Sustainability | Impact investing
プライベート・マーケットへの投資がもたらすインパクトの管理・測定
プライベート・マーケットを対象とするインパクト投資に配分される資本が増えるなか、インパクトの創出状況を確実かつ信頼できる方法で測定することが不可欠になっています。そのための明確なフレームワークを投資プロセスに組み入れることも可能でしょう。本記事ではアリアンツGIが定めた、効果的なインパクト・インテグレーションを促すための原則と構成要素を紹介します。
ただ、確実性、透明性および信頼性の高いインパクト測定・管理方法の策定は、こうした目覚ましい進展に追いついていない状況です。グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)がインパクト投資家を対象に実施した2020年の年次調査では、インパクトの測定・管理はインパクト投資における重要課題の第2位に挙げられています。また、今後5年間に予想される将来的な課題について質問したところ、「インパクト・ウォッシュ」を重要課題に挙げた回答者の割合が圧倒的に多い(66%)ことがわかりました。
アリアンツGIは2021年、重大なポジティブインパクトの創出に貢献している投資先企業のデューディリジェンスと選定を容易にする独自のインパクト・フレームワークを導入しました。それは、インパクトが確実に創出されるよう、投資のライフサイクルを通じてインパクトの確実な測定・管理を可能にするための手法です。
アリアンツGIのインパクトフレームワークはプライベート・エクイティ/デット投資に幅広く適用可能です。弊社の投資商品は多様な資産クラスに及ぶため、全ての商品に共通するインパクトの定義を設けるだけでなく、商品固有の特性に合わせられる柔軟性を備える必要がありました。
アリアンツGIインパクト・フレームワークの4つの構成要素
弊社のインパクト管理・測定方法は業界内の主な原則および基準に則っており、弊社の投資商品のライフサイクル全般で統一されています(図1参照)。
I. 国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿う重要な社会的課題を対象にインパクト目標を設定しています。
II. 「インパクト・マネジメント・プロジェクト」が定めたインパクトの5つの性質に基づく独自のインパクト・スコアリング・システム(詳細は下記を参照)を使って、投資候補先がもたらすインパクトの重要性と付加性を評価しています。インパクト投資の意思決定に関する情報を開示するため、弊社の投資委員会が行う投資先選定プロセスにこのインパクト・スコアリング評価を組み入れています。これは、インパクト目標の達成に大きく寄与することが期待されます。
III. インパクトの測定と報告に用いる中核的な主要目標達成指標(KPI)については、国連のSDGsやGIINのIRIS+と可能な限り整合性のとれるものを選んでいます。インパクトの創出状況を提示し、投資先企業への積極的なエンゲージメント活動を報告することで、実現可能な範囲でより大きなインパクトの創出を目指します。
IV. インパクト創出方法の強化に向けて継続的なテスト、学習および市場構築に取り組んでいます。60Decibelsをはじめとする有力なインパクト測定機関との提携を通じて、インパクト測定方法をテストし、市場構築の取り組みを後押ししています。例えば英国CFA協会の「Impact and Investing Panel」のメンバーとして、先駆的なインパクト投資の適格基準の策定に関与しています。弊社の投資戦略に幅広くインパクトフレームワークを導入する過程では、顧客に代わって自らの経験から学び、独自のプロセスと手法を発展させています。
図1:アリアンツGIインパクト・フレームワークの主な構成要素
出所: Allianz Global Investors
アリアンツGIのインパクト・スコアリング・システムの原則
- プライベート・マーケットの様々な資産クラスや投資戦略に対応可能な柔軟性を取り入れたインパクト評価プロセスの一貫性
- ポジティブとネガティブ両面の潜在的インパクトを考慮
- データとエビデンスを活用してインパクト創出の信頼度を向上
- 全ての投資先が創出するインパクトの重要性と付加性の比較を可能に
弊社は、2つの重要な構成要素について、インパクトへの貢献度を一貫した方法で評価しています。
– 企業によるインパクト:企業または事業が社会および/または環境に及ぼすインパクト。特に、企業/事業の中核となるビジネスモデルが(社会で実証されているニーズに対応しているか、環境に明確な利益をもたらすことによって)重要かつ測定可能なプラスの変化を生んでいるかどうかを重視しています。
– 投資家による貢献:投資先企業・事業によるインパクトの創出に投資家が貢献する方法は、資産クラスや投資戦略によって異なります。そのため、投資家としてインパクト創出に貢献するための様々なインセンティブを提供できるようインパクト・スコアリング・システムを調整しています。
例えば、弊社がリミテッド・パートナーとしてプライべート・エクイティのインパクト投資ファンドを通じた間接投資を行う場合、リミテッド・パートナー・アドバイザリー・コミッティ(LPAC)またはインパクト・アドバイザリー・カウンシルのメンバーとして、ファンドマネジャーと協調してインパクト投資のテーマを決めることで追加性を確保できるでしょう。債務に直接投資する場合は、資金の使途やインパクトの情報開示要件をめぐる交渉を行い、それが融資契約に組み込まれることが貢献につながるでしょう。そうした要件を課すことで、融資された資金はインパクトを生む活動に使われ、そのインパクトも確実に測定されます。
アリアンツGIが開発金融機関(DFI)との共同投資で運用することの多いブレンド型商品では、パートナーは独自のインパクト評価フレームワークを使って潜在的な投資機会がもたらすインパクトのデューディリジェンスを行うことがあります。その場合、弊社の投資対象が重要なインパクトを創出する能力を確保できるよう、パートナーと連携してインパクト目標と評価フレームワークが全体的に整合的であることを確認します。資金面の貢献については、アリアンツGIがストラクチャード・ファイナンスの手法(リスクレベルの異なる資産から金融商品を組成)で培った専門ノウハウを生かし、新興市場における機関投資家とDFIとの共同投資を実現しています。結果的に、こうした新たな資金は国連のSDGs達成に向けた年間資金不足額の縮小に寄与しています。
図2:インパクトスコアリングシステムの構成要素
出所: Allianz Global Investors
ポジティブとネガティブ両面のインパクトの発生経路を特定し、重大なネガティブ・インパクトが生じる可能性を弊社のインパクト評価に適正に反映させることが重要です。例えば、受講者の雇用適性とそれに伴う賃金水準を向上させるために有効であっても、受講者に金銭的負担を強いるような技能訓練プラグラムがあるとします。価格が手ごろで質の高い技術訓練プログラムに比べて、弊社がそれらに付与するインパクトスコアは低くなります。
弊社は独自のインパクト投資アプローチの実践に加え、リスク評価の一環として環境/社会/ガバナンス(ESG)リスクの評価・管理を行い、投資開始後もこれらのリスクを継続的にモニタリングしています。
今後ポートフォリオに組み入れる可能性のある企業の商品・サービスの質と投入状況(重視する地域、ターゲット年齢層など)によって、投資テーマが同じでも創出されるインパクトは大きく異なることがあります。そのため弊社は、単に将来性のあるテーマ(教育など)に基づいて投資先を選定するだけでなく、可能であれば投資先固有のデータとエビデンス(教育商品が受講生にとってより有益なアウトカムを生むことを示す証左の有無など)を活用してインパクトの可能性を評価しています。投資先が創出する最も重要なインパクトは必ずしも直感的なものではありません。入手可能な最良のデータとエビデンス(独立調査、商品固有のライフサイクル評価、サービス固有の顧客調査、業界基準など)を可能な限り活用することで、投資先によるインパクト創出が可能であるという確信をより深めることができます。
弊社は投資先企業・事業がネットポジティブインパクトを創出する可能性があるか否かだけでなく、インパクトの重要性と社会に及ぼす付加的な効果も把握することを目指しています。重要性のレベルを評価するため、入手可能な最良のデータとエビデンスをもとに、特定したインパクトの発生経路(環境面では推定される二酸化炭素排出量や水使用削減量/節水量、教育面では受講生獲得数や学習成果または増益率の向上)に沿って、潜在的インパクトのレベルを可能な限り定量化しています。
また、市場における類似商品・サービスの競争レベル、市場の成熟度と浸透度を評価することでインパクトの付加性を考慮しています。インパクト創出という観点から商品・サービスの差別化がより進み、特定の状況で導入される類似商品・サービスの市場浸透度が低いほど、潜在的な付加性は高くなります。こうした分析をもとに投資機会を比較することで、いかに目標とする金銭的リターンと最大のインパクトを同時に創出できるか知ることができます。
実例:インパクト・スコアリング・システムの活用
弊社はデューディリジェンスの過程で、①当該企業または事業が社会および/または環境にもたらすインパクトと②インパクト創出に向けた投資家の貢献度―を評価し、インパクトへの貢献度を示す総スコアとして集計しています。その結果と経済的な考慮事項を併せて投資委員会の意思決定に反映させています。
図3:インパクト・スコアリング・システムの実用例-フィナンシャルインクルージョンをテーマとする投資
このインパクト評価プロセスによって、投資候補先がもたらすインパクトの優劣を把握することができます。弊社は投資先のライフサイクルを通じて、最新のエビデンスとデータをもとにインパクト評価を常に更新し、ポートフォリオ全体でインパクトの創出が進んでいるかどうか追跡しています。各投資先がもたらすインパクトの過不足を把握することで、ファンドマネジャーおよび投資先企業と連携しながら課題解決や今後の投資機会の開拓に必要な知識形成を進められるようになります。
アリアンツGIのプライベート・マーケット・インパクト・チームがこのインパクト・フレームワークを策定した背景には、プライベート・エクイティおよびデットへの直接/間接投資やブレンド・ファイナンスのスキームを通じて具体的かつ現実的なインパクトを創出していくことへのコミットメントがあります。我々がサステナブルおよびインパクト投資において重視する3つのテーマ①気候変動②プラネタリー・バウンダリー③包摂的な資本主義―の全てで、環境および社会にポジティブで測定可能なアウトカムを生み出すことを目指しています。
1 2021年11月のブルームバーグ記事「Buyout Giants Rebrand as Forces for Good While Seeking Profits」
2 グローバル・インパクト投資ネットワークによる2020年の「Annual Impact Investor Survey」
3 「インパクト・マネジメント・プロジェクト」。インパクトの5つの性質
4 IRIS+は、インパクト投資家が創出するインパクトを測定、管理、最適化する際に広く用いられているシステムで、グローバル・インパクト投資ネットワークが開発。IRIS+システム
5 パンデミック発生以前でも、途上国ではSDGs達成のために年間2.5兆ドルの資金ギャップが発生。パンデミックによってそのギャップはさらに推定1.7兆ドル拡大(OECDの「Global Outlook on Financing for Sustainable Development 2021」
6 ライフサイクルアセスメント(LCA)は、ライフサイクル全体を通じて商品・サービスがもたらす可能性のあるインパクトを体系的に分析する手法