Sustainability

インパクト・プライベートクレジット:利益以上の価値を追求する投資

投資家は、インパクト・プライベートクレジットという、新たに台頭しつつあるアセットクラスを通じて、世界経済が抱える喫緊の課題の解決に貢献することができます。このアセットクラスは、利益だけでなく、人々や地球も考慮に入れた幅広い視点から見た事業価値に焦点を当てるものです。

要点
  • 格差、気候変動、新型コロナなどのさまざまな社会的課題を受け、投資家は、ポジティブな変化を起こす方法に関心を寄せるようになっています。
  • インパクト投資は、ESG(環境・社会・ガバナンス)アプローチを超える手法であり、持続的かつ重要な、ポジティブな変化を生み出す企業に絞って投資します。
  • インパクト投資はエクイティを通じてのみ可能であるという大多数の見解とは裏腹に、インパクト・クレジットは、気候変動などの大きなグローバルな課題への革新的でターゲットを絞った効果的な対応方法として注目を集めています。
  • インパクト・クレジットでは、ポジティブな財務リターンだけでなく、重要かつ測定可能な環境・社会的インパクトをもたらす企業に資金を提供します。

気候変動、社会的包摂、新型コロナのパンデミック。こうした喫緊の多様なグローバルな課題は、食料・水の安全保障から格差、医療と教育へのアクセスまで、さまざまな問題を浮き彫りにしています。そして、これらをはじめとする多くの社会的・環境的課題に対処するために、自らの資本を活用したいと考える投資家が増えています。

インパクト投資への関心が高まっている背景には、こうした問題への注目があります。従来、インパクトは、専門的なインパクト・エクイティ投資1と結び付いていました。ここ最近では、あまり知られていないインパクト投資の一分野である、インパクト・クレジット(インパクト・デットとも呼ばれる)も関心を集めています。

どちらも、金銭的な利益だけでなく、環境や社会に測定可能なメリットをもたらすことに重点を置く企業やプロジェクトへの資金提供を優先するものです。適切な見返りがあれば、インパクト・プライベートクレジットは、伝統的な金融機関が無視するようなプロジェクトや融資を断るようなプロジェクトにも資金を提供することができます。

ESGを超える投資アプローチ

インパクト投資は、ESG(環境・社会・ガバナンス)アプローチを超える投資手法です。ESGアプローチは、投資プロセスの標準的な一部になりつつありますが、企業の業績を、財務的なリターンにも大きなインパクトを与える可能性のある、さまざまな非財務的な指標に照らして測定します。インパクト投資はさらに進んで、財務的なリターンを、企業の業績を測定する一つの要素にすぎないものとして扱います。ファンドマネジャーは、財務的なリターンだけでなく、ポジティブかつ測定可能な変化を社会と環境にもたらす事業やプロジェクトにのみ投資を行います。また、ESGは主に上場企業における変革の枠組みとして注目を集めていますが、インパクト投資では、より幅広く、上場企業以外の企業も対象になる可能性があります。

インパクト投資のソリューションの一部として登場したインパクト・プライベートクレジット

インパクト投資は、世界経済と社会を悩ませる危機に対応したいという投資家の思いに押されて、この20年で勢いを増しています。

インパクト投資の運用資産は、1.2兆米ドルに達しています2。多くの場合、インパクト投資と最も密接に関連しているのはプライベートエクイティで、新型コロナのパンデミックをきっかけに、社会が抱える課題に対する認識が高まったことを受けて、インパクト・プライベートエクイティ・ファンドが大きく伸びています。その一方で、プライベートクレジットに対する注目も高まっています(図表1)。投資家は、利益だけでなく環境と社会のために価値を実現することにコミットしている企業やプロジェクトに融資する資産運用会社と協力することによって、自らの価値観、そして財務的な目標に沿った投資戦略の構築に取りかかることができます。

ブレンド・ファイナンス3などの組成テクニックも、新興市場や新興技術におけるインパクトプロジェクトに大規模な資本を動員するための手段として、アセットオーナーに支持され始めています。

このアセットクラスの大半は、環境サステナビリティや金融包摂、ヘルスケア、教育、食料の安全保障、社会的インフラなど、変革が最も急がれるセクターに焦点を当てています。



図表1:プライベートデット(プライベートクレジットとも呼ばれる)によるインパクト資金の調達額は、プライベートエクイティを通じた資金調達額を下回る

図表1:プライベートデット(プライベートクレジットとも呼ばれる)によるインパクト資金の調達額は、プライベートエクイティを通じた資金調達額を下回る

出所:Phenix Capital 2023 Impact Fund Universe Report. 注:データにオセアニアは含まれていない。2023年1月31日現在のデータ。

地味な始まり:インパクト・プライベートクレジットの進化

インパクト投資のルーツは、信仰に沿った投資をしたいという18世紀のメソジスト教徒とクエーカー教徒の考え方から、非倫理的とみなされるセクターや企業を排除しようという公民権時代の活動家の運動まで、過去のさまざまな社会的責任投資の動きに遡ることができます。

同様に、プライベートクレジットも、世界金融危機後、ディストレスト債務などに焦点を当てたニッチな商品からより主流な商品へと進化しており、今日では農業から再生可能エネルギーまであらゆるものに資金を提供するために使われています。プライベートデットは、グローバルインパクト投資ネットワークの定義によれば、大規模なシンジケート団を組成するのではなく少数の投資家のグループで、債券の発行や融資を引き受けます。インパクト・プライベートクレジットは、この2つのトレンドを一体化した、パブリック市場では取引されない資金調達手段です。

また、需要も高まっています。フェニックス・キャピタルが2022年5月に公表したレポート4によれば、プライベートデットのインパクトファンドが計画している資金調達額は320億ユーロに上り、公募債や上場株式に投資するインパクトファンドの合計額を上回っています。

借り手は、非銀行利用者層と恵まれない層を支援

インパクト・プライベートクレジットは、先進国・新興国を問わず、多種多様な企業とプロジェクトを支援することができます。たとえば、さまざまな産業に低炭素サービスを提供する企業や、恵まれないコミュニティでのインフラプロジェクトなどです。銀行に代わる金融サービスに依存する中小企業や社会層に融資するマイクロファイナンス機関も、借り手となる可能性があります。

そうしたマイクロファイナンス機関は、他の資金源からは十分な資金を調達できないことがあります。その理由として、彼らが成長資金を必要とするアーリーステージの企業であることや、銀行などの伝統的な融資機関では、融資先が従来型の事業分野の企業に限定されていることなどが挙げられます。

その他に、インパクト・プライベートクレジットの借り手には、特定のインパクト関連の目標に必要な資金を調達するために初めて借り入れによる資金調達を目指している企業も含まれます。

インパクト・プライベートクレジットはまた、堅実な財務基盤を持っているものの、厳しい市場環境が原因で流動性問題に苦しんでいる企業のための救済融資という形を取ることもあります。

救済融資に対する需要は、先進国・新興国の両方で、高成長を遂げているハイインパクトの中小企業の間で特に強いかもしれません。投資家が従来型のアセットクラスへの配分比率を高める傾向にある現在の市場環境では、このような企業は借り入れによる資金調達に支援を必要とすることがあります。インパクト・プライベートデットは、このような状況を変えることができます。



図表2:特定のセクターで事業を行っている企業の場合、貸し手は、提供した資金がもたらすインパクトを測定するKPI(重要業績評価指標)を設定できる

図表2:特定のセクターで事業を行っている企業の場合、貸し手は、提供した資金がもたらすインパクトを測定するKPI(重要業績評価指標)を設定できる

1. インパクトの管理、測定、最適化のためのシステムとして広く受け入れられているグローバルインパクト投資ネットワークのIRIS+システムに沿ったKPI
2. 状況に応じて、サービスが行き届いていない顧客には、低所得層や、十分に対応されていない特定のニーズを抱えるマイノリティなどのグループが含まれます。
3. インパクトの5つの次元とは、Who(誰が)、What(何を)、How much(どれだけ)、Contribution(貢献)、Risk(リスク)です。
4. インパクト・マネジメントのフレームワークは、インパクトへの配慮を確実に投資に統合するための枠組みである、「インパクト投資の運用原則」を活用しています。

変革の実現と調整のためのインセンティブ

借り手に定期的な財務報告と特定の財務基準(財務制限条項)の遵守を求めることは、貸し手が借り手の財務パフォーマンスを監視し、影響を与える一般的な方法の一つです。貸し手は、環境・社会課題のために資金を提供する際にも、同様のアプローチを取ることができます。つまり、資金の使途が守られるようにし、インパクトの創出を加速するインセンティブを与えるために、インパクト報告の要求とインパクトに関する条項を貸付文書に盛り込むということです。この一例として、企業の経営陣と協力して、技能向上研修を受けた人数や企業の顧客が削減した二酸化炭素排出量といった、具体的なインパクトKPIとターゲットを策定することが考えられます(図表2参照)。.

持続可能性に関する課題への取り組みの進歩にインセンティブを与えるもう一つの手段に、ESGとリンクしたマージンラチェット(margin ratchet)というものがあります。これは、炭素強度から男女の賃金格差の解消まで、さまざまな所定の指標に照らした借り手企業のパフォーマンスの向上に連動して貸付金利のマージンを下げる仕組みです。

代替手段としてのプライベートクレジット

プライベートクレジットには、投資家と投資先企業の両方にとって、プライベートエクイティとパブリックデットを上回る利点がいくつかあります。

投資家にとっての利点:

  • インパクトと財務目標の達成に役立つこと。前者には、経営環境が悪化している国・地域の中小企業で、堅実な事業を行っているもののパブリックな資本市場にアクセスできない企業への貸付や、持続可能な社会・気候対策プロジェクトの支援などがあります。
  • 成長途上にある事業への投資を増やす機会となり、上昇益の恩恵を受けられること。
  • 分散効果:プライベートクレジット投資は、流動性が低い性質上、パブリックな資本市場との相関性が低く、市場が乱高下してもリターンのボラティリティが低い傾向にあります。
  • 下落局面において公開市場よりも回復率が高い5一方、貸し手の数が少ないため、債務再編の複雑さを緩和できること。

企業にとっての利点:

  • 企業のニーズに合わせた融資ソリューションと、会社の成長段階を通じて調整可能な投資アプローチ。
  • 保有する株式が希薄化せず、事業の支配権を明け渡す必要がないため、特に創業者が経営する企業にとっては、魅力の高い選択肢になりうること。
  • パブリック市場に比べて資金調達のストラクチャが柔軟で、企業の中短期の目標に合わせて資金調達を調整することが可能であり、株主へのリターンを高めるのに役立つこと。

適切なアプローチを狙う

ポジティブな変化を実現する可能性を最大限に高めるため、投資家には、リターンだけでなくインパクトの達成を確実にする堅固なインパクト手法が必要です。アリアンツ・グローバル・インベスターズのインパクトフレームワークは、4段階からなるアプローチを通じて、投資のライフサイクル全体にわたりインパクトを統合しています6

  1. インパクト目標の設定:投資戦略において、国連持続可能な開発目標(UN SDGs)7に沿った重要な社会的課題への取り組みを確実にする。
  2. インパクトの重要性と追加性の評価:弊社のインパクト・スコアリング・システムを適用し、投資先の選定と投資決定の判断材料にする。
  3. KPIの特定:インパクトがもたされたことを証明するための測定・報告の指標になるとともに、可能な場合、より大きなインパクトの創出につながるような方法で、投資先企業に対する弊社の積極的なエンゲージメントについて発信するのに役立つ。
  4. 継続的なテスト、学習および市場構築:弊社のアプローチとインパクトの創出を強化する。

伝統的な銀行貸付とは異なり、投資家は、財務的な貢献を超えた、より広範にわたる責任を負います。自らの環境・社会的目標に照らしたインパクトの創出を確実にするためには、借り手に積極的に関与しなければなりません。

利益以上の価値を追求する投資を目指す投資家が増える中、インパクト・プライベートクレジットは、ポジティブな環境・社会的変化を起こすための不可欠な手段になっていくと思われます。

1 インパクト投資は主にプライベート市場で行われてきましたが、グローバルインパクト投資ネットワークによると、一部の資産運用会社は、上場株式市場でもインパクト投資の可能性を模索するようになっています。 出所:Impact Investing in Listed Equities,, Global Impact Investing Network, June 2021.
2 出所:GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022, Global Impact Investing Network, October 2022.
3 ブレンド・ファイナンスは、民間資本と公的資本を組み合わせて、大規模でスケーラブルなストラクチャに資金を提供する仕組みです。
4 出所: Impact Report on Private Debt, May 2022, Phenix Capital.
5 Understanding Private Credit, Goldman Sachs Asset Management, 20 October 2022 Understanding Private Credit
6 詳細については、アリアンツGIのDiane Makによる「プライベート・マーケットへの投資がもたらすインパクトの管理・測定」をご覧ください。
7 国連持続可能な開発目標は、人々と地球の平和と繁栄のための共通の青写真となるように設計された、17の相互に関連する目標です。

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