Embracing Disruption
グリーン化する中国
グリーン化する中国-世界第2位の経済大国におけるサステナビリティの予期せぬ発展
数十年にわたり成長が優先事項となってきた中国では特に、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮は、サステナビリティと経済成長の間のトレードオフとして捉えられがちです。しかし、状況は変わりました。今や中国は、グリーンテクノロジーとグリーン製造業に戦略的重点を置いており、その戦略的展望には「輸出の可能性」「経済の多様化」「持続可能な成長」の3大テーマが含まれています。
海外市場への製品の売り込みに関して、中国は再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、グリッドインフラ、新エネルギー車の各セクターで急速なシェア拡大を目指しています。不動産市場をめぐる問題を考えると、このような新産業の発展は、イノベーションが主導する新たな成長パターンへの移行を後押しするものです。それは実際に、市場に投入される製品やサービスの点でも、世界が生産や取引の新たなモデルに移行する中で資産の陳腐化リスクを軽減する点でも、中国の将来の成長をよりサステナブルなものにするでしょう。
そして、こうした変化はすでに本格化しています。たとえば、2023年の中国の通関データによると、中国が輸出する自動車の3台に1台は電気自動車(EV)で、前年比67%以上増加の180万台に達しました。同様に、中国の太陽電池モジュールの生産量は16年連続で世界第1位となっており、ポリシリコン、シリコンウェハ、太陽電池の生産量は世界全体の80%を占めています1。このように、中国のグリーン製造への取り組みは、環境問題に対処するだけでなく、サステナブルなテクノロジーにおける中国の世界的リーダーとしての地位を確立しています。
ESGリスク管理-変化するカルチャー
新産業の重視に加え、中国企業は特に製造プロセスやサプライチェーンの管理においてESGリスク管理への意識を高めています。この変化は、ビジネスプロセスへのESGの組み込みに対する姿勢という点で、より広範でグローバルなカルチャー変化の一部です。しかし、中国特有の推進要因もあり、それが企業内での変化を加速させていると弊社は考えます。
たとえば、中国は依然として多くのグローバルブランドの製造拠点であり、これらのブランドはESG実践への取り組みをますます積極的に表明するようになっています。米国が本拠のある著名なテクノロジーリーダー企業は、2030年までに自社製品とサプライチェーン全体でネットゼロ(炭素排出量の実質ゼロ)とすることを約束しています。中国がこのような企業のサプライチェーンの中心に位置し続けるには、こうした変化する需要に迅速に適応する必要があります。国家レベルでは、EUなどが、カーボンフットプリントの高い鉄鋼などの原材料の輸入に対する罰則を強化しており、ここでもメーカーは適応を余儀なくされています。
このような国際的圧力に加え、中国国内の一連のESG規制も急速に拡大しています。2023年から国営企業にESG開示を義務付けているほか、中国国内の排出量取引システム(ETS)の範囲が拡大する予定です。一方、上海と深圳の証券取引所は現在、サステナビリティ開示のガイダンスを公表しており、上場企業の透明性向上を強調しています。
この企業カルチャーの変化における最後の重要な推進力は、ESG管理と透明性の向上を強く主張する国内外の投資家からの要求です。実際、生物多様性、サプライチェーン管理、国際的なESG基準などのテーマについて、グローバル投資家が中国企業との議論を主導することがたびたびあります。たとえば、弊社独自の体系的なESGアプローチは、現地での知見と組み合わせることで、上場企業と投資家の双方向コミュニケーションを促進し、投資案件に対する確信を強められます。
中国株式投資にESGを組み込む
単純な定量的ESGアプローチは一定の知見は提供するものの、ESG情報開示に大きく依存し、過去を振り返る形になりがちです。そのため、非常に国際的な投資家基盤を持つ大手中国企業の方が、多くの場合、純粋な定量的ESGポートフォリオにおける評価が高く、銘柄選択されています。このバイアスは、情報開示がより断片的な新興市場でさらに明白です。
実際には、各企業のESGの状況や歩みはそれぞれであり、それに応じて弊社がアプローチを調整することが重要となります。弊社のESG分析は、純粋な財務実績の枠を超えて、市場が見逃している株価のドライバーを特定可能にします。市場の動きによっては、弊社がESG上の重要なリスクおよび機会と捉えるものが、開示に基づく格付けと大きく異なる場合があります。
電気自動車(EV)バッテリーを例にとると、弊社の分析は世界的な出荷予測にとどまりません。たとえば、労務管理やカーボンフットプリントへの配慮から生じる潜在的な貿易障害についても掘り下げています。弊社は、このような調査に積極的に取り組むことで、サプライチェーン管理に優れ、労働慣行がしっかりし、脱炭素化へのコミットメントが高い企業を見極めています。実際に、これらの要因は、企業がグローバルな顧客との交渉力を強化するために非常に重要であると弊社は確信します。
リターンの向上につながる可能性のあるもう1つの分野は、かつてESGへの対応が遅れていた企業における改善です。たとえば、中国の国有企業(SOE)について、効率性の低さやESG格付けの低さに対する市場の懸念を弊社は認識しています。しかし、そのようなケースでは、変化の方向性に注目することが重要であると弊社は強く信じています。経営陣のインセンティブが高まれば、多くの場合、関連当事者取引の削減、株主還元を高める増配、投資家との積極的なコミュニケーションといった変化が促されます。多くの国有企業における積極的なガバナンスの進展により、将来のパフォーマンスが向上を示す可能性もあります。
時価総額がより小規模な企業を見ると、環境や社会にプラスの影響を与えていても評価が低い企業も見受けられます。それらの企業がエネルギー転換の分野において果たす役割は間接的かもしれませんが、依然として不可欠です。例としては、レジリエントなグリッドネットワークの鍵となる変圧器メーカー、データセンターのエネルギー効率を向上させる冷却ソリューションプロバイダー、新エネルギー車で市場シェアを伸ばしている自動車部品サプライヤーなどが挙げられます。実際、これらの企業の多くは開示情報が十分でなく、ESG格付機関から低い評価を受けていますが、ニッチな規模や相対的に限られたリソースを考えれば当然のことです。
構造的変化は、中国のESG慣行が前向きな軌道に乗りつつあることを示しており、企業と投資家の双方に利益をもたらします。弊社の詳細な調査と独自のサステナビリティ手法は、開示情報に基づく格付けの枠を超えたESGの機会とリスクの特定を可能にします。
1 https://ydyl.cctv.com/2024/01/17/ARTI4Ap7tYnOIuMtgjv74tQF240117.shtml