Embracing Disruption
テーマ投資の可能性を引き出す
本稿では、制約のないテーマ投資アプローチが、あらゆる分野に及ぶディスラプションから生じる成長見通しに乗じるのにどう役立つかを取り上げます。
要点
- 社会、環境、技術の根本的な変化が世界を形作る中、制約のないテーマ投資アプローチは、私たちの日常生活のあらゆる側面に影響を及ぼすディスラプションから生じる成長見通しに乗じる複数の新たな切り口を見出すのに役立ちます。
- 本稿では、ディスラプティブなメガトレンドの背景にあるいくつかの要因を分析し、それらの要因が弊社のテーマ投資戦略における投資可能なテーマに与える影響や意味合いを取り上げます。
持続可能な方法で電力需要の増大に対応する
大規模な人工知能(AI)アプリケーションの学習に必要とされるデータセンターの数が増え続けていることやデジタルインフラへの依存度が高まっていることなどを背景に、エネルギーに対する需要は増大する一方です。こうした中、よりスマートで、より持続可能なエネルギー生成・貯蔵ソリューションは、増大するエネルギー需要を満たし、温室効果ガスの排出を回避するのに役立ちます。
図表1:電力需要は2050年までに倍増
出所:New Energy Outlook 2019, BNEF 2019. June 2019.
より持続可能なエネルギー生成・貯蔵ソリューションが普及し、再生可能エネルギー容量が増えれば、天然資源消費量の少ないエネルギーの生成、消費、貯蔵への移行が可能になり、公共・民間輸送の電化が促進されます。
主要な持続可能エネルギー技術の価格低下や持続可能なエネルギー源からのエネルギー生成コストの著しい低下と相まって、再生可能エネルギーの普及拡大は、再生可能テクノロジーへの大規模投資も増大させ、長期的にその競争力を強化します。
図表2:世界の均等化発電原価ベンチマーク、2009~23年、USD/MWh(2022年の実質価値に換算)
出所:BloombergNEF. As of June 2023.
最後に、世界の再生可能エネルギー容量を3倍に増やし、世界の平均エネルギー効率の年改善率を倍増させる(年率2%から年率4%へ)という昨年のCOP28で採択された宣言1のように、エネルギー効率と持続可能なエネルギーソリューションの開発を加速させようとする重要な取り組み は、再生可能エネルギーの拡大にさらなる弾みをつけることができます。
クリーンエネルギーの大幅な強化を示す興味深い証拠は、2022年のテキサス州とカリフォルニア州の風力・太陽光発電の新設容量に表れており、両州はクリーンエネルギーの新設容量で全米1、2位を占めました。
図表3:テキサス州とカリフォルニア州、2022年のクリーンエネルギーの新設容量でトップに
出所:American Clean Power CLEAN POWER ANNUAL MARKET
人工知能―さまざまな産業にディスラプションを引き起こし、付加価値の創出においてより重要な役割を果たす可能性を秘めたセクター横断的な起爆剤(デジタルライフ)
チャットGPTのような大規模言語モデルなどの人工知能(AI)は、その重要性が高まり、普及が進むにつれ、私たちの日常生活に欠かせないものになっています。これらはすでに、私たちの生活、仕事、生産、コミュニケーション、協働のあり方に深い影響を与えています。そして、この状況は加速していく一方です。
中核的なビジネスプロセスへのAIの統合は、あらゆる産業で勢いを増していますが、一部のセクターの転換はより目立つかもしれません。
- ビジネスプロセス、データ、ITインフラのための多層的な防衛線の構築:AIを利用したサイバーセキュリティソリューションは、脅威の自動検知、悪意あるパターンの予測、データ保護の加速、リスクベースの条件付きアクセス機能などを統合しており、高度なサイバー脅威から企業を守るのに役立ちます。その市場は、2023年から2032年までの間に年平均成長率(CAGR)19.4%と2ケタ成長を遂げると予想されています2。
- 世界のサイバーセキュリティ市場の成長を促進する規制の枠組み:2023年に米証券取引委員会(SEC)が採択した新たなサイバーインシデント開示要件のようなサイバーセキュリティ規制を受け、企業は規制に準拠したセキュリティの実現をいっそう重要視するようになり、予算配分を増やすと考えられます。
デジタルなライフスタイルを支える土台の構築
2050年までに世界の人口の3分の2以上を占めると予測される3都市人口は、その増加に伴い、不十分な都市インフラ、汚染の悪化、水・エネルギー消費量の増大、社会的格差の急拡大といった深刻な課題に直面しています。これらの喫緊の課題に対処するためには、より効率的でより持続可能なインフラを備えたスマートシティの整備が必要です。経済に占める都市の比重(世界のGDPに占める割合は8割を超える4)やスマートシティとスマートビルティング市場の急成長(前者は2030年までにほぼ7兆米ドル5、後者は2027年までに1,270億米ドル6に到達すると予想される)を考えると、これはなおさらです。
スマートシティの整備をスピードアップするためには、革新的な輸送ソリューションが必要となります。さらに、エネルギーや水などの重要資源をリアルタイムで評価するデジタルソリューションの強化(たとえば、水漏れ検知や予測アナリティクスのためにセンサーやリアルタイムデータの統合など)や、デジタルなライフスタイルを支える土台となるスマート通信インフラの拡張も必要となるでしょう。
持続可能な水ソリューションに向けた道を開く
帯水層や地下水貯留層といった、逼迫している天然の淡水資源のレジリエンス向上に焦点を当てたソリューションへの投資は、増え続ける世界人口のために水を確保する重要な手段です。また、世界人口の増大と比例して、食料とエネルギーに対する需要も増大しており、その両方とも十分な水の供給に大きく依存しています。
AIが産業のオートメーションと生産にもたらす変革的影響
チャットGPTのような大規模言語モデルなどの人工知能(AI)は、その重要性が高まり、普及が進む中で、私たちの生活、仕事、生産、通信、協働のあり方にすでに深い影響を与えています。そして、この状況は加速していく一方です。
中核的なビジネスプロセスへのAIの統合はあらゆる産業で勢いを増していますが、一部のセクターの転換はより目立つかもしれません。
- 産業オートメーションにおける次の進化段階:AIを利用したデジタルツインは、自動車から食品製造、小売に至るまで、自動化された工場生産ラインの向上に役立つ一方、人件費を削減し、効率性を高め、冗長性を減らし、処理能力を向上させます。
- 半導体産業に長期的な価値をもたらすAI:最近のマッキンゼーの調査によれば7、AIの導入は半導体企業にとって大きなプラスとなり、長期的に最大950億米ドルの追加的な価値をもたらす可能性があります。
医療から個別化治療への進化
AIの持つディスラプティブなポテンシャルを医療セクターに結びつけることで、画一的なアプローチを患者の個人的なニーズや既往歴に基づいて個別にカスタマイズされた医療サービスへ転換することが可能になります。患者エクスペリエンスの向上に加えて、医療セクターへのAIの統合は、創薬プロセスを大幅に加速させ、時間のかかる試行錯誤を排除して、大幅なコスト削減に寄与します。とりわけ、AIを利用したソリューションの使用は、病気の早期発見や予防に役立ち、ロボット支援による低侵襲手術の発展を促進します。また、遠隔医療アプリケーションにより、軽い症状や経過観察のための患者の通院を減らすことにもつながります。
- ヘルステックは進歩しているものの改善の余地がある:最近のOECD調査によれば、OECD加盟国の半数以上がまだ、医療システムのデジタル化を受け入れる準備がかなり遅れています。調査対象国のほぼ9割がオンラインの医療ポータルを提供していると回答したものの、国民が指定されたポータルを通じて自分のすべての医療関連データにアクセスし、操作できる国は42%にとどまりました8。
- AI、mヘルス、政府のデジタル化の取り組みがヘルステックの成長をけん引している:アナリスト予想では、世界のスマート医療市場は2027年までに、2022年の2,166億3,000万米ドルから倍増して4,820億米ドルの規模に達し、今後3年間は年率19.70%の2ケタペースで拡大することが見込まれます9。
この力強い成長をけん引している主な要因として、AIによって強化された会話エージェントやバーチャルアシスタントといったAIアプリケーション、血糖値のモニタリングセンサーのようなウェアラブル/モバイルヘルスアプリケーションの台頭、そしてとりわけ、ヘルステックの研究開発に資金を提供する政府が増えていることが挙げられます。
- 情報の増大、所得の増加、介護需要の高まり:ベビーブーム世代(1946~64年生まれ)は今日、多くの国で最大の人口層となっています。米国では、この世代が人口全体のおよそ7,000万人を占め、ミレニアル世代(およそ7,200万人)についで2番目に大きな世代グループとなっています10。一方でこの世代は、総可処分所得の70%を保有しており、その資産額は2030年には53兆米ドルと、全世帯資産の約45%に相当すると予想されています11。
- ベビーブーム世代では、多疾患併存(複数の慢性的・長期的疾患を抱えた状態)が「医療制度における(中略)見て見ぬふりされている問題」12となっており、医療支出と医療資源に対する需要をかつてない水準に押し上げています。しかし、一般的なイメージとは裏腹に、ベビーブーム世代は技術革新を積極的に受け入れており、調査によれば、この世代のほぼ3分の1 がデジタルヘルスケア活動に積極的に関わっています。
ウェルネス意識の高い世代 の台頭が新しいビジネスチャンスを開く
Z世代(1997~2012年生まれ)とY世代/ミレニアル世代(1981~96年生まれ)は現在、合わせて世界人口の約40%、世界の労働力の50%を占めています13。Z世代が労働力に占める割合は、2024年にはベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)を抜くと予想され、大きな文化的シフトが起こる可能性があります。この社会・人口動態的なメガトレンドは、さまざまな年齢層にわたる消費パターンの根本的な変化に適応できる企業に、新たな機会をもたらします。
- 最も多様性に富み、学歴が高く、つながりが広く、社会的意識が高い。Z世代とY世代/ミレニアル世代は、上の世代とは異なる価値観、好み、行動様式を持っています。これらの世代は、企業や政治の場で意思決定を行う立場に移り始めており、自分たちのイメージに合わせて世界を変革しつつあります。量より質を特に重視し、意識の高い消費パターンを持つこれらの世代は、購入行動において経験、持続可能性、社会的責任を優先する傾向があります。
- コンパニオンアニマル―ペットが子どものような存在になる。ペットとともに育ち、ペットを大切な家族の一員とみなすミレニアル世代とZ世代は、ペットを人のように扱う「ペットヒューマニゼーション」のトレンドをけん引しています。彼らは、上の世代よりもはるかにペットの健康と幸せに重きを置き、質の高いヘルスケア、栄養価の高いフード、プレミアムサービスにお金をかけることを惜しまない姿勢を示しています。投資の観点から、この成長に乗じる機会がいくつかあります。
結論
メガトレンドの背後にあるディスラプティブな要因に変わりはないものの、こうした根本的なシフトを後押ししている個々の要因は、その比重や社会経済的な重要性が変化する可能性があります。このような状況では、投資を分散し、現代の大きな転換から最も恩恵を受けることができるテーマを正確に突き止め、投資家が投資できるようにすることがいっそう重要となります。
1 International Energy Agency: Massive expansion of renewable power opens door to achieving global tripling goal set at COP28. As of January
2024
2 Deloitte.com: AI in cybersecurity: A double-edged sword. As of 2023.
3 Our World In Data – urbanisation, November 2019
4 https://www.un.org/en/un-chronicle/it%E2%80%99s-all-about-cities-we-mustn%E2%80%99t-flip-coin-sustainable-investment. As of October 2023
5 Precedence Research January 2023
6 Precedence Research 2020
7 McKinsey on Semiconductors. As of November 2021
8 OECD (2023), Health at a Glance 2023: OECD Indicators, OECD Publishing, Paris
9 Precedence Research: Smart Healthcare Market Will Grow at CAGR of 19.7% By 2027. As of November 2023
10 Statista: Resident population in the United States in 2022, by generation. As of August 2023
11 Deloitte University Press: The future of wealth in the United States. Mapping trends in generational wealth. As of November 2015
12 Oxford Academic - The Journals Of Gerontology: An International Perspective on Chronic Multimorbidity: Approaching the Elephant in the Room.
As of October 2018
13 PwC Uganda: How prepared are employers for Generation Z? As of 2022