新たな段階に入った生成AI
ここ数か月大いに話題となっているチャットGPTをはじめとした生成AI(人工知能)の台頭は、AIの進化が新たな段階に入ったとみています。今後、中長期で高い成長が期待され、より幅広い分野での活用が予想される生成AI市場は、魅力的な投資機会を提供するでしょう。
要点
- 生成AIの台頭は「AIの転換期」であり、新たなAI革命の始まりと言えます。
- 生成AI市場は、今後中長期で年率30%近い高い成長が予想されており、様々な分野での活用が広がると期待されます。
- 生成AIの拡大から恩恵を受けるとみられる企業が数多くあり、魅力的な投資機会を提供すると考えます。
チャットGPTの衝撃
2023年に入ってから連日のようにメディアで話題になっているチャットGPT(ChatGPT)。聞いたことある方、実際に利用している方もいらっしゃるかと思います。チャットGPTは、AIが人間からの質問について、まるで人間と会話しているように自然な言語で回答したり、コミュニケーションできるツールです。こちらは、オープンAIという新興企業が開発したもので、昨年11月に無料版を公開するや否や、5日間で100万人の会員登録を達成しました。そして、2か月後の1月には1億人のユーザーに達したと言われています。そして、チャットGPT開発元のオープンAIにはマイクロソフトが100億ドル(約1.3兆円)を投資するとしています。
チャットGPTでできること
チャットGPTでは、単純な質問への回答や検索の結果だけではなく、答えのない難しい質問への回答や、文章のサマリー、翻訳、プライベートや仕事の相談、そして歌詞の作成まであらゆる事ができます。また、チャットGPTは質問の仕方によって回答が大きく変わります。より良い回答を得るには質問の工夫は必要ですが、以前の会話をAIが記憶しているので、それまでの内容をふまえて会話をしながらより良い回答を得ることができます。なお、現在のバージョンは、2021年9月までのデータを基にしているので、それ以降の時事的な情報は入っていませんので、ご注意下さい。
生成AIの台頭
さて、チャットGPTは、生成AI、もしくはジェネレーティブAIと呼ばれる最先端のAI技術の一種です。生成AIは、簡単な単語とか文章や質問に対して、文章、画像、音声、動画等の新しいオリジナルのアウトプットを生み出すAIの事を言います。それぞれの用途に応じて、文章生成AI、動画生成AIなどと表現します。チャットGPTは、文章生成AIの代表的な事例です。なぜこのような技術が可能になったかですが、ディープラーニングと呼ばれるAIの学習モデルの一つが進化したことで、非常に膨大で多種多様なデータや画像、言語の学習、処理が可能となりました。また、半導体の性能の飛躍的な向上で膨大なデータを高速で処理することが可能となった事も重要です。昨今急速に注目を集めるようになったのは、ここまで触れてきましたチャットGPTの無料公開です。非常に便利で、すぐに誰でも使えて、会話も自然であることから、世界中で話題となっています。
生成AIの代表的な特徴として、大きく3つ挙げています。1つ目が、ITやプログラミングなどの知識がなくても「誰でも使える」ことです。2つ目が、検索など非常に身近な領域であるため、「AIが日々の生活へ一段と浸透する」ことです。そして3つ目が、単調な作業とかだけではなく「クリエイティブな分野でもAIが活用できること」です。生成AIはこれらの観点から一時的なブームとかで終わるものではなく、長期的な大きなトレンドになると考えています。
AIの転換期
このように生成AIというのは、非常に画期的なツールです。AIは今まで1950年台から1960年台までの第一次AI革命、そして1980年台から1990年台までの第二次AI革命、そして2010年台から足元までの第三次AI革命があったとも言われていますが、今回の生成AIの台頭は新しいAI革命と言えるでしょう。これは正にAIの転換期であり、AIの進化が新たな段階にきたと見ています。マイクロソフトCEOは、「対話型AI搭載の検索エンジンは、弊社にとって過去15年でクラウド誕生以来で最大の出来事だ」と言っています。半導体大手エヌビディアのCEOは「チャットGPTはAIがiPhoneになった瞬間だ」と言っています。iPhoneの誕生によって世界は様変わりしましたが、生成AIはそれに匹敵するインパクトがあるという事です。
画像生成AI、動画生成AI
画像生成AIや動画生成AIの分野でも多くの有力で革新的なツールが発表されています。有名な画像生成AIは、ミッドジャーニー、ステーブル・ディフュージョン、そしてOpenAI社のダリツーなどがあります。これらの画像生成AIツールも、単語一つや、もしくは詳細な説明をつけたワードを基にオリジナルのクオリティの高いコンテンツを瞬時に作成します。そしてこの画像生成AIを活用した新しいビジネスも生まれています。ほとんど画像生成AIで作った漫画が発売される予定であったり、ゲーム開発では、様々なキャラクター作成においても大いに活用されています。動画生成AIでは、Pictory AIやメタ社のMake-A-Videoなどの興味深いツールが誕生しています。Pictory AIの場合、単語や文章を入力すると、それに合ったビジュアルや音声などのオプションが多数提供され、簡単に動画を作成できます。
生成AIの課題
さて、ここまで生成AIがいかに凄くて便利なものか、というのを説明してきましたが、もちろん課題もあります。以下、いくつかの課題事例です。
- 誤情報、偽情報の拡散
- 心理操作やプロパガンダの拡大
- 偽メールやマルウェアの作成などのサイバー攻撃に利用される可能性
- 思考意欲の低下、過度な依存
- AI作品の著作権や商標のあり方
使い方によっては、深刻な被害や問題を起こす可能性もあり、ツール作成側の対応、そしてユーザーの使用モラルなども重要となっています。生成AIは非常に便利で様々なプラスのインパクトをもたらす事ができるツールでありますが、こういったリスクをしっかり理解した上で使っていくのが重要であると考えます。
生成AI市場見通し
プレシデンス・リサーチという調査会社によると、2022年に108億ドルの市場規模だった生成AI市場は、2032年には1180億ドルまで拡大し、11年間で11倍近く、年率で27%の非常に高い成長が予想されています。また、中には2021年から2023年の間に年率30%超のより強気な見通しをだしている調査会社もあります。いずれにせよ、非常に高い成長が期待でき、かつ長期的に15兆円近くに及ぶ大きな市場であります。このように大きな成長市場であるため様々な企業が恩恵を受ける事ができ、投資機会は非常に魅力的であると考えます。
図表1:生成AIの市場規模 - 年率27%で成長する可能性
生成AI関連企業の例
- マイクロソフト:Open AIに今後複数年で100億米ドルを投資する方針を出しています。2023年2月にチャットGPTの最新技術を搭載した自社の検索エンジン「Bing」とブラウザー「エッジ」の新バージョンを公開しています。
- エヌビディア:GPU(計算処理用半導体チップ)の最大手です。生成AIの活況は、AI関連の処理に強いGPUの需要拡大をもたらしています。また同社は、最先端のAIエコシステム(ハードウエアとソフトウエア両方)を有しており、大きな恩恵を受けるとみられています。
- バイドゥ:中国のインターネット検索サービス大手です。チャットGPTに似た対話型AIサービス「ERNIE Bot(文心一言)」を発表しました。2023年3月末までに一般公開する方針です。
- アリババ:中国のEコマースおよびクラウドサービス大手です。2023年2月にチャットGPTに似たAIツールを開発中と発表、クラウドサービスやEコマースのサービス強化に活用する方針です。
- メタ・プラットフォームズ:動画生成AI「Make-A-Video」を開発中であり、同社のSNSや動画サービス、メタバースへの活用を検討しています。また研究者向けに大規模言語モデル「LLaMA」を提供しています。
- ユニティ・ソフトウエア:ゲーム開発者用プラットフォームを提供しています。開発用のコード作成、ゲーム・キャラクター作成などを手助けする生成AIを開発しています。同社は、生成AIが話題になる2022年よりも前から同分野に注力しており、OpenAI社などともツール活用で連携しています。
- エレバンスヘルス:ヘルスケアサービス企業です。長年AIに投資をしてきた同社は、生成AIタイプのアプリケーションを活用し、医師の手作業や時間のかかる作業を自動化するのに役立ています。
- ショッピファイ:ECサイト開発用プラットフォームを提供しています。2023年2月に文章生成AIツール「Shopify Magic」を発表しました。AIがクオリティの高い商品説明を自動で作成します。将来的には、レイアウト作成など様々な機能も追加予定です。
(注記:特定の有価証券について、推奨または勧誘するものではありません)
楽しみな生成AIの今後
このように生成AI市場は高い成長が期待でき、魅力的な投資機会もあります。是非今後注目してはいかがでしょうか。まずは皆さんもチャットGPTで色々な事を聞いて、便利さを実感したり、楽しんでみてはいかがでしょうか。