を移動しやすくなっているという課題に対処する必要があるでしょう。

2カ月の間に3つの銀行が破綻したことで、経済全体の健全性のカギを握る銀行セクターに対する投資家の信頼は揺らいでいます。全体的に、米銀は2023年末まで厳しい状況に直面すると思われます。利益率がおそらくピークを打ったことに加え、ローンの伸びが減速する可能性が高く、信用コストが上昇しています。

こうした銀行破綻を受け規制当局が、銀行に自己資本の積み増しを求めたり、より厳格なストレステストの対象を拡大したりと、より厳しい規制を課す可能性が高まっています。こうした措置は、銀行の利益をさらに圧迫することになるでしょう。規制当局による迅速な行動は、危機が広がるリスクを軽減するのに役立っており、JPモルガンによるファースト・リパブリックの救済はうまくいけば、この危機の局面の収束、あるいは少なくとも収束の始まりとなります。

しかし、米国の預金者と投資家は銀行の安全性について、ここ10年以上で最も神経をとがらせています。本稿で取り上げた要因は投資家にとって、将来のストレスの兆候を探るための指針となるでしょう。

1 出所:FRB Earnings Release Q1 2023 (firstrepublic.com). Excludes $30bn deposit made by consortium of other banks during March 2023.
2 出所:FDIC: PR-34-2023 5/1/2023
3 出所:Jamie Dimon to investors: ‘This part of the crisis is over’ | Fortune
4 出所:Jamie Dimon to investors: ‘This part of the crisis is over’ | Fortune

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