Embracing Disruption
中国の変革は欧州企業にとって何を意味するか
中国は欧州の投資家にとってさまざまな意味で重要な市場です。欧州企業の方が、米国企業よりも国際的なエクスポージャーが多い傾向にあります。ここ数十年の中国の目覚ましい経済成長は、欧州企業にとって巨大な市場機会を生み出しました。
要点
- 欧州企業は中国の変革に適応する必要があります。
- ハイエンド製造業、高級品、製薬、金融が恩恵を受けます。
- 電気自動車(EV)、バッテリー、再生可能エネルギーの分野は、中国との競争という課題に直面する可能性があります。
中国市場へのエクスポージャーを持つ企業は数多くあり、テクノロジー、原材料、資本財、消費財など幅広い分野を網羅しています。
代表例として、ASML(半導体機器メーカー)、BMW(高級車メーカー)、Rio Tinto(資源会社)、Richemont(高級品会社)が挙げられます。
中国は、欧州企業にとって重要な販売先であるだけではありません。いくつかの統計によると、世界の製造業に占める中国のシェアは、2003年は10%未満でしたが、2021年には31%まで上昇しました。世界の製造業において中国は支配的な地位を築いており(参照:米国16%、EU 16%)、多くの欧州企業がバリューチェーンにおいて、直接的または間接的な中国へのエクスポージャーを抱えています。
多くの場合、中国の製造業が関与しない「純粋な」欧州製品を想像することは困難です。
たとえば、欧州は一部の重要な医薬品の生産、特に重要な成分(原薬:API)に関して中国に大きく依存しています。また、中国は欧州に対するほぼ唯一の太陽光発電パネル供給国です。最終組み立てで欧州企業が優位を占めるロボティクスなどの産業でさえ、多くの部品の製造や原材料の供給に中国が関与しています。
欧州企業にとってのチャンス
数十年にわたる急速な成長を経て、中国が成長を続けるには、不動産やインフラを多額の借入金で資金調達するという古いモデルに頼り続けられなくなっています。さらに、人口高齢化などの構造的なボトルネックがますます顕在化しています。政策文書においてしばしば「質の高い発展」と呼ばれる中国経済のアップグレードは、中国政府の重点課題です。一方、中国は「二重循環」戦略を通じて、内需主導による成長の促進と、国際貿易への依存の削減に取り組んできました。
20年前に中国が投資テーマとして登場したとき、投資家の間でよく使われた表現は、「ドラゴン(中国)を養う」ことができる企業を探すというものでした。当時、投資の人気銘柄は原材料メーカーとエネルギー企業で、それらは中国の不動産およびインフラの一見とどまるところを知らない需要を支えていました。この例えは今でも当てはまりますが、違っている点はドラゴンの食欲が当時とは変化していることです。ハイエンド製造業、自動化、デジタル化を専門とする欧州企業は、中国の産業アップグレードから引き続き恩恵を受けます。消費の役割がより顕著になるにつれて、高級品やユニークな消費者向け製品を販売する企業は、今後も恩恵を受けるでしょう。中国社会は急速に高齢化しており、医薬品や資産管理も興味深い分野です。
過去数年間、アリアンツGIにおける配当重視の戦略は、上記の構造的テーマを捉えるものとして位置づけられてきました。興味深い企業の1つは、営業利益の大部分をエクスプレス事業で稼ぐドイツの物流・宅配業者です。同社は特に、欧州における中国の一部のEコマース(電子商取引)企業による力強い成長の恩恵を受けています。
投資家はかつて「ドラゴンを養う」ことができる企業を探していました。しかし、最近のドラゴンの食欲は変化しています。ハイエンド製造業、自動化、デジタル化を専門とする欧州企業は、中国の産業アップグレードから引き続き恩恵を受けます。
欧州企業の課題
とはいえ、欧州企業にとって、中国の産業アップグレードは両刃の剣かもしれません。たとえば、中国は電気自動車、EVバッテリー、再生可能エネルギーの「新たな3つの成長ドライバー」の開発戦略を推進しています。これらの産業は、一方では欧州の再生可能エネルギーへの取り組みに潜在的な解決策を提供します。他方では、中国企業は欧州企業にとって手ごわい競争相手となっています。特に、中国のこれらの業界がすでに大幅な過剰生産能力に直面していることを考えればなおさらです。熾烈な価格競争は避けられそうにありません。
EV業界はその好例です。「メイド・イン・チャイナ」の電気自動車3,000台を積んだ最初の貨物船がブレーメン港に入港したニュースは、欧州で大きな話題となりました。
中国のEVメーカーは、欧州の同業他社と比べて約30%のコスト優位性があると広く信じられています。その欧州市場への参入は、欧州の大規模製造業者に大きな競争圧力をかけることになります。欧州の自動車メーカーおよび従来のサプライチェーンにとって、今はまさに試練のときです。
世界の資本市場は、過去30年間とは大きく異なる地政学的背景に直面しています。欧州企業は、平均して世界規模での幅広いエクスポージャーを持っており、意思決定プロセスにおいてさまざまな新たな地政学的要因を考慮する必要があります。たとえば、あるオランダの大手半導体サプライヤーは、中国への輸出規制強化に直面し、将来の成長機会について見直しを迫られる見通しです。自動車や化学分野の大手企業では、「現地生産・現地販売」アプローチの採用が必要となってきます。この場合、欧州企業は効率性と安全性をより慎重に比較検討する必要が生じ、その結果、やがて魅力的な資本収益率が得られなくなる可能性があります。欧州株ポートフォリオの銘柄選択プロセスにおいて、投資家はこれらの要素を適切に考慮する必要があるでしょう。
中国経済と資本市場—国際的および欧州の視点
グローバル投資家の目から見て、中国に関する現在の不透明感は、次のような問題に集中しています。(1)中国は成長のボトルネックに陥ったと見られ、人口高齢化がこれにさらなる圧力を加えていること。(2)主要な成長原動力となってきた不動産市場が大きな構造的問題に直面していること。(3)電子商取引と教育分野における強引な規制が起業家精神を抑圧していること。(4)地政学的緊張の高まりにより、投資家はより多くの株式リスクプレミアムを見込む必要があること。
ボトムアップの投資家としては、これらの不利な要因が、上場企業の収益性の全体的な低下につながっていることが観察できます。したがって、グローバル投資家は、中国株に再び関与する前に、上記の諸問題を解決するためのロードマップがどのように進展するかを注意深く検討する必要があります。
これまでのところ、中国政府と中央銀行による不動産市場支援策および預金準備率引き下げ措置は、正しい方向への一歩です。しかし、それらは市場にとってのプラス要因として十分とは考えられていません。中国政府が、消費を促し、地方政府の債務問題を解決し、不動産セクターを安定させるための追加的な財政措置を行うかどうかはまだ分かりません。直近の全国人民代表大会で示された中国政府の5%成長目標は、質の高い発展に焦点を当てるもので、同国が内需の刺激と産業アップグレードの継続にさらに重点を置く可能性を意味します。この困難な仕事は、消費財や工業製品を扱う欧州企業への投資機会をもたらすものでもあります。
転換期の中国を悲観する必要はない
中国経済は転換期にあります。これは、欧州企業にチャンスとリスクをもたらします。投資家はそれを慎重に見定める必要があります。
ほとんどのグローバル投資家が「様子見」の姿勢を取る中、弊社はより楽観的な見方をするとともに、有名な南宋の詩人、陸游の次の一節を引用したいと思います。「山重水複疑無路 柳暗花明又一村」(出口はあるのかと疑うような果てしなく続く山や川を通り過ぎ、柳の木陰を抜けると、再び鮮やかな花々や美しい村に出会う)