日本株月次レポート:11月
エンゲージメント・セミナー:東証の取り組みと、企業と投資家の建設的な対話
2024年10月11日、J-moneyオンラインセミナー「企業価値向上に向けた『建設的対話』」と題するウェブカンファレンスが開催されました。東京証券取引所、上場企業、投資家とそれぞれの立場からの議論が展開されました。
第1部は東京証券取引所・上場企画グループの門田耕一郎様による基調講演「上場企業の価値向上実現に向けた東証の取り組み」、第2部のパネルディスカッションでは、アクロポリス・アドバイザーズの古木謙太郎様がモデレーターを務め、スピーカーとして双日株式会社・執行役員の遠藤友美絵様と、当社から私が登壇いたしました。
2年以上にわたり多くの関係者と議論を深め、資本コストと株価を意識した経営の考え方を浸透させる活動に尽力なさっている門田氏から東証のこれまでの取り組みが紹介されました。経営陣の意識改革は初動に過ぎず、今後はその実効性が評価されるステージへすすむことと、企業と投資家が価値向上という目的に向けて継続的に対話することが当たり前となるような環境整備を進めていきたいとの考えが示されました。
パネルディスカッションでは、双日の遠藤様から、企業側の観点から資本コストの低減に向けて将来財務情報につながる定性情報の開示と、企業の潜在力と金融市場での評価のギャップを埋めるため引き続き資本市場との対話を続けてゆかれるとの意気込みが示されました。同社は第1回日経統合報告書アワード・グランプリを受賞なさり価値創造の説明力が高く評価されています。
投資家の立場として当社の取り組みを私からお話しさせていただきました。当社の運用哲学に基づき、長期投資に資する企業か議論するための貴重な情報源としてESGを捉えています。
長期投資の確信度が高いことは運用者としては時間を味方につけて運用戦略を練ることができ、企業側からみても、長期保有の投資家層が拡大することは株価の変動幅が縮小(資本コストの低下)し、結果として“長期投資”を通じて企業と投資家のウィンウィンの関係が構築できると考えます。当社のエンゲージメントの目的は長期投資の確信度を高め、それを通じて企業価値向上という道筋を描いています。
非財務情報がどのような経路で定量的目標に寄与するのか、その道すじを担保する役割を担う取締役会でガバナンスが機能しているのか、という軸を対話の切り口とします。特に少数株主と同じ目線を持ちながら取締役会での発言権をもつ社外取締役の方々が企業価値向上のストーリーを共有し監視なさる仕組みができている企業、すなわち、自浄作用の効いた取締役会であることを確認できれば、確信をもって長期的な投資判断ができると考えます。
取引所、上場企業、投資家の三者間で共通していた点は、経営の意識改革や情報開示は終わりがあるものではない、企業と投資家の対話を通じた相互作用により好循環を作り出す、との考えでした。
PBR1倍を超過するべきという論調のメディア報道が先行してしまいましたが、1倍を上回ればそれでよいというものではなく、持続的成長につなげるため自社の現状分析と投資家との対話を継続することが重要であること、投資家側も議論が短期的・表面的にならないよう努め、価値向上に向けた方法論を共有しインタラクティブな議論を推し進めるべきであること、そして上場企業はその市場の声を取り込み経営施策へ反映させる仕組み作りを継続することが重要という考え方をお伝えすることができたと思います。
日本株市場は他の先進国市場に比べ変動幅の大きい値動きが続いています。投資家との対話に真摯に向き合う企業が増え、資本効率が改善していけば、長期の時間軸をもつ投資家の資金流入が増加すると思います。多くの上場企業が長期投資に資する企業となり、日本株市場自体がより魅力的な株式市場になることを期待し、当社も微力ながら貢献できるよう対話を続けたいと思います。