日銀政策決定会合
マイナス金利政策脱却に向け市場の地ならし?
日銀は政策を据え置く見通しですが、政策調整の余地が生じつつあります。
要点
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日本銀行(以下、日銀)は、12月の会合で金融政策を据え置くことが予想される。日銀の要人による最近の発言は、今回の会合で直ちに政策調整に向けた誘導を行う意図ではなく、最終的な変更に向けた市場の地ならしであると弊社は考える
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世界的な金利上昇期待の後退、日本の利回り低下の動き、円相場の上昇により、市場圧力は緩和された
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経済成長や家計所得に関する指標はまちまちとなっている。労働組合による賃金要求の達成には期待が持てるものの、来春の賃上げの規模や範囲の確認には至っていない
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このような環境では、新たな統計の発表を待つコストは比較的低いと考えられる。しかし、各国中央銀行の政策軌道が反転する可能性が高く、限定的な市場の混乱は伴うかもしれないものの、政策調整の余地が生じており、政策変更の可能性は高まっている
日銀政策決定会合(12月18‐19日)の見通し
日銀は、イールドカーブ・コントロール(YCC)の解除と、マイナス金利政策(NIRP)からの最終的な脱却に向けて、市場の地ならしを進めています。ここ数週間、植田総裁や氷見野副総裁など日銀の要人からは、政策変更をほのめかしたり、政策を変更した場合の影響に触れたりする発言が増えました。それにもかかわらず、最新のニュース報道では、「消息筋」の発言を引用し、今月は差し迫った変更はないだろうとも報じています。弊社は、実際の引き締め局面はさらに先であり、いかなる政策調整も当初はハト派的なトーンを帯びる可能性が高いと考えます。
現時点で日銀にとって重要な指標は賃金データであり、より具体的には日銀が「賃金と物価の好循環」と呼ぶものです。ちなみにこの現象は、他の場所では、多くはむしろ好ましくない意味合いで「賃金・物価スパイラル」と呼ばれます。中小企業の労働組合「ものづくり産業労働組合JAM」が過去最高のベースアップを要求するなど、春闘での賃金要求に関する情報が集まってきました。しかし、植田総裁は賃上げが十分に浸透するかどうかについて懸念を表明しています。さらに、サービスインフレに関する一部の基礎的な指標が持ちこたえている一方で、10月の生鮮食品及びエネルギーを除く全国消費者物価指数(CPI)は前年同月比4.0%と、ピークを付けた7月と8月の4.3%から低下し1、最近の鈍化傾向を裏付けました。
世界的に債券利回りが低下傾向にあり、10年物日本国債の利回りは日銀の「めど」である1%から遠ざかりました。これにより、市場を急な混乱に陥れることなく、政策調整を実施できる可能性が高まります。そしてまた、日銀への圧力もある程度緩和されます。今後数カ月間に賃金交渉で重要な動きが見込まれる状況を考慮すると、日銀は政策を据え置く可能性が高いと弊社は考えます。また、世界的に金利に関する期待が急速にシフトしているため、日銀は他地域の金利サイクルの転換についてさらなる確認を必要とするかもしれません。
ポジショニングに関して、弊社は日本国債に対して慎重な見方を、円相場に対してやや積極的なスタンスを、それぞれ維持します。弊社のベースケースのシナリオは、最終的なYCC撤廃と債券利回り上昇を想定していますが、どうやらその結果に徐々に近づきつつあるようです。円相場に関連して、特に米連邦準備制度理事会(FRB)が来年には利下げ局面入りする可能性があり、金融政策の格差収束が見込まれます。それが最終的には、歴史的に過小評価された円相場の水準がある程度値を戻すきっかけになると弊社は予想します。
1 出所: Ministry of Internal Affairs and Communications, Bloomberg