欧州中央銀行理事会
ECBによる利下げ機会が縮小
ユーロ圏の中央銀行当局者は、「適切な位置」を取り続けています。過度に高いインフレに取り組む米英日の中央銀行や、過度に低いインフレに直面するスイス国立銀行とは異なり、欧州のインフレはここ数カ月間目標値に近い水準で推移しています。
要点
・12月16日のECB会合において利下げは行われないと予想します。
・成長が予想を上回り、インフレが目標値に近い水準で推移していることを踏まえれば、ECBの現行政策は適切な位置にあります。
・足元では、景気に連動しやすいアジア地域通貨のバスケットに対するユーロのショート(売り)ポジションを選好します。
ECB理事会(12月18日)の見通し
ユーロ圏の中央銀行当局者は、「適切な位置」を取り続けています。過度に高いインフレに取り組む米英日の中央銀行や、過度に低いインフレに直面するスイス国立銀行とは異なり、欧州のインフレはここ数カ月間目標値に近い水準で推移しています。ユーロ圏経済は潜在成長率に近い水準で成長し、第3四半期のGDP成長率は前期比0.3%と、ECBの9月時点の見通しである前期比0.0%を大幅に上回りました。また、労働市場は落ち着きを見せ、経済が潜在力に近い水準で稼働していることを示しています。
この状況下、12月のECB会合において利下げは行われないと予想します。10月会合の議事録からは、複数の政策当局者が、目標との軽微な乖離は無視し、政策対応はより大きなショックに限定するべきと主張していたことが分かります。ファビオ・パネッタ氏(イタリア銀行)やフランソワ・ビルロワドガロー氏(フランス銀行)のような最もハト派寄りのメンバーからさえ、最近は利下げを求める発言がありません。政策調整の余地はありますが、次の一手が利下げではなく利上げであるという市場の織り込みに対して、ECBが異を唱える可能性は低いと見られます。
第1四半期の総合インフレ率がエネルギー要因で1.5%程度に低下することも考えられ、2026年上期は利下げの可能性が一定程度残ります。妥結賃金の伸びは、2%のインフレ目標と整合的とみなされる3%水準を下回っており、ECB賃金トラッカーおよび弊社の分析によれば、この状況は続くと見られます。大きく見ると、構造的な課題は残ります。すなわち、ユーロ圏経済は依然としてパンデミック前のトレンドを5%下回っており、需要の弱さや、長期的な潜在需給ギャップについて疑問を投げかけています。
とはいえ、目先の見通しは改善しつつあります。ガス危機やECBの金融引き締めといった過去のショックは薄れつつあり、ドイツの大規模なインフラ投資が、EU資金による投資ブームを周縁国から中核国へと波及させる可能性があります。欧州経済の成長の星であるスペインでは、インフレ再加速の兆候がありますが、フランスの持続的なインフレ低迷により相殺されると見込まれます。たとえば、米国の貿易政策や金融市場のボラティリティのような新たなショックが起こらない限り、ECBによる追加利下げの機会は急速に縮小しつつあり、それに伴い2026年における利下げの見込みも低下しています。
足元において弊社は、景気に連動しやすいアジア地域通貨のバスケット(豪ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォンなど)に対するユーロのショート(売り)ポジションを、投資家の立場から選好します。中国は欧州に対し確実にディスインフレの衝撃を伝播させており、それは、欧州の競争力を圧迫するとともに、2026年までECBの政策見通しへの重石になると見られます。一方、世界経済の底堅い成長、関税リスクの後退、支援的な政策環境、および通貨安は、2026年に向けてアジア地域通貨により好ましい環境を提供することが見込まれます。