香港での投資サミット
不透明な時代における確信
投資に関する定期的な対話の一環として、弊社は、これから投資家に訪れる機会について議論するために、シニア投資販売プロフェッショナルを召集しました。テーマは、中国を中心とするアジア全体の見通しから、高まる地政学的緊張の影響や、サステナビリティの未来にまで及びました。今日の成長、インフレ、金融政策をめぐり高まる不透明性を、投資家がいかにして確信を持って乗り切るかは、繰り返し取り上げられるテーマです。パネルによる主な結論を共有させていただきます。
概要
- 投資家は、構造的なインフレ、継続的なボラティリティに加え、名目金利の上昇など、「未来への回帰(バック・トゥ・ザ・フューチャー)」に備える必要がある
- 債券は主要な債券のリセットによって、現金をアウトパフォームする。中央銀行による利上げ中断の長期化が予想され、市場の注目は米国債の長期ポジションに集まる可能性がある。ハイイールド債の償却を避ける
- 競合する貿易エコシステムの発生およびサプライチェーンのリスク回避が、インフレ圧力を長期化させる
- 従来の60:40のポートフォリオ配分が圧力を受けるため、アセットクラス内およびアセットクラス間での分散を追求する
- 中国は、引き続き国内の技術エコシステムを進化させ、構築する。中国のデジタルソリューションは、友好的な貿易パートナーによって採用される可能性が高い
- アジアの中産階級の増加などの強力な構造的ダイナミクスは、予想される米国からのデカップリングもあり、アジア経済を魅力的な長期投資の対象とする
- サステナブルな製品のさらに広範な普及を促進するために、急速に進化する移行のテーマを含め、より明確な規制および標準化された方法論が必要とされる
概要
- 投資家は、構造的なインフレ、継続的なボラティリティに加え、名目金利の上昇など、「未来への回帰(バック・トゥ・ザ・フューチャー)」に備える必要がある
- 債券は主要な債券のリセットによって、現金をアウトパフォームする。中央銀行による利上げ中断の長期化が予想され、市場の注目は米国債の長期ポジションに集まる可能性がある。ハイイールド債の償却を避ける
- 競合する貿易エコシステムの発生およびサプライチェーンのリスク回避が、インフレ圧力を長期化させる
- 従来の60:40のポートフォリオ配分が圧力を受けるため、アセットクラス内およびアセットクラス間での分散を追求する
- 中国は、引き続き国内の技術エコシステムを進化させ、構築する。中国のデジタルソリューションは、友好的な貿易パートナーによって採用される可能性が高い
- アジアの中産階級の増加などの強力な構造的ダイナミクスは、予想される米国からのデカップリングもあり、アジア経済を魅力的な長期投資の対象とする
- サステナブルな製品のさらに広範な普及を促進するために、急速に進化する移行のテーマを含め、より明確な規制および標準化された方法論が必要とされる
1989年から20年にわたり世界経済はグローバリゼーション、高成長、資本障壁の低下の時代を経てきました。しかし、世界金融危機(GFC)以来、世界は再び分断に向かい始め、リージョナリゼーション、じわじわと進行する保護主義、そして競合する貿易エコシステムの新たな時代が幕を開けました。
リージョナリゼーションと地政学的緊張:インフレのみならず、イノベーションにも拍車をかける
- ほとんどの投資家は、世界の成長はグローバリゼーションの低下の犠牲になったと考えるでしょうが、見落とされている側面はインフレへの影響とインフレの不安的さです。
- 貿易のリージョナリゼーションと高まる地政学的不透明感のもう一つの重要な影響は、企業によるサプライチェーンのリスク回避です。これは、製造コストの増加と、不適正な資本配分につながる可能性があります。
リージョナリゼーションの重大な断層は、米中間の貿易に存在しますが、総額だけを見ると誤解を招きます。中国の対米貿易黒字は2018年から縮小している一方、アジア諸国やメキシコとの間では、サプライチェーンの再構築によって黒字が拡大しています。
米中の競合が最も激しい分野はテクノロジー分野であり、これは両国の貿易関係にも波及しています。新たなテクノロジーの開発は、これまで投資家の関心を集めてきましたが、その決定要因はそれらのテクノロジーの普及にかかっています。標準はより迅速な普及を確保する上で重要な役割を果たしますが、米中が競合するエコシステムを確立し、その標準を中国の一帯一路構想のような対外政策事業によって広めることによって、分断が起こる可能性があります。各国経済および投資家は、こうした新たな重複する貿易エコシステムに対応する必要があります。
しかし、2021年に米中が、サービスについて世界貿易機関(WTO)による最新の貿易ルールを採用する意向を示したことから、まだ連携の余地は残されています。1
これらの新たな貿易パターンは、通貨にも影響を与えています。
- 米ドルはいまだに支配的通貨であり、予測可能な将来にわたってそうであると予想されるものの、投資家や各国中央銀行は人民元、より小規模な準備通貨(豪ドル、カナダドル)や金に分散化を行っています。実際、各国中央銀行は2022年に年間過去最大となる1,100トン超の金を購入しています。2
- とはいうものの、当面は、人民元が世界の主要な交換手段として米ドルに取って代わることは、特に人民元の流動性がないことを考えればありえないことでしょう。
米国による対中貿易制裁は、近年の政策論争において恒例となった、じわじわと進行する保護主義の最も顕著な一例に過ぎません。サステナビリティや、カーボンプライシングに対する姿勢の違いは、この体制にさらなる阻害要因をもたらします。西側諸国は、他の国々との貿易において、自らの価値体系を守ることと経済的繁栄を確保することとの間でバランスを取る必要があります。
このバランスを見出す作業は、直近の中東での紛争勃発によって、真価を問われることになります。ただし、これによって、世界が徐々に脱炭素化に向かい、石油から脱却しつつあるという事実を覆い隠すことがあってはなりません。現在の地政学においてはいまだに石油・ガスが重要な役割を果たしていますが、商品をめぐる今後の競争においては、再生可能エネルギーの創出に欠かせないレアアースか、または中国などの国が気候変動への対応のために原子力を当てにしていることからウランが、その主役となるでしょう。
アセットクラス全体からの質の選択が優先される
弊社は、マクロ環境は「未来に回帰しようとしている(バック・トゥ・ザ・フューチャー)」と考えています。つまり、実質金利がプラスで、インフレが構造的に進み、金融政策が「より高く、より長期的に」を継続する世界です。ソフトランディングの可能性は排除しませんが、弊社の基本ケースは、金融環境の過剰な引き締めと、コロナからの景気回復後の自然周期的減速による2024年の欧米の景気後退です。中央銀行は、後から振り返って初めて、自らの政策が十分だったかを判断することができるのです。
- コストの負担なく資金を調達できた時代は大幅に不適切な資本の配分をもたらしており、リバランスする必要があります。銀行や保険会社などの主要な当事者は、市場参加者や市場での事象によって売却を余儀なくされない限り、バランスシート上に異常な額の不採算の債券を保有している可能性があります。これは、金融ストレスの発生予測と不可分なものです。
- 主要中央銀行(米国、欧州、英国および日本)における政策の非同期化の潜在的リスク。欧州中央銀行は、米国連邦準備制度理事会と比べ、市場の織り込み以上の対応を行う可能性があります。
- 日本銀行は依然としてハト派ですが、日本は米国債の最大の保有者であるため、予想外の政策転換があれば、金融市場の不安定化を招く可能性があります。日本において30年続いたデフレから、インフレ体制への変化の兆しがあることから、投資家は新たにここでの機会に目を向けてもよいかもしれません。
弊社は、主要な債券のリセットによって、債券が現金をアウトパフォームする舞台が整っていると考えています。
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市場は中央銀行による政策の利上げの中断が長引くことを織り込んでおり、市場の注目は米国債の長期デュレーションのポジションおよび米国、欧州および英国のスティープナーのバスケットに集まる可能性があります。
- ハイイールド債(HY)の償却を避ける:格付けB以上のHYは、デフォルトに対する十分なクッションを備えている傾向があります。
- 弊社は、長期デュレーションのクレジットよりも短期クレジットデュレーションおよび金利オーバーレイ による階層化のテーマを選好しています。
- アジア債券は、日本以外のアジア諸国が米国の周期と非同期化し始め、現地のダイナミクスによって影響されるようになることによって、分散投資の候補となる可能性があります。
資金調達に再びコストが伴うことになり、いわゆる「ゾンビ企業」は苦境に立たされるため、高インフレ下においても価格決定力を持つ質の高い企業に焦点を当てる必要があります。
- 小規模な企業は、資本コストの上昇に対してより脆弱である一方、大企業にとっては、借り換えの壁は数年先である傾向があります。
- デジタル・ダーウィニズムの世界において、勝者は、投資を通じて生産性を改善する能力によって決まる可能性が高いでしょう。つまり、どの企業がAIを活用するためのリソースと経営スキルを真に備えているかということです。
伝統的なマルチアセットのマンデートは、2023年に主要なアセットクラスにおいて非相関性が復活することによって、再び魅力的な提案として浮上することになるでしょう。投資家は、私募市場や商品を含め、投資ユニバース全体にわたり、従来の60:40の配分を超越した分散化を追求してもよいかもしれません。
インフラ資産は、インフレと連動していることが多く、リターンへの期待がリセットされるため、高金利環境に対する保護を提供する可能性があります。高金利にもかかわらずエネルギー移行が加速するようなメガトレンドなど、資本構造全体にわたるインフラの機会を検討してみましょう。
中国が景気減速と格闘し、不動産部門の問題をめぐるネガティブな報道が続くとともに、貿易においても米国との争いを繰り広げる中、投資家は、中国のイノベーション主導型経済への転換に関する見通しを理解したがっています。また、特に、2030年3までにアジアが世界の中産階級の3分の2を占めるという見通しにより、投資家の関心は、中国以外のアジア、およびインドを含む各国から生まれる機会に方向転換しています。
- 人工知能(AI)は中国に中長期的な機会をもたらしている一方、米国の貿易制裁による最も顕著な妨害を受けている分野でもあります。
- AIハードウェアの利用可能性および米国、台湾または日本で確立されたそのサプライチェーンは、短期的にこれらの各国をより魅力的なものとします。
- より長期的には、中国には確かに優位性があります。中国の国内市場は巨大であり、製造業におけるその高い能力により、中国は、まず産業オートメーションなど、ニッチなAIの応用に注力する可能性があります。また、中国は、他の分野で証明してきたように、必ずしも常にテクノロジーリーダーではないものの、迅速に追随することに秀でています。
- 例えば、クライメートテックの分野では、中国はソーラーパネル(世界の製造能力の80%超4)、風力タービン(設置済み能力の60%近く5)、リチウムバッテリー(最大80%の市場シェア6)などの分野で支配的な地位を確立しています。
より広範なサプライチェーンについて、「チャイナ・プラス・ワン」戦略がより広く採用されており、インドや東南アジアは、有望な「プラスワン」地域としてもてはやされています
- 明らかに移転が発生している一方、中国企業が自らのサプライチェーンの再形成において果たしている積極的役割、および彼らが東南アジア全体に構築した緊密な関係を多くが度外視しています。
- インドには長期的にサービスおよび製造ハブになる上で顕著な優位性がありますが、産業化はまだ全体的に初期段階にあります。一定の進歩はあるものの、インドがその潜在能力を発揮するには、改革が必要です。
- 投資家にとってインドにおける絶好の投資先の1つに債券市場があります。インドの中央銀行は、もはや潜在的な国際収支の問題に集中する必要がなく、信用サイクルは強固なポジションにあります。
中央銀行政策の構造的シフトは、その他のアジア諸国でも観測される可能性がある
- 短期的には、東南アジアの中央銀行は、引き続き米国のビジネスサイクルの後を追いかけることになる可能性が高いでしょう。ただし、これらの地域の経済は、米国から方向転換し、対中国およびアジア内での貿易に向かおうとしているため、長期金利が中国に集中しはじめ、米国から離れるシフトが起こるでしょう。
- より長期的には、これが東南アジア諸国における為替の上昇、消費増、および資産価格の上昇につながる可能性があります。
移行金融への十分な対応が必要
特にロシアとウクライナの戦争によって、エネルギーへの依存にスポットライトが当てられたことを受け、サステナブル投資の進化が議論の対象となりました。財務的なリターンと現実世界の影響を融合した、実用的なアプローチが必要です。さらに、サステナブルな製品のさらなる普及を促進するためには、より明確で標準化された方法論が不可欠です。アリアンツグローバルインベスターズでは、これらを具体化する上で、弊社が果たすべき役割があると考えています。
サステナブル投資家の注目が高まっている分野は、より回復力のある経済の実現という、具体的な目標に向けた(できれば意欲的な)道のりを伴う移行です。移行は、サステナビリティに関する対話の方向性を、気候変動からエネルギー安全保障に転換する一つの方法です。これは、私募市場におけるインパクト投資から、明確なサステナブル目的に関連するエクイティ商品まで、様々なアセットクラスにわたって重要となります。
- 移行は、低炭素社会に向かうための手段を創出または促進している企業を、批判するのではなく、支援することに焦点を当てます。
- 信頼性があり測定可能な移行金融市場の構築は、特に炭素集約型セクターに依存している国々にとって不可欠です。
- このアプローチは、排除主導型のアプローチをあまり望まない投資家を取り込む機会をもたらす可能性があります。
- 測定の重要性は、規制に反映されており、気候に重点を置いたベンチマーク(厳格なネットゼロKPIなど)の必要性の高まりを促進しています。
ネットゼロへの移行は、気候移行リスク要因が既に借入コストに影響を及ぼしている、ソブリン債の観点からも大きな機会をもたらします。気候変動に関する投資家グループ (Investor Group on Climate Change: IGCC)プロジェクトは、ソブリン債の移行の方法論を策定しています。
- テーマとして注目が高まりつつある生物多様性と気候を関連づける機会があります。
- 弊社の親会社であるアリアンツは、その意欲、熱意、および新たなネットゼロ移行計画により、弊社のグリーンインフラや水素などの分野における先行者としての地位を支えています。
- 弊社は、明確に定義されたサステナブル投資の目的を持つ、第9条エクイティ商品 に対する旺盛な需要を含む、サステナビティについて考える個人投資家と連携する機会を見出しています。
- 移行に焦点を当てた債券は中国をはじめとする広範なアジアを含む、小規模ながら進化するラベル付き債券のサブセットです。成長を促進するために、標準に関するガイダンスが必要です。
将来に向け、弊社は、投資家は、ブラスの債券リターン、様々なエコシステムに分割された世界、地政学的な緊張など、一部の側面が不気味なほど過去をほうふつとさせる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界に向かうことになると考えます。その他の側面は、東南アジアおよびインドがアジアにおける新たな投資機会として台頭し、気候変動が主役となるなど、全く異なったものとなるでしょう。
1 WTO - WTO | Joint Initiative on Services Domestic Regulation, December 2021
2 World Gold Council - Central Banks | Gold Demand Trends Full Year 2022 | World Gold Council, January 2023
3 Brookings Institute - The unprecedented expansion of the global middle class | Brookings, February 2017
4 IEA – Executive summary – Solar PV Global Supply Chains – Analysis - IEA, August 2022
5 Global Wind Energy Council – Global Wind Report 2023, March 2023
6 BloombergNEF estimates – The World Can’t Wean Itself Off Chinese Lithium | WIRED UK, June 2022
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