日本株月次レポート:2026年10月
局面が変化した日銀と株式市場の反応
9月の日銀金融政策決定会合で、政策金利が1.25%へ引き上げられました。利上げ自体は市場の予想どおりで、意外感はありませんでした。一方、植田総裁の会見は連続利上げを強く示唆するものではなく、さらに審議委員の2人が据え置きを主張して反対票を投じていたことから、市場では「ハト派的な利上げ」との受け止めが広がっています。
株式市場関係者の中には、日銀のスタンスが想定ほどタカ派に傾いていなかったことを、株価の追い風と捉える見方も多いようです。一般に金融環境が緩和的なほど株式には追い風となりやすく、今回の「ハト派的利上げ」もその文脈で解釈されているようです。
では、仮に利上げペースの加速が示唆されていたら、株式市場にとってマイナスだったのでしょうか。必ずしもそうとは言い切れないと考えます。もちろん短期的には株価の振れが大きくなったかもしれません。しかし日本経済はこれまで、①過度な円安が輸入物価を押し上げてインフレを招き、②物価高に苦しむ家計支援のための財政支出が膨らみ、③財政懸念から長期金利が上昇する、という負の連鎖に陥ってきました。利上げによってこの連鎖を断ち切れるのであれば、中長期的には株式市場にとってむしろプラスに働く可能性があります。
もっとも、現時点ではその確度が高いとは言えません。今回の利上げ後も政策金利はインフレ率を下回り実質ベースでは依然としてマイナスであり、日銀が推計する中立金利レンジの下限である(注1)ことから、金融環境は緩和的と言える状態が続いています。過度な円安には一服感があるものの、基調としては円安方向を予想する見方がなお多く聞かれます。
注目したいのは、植田総裁が会見で「政策の局面が変化した」と述べた点です。物価の下振れリスクを重くみる局面から、物価上昇率を2%程度で安定させる局面へ移ったとの趣旨であり、物価の上振れリスクにも従来以上に目を配る姿勢への転換と読めます(注2)。9月開催の会合前には市場関係者の中で連続利上げの観測が高まっていたため、その事前予想に対してはハト派的と受け止められました。しかし、「局面が変化した」との日銀総裁自らの発言を素直に受け止めれば、日銀のスタンスが変わりつつあることにこそ留意すべきと考えます。投資家としては、日銀推計中立金利レンジの中央値を上回る水準まで政策金利が引き上げられるシナリオも視野に入れておくべきと考えます。
今後は、政策金利が上昇する局面でも企業業績と景気の成長を維持できるか、すなわち金融緩和の支えを除いた実力ベースでの日本経済と企業のファンダメンタルズそのものが問われることになります。
個別企業への投資という観点からは、外部環境の追い風に依存するのではなく、自助努力による収益力向上と適切なバランスシート運営を通じて、投下資本収益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)のスプレッドを拡大し、資本を効果的に活用する企業が評価されると考えます。当社は今後も、こうした企業を中長期的な視点で評価し、投資を行っていく方針です。
注1:日本銀行「自然利子率の動向と金融緩和度合の評価」、日銀レビュー 2026-J-5、企画局、2026年3月、自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価
注2:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」、2026年9月18日、https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2026/k260918a.pdf