Navigating Rates

債券見通し:2023年10月

債券の利回りは、ようやく再び魅力的な水準になったように思われます。しかし、債券の価格は、金利とクレジットのボラティリティ増大の影響を受けやすい状態が続いています。

利回りの上昇は魅力的だが、デュレーションとスプレッドリスクを注視すべき

金利と信用サイクルの転換点、すなわち中央銀行が利上げに終止符を打ち、クレジット指標が悪化し始める時点が直線的に訪れることは稀です。この不確実な時期をさらに複雑にしているのが、ポストコロナ経済に見られる、膨らんだ家計貯蓄と企業のバランスシートといった変則的な要因です。債券の利回りは、ようやく再び魅力的な水準になったように思われます。しかし、債券の価格は、金利とクレジットのボラティリティ増大の影響を受けやすい状態が続いています。こうした高い利回りでインカムを長期的に積み上げていきたい場合、短期的にデュレーションとスプレッドリスクを厳密に管理するのにも役立つ戦略を検討するのがよいと思われます。

9月は、中央銀行が政策金利をさらに引き上げて長期にわたり高めに維持する必要性を示唆したことから、ほとんどの債券市場が低迷しました。10月に入っても債券利回りの上昇は続いています。AAA~AA格付けの国債は、伝統的に「安全な避難先」とされてきたにもかかわらず、デュレーションリスクの上昇により、このまま行けば3年連続でマイナスのリターンを記録することになりそうです。固定金利と変動金利のクレジット資産は、主に利回り上昇と安定したスプレッドのおかげで、年初来のアウトパフォーマンスを維持しました。

クレジットの開始時利回り(新興市場含む)は、歴史的に見て魅力的なエントリーポイントと高いキャリーをもたらしています。この高いキャリーによるクッションは、特定の発行体の格下げの連鎖やデフォルトが生じない限り、長期的に魅力的なトータルリターンを実現するのに役立ちます。とはいえ、スプレッドは現在の水準からタイト化するより拡大する公算が高いと思われます。投資適格(IG)債もハイイールド(HY)債も、より深刻な景気減速に伴い債務返済や借り換えの点で不利になるシナリオを想定していません。

デュレーションが短い特性を有するHY債は、より確実に信用力を評価できる企業信用カーブのフロントエンドで投資を維持することが可能です。弊社は現在、今後12カ月の世界の額面加重デフォルト率1.8%と予想しており、これに基づくとスプレッドは比較的タイトに見えます。なお、市場のコンセンサス予想ではデフォルト率はもっと高く3%前後1と見られており、現在の水準から100 bpほどスプレッドが拡大することを示唆しています。HY債市場では、特にセクター内のスプレッドのばらつきが大きくなっており、同じような格付けで底堅さが劣る銘柄よりも大きなスプレッドで取引されているクオリティの高いクレジットが相対的なバリューをもたらしています。

IGにとっての良いニュースは、今後のトータルリターンが金利デュレーションよりもスプレッドデュレーション(クレジットスプレッドの変化に対する債券価格の感応度)に左右されると考えられることです。ポートフォリオのスプレッドデュレーションを固定しておけば、ボラティリティを下げるのに役立ち、投げ売りが起こった場合にリスクを追加する余地を残します。同時に、直近の決算シーズンから浮かび上がっている強弱まちまちの状況は、セクター選び(たとえば、金融や公益事業)と発行体選びの両方で、アウトパフォーマンスのポテンシャルがあることを意味します。

債券市場のパフォーマンス

 参考市場指数
 2023929日現在の
データ
 

 23年初来
トータルリターン(%)
  
 239
トータルリターン(%)
 最低利回り(%)  実効
デュレーション(年)
 ユーロ建てハイイールド債  6.11   0.31   7.6   3.0
 米国ハイイールド債  5.96   -1.18   8.9   3.6
 グローバル転換社債  5.43   -2.10  2.2   2.2
 米国変動利付債  5.05   0.51   6.1   0.2
 ユーロ建て投資適格債  2.34   -0.86   4.5   4.5
 グローバル新興市場ソブリン債  1.76   -2.60   9.0   6.4
 アジア投資適格債  1.72   -1.24   6.1   4.5
 米国債(1~3年物)  1.61   -0.03   5.1   1.7
 グローバル総合指数  1.09   -1.72   4.2   6.6
 ユーロ建て国債(13年物)  1.08   -0.27   3.5   2.0
 ユーロ総合指数  0.59   -2.08   3.8   6.4
 米国投資適格債  0.02   -2.67   6.0   7.0
 グローバル国債AAA-AA  -0.17   -2.09    3.7   7.4
 米国総合指数  -1.21   -2.54    5.4  6.2
 アジアハイイールド債  -1.43   0.79   16.5   2.5

出所:ブルームバーグ、ICE BofAおよびJPモルガン各種指数。アリアンツ・グローバル・インベスターズ。2023年9月20日現在のデータ。指数のリターンは、ユーロ建ての指数(ユーロ換算)を除き、米ドルヘッジ換算したもの。最低利回りは、「コール償還」(満期より前に予め決められた時点で任意に償還される)が可能な社債の最終利回りを下方調整して算出。実効デュレーションは、これらの「コールオプション」の影響も考慮しています。上記の情報は、あくまでも参考用であり、特定の証券や戦略の売買の推奨あるいは投資助言とみなされないものとします。過去のパフォーマンス、または予想や予測は、将来のパフォーマンスを示すものではありません。

 

金利については、目先の動向と、もっと先の動向の両方を考慮する必要があります。満期が1年以下の主要国の国債はすでに、キャッシュリターンに代わる、高い流動性と競争力のある選択肢になっていると弊社は見ています。やがて信用サイクルが悪化に転じれば、安全への逃避と金利引き下げによって、最高格付けの短期国債は価格が上昇し、現在のマネーマーケット金利をはるかに上回るトータルリターンをもたらす可能性があります。

カントリーリスクを考慮に入れた場合、弊社が選好するのは、米国、英国、カナダなどの実質利回り(インフレ調整後の債券利回り)の高い国々の債券です。一方、ドイツや日本、中国などは、実質利回りが高くありません。弊社は、徐々にポートフォリオの主要なデュレーションを増やすのが妥当と見ています。ただし、組み入れるのは満期までの期間が長めの債券ではなく、2~5年の債券にすべきと考えます。短期利回りと長期利回りの差は著しく縮小しているものの、ほとんどの場合で逆イールドが続いているため、長期の債券の保有による(ターム)プレミアムはまだありません。

さらに、期間が短めの債券の利回りは安定し始めており、株式とのマイナスの相関関係を徐々に取り戻しつつあります。対照的に、期間が長めの債券の利回りは、持続不可能な財政政策に注目が集まる中、ボラティリティが大きくなっています(「今月のチャート」参照)。この動きを考えると、イタリアなどユーロ圏周縁の脆弱な国へのエクスポージャーにも注意が必要です。中央銀行による買い入れがなければ、供給されるソブリン債を市場だけでどの程度吸収できるかは不透明です。

イールドカーブの変化に関しては、10年債と30年債のイールドカーブが最初にスティープ化することが予想されます。2年債と10年債のイールドカーブのスティープ化は、短期的な不透明感から抑制される可能性があります。インフレ率と金利がピークを打ったかどうかはまだ確定していません。同様に、2024年にリセッション(景気後退)入りし、利下げに転じるかどうかも定かではありません。雇用市場の逼迫が持続して賃金インフレが進み、原油価格の上昇がコアインフレに波及すれば、逆イールドが続く可能性があります。したがって、投資にあたっては、予期せぬ世界的な経済ショックが生じた場合に反発する可能性もある、期間が長めの債券へのエクスポージャーを適度に維持するのが望ましいと考えられます。

今月のチャート
短期債の金利は安定しているが、長期債のボラティリティは上昇

出所:2023年1月29日現在のデータ。過去のパフォーマンス、または予想や予測は、将来のパフォーマンスを示すものではありません。

注目すべきポイント
  1. 信用の質のばらつき 第3四半期の決算シーズンが進む中で弊社が注目するのは、利益率とインタレスト・カバレッジ・レシオが底堅さを示しているか、それとも低下の兆候を示しているかということです。これは、より質の高い発行体と、債券の不利な「満期の壁」によってさらに圧迫される可能性がある脆弱な発行体を区別する指標となります。
  2. 財政懸念の再浮上 期間が長めの主要債券の利回りのボラティリティは、単に景気循環的なものではない、構造的な財政赤字拡大をめぐる懸念を示唆しています。特に、中央銀行がこれまでバックストップとして行ってきた、満期を迎える保有債券への再投資を取りやめる意向である場合、この財政状況はイールドカーブをさらにスティープ化させる可能性があります。
  3. 物価と雇用の方向性 第4四半期に入り、ここ最近改善していた欧州のインフレ見通しは、原油価格の高騰によって複雑な様相を見せています。米国では、求人数の予想外の急増が独自の課題をもたらしています。これらの要因の動向が、今回の利上げサイクルがついに転換する時期を左右するでしょう。

米国債のイールドカーブは、2023年に入ってから大きく変化しています。第1四半期に低下した利回りは一転、第2四半期と第3四半期にわたって上昇し、イールドカーブ全般で第1四半期から100 bp上昇しました。これは、長期にわたり金利を高めに据え置くという米連邦準備制度理事会(FRB)のメッセージに市場がようやく反応したためです。

より重要と思われる変化は、長期債のボラティリティが増大していることです。チャートの棒グラフが示すように、期間が短めの米国債(特に2年物)は、四半期の取引レンジが過去2四半期で縮小しています。これは、短期債の金利の安定化を示唆しており、投資家はより安心して、イールドカーブのこの部分のデュレーションを増やすことができると思われます。

対照的に、期間が長めの米国債(特に30年物)の取引レンジは拡大しており、財政赤字をめぐる懸念が再浮上する中、他の主要な金利市場にも影響しています。最終的に、この長期債のボラティリティを背景に、期間が長めの債券の保有に対する「タームプレミアム」が回復することから、イールドカーブは再スティープ化すると思われます。しかし、現在のマクロ環境の不確実性を考えると、これには時間がかかるかもしれません。

1 出所:AllianzGI、ブルームバーグ、2023年9月23日現在のデータ。市場コンセンサスのデータは、S&P、ムーディーズ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン、モルガン・スタンレーによる予想デフォルト率に基づきます。

 

  • 【ご留意事項】
    • 本資料は、アリアンツ・グローバル・インベスターズまたはグループ会社(以下、当社)が作成したものです。
    • 特定の金融商品等の推奨や勧誘を行うものではありません。
    • 内容には正確を期していますが、当社がその正確性・完全性を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている個別の有価証券、銘柄、企業名等については、あくまでも参考として申し述べたものであり、特定の金融商品等の売買を推奨するものではありません。
    • 過去の運用実績やシミュレーション結果は、将来の運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料には将来の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における当社の見解または信頼できると判断した情報に基づくものであり、将来の動向や運用成果等を保証するものではありません。
    • 本資料に記載されている内容・見解は、特に記載のない場合は本資料作成時点のものであり、既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。
    • 投資にはリスクが伴います。投資対象資産の価格変動等により投資元本を割り込む場合があります。
    • 最終的な投資の意思決定は、商品説明資料等をよくお読みの上、お客様ご自身の判断と責任において行ってください。
    • 本資料の一部または全部について、当社の事前の承諾なく、使用、複製、転用、配布及び第三者に開示する等の行為はご遠慮ください。
    • 当社が提案する戦略および運用スキームは、グループ会社全体の運用機能を統合したものであるため、お客様の意向その他のお客様の情報をグループ会社と共有する場合があります。
    • 本資料に記載されている運用戦略の一部は、実際にお客様にご提供するにあたり相当程度の時間を要する場合があります。

     

    対価とリスクについて

    1. 対価の概要について 
    当社の提供する投資顧問契約および投資一任契約に係るサービスに対する報酬は、最終的にお客様との個別協議に基づき決定いたします。これらの報酬につきましては、契約締結前交付書面等でご確認ください。投資一任契約に係る報酬以外に有価証券等の売買委託手数料、信託事務の諸費用、投資対象資産が外国で保管される場合はその費用、その他の投資一任契約に伴う投資の実行・ポートフォリオの維持のため発生する費用はお客様の負担となりますが、これらはお客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)を通じてご負担頂くことになり、当社にお支払い頂くものではありません。これらの報酬その他の対価の合計額については、お客様が資産の保管をご契約されている機関(信託銀行等)が決定するものであるため、また、契約資産額・保有期間・運用状況等により異なりますので、表示することはできません。

    2. リスクの概要について 
    投資顧問契約に基づき助言する資産又は投資一任契約に基づき投資を行う資産の種類は、お客様と協議の上決定させて頂きますが、対象とする金融商品及び金融派生商品(デリバティブ取引等)は、金利、通貨の価格、発行体の業績・財務状況等の変動、経済・政治情勢の影響を受けます。 従って、投資顧問契約又は投資一任契約の対象とさせて頂くお客様の資産において、元本欠損を生じるおそれがあります。 ご契約の際は、事前に必ず契約締結前交付書面等をご覧ください。

     

     アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパン株式会社
     金融商品取引業者 関東財務局長 (金商) 第424 号 
    一般社団法人日本投資顧問業協会に加入
    一般社団法人投資信託協会に加入
    一般社団法人第二種金融商品取引業協会に加入

Top Insights

市場展望インサイト

経済情勢はこれまでのところ、日銀の見通しに概ね沿っています。成長は安定的に推移し、債券市場は底堅さを見せています。

詳しくはこちら

市場展望インサイト

FRB9月に利下げサイクルを開始し、その政策対応機能の焦点がFRBに課された2つの使命のうち雇用側にシフトしたことを示唆して以降、労働市場の動向はそれなりに堅調なものでした。

詳しくはこちら

市場展望インサイト

欧州中央銀行(ECB)は12月12日の会合で25bpの利下げを実施し、預金ファシリティ金利を3%に引き下げると予想します。

詳しくはこちら

アリアンツ・グローバル・インベスターズ

ここからは、jp.allianzgi.comから移動します。 移動するページはこちらです。