サステナブルなエネルギー転換にギアチェンジする

より持続可能なエネルギー生成や効率的なエネルギー貯蔵・消費のためのソリューションへの投資は、いかにクリーンエネルギーへの転換を加速させるのでしょうか。

要点
  • 気候変動の加速と、ロシア軍によるウクライナ侵攻をきっかけとするエネルギー自給に向けた動きが、エネルギー転換の主な原動力となっています。
  • より持続可能なエネルギー生産・消費・貯蔵に向けた取り組みが世界中で加速しています。
  • 現行のエネルギー体制の変革に向けたコンセンサスが、かつてないほど高まっています。
  • よりクリーンなエネルギー生成、効率的なエネルギー貯蔵、持続可能なエネルギー消費のためのソリューションへの投資は、この転換を加速し実現するのに役立つと同時に、魅力的な投資機会をもたらすでしょう。
 
欧州全体の記録的な干ばつ、オーストラリアの洪水、インドで4月に記録した過去最高気温、世界各地における森林火災は、世界の気候が劇的に変化しつつあることの前兆であり、地球温暖化の影響を私たちに見せつけています。気候変動とそれに関連する経済成長へのリスクや環境破壊は、私たちの経済的繁栄に大きな懸念をもたらしています。科学者たちは、温室効果ガスの排出量を抑制し、破滅的な地球温暖化を防ぐための時間的余裕がなくなりつつあると警告しています。それと同時に、世界はエネルギー価格の記録的な高騰に見舞われ、いくつかの地域はエネルギー不足に直面しています。こうしたことが物語っているのは、今こそ熱意と決意をもって、持続可能なエネルギー生成、革新的なエネルギー貯蔵ソリューション、より持続可能なエネルギー消費の助けを借りて、エネルギーシステムの変革を図らなければならないということです。クリーンエネルギーへの転換を加速するためには、革新的なソリューションへの投資を増やすとともに、より持続可能な未来を作るためのスムーズな転換に役立つ、市場性のある先端技術の開発に必要な資本を調達する必要があります。

グリーン転換への投資が世界的に活発化

最近の分析によると1、エネルギー転換への世界の投資額は2021年、過去最高水準の7,550億米ドルに達しました。最も投資額が多かったのは再生可能エネルギーで、2021年は前年比6.5%増となる3,660億米ドルを記録しました。

2番目に投資額が多かったのが、2021年の投資額が合計2,730億ドルに上った電気輸送分野です。背景には、電気自動車(EV)やEVインフラへの支出が前年から77%も増えたことがあります。

エネルギー転換投資の成長を経済圏別に見ると、アジア太平洋地域の投資額が飛び抜けて多く、他の地域の2倍以上となる3,680億米ドルでした。アジア太平洋は、投資額が世界で最も多い地域というだけでなく、2021年は前年比38%増と、増加率の点でもトップとなりました。2位はEMEAで、2021年のクリーンエネルギーへの投資額は前年比16%増の合計2,360億米ドルでした。最後に、南北アメリカは、化石燃料フリーのグローバル経済への転換のための2021年の投資額が前年比21%増の1,500億米ドルとなりました。

国別で見ると、エネルギー転換への投資額が最も多かったのは中国で、2021年の投資額は2,660億米ドルでした。2位はグリーンエネルギー投資額が合計1,140億米ドルとなった米国、3位はクリーンエネルギー転換に470億米ドルを投じたドイツでした。

グリーン転換への投資が世界的に活発化

Global investment in energy transition by region

出所: BloombergNEF, as of January 2022.

2010年~2021年

この10年でクリーンエネルギーコストは低下(kWh当たり)

A decade of declining clean energy costs

出所: IRENA.

投資の増大とコストの低下にかかわらず、1.5℃目標の達成にはまだまだ投資が不足

REN21の「再生可能エネルギー世界白書2021」によれば、クリーンエネルギーの新設容量への世界の投資額は2020年、前年比2%増の3,035億米ドルに達しました2

一方、国際エネルギー機関3の推定では、2021年の陸上・洋上風力発電と太陽光発電への支出は、前年比でそれぞれ13%と15%の2ケタ減となりました。同年にG20諸国では、新設の再生可能エネルギーの3分の2もが、最も安価な化石燃料エネルギーよりも低コストとなりました4

10年以上のスパンで見ると、グリーン電力のコスト低下は、いっそう顕著です。

クリーンエネルギーがコスト面で有利になっている状況を考えると、クリーンエネルギーへの投資が同時に拡大していることもあり、慎重でありつつも楽観的に見るのが適切と思われます。

とはいえ、エネルギーシステムの転換を円滑にする既存および新規の低排出技術を開発し、拡大していくには、現在の投資レベルではまだまだ不十分です。

1.5℃目標の2030年までの達成に向けた指標

持続可能性のための取り組みへのてこ入れ

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の「世界エネルギー転換展望2022」によれば、1.5℃シナリオでは、現在の投資水準を2020年代の終わりまでに大幅に引き上げなければなりません5

ここで資本市場と民間投資家は、クリーンエネルギー転換を促進・加速してエネルギー構成全体に占める再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げるために必要な追加の資本の大部分を調達するという、極めて重要な役割を果たします。

The transformation of the energy system by 2050 

エネルギーの生成と使用のバランスを取り、 電力網の安定を保つためには、革新的なソリューションが必要です。こうした最先端技術はいずれ市場性を獲得し、円滑な転換を実現するのに役立ちます。それに加えて、バッテリー技術や水素技術などのエネルギー貯蔵ソリューションが今後、より重要になるでしょう。水素は、エネルギーを貯蔵するだけでなく、炭素排出量の多い産業(鉄鋼とセメント)の脱炭素にも役立つ可能性があり、天然ガスの代替として使うことができます。こうしたことから、水素ベース経済の構築が引き続き重要な柱となっています。

再生可能エネルギーへの道

近年、世界中の政府と企業が、自国と世界の気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑えるため、多額の資本を確保することによってグリーン化を加速し始めています。

米国

8月にインフレ抑制法が米上院・下院を通過したことを受け、米国は、バイデン大統領によれば「人類の存続に関わる気候変動の危機に立ち向かうために過去最大の投資を行う」幅広い法案パッケージを採択しました6

エネルギーコストの大幅な削減、よりクリーンな生産の拡大、2030年までの炭素排出量約40%削減などの目標を掲げ今後10年にわたり気候変動対策にほぼ3,700億米ドルを支出するこの法案は、歴史的な偉業と呼べるものであり、2030年代の初めまでに排出量を半減させるという「米国の2030年の気候目標と現行の政策との差を埋めるために必要な取り組みの、残り3分の2に手を付ける」7内容となっています。

中国

再生可能エネルギー開発に関する第14次5カ年計画8において、中国政府は2025年までとそれ以降の同国のグリーン転換および低炭素化を推進するための壮大な目標を設定しています。2060年までにカーボンニュートラルを達成するという目標と二酸化炭素排出量の段階的な削減以外に、中国は、電力消費量と設置量全体に占める再生可能エネルギーの割合を高めようとしています。

中国の2025年までの再生可能エネルギー開発ロードマップ

カテゴリー

Unit

2020

2025

電力消費量全体に占める
再生可能エネルギーの割合

% 28.8 33

電力消費量全体に占める
水力発電以外の再生可能エネルギーの割合

% 11.4 18

再生可能発電

TWh 2,210 3,300

再生可能エネルギーの
電力以外の用途での利用

kt stce*    — 60,000

再生可能エネルギーの総消費量

Mt stce* 6,800 10,000

風力・太陽光発電の総設置容量

GW 534.9 Over 1,200

*stce = standard coal equivalent.

日本

日本は、グリーン成長戦略9の下、喫緊の気候変動の課題に取り組んでいます。2兆円(約151兆850億米ドル)規模のグリーンイノベーション基金に支えられたこのプログラムは、以下をはじめとする目標を掲げています。

  • 洋上風力発電を2030年までに10GW、2040年までに30~45GW導入
  • 2030年までに高温ガス炉(HTGR)向けのカーボンフリーな水素製造技術を確立
  • 2035年に乗用車の新車販売でEVの占める割合を100%に
  • 2040年までに半導体・IT産業のカーボンニュートラルを達成

英国

英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省の「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」10には、以下をはじめとする措置が盛り込まれています。

  • 低炭素エネルギー産業の支援と、風力発電容量を増やし2030年までに40 GW(2021年時点は10 GW程度)を確保するという公約のための公的資金120億英ポンドの投入
  • 「英国の自動車およびそのサプライチェーンの電化を支援する」ための10億英ポンドの投資と、EV充電インフラの展開を加速するための13億英ポンドの投資
  • 2030年までに5 GWの低炭素水素製造能力を構築するための2億4,000万英ポンドの「ネットゼロ水素基金」

ドイツ

ドイツ連邦政府は最近、再生可能エネルギーの拡大とそれに関連する排出量削減対策を推進するために、以下への投資をはじめとする80億ユーロ11の追加拠出を公約しました。

  • 「グリーン鉄鋼」と、鉄鋼生産のグリーン水素への転換に8億6,000万ユーロ
  • 洋上電解システムを推進し、電解容量を2030年までに10 GWに倍増させるために9,500万ユーロ
  • 住居用建物のエネルギー改修と、気候フレンドリーな新築に55億ユーロ
  • EV用の中長距離充電インフラの改良に10億ユーロ以上

スペイン

スペインの大手電力会社が最近、水素の処理や再生可能水素の製造などのための天然ガスインフラの改造に、50億米ドル近くを投資すると発表しました。企業以外でも、スペインは欧州の水素先進国となるために積極的な政策を取っています。

たとえば、同国の再生可能水素ロードマップ12は、2040年までに4 GWの電解容量(大型の石炭発電所4基の発電容量に相当)を設置し、国内に燃料電池バス150~200台、乗用・大型燃料電池車5,000~7,500台を導入するとともに100~150基の公営水素ステーションを整備する構想を掲げています。

欧州連合

欧州委員会のREPowerEU計画13は、ロシアとウクライナの紛争によって引き起こされた市場の混乱への対応策の一つです。欧州のエネルギーシステム変革の背景には、2015年のパリ気候協定の遵守と、ロシアからの化石燃料へのEUの依存―1年当たり総額およそ1,000億ユーロに上る―の解消という二つの差し迫った課題があります。「グリーン転換を加速させる」と同時にロシアの化石燃料へのEUの依存を早期に軽減するために、REpowerEU計画には、以下をはじめとする措置が盛り込まれています。

  • 2025年までに太陽光発電の容量を倍増させ、2030年までに600 GWを設置すること
  • 脱炭素化することが難しい産業と輸送セクターにおける天然ガス、石炭、石油の代替として、2030年までに再生可能水素の国内製造量を1,000万トン、輸入量を1,000万トンとする目標を設定すること

EU委員会は、ロシアからの化石燃料への依存を解消するには、今後5年で2,100億ユーロの投資が不足すると見込んでおり、「これらの投資は、官民両セクターによって、国内、各国間、EUのレベルで満たさなければならない」ことを強調しています。プラス面として、REpowerEUの目標を達成すれば、特にロシア産化石燃料の輸入を劇的に削減できることから、年間1,000億ユーロ近い節約につながる可能性があります。

次世代EU

欧州連合の新型コロナウイルス後の復興計画「次世代EU」14(下図「次世代EU:主な特徴」を参照)は、環境に優しい技術への投資、公共・民間輸送の電化、建物・空間のグリーン化と省エネ化、水質向上、より持続可能な農業への投資などに8,070億ユーロ近い資金を拠出します。
次世代EU:主な特徴
NextGenerationEU: Key Features

出所: AllianzGI. All amounts are in billion EUR, in current prices, as of November 2020.

クリーンエネルギー転換のフロントランナーと受益者を見つける

持続可能なエネルギーソリューションへの投資は心強い成長を見せているものの、現在の投資レベルは、クリーンエネルギー転換に関連する多面的な課題に取り組むには、まだ十分ではありません。投資家の視点から見ると、今後数年間にわたりクリーンエネルギー支出の増大が予想され、かつ急がれていることから、エネルギー転換の実現者やその受益者の成長に関与する魅力的な機会が生じています。エネルギー消費パターンを変えるソリューションやそれに伴う新たな需要への投資をはじめ、バリューチェーン全体にわたりエネルギー転換を支える方法はいろいろあります。

弊社は投資対象として、よりクリーンなエネルギー生成、効率的なエネルギー貯蔵、バリューチェーンにおける持続可能なエネルギー消費のためのソリューションを提供すると同時に国連SDGsの環境・社会的目標に貢献する、長期的な将来性のある世界中の企業に目を向けています。

また、変革期における一時的な副作用として現在、エネルギー価格が上昇していることを踏まえ、水素ベースのエネルギー供給やその他のエネルギー貯蔵、CO2削減技術のイノベーションなど、まだ初期の段階にあって、その有用性を発揮できていない革新的技術の開発がもたらす機会を模索しています。

  • 【ご留意事項】
    • 本資料は、アリアンツ・グローバル・インベスターズまたはグループ会社(以下、当社)が作成したものです。
    • 特定の金融商品等の推奨や勧誘を行うものではありません。
    • 内容には正確を期していますが、当社がその正確性・完全性を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている個別の有価証券、銘柄、企業名等については、あくまでも参考として申し述べたものであり、特定の金融商品等の売買を推奨するものではありません。
    • 過去の運用実績やシミュレーション結果は、将来の運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料には将来の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における当社の見解または信頼できると判断した情報に基づくものであり、将来の動向や運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている内容・見解は、特に記載のない場合は本資料作成時点のものであり、既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。
    • 投資にはリスクが伴います。投資対象資産の価格変動等により投資元本を割り込む場合があります。
    • 最終的な投資の意思決定は、商品説明資料等をよくお読みの上、お客様ご自身の判断と責任において行ってください。
    • 本資料の一部または全部について、当社の事前の承諾なく、使用、複製、転用、配布及び第三者に開示する等の行為はご遠慮ください。
    • 当社が提案する戦略および運用スキームは、グループ会社全体の運用機能を統合したものであるため、お客様の意向その他のお客様の情報をグループ会社と共有する場合があります。
    • 本資料に記載されている運用戦略の一部は、実際にお客様にご提供するにあたり相当程度の時間を要する場合があります。

     

    対価とリスクについて

    1. 対価の概要について 
    当社の提供する投資顧問契約および投資一任契約に係るサービスに対する報酬は、最終的にお客様との個別協議に基づき決定いたします。これらの報酬につきましては、契約締結前交付書面等でご確認ください。投資一任契約に係る報酬以外に有価証券等の売買委託手数料、信託事務の諸費用、投資対象資産が外国で保管される場合はその費用、その他の投資一任契約に伴う投資の実行・ポートフォリオの維持のため発生する費用はお客様の負担となりますが、これらはお客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)を通じてご負担頂くことになり、当社にお支払い頂くものではありません。これらの報酬その他の対価の合計額については、お客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)が決定するものであるため、また、契約資産額・保有期間・運用状況等により異なりますので、表示することはできません。

    2. リスクの概要について 
    投資顧問契約に基づき助言する資産又は投資一任契約に基づき投資を行う資産の種類は、お客様と協議の上決定させて頂きますが、対象とする金融商品及び金融派生商品(デリバティブ取引等)は、金利、通貨の価格、発行体の業績・財務状況等の変動、経済・政治情勢の影響を受けます。 従って、投資顧問契約又は投資一任契約の対象とさせて頂くお客様の資産において、元本欠損を生じるおそれがあります。 ご契約の際は、事前に必ず契約締結前交付書面等をご覧ください。

     

     アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパン株式会社
     金融商品取引業者 関東財務局長 (金商) 第424 号 
    一般社団法人日本投資顧問業協会に加入
    一般社団法人投資信託協会に加入
    一般社団法人第二種金融商品取引業協会に加入

Top Insights

金利を読み解く

市場は概ねこの結果を織り込んでいるものの、トランプ氏のポピュリスト的政策が波紋をもたらすことが予想されます。投資家は選挙結果をどのように受け止めているのでしょうか?

詳しくはこちら

市場展望インサイト

足元の経済指標は日銀の政策パスを裏付けるものです。また、利上げ継続の前提条件はまだ整ったままです。それにもかかわらず、日銀のメッセージは、10月会合で金利調整を急ぐ必要がないことを示しています。これには主に二つの理由があると弊社は考えます。

詳しくはこちら

市場展望インサイト

最近の米雇用統計が予想外に上振れるなど、米国の経済指標が強弱まちまちとなる一方、ユーロ圏の統計データは軟調傾向が続いています。

詳しくはこちら

アリアンツ・グローバル・インベスターズ

ここからは、jp.allianzgi.comから移動します。 移動するページはこちらです。