日本株月次レポート:10月

日立製作所がもつ「カメラの目」

かつて日本を代表する優良企業の一社であった東芝は、2015年に会計不祥事が発覚し、2023年12月、上場廃止となりました。

 

2008年の世界的な金融危機によって多くの企業の業績は悪化しました。東芝も例外ではなく巨額の赤字に陥り、それを埋め合わせるべく「チャレンジ」と称する高い利益目標を設定し、その目標値を取り繕うため、利益嵩上げと損失先送りといった不正会計が常態化していきました。(注1)

 

東芝は2003年に社外取締役が経営を監督するモニタリング型ガバナンス体制の委員会設置会社(現:指名委員会設置会社)にいち早く移行し企業統治の優等生とみられていました。しかし、不正会計問題では社外取締役の経営監視は機能せず、また社長人事をつかさどるはずの指名委員会も軽視され、経営陣内での確執の中で次期社長が選任されるという事態に陥っていました。(注2)

 

東芝とならび優良企業と目されていた日立製作所も金融危機により巨額の赤字に転落しました。

 

巨額赤字からのV字回復と、今年7月に史上最高値を更新した株価形成は、コスト削減だけではなく利益成長に向けた経営施策が多くの国内外の投資家から高く評価されたためと考えます。

 

東原会長は著書の中で、日立が経営危機に陥った原因は「大企業病」(事なかれ主義、官僚体質、甘えの構造)と、お飾りに過ぎなかった社外取締役からなるガバナンスの実態だったと指摘しています。そしてその反省から、経営陣の暴走を防ぐため社外取締役中心の取締役会に権限をもたせるガバナンス改革に着手したのが、金融危機直後に社長に就任した川村氏だったと述べています。(注3)

 

川村氏は、ガバナンスの強化を「カメラの目」と表現しています。自分の姿や言動を客観的にみることのできる第三者の目はどんな会社にも必要であるとし、内部の人間だけで議論していても自分可愛さの意識が働き、‘改善’くらいはできても‘改革’まではなかなかできない、だから企業も第三者からの評価が必要と述べています。社長(つまり当時の川村社長)も解任できる社外取締役が過半を占める取締役会を構築しました。その「カメラの目」があるからこそ社長は緊張感をもって経営を行い会社を私物化する心配もなくなると述べています。(注4)

 

2020年に経済産業省が発行した「社外取締役の在り方に関する実務指針」の中にも、社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することをこころがけるべきである。」(注5)との心得が示されていますが、その10年以上前からそれを考え実践してこられた川村氏の先見の明は敬服に値すると思います。

 

昨今、特にガバナンス体制や経営の質についての議論が活発化しています。上場企業とエンゲージメントを行う投資家側も、長期的に企業価値に大きな差をもたらす論点であるという認識を深め、本質的な対話を展開する必要があると考えます。

 

注1:(参考)久保恵一著、東芝事件総決算、日本経済新聞出版社、2018

注2:(参考)今沢真著、東芝不正会計 底なしの闇、毎日新聞出版、2016

注3:(参考)東原敏明著、日立の壁、東洋経済、2023

注4:(参考)川村隆著、ザ・ラストマン、KADOKAWA、2021

注5:社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)、経済産業省、2020年、P21、

20200731004-1_shagaitorishimariyaku-guideline.pdf (meti.go.jp)

 

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