日銀政策決定会合
日本銀行は6月の会合で「タカ派的な据え置き」を決定の見通し
要点
- 日本銀行(以下、日銀)は、先般実施した政策調整の経済への影響を引き続き見極めている。景気が全般的に減速し、最新のGDP統計には一時的な影響がいくつか見られる中、6月の会合で追加的な変更が行われる可能性は低い
- インフレ期待や消費者物価指数(CPI)の特定の要素は依然として底堅く、日銀はこれらを足がかりに年後半に政策のさらなる正常化に動く可能性がある
- 前回の記者会見後に円売りが急激に加速し、その後介入が必要となった事態を踏まえ、今回の植田総裁の発言は、最近の公式声明と同様にタカ派色の強いものとなる可能性が高い
日銀政策決定会合(6月13‐14日)の見通し
日銀は、統計データの高度な読み解きを求められる環境下に引き続きいます。インフレ低下傾向は広範かつ持続的です。また、日本の国内総生産(GDP、季節調整済み)は第1四半期に減少し、前期比0.5%減となりました1。この落ち込みには能登半島地震などの特殊要因が関わっており、いずれ落ち着くと予想されますが、経済の勢いは著しく削がれています。プラス面では、名目賃金の伸びとインフレ期待は依然として強く、堅調な企業収益によりさらなる賃金上昇に向けた環境が整っています。日銀政策委員会の一部メンバーは、デフレからの最終的な脱却はまだ達成されていないものの、日本がその目標に向けて着実に進んでいるとの自信を深めていると指摘しています。
弊社は、この評価を踏まえ、日銀は6月の会合で政策を据え置く可能性が高いと考えます。調整の可能性がある領域は、国債買い入れと追加利上げの2つです。このうち、日本国債(JGB)の買い入れ額調整の方が確率は高いと考えます。足元の買い入れ額はすでに予定の下限にありますし、国債買い入れの減額は、金融政策の正常化という植田総裁の目標に沿うものです。さらに、日銀が6月に買い入れ予定の調整を検討しているとの報道もあります。しかし、前回の金融政策決定会合以降、債券利回りはすでに大幅に上昇し、一部のセグメントで2011年以来の最高水準に達していることを踏まえると、経済主体に適応する時間を与えるためにも、日銀は現時点でのリプライシング(価格調整)の加速をあまり望んでいない可能性があります。口頭でのガイダンスは提供されるかもしれません。
利上げには高いハードルがあります。日銀の目標像における次のステップは、さらなる価格調整を可能にする消費主導の需要回復の実現です。この過程には実質所得のプラス成長が不可欠です。春闘(春季賃金交渉)の結果は好調でしたが、実施時期とのズレにより、足元の所得統計への反映はまだ部分的です。夏にかけて、結果がより明らかになるはずです。日銀は、状況を見極め十分な確信を持って行動する道を選ぶと弊社は考えます。不確定要素は、過去2カ月間に円安が再び進行していることです。通貨安が原因のコストプッシュ型インフレが再び発生すれば、実質所得増加の目標達成に悪影響を及ぼすおそれがあります。しかし、日銀政策委員会の一部メンバーは、時期尚早の利上げに警告を発しています。米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を据え置く限り、追加利上げをしても円売りを阻止できないかもしれません。このため、日銀は辛抱強く待ち、夏にかけてより多くの統計データを確認した上で、7月以降に利上げを行っていくと弊社は考えます。しかし、前回の会合後、為替相場がインフレと成長に与える影響に対する懸念を植田総裁が重要視しなかったことで、大幅な円売り圧力が生じ、財務省が介入するきっかけとなりました。そのため、今回は市場の混乱を避けるべく、植田総裁は「タカ派」的なトーンを打ち出そうとすると考えます。
以上のような背景に対し、弊社のスタンスは次のとおりです。国債市場から日銀の撤退が進めば、利回りがさらに上昇すると弊社は見ており、市場はこれをますます価格に反映させます。そのため、日本のデュレーションに関しては慎重姿勢の維持が妥当と考えます。日本株は、国内の構造的な原動力が健在で、世界的な成長拡大がさらなる下支えとなるはずです。このため、従来の積極的なスタンスを維持します。円相場に関しては、今のところ中立的ポジションを選好します。割安なバリュエーションや伸びきったポジションなど、円相場の上昇材料は揃っています。しかし、米国の景気減速を示すより明確な証拠が現れるまで、日本円はマイナスのモメンタムとキャリートレードによる売りから容易に脱却できない可能性があると考えます。
1: Economic and Social Research Institute, Japan, https://www.esri.cao.go.jp/en/sna/data/sokuhou/files/2024/qe241/gdemenuea.html