Achieving Sustainability

ヘルスケア:より良く生きるには

多くの人々は、長生きすることについて前向きな考え方を持っています。しかし、長寿化によって長くなった老後の生活を支えるために必要な資源は、大きな財政負担になりつつあります。医療サービスの提供や財源は世界各地で異なるものの、十分な医療の提供が厳しくなりつつあるのはほぼ世界共通であり、このセクターへの長期投資の必要性とその確保の難しさも増しています。

要点
  • 人口高齢化とそれに伴う複数疾患を抱える患者の増加は医療費の増大を招くと予想され、多くの国ですでに医療費がGDPの10%近くを占めています。
  • 気候変動の影響による新たな健康問題は、医療予算をさらに圧迫する可能性があります。
  • 投資家は、新たなソリューションに資本を投入することによって、健康の向上がもたらす社会的・経済的なプラスの結果に貢献することができます。
  • 弊社のReCLAIMヘルスケアモデルは、このセクターのリスクと投資機会を明らかにします。

ここ数十年の公衆衛生、栄養状態、治療薬の向上によって、私たちの寿命は伸びています。しかし、寿命が伸びたことは、より良く生きることにつながっているでしょうか。平均寿命は、2000年から2019年までの間にほぼ6年伸びました1が、晩年の健康状態の悪化は医療費を押し上げており、OECD諸国ではすでに医療費がGDPのほぼ10%を占めています2。高齢化と生活習慣の変化は、この財政負担に拍車をかけることが予想されます。さらに、極端な気温や汚染された洪水への曝露といった健康に影響を及ぼす気候変動も、新たなコストをもたらします。

長生きのコスト

ヘルスケアは近年、エネルギーや食料品と同等のインフレ圧力にさらされています3。薬価が注目されているものの、最もコストがかかっているのは病院でのケア(医療施設やスタッフの給与、設備、患者ケアなどを含む)です。病院資源に対する需要は、高齢者や生活習慣に関連する健康問題を抱える患者からの需要増でさらに高まるでしょう。医療費の支出が世界一多い米国では、医療予算の30%がすでに病院に割り当てられていますが、患者の増加により、さらに予算がひっ迫することが予想されます。

図表1:病院コストが医療予算を圧迫
図表1:病院コストが医療予算を圧迫

出所: American Medical Association, Trends in health care spending | Healthcare costs in the US | AMA (ama-assn.org), 2024年4月

コストの上昇は患者の自己負担額の増加につながり、いわゆる「破滅的医療支出」の増大を招いています。「破滅的医療支出」とは、家計収入の10%を超える 医療費の支出4と定義され、現在、世界人口のおよそ12%、つまり8億人以上の人々がこのような負担を抱えています。さらに、患者の自己負担額は毎年3%以上の割合で増大しています。医療費の高騰が患者に与える影響は、世界各国で採用されているさまざまな医療費の財源モデルによって異なります。これらの財源モデルは大まかに、租税、民間医療保険、社会医療保険の3つのカテゴリーに分類できます。また、一部の国では医療費が完全に自己負担となっています。

図表2:国別一人当たり医療費、2022年
図表2:国別一人当たり医療費、2022年

出所: OECD, Health at a Glance 2023, 2023年11月

世界各国に共通するのは、長生きすることで健康問題を抱える年数が増えるために、晩年の患者向けのサービスのために医療費が膨れ上がるということです(図表3参照)。米国の連邦医療保険プログラムであるメディケアの場合、年間支出の25%が、人生最期の1年にある5%の患者に使われています5

図表3:長生きすると、健康問題を抱えて過ごす年数が増える
図表3:長生きすると、健康問題を抱えて過ごす年数が増える

出所: WEF, Transforming Healthcare: Navigating Digital Health with a Value-Driven Approach, 2024年1月

支払った金額に見合う医療を受けられるか?

このような医療費の高騰は、医療格差を拡大させており、世界人口の半数は基本的な医療サービスを受けられない状態に置かれています。

さらに、医療予算のひっ迫は、治療薬の選択が限られたり、診察までの待ち時間が長くなったり、緊急でない処置や手術を受けにくくなるなどの課題をもたらしています。

また、健康状態が良くない労働者の生産性低下による経済的影響も懸念されます。このような労働市場への参加や収入の低下は、さらなる精神的・身体的健康問題を引き起こす可能性があります6

ReCLAIM:健康への投資機会を明らかにするモデル

投資は、健康の向上にどのように貢献できるでしょうか。弊社は、幅広い健康問題を単純化するモデル「ReCLAIM」7を開発しました。このモデルは、弊社がリスクがあるとみなす6つの主要な分野を特定し、より健康的な未来への投資機会を明らかにします。

図表4:ヘルスケア分野のリスクと機会を特定するアリアンツGIのReCLAIMモデル
図表4:ヘルスケア分野のリスクと機会を特定するアリアンツGIのReCLAIMモデル

出所:Allianz Global Investors, May 2024

ReCLAIMモデル:対処すべき6つの主要なヘルスケア課題

1. 耐性
抗菌薬耐性が近年、世界的に重大な公衆衛生上の脅威として浮上しています。これは、細菌やその他の微生物が進化して、抗生物質やその他の抗菌薬が効かなくなることで起こります9。感染症の治療が難しくなり、場合によっては治療できない事態に陥ることさえあり、病気の拡大や重症化のリスク、障害が残ったり死亡したりするリスクが高まります。

世界保健機関(WHO)は2024年4月、H5N1型鳥インフルエンザがヒトを含む他の種に感染拡大する可能性を指摘しました。これは、ヒトへの感染報告10や米国の店舗で販売されている牛乳からウイルスの粒子が発見されたこと11を受けたものでした。WHOはすでに、次に起こりうるパンデミックがインフルエンザウイルスによるものである可能性を警告しています。また、新型コロナウイルスは、そのような感染拡大のスピードの速い深刻な感染症に対するワクチンや治療薬の開発に必要なコストと時間を浮き彫りにしました。

2. 気候変動
猛暑が一般集団に与える影響については、すでに詳細に報告されており、高齢者と基礎疾患のある人々が特に危険にさらされています。国際労働機関(ILO)も、世界の労働人口の7割以上が気候変動による健康リスクにさらされていると推定しており、16億人もの屋外労働者が大気汚染や猛暑、紫外線に絶えず曝露されています。これらの問題は、心血管系疾患や呼吸器疾患、一部のがんとも関連しています。屋外の大気汚染は特に懸念される問題です。屋外では、危険要因の封じ込め12や換気対策が適用できるとは限らず、雇用主や労働者が汚染源をコントロールすることはほぼ不可能となっています13。既存の労働安全衛生対策は、こうしたリスクの増大に対応しきれていません。

3. 生活習慣
運動不足や不健康な食生活は、罹患率を増大させ、医療制度に重い負担をかけています。高齢化と長期的な疾患の増加が相まって、多疾患併存の増加が予想されます14。多疾患併存とは、複数の長期疾患を抱える状態のことであり、コストのかかる複雑で難しいケアが必要なため多くの医療資源を要します15。多疾患併存の場合、入院頻度が増え、入院期間が長くなり、1年間に複数の専門医の診察を受けることになる可能性があります15

たとえば、食事や体重の問題と関連する2型糖尿病であり、失明や心臓病、下肢合併症を引き起こす可能性があります。およそ8人に1人が肥満とされ、肥満人口が標準以下の体重の人口を上回る現在、この問題は深刻化しています。

4. 適正な費用負担
欧州のほとんどの国では、医師の診察、検査、病院でのケアといった基本サービスにかかる医療費について国民皆保険を実現しています。これにより、患者は予想外の出費からある程度は保護されます16。とはいえ、保険のカバー範囲は国によって異なり、民間保険に加入すれば医療サービスを受けやすくなるものの、追加の費用がかかることも少なくありません。

5. インフラ
気候変動や健康に関するリスクを軽減するためには、強靭なインフラが不可欠です。2021年11月に開催されたCOP26では、気候変動が健康に与える影響を示す証拠の増加を受け、50カ国が気候変動に強い低炭素の医療システムの開発を約束しました17。インフラに関する優先課題には、衛生、きれいな水、エネルギー安全保障などがあります。

さらに、医療資源へのアクセスは、人口のおよそ56%が居住する都市部に集中しています。都市部からの移住者が増えると予想される中、農村部の公衆衛生への投資は依然として不足しており、大規模な農村人口を支えるためには、投資を大幅に増やす必要があります18

6. メンタルヘルス
新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、メンタルヘルスの問題の深刻さがより広く認識されるようになりました。この問題は、生産性の低下や社会福祉への影響と関連付けられるようになっており、生産性の損失、欠勤や休職、離職によるコストは年間140億米ドルに上ると推定されています19

健康に投資する機会

こうした状況はどのように投資機会につながるのでしょうか。弊社は、投資資本が医療の向上をもたらし、あらゆる人々がより良い医療を利用できるようになる大きな可能性があると見ています。これらのリスクを軽減するには多額のコストがかかりますが、GDPに対する医療コストの上昇の抑制、医療格差(医療費と保険料の上昇による)の縮小、生産性の向上という点で大きな経済的なメリットもあります。

罹病を防ぐ
革新的な治療薬の研究開発への投資は、医療負担の軽減に寄与します。生活習慣病(2型糖尿病や慢性疾患など)、がん、メンタルヘルスなどは、そうした新しい治療の対象となります。また、発熱や細菌感染のような環境の変化による疾患も新しい治療の対象になるでしょう。C型肝炎の治療薬のような新薬はすでに利用可能であり、最近では希少疾患に対する遺伝子治療も開発されています。

気候変動の影響への取り組み
地球の気温の上昇に伴い、病気やウイルス感染が、これまで影響を受けていなかった国々にも拡大するリスクが高まっています20。その結果、デング熱や西ナイル熱のような深刻な病気の北上を防ぐためのワクチン開発が急務となっています。さらに、高温多湿の環境は喘息や慢性閉塞性肺疾患などの症状を悪化させるため、呼吸器系疾患の治療に対する需要が増大することも考えられます。

テクノロジーの活用
人工知能(AI)の急速な進歩により、薬剤分析の重要な段階で主要な問題点を早期かつ効率的に特定できるようになり、新薬発見の加速や製品の質の向上、臨床試験のコスト削減につながっています21。新しいソリューションを支えるためには、医療へのアクセスの向上も必要です。遠隔治療は、国境を越えた治療や診断にアクセスしやすくし、農村地域における医療アクセスのコスト効率を向上させるのに不可欠です。

インフラの向上
気温上昇や物理的リスクの増大に適応するためには、医療インフラへの投資を増やす必要があります。政府や地方自治体が策定する 冷却対策 の実施には、病院に空調設備などの新たなインフラを導入するための投資が必要です。また、太陽光パネルなどの代替的な電力源の設置は、エネルギー関連の物理的リスクを軽減するのに役立ちます。

医療サービスの再構築を、各国政府、投資家、その他ステークホルダーの長期的な優先課題としなければならないことは明白です。健康は富に勝る、とよく言われます。この富を維持するためには、より健康な未来のためのソリューションに資本を投入し、経済成長を支え、社会的結束を推進する必要があります。

1 Source: WEF, Transforming Healthcare: Navigating Digital Health with a Value-Driven Approach, January 2024
2 Source: OECD, Health Statistics 2023 
3 Source: McKinsey & Company, The gatherting storm: transformative impact of inflation on the healthcare sector, September 2022 
4 Source: WHO, SDG 3.8.2 Catastrophic health spending (and related indicators), 2024 
5 Source: National Library of Medicine, Medicare cost at end of life, August 2019 
6 Source: OECD, Health at a glance: Europe 2016, 2016 
7 ReCLAIMは、アリアンツ・グローバル・インベスターズのリサーチチームが開発したモデルで、Resistance(耐性)、Climate Change(気候変動)、Lifestyle(生活習慣)、Affordability(適正な費用負担)、Infrastructure(インフラ)、Mental health(メンタルヘルス)の頭文字を取っています。
8 一例として、脊椎動物から人間に自然感染する病気や感染症である人獣共通感染症が挙げられます(WHO、2020年7月)
9 Source: WHO, Antimicrobial resistance, November 2023 
10 Source: WHO, Avian Influenza A(H5N1) – United States of America, April 2024 
11 Source: CDC, Current H5N1 Bird Flu Situation in Dairy Cows, July 2024 
12 封じ込めとは、有害な繊維材料からの繊維の放出を防ぐための対策です。
13 Source: International Labour Organization, Climate change creates a ‘cocktail’ of serious health hazards for 70 per cent of the world’s workers, April 2024
14,15 Source: National Library of Medicine, Multimorbidity: What do we know? What should we do?, February 2017
16 Source: OECD, Population coverage for health care | Health at a Glance: Europe,2020 
17 Source: WHO, Countries commit to develop climate-smart health care at COP26 UN climate conference, November 2021 
18 Source: World Bank, Urban Development Overview, October 2022 
19 Source: Deloitte, 2023 Global Health Care Outlook, 2023 
20 Source: Allianz Global Investors, Health is wealth, October 2023 
21 Source: Allianz Global Investors, The healthcare industry is using AI to transform drug discovery, November 2023  

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運輸部門は、世界で大きな炭素排出源になっています。2022年には世界の全排出量の20%超を占めており、またその割合は上昇しています。輸送における脱炭素化は優先して取り組む必要があります。鉄道は持続可能性の観点で重要な役割を果たし、良好な機会を投資家もたらすことが期待されます。

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