Achieving Sustainability

削減貢献量:投資判断における企業のネットゼロ実績の評価に役立つ指標

気候変動による気象災害の頻度と深刻さの増大は、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロの達成に向け今すぐ行動をおこす必要があることを浮き彫りにしています1。この目標達成に最も重要な貢献ができそうな投資を見極めるのに役に立つのが、より持続可能な製品やサービスがもたらすプラスのインパクトを示す「削減貢献量」 です。

要点

  • 削減貢献量は、製品、サービス、プロジェクトによって社会全体で削減できた排出量を反映しています。削減貢献量は、従来の測定指標であるスコープ1、2、3排出量を補完する主要な指標です。
  • 太陽光、風力、グリッド技術、持続可能なバイオガスなどの気候ソリューションは、削減貢献量を増やすカギとなります。
  • 削減貢献量に関しては現在のところ、方法論に明確さが欠けているものの、プライベート市場とパブリック市場で広く適用されるようになれば、測定アプローチが定まっていくと思われます。
  • 削減貢献量の指標は、2050年までのネットゼロ達成に最も大きな貢献をするソリューションに投資を向けるのに役立ちます。

スコープ3排出量を取り上げた2023年7月のテーマ記事に続き、本稿では、削減貢献量の概念、気候目標達成におけるその重要性、金融市場にどのように統合されつつあるかを詳しく取り上げます。

削減貢献量とは何か?

多くの投資家にとって、企業が自社のカーボンフットプリントをスコープ1、2、3排出量として報告することは当たり前になると思われます。これらの指標は、工場の操業や配送トラックの運転に使われるエネルギーから、企業のサプライヤーや企業の製品使用時に顧客が生み出す排出量まで、バリューチェーン全体で発生するGHG排出量を捉えるものです。

対照的に、削減貢献量は、製品・サービスが企業のバリューチェーンの外部の経済にもたらす、より広範なプラスの貢献(もしあれば)を捉えることを目的としています2。たとえば、ガスボイラーのように化石燃料を必要とする製品と比べると、ソーラーパネルやヒートポンプは、一般家庭顧客がこれらの製品を使用する際に排出量を「回避」するのに役立ちます。図表1は、削減貢献量に寄与する主な気候ソリューションをまとめています。

図表1:IPCCによる気候ソリューションの例
図表1:IPCCによる気候ソリューションの例

出所: IPCC (2022).3

企業のカーボンフットプリント実績の測定とは異なり、この将来予測的なアプローチは、代替的なソリューションや市場の動向、長期的な規制などを考慮に入れた「基準シナリオ」と比較した場合の企業の製品のプラスの貢献を測定するものです(図表2参照)。

図表2:企業レベルのGHGインベントリ算定と社会レベルのプロジェクト/介入算定としての削減貢献量の説明図
図表2:企業レベルのGHGインベントリ算定と社会レベルのプロジェクト/介入算定としての削減貢献量の説明図

出所: WBCSD (2023).4

削減貢献量に関するよくある誤解とは?

削減貢献量という概念は、数十年にわたって発展してきました5が、その特定と測定に関しては、いくつかの誤解が根強く残っています。

削減貢献量は、スコープ1、2、3のGHG排出量の代替となる

削減貢献量は、「スコープ4」の排出量と呼ばれることがあります。しかし、削減貢献量は企業の科学的根拠に基づく脱炭素化目標6に寄与するものではなく、異なる算定システムに分類されます(図表2参照)。たとえば、製品の製造を脱炭素化するために再生可能エネルギーを購入した場合、スコープ2排出量の低下には寄与するものの、削減貢献量には寄与しません。しかし、企業の製品を使用することで、同じ機能を果たす他の製品を使用した場合よりも社会全体における排出量が削減される場合、それは削減貢献量とみなされ、ネットゼロ目標の支援における企業の実績を補完することができます。

スコープ3排出量の削減は、削減貢献量と同じである

スコープ3排出量は、企業の直接的な活動の前後におけるバリューチェーンにおける排出量を考慮に入れるものであり、企業レベルで過去の実績に基づき算定されます7。一方、削減貢献量は、将来予測的なものであり、代替製品と比較して特定の製品がもたらすプラスの貢献の「追加性」を見込んで算定されます。

とはいうものの、製品のエネルギー効率が向上すれば、企業自身のスコープ3排出量が減少するとともに、企業自身のバリューチェーンの外部で回避された排出量が増大します。つまり、スコープ3と削減貢献量は、算定のアプローチが異なるということです。これは、次の点から重要です。

  • 効率性の高いソリューションが普及すると、削減貢献量は増えるものの、そのソリューションを製造する企業の絶対的なスコープ3排出量は増大することになります(原単位は向上するにもかかわらず)。
  • 削減貢献量は、既存の「基準点」との比較で表されます。そのため、より高い基準がより広く採用されるようになるにつれ、削減貢献量は減少する可能性があります。
二酸化炭素除去(CDR)プロジェクトは、削減貢献量として考えるべきである

CDRプロジェクト(「ネガティブエミッション」とも呼ばれる)は、大気から二酸化炭素を除去して、地質、陸上、海洋の貯蔵庫や製品に永続的に貯蔵するものです8。CDR活動は、削減貢献量として計上できるだけでなく、企業のスコープ1、2、3排出量の算定にも含めることができます。ただし、購入した除去クレジットは、その算定に含めるべきではありません。両方の指標を持つことで、企業がネットゼロ目標に貢献するために取ることができる行動が強化されます9。たとえば、スコープ3排出量を減らすために単に農業サプライヤーを変更するのではなく、サプライヤーと提携してバイオエネルギープロジェクトを実施し、大気への排出量の全体的削減に貢献することが考えられます。

なぜ削減貢献量に焦点を当てることがそれほど重要なのか?

ごく簡単に言えば、問題を解決するためのソリューションが必要だからです。残念ながら、投資ギャップは大きく(図表3を参照)、既存のテクノロジーと新しい革新的製品の両方を急速に拡大しなければ、世界の排出量を最小限に抑えてネットゼロを達成する能力が大幅に制限されることになります。

図表3:2050年までのネットゼロ達成に必要な2021~2030年の気候ソリューションへの投資ギャップ推定額
図表3:2050年までのネットゼロ達成に必要な2021~2030年の気候ソリューションへの投資ギャップ推定額

出所: IIGCC (2021).10

削減貢献量は、気候行動枠組みとどのように関連しているか?

ネットゼロには、気候ソリューションが求められます。これらの気候ソリューションに必要な資金調達を容易にするには、業界のイニシアチブによる支援と適切な技術的指針が必要です。そうした指針には、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)10が公表しているトランジションファイナンスに関する指針や、気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)11が策定した気候投資ロードマップなどがあります。後者は、主要な気候ソリューション指標として削減貢献量を推奨しており、収益とCAPEX指標と組み合わせることで、ポートフォリオが気候ソリューションにどれほど投資されているかを数値で示すのに役立つとしています。

業界指針の発展と同時に、投資における削減貢献量の統合・測定に対する関心も高まっています。2022年は、CDP気候変動質問書で低炭素製品について報告した企業の約50%が削減貢献量についても報告していました(図表4参照)。とはいえ、データと方法論はまだ十分に整備されておらず、第三者または企業自身による削減貢献量の推定値を裏付けるためには、堅固なエンゲージメントが必要です。

図表4:さまざまなCDP気候開示に参加している企業の数
図表4:さまざまなCDP気候開示に参加している企業の数

出所: Allianz Global Investors and CDP (2022).12

削減貢献量はどのように投資に統合されているか?

気候投資は、大きく「ポートフォリオの脱炭素化」と「ソリューションへの投資」の2つに分けることができます(図表5参照)。弊社は、ポートフォリオの脱炭素化において気候ソリューションを採用している企業を組み入れる場合、「削減貢献量」を、これらのソリューションを実現する企業に結び付けています。

図表5:気候変動戦略
図表5:気候変動戦略

出所: Morningstar, September 2023

削減貢献技術の開発段階は、まだ比較的未成熟な段階にあり、初期段階のソリューションやインフラに資金を供給し、規模を拡大することに重点が置かれています。したがって、削減貢献量の投資への統合においては、プライベート市場、特にプライベートエクイティとベンチャーキャピタル分野の方が成熟しているのは当然と言えます。気候重視のプライベート市場ファンドは、近年組成されたインパクトファンドの中で最大のシェアを獲得しており、2023年の第1四半期から第3四半期にかけて組成された新規運用資産の33%を占めていました13。また、最大規模のファンドの中には、気候ソリューションに焦点を当てたものもいくつかあります14。弊社の2023年のホワイトペーパーで取り上げたように、削減貢献量は、インパクト投資ポートフォリオにおいて、気候変動対策のプラスの成果を示す主要な指標となっています。

パブリック市場は現在、このテーマへの注目に関してプライベート市場に後れを取っていますが、弊社では以下に挙げる理由から、今後は注目が高まると見ています。

  • 気候ソリューションが現在、パブリック市場の気候ファンドに占める割合は19%15ですが、中国とその他地域16の投資家においては、ずっと大きな割合を占めています。削減貢献技術は、気候ソリューションの主要な技術であり、これらの地域が気候ソリューションに力を入れていることは、削減貢献ソリューションと技術への投資にとって追い風になるはずです。
  • 欧州連合のEUサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)第9条 に分類される気候ファンドは、SFDRによる明確化を受けて新たな注目を集めている分野ですが、この第9条ファンドの気候変動戦略において、気候ソリューションは、最も大きな割合を占めています(図表6を参照)。
  • 削減貢献量を支える具体的な活動が環境目標への貢献と関連付けられるようになり、持続可能投資の割合やSDGsと整合したKPIに反映されることが予想されます。
  • 削減貢献量は、S&Pグローバル等の機関が提供するデータの向上のおかげで、グリーンボンドに関する目標の進捗を測定する主要な指標として急速に採用されつつあります17
  • 最後に、CDP気候変動質問書のようなイニシアチブは、気候変動の適応・緩和に関する開示の向上を促し、そうした開示に削減貢献量がますます含まれるようになることが予想されます。
削減貢献量の次のステップは?

気候ソリューションとそのために利用可能な資本に対する関心は、COP28において明らかでしたが、削減貢献量が幅広く採用され、気候ソリューションに投資が向けられるようになるかどうかは、測定に関する方法論の継続的な共通化にかかっています。方法論の共通化が進めば、この測定指標の信頼性と比較可能性の両方が高まります。気候ソリューションの「追加性」を測定するための共通のセクター別の基準シナリオの定義も、比較可能性を確保するために極めて重要となるでしょう。合意が得られれば、これらのシナリオを、タクソノミー(分類法)や科学的根拠に基づく枠組み、エネルギー転換に関する規制などの拘束力のある基準に組み込むことが可能となります。

2050年までのネットゼロ達成に必要な気候ソリューションへの投資ギャップを埋めるには、巨額の投資が必要です。削減貢献量という測定指標は、目標達成に最も大きな貢献をするソリューションに投資を向けることによって、この問題を解決する一助となります。削減貢献量は、プライベート市場でのインパクト投資では使用が定着しており、パブリック市場でも注目されるようになっていることから今後はますます適用が増えると思われますが、投資への統合を可能にし、2050ネットゼロ目標達成の可能性を最大限に高めるためには、方法論の標準化が迅速に進む必要があるでしょう。

図表6:戦略別に見た第8条・第9条ファンド
図表6:戦略別に見た第8条・第9条ファンド

出所: Morningstar, September 2023.18

1 IPCC (2021). Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change.
2/4 WBCSD (2023). Guidance on Avoided Emissions: Helping business drive innovations and scale solutions toward Net Zero.
3 IPCC (2022). Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change.
5 Mission Innovation (2023). The history of solution providers and avoided emissions/climate handprint in 35 steps.
6 SBTi (2023). SBTi Corporate Manual.
7 GHG Protocol (2013). Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
8 IPCC (2022). Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change.
9 GHG Protocol (2023). Land Sector and Removals Guidance. Part 1: Accounting and Reporting Requirements and Guidance (Draft).
10 GFANZ (2023). Scaling Transition Finance and Real-economy Decarbonization: Supplement to the 2022 Net-zero Transition Plans report.
11 IIGCC (2022). Climate Investment Roadmap
12 CDP (2022). Corporate Responses Dataset 2022.
13 Pitchbook (2023). 2023 Impact Investing Update, December 2023.
14 A look at the 5 biggest US PE impact funds – PitchBook, June 2023.
15 “Investing in times of Climate Change”, Morningstar, September 2023.
16 Includes Australia, Canada, South Korea, Taiwan, Japan, Malaysia, Israel, India, Singapore, Chile, New Zealand, Brazil, Thailand, and Indonesia.
17 S&P Global (2022). Measuring the impact of green bonds, October 2022.
18 “Investing in times of Climate Change”, Morningstar, September 2023.

Top Insights

金利を読み解く

市場は概ねこの結果を織り込んでいるものの、トランプ氏のポピュリスト的政策が波紋をもたらすことが予想されます。投資家は選挙結果をどのように受け止めているのでしょうか?

詳しくはこちら

市場展望インサイト

足元の経済指標は日銀の政策パスを裏付けるものです。また、利上げ継続の前提条件はまだ整ったままです。それにもかかわらず、日銀のメッセージは、10月会合で金利調整を急ぐ必要がないことを示しています。これには主に二つの理由があると弊社は考えます。

詳しくはこちら

市場展望インサイト

最近の米雇用統計が予想外に上振れるなど、米国の経済指標が強弱まちまちとなる一方、ユーロ圏の統計データは軟調傾向が続いています。

詳しくはこちら
  • 【ご留意事項】
    • 本資料は、アリアンツ・グローバル・インベスターズまたはグループ会社(以下、当社)が作成したものです。
    • 特定の金融商品等の推奨や勧誘を行うものではありません。
    • 内容には正確を期していますが、当社がその正確性・完全性を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている個別の有価証券、銘柄、企業名等については、あくまでも参考として申し述べたものであり、特定の金融商品等の売買を推奨するものではありません。
    • 過去の運用実績やシミュレーション結果は、将来の運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料には将来の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における当社の見解または信頼できると判断した情報に基づくものであり、将来の動向や運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている内容・見解は、特に記載のない場合は本資料作成時点のものであり、既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。
    • 投資にはリスクが伴います。投資対象資産の価格変動等により投資元本を割り込む場合があります。
    • 最終的な投資の意思決定は、商品説明資料等をよくお読みの上、お客様ご自身の判断と責任において行ってください。
    • 本資料の一部または全部について、当社の事前の承諾なく、使用、複製、転用、配布及び第三者に開示する等の行為はご遠慮ください。
    • 当社が提案する戦略および運用スキームは、グループ会社全体の運用機能を統合したものであるため、お客様の意向その他のお客様の情報をグループ会社と共有する場合があります。
    • 本資料に記載されている運用戦略の一部は、実際にお客様にご提供するにあたり相当程度の時間を要する場合があります。

     

    対価とリスクについて

    1. 対価の概要について 
    当社の提供する投資顧問契約および投資一任契約に係るサービスに対する報酬は、最終的にお客様との個別協議に基づき決定いたします。これらの報酬につきましては、契約締結前交付書面等でご確認ください。投資一任契約に係る報酬以外に有価証券等の売買委託手数料、信託事務の諸費用、投資対象資産が外国で保管される場合はその費用、その他の投資一任契約に伴う投資の実行・ポートフォリオの維持のため発生する費用はお客様の負担となりますが、これらはお客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)を通じてご負担頂くことになり、当社にお支払い頂くものではありません。これらの報酬その他の対価の合計額については、お客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)が決定するものであるため、また、契約資産額・保有期間・運用状況等により異なりますので、表示することはできません。

    2. リスクの概要について 
    投資顧問契約に基づき助言する資産又は投資一任契約に基づき投資を行う資産の種類は、お客様と協議の上決定させて頂きますが、対象とする金融商品及び金融派生商品(デリバティブ取引等)は、金利、通貨の価格、発行体の業績・財務状況等の変動、経済・政治情勢の影響を受けます。 従って、投資顧問契約又は投資一任契約の対象とさせて頂くお客様の資産において、元本欠損を生じるおそれがあります。 ご契約の際は、事前に必ず契約締結前交付書面等をご覧ください。

     

     アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパン株式会社
     金融商品取引業者 関東財務局長 (金商) 第424 号 
    一般社団法人日本投資顧問業協会に加入
    一般社団法人投資信託協会に加入
    一般社団法人第二種金融商品取引業協会に加入

アリアンツ・グローバル・インベスターズ

ここからは、jp.allianzgi.comから移動します。 移動するページはこちらです。