日本株月次レポート:2025年5月

消費する国と貯蓄する国

トランプ大統領の関税政策により株式市場は乱高下しています。長期投資の観点からは、目先おきている現象に条件反射的に反応し右往左往するべきではなく、その背後にある本質を認識する必要があります。

 

トランプ大統領の関税政策は、対中国覇権争い、米国第一主義、製造業・労働者の復活、として解釈されることがあるようです。一部のエコノミストやストラテジストは、年後半には米政権は減税策や規制緩和によって景気を回復させ来年の中間選挙前には有利な景況感をつくりだすという楽観的な見通しをもっています。

 

しかし、この著しく高い関税政策は世界景気を大きく押し下げるだけでなく米国自体も深刻な景気後退に陥るリスクがあるため、楽観論をもって思考停止となるべきではなく、米政権がかかえている問題意識とそれを今回の関税でどう解決させようとしているのか、諸外国にはどのような影響が起こりうるのか、考えを張り巡らせておく必要があります。

 

英国のエコノミスト、アンドリュー・ハント氏(注1)は、米国の関税政策の本質は、米国政府の財政立て直しにあるとし、次のように分析しています。(注2)

 

米国はコロナ禍において財政支出を拡大させ、不況から短期間で脱することに成功しましたが、ほかの多くの先進国も同様に財政拡大と金融緩和をおこなったため世界的なインフレがすすみました。ベッセント財務長官は、これ以上の財政出動が行われると景気刺激効果よりも、インフレが制御不能に陥り米国の財政が破綻してしまうという認識をもっています。ドルの基軸通貨としての信認を守ことが重視されていると考えられます。

 

過去40年間、世界経済は絶えず拡大する金融市場と自由貿易を通じて成長してきました。「RSGBワールド」(ルービン、サマーズ、グリーンスパン、バーナンキが作り出した成長モデル)が大規模な資本の流れを常態化させ、モラルハザードとも捉えられかねない拡大を継続してきました。RSGBワールドがなかりせば、実質金利はもっと高く、クレジット市場の成長もこれほど高いものではなかったと述べています。

緩和的金融環境を背景に旺盛な消費が続いた米国(消費する国)に各国が輸出を増やし貿易黒字と対外純資産を積み上げてきました(貯蓄する国)。経常赤字や財政赤字が拡大しても、基軸通貨としての強いドルに裏打ちされた米国債を、外貨を稼いだ輸出国が買い続けてきたため、世界貿易の成長モデルの均衡が保たれてきました。つまり、消費する国を貯蓄する国がファイナンスすることによって、戦後の世界経済の成長が維持されてきたと述べています。そして米国の製造業やそこに従事する労働者はこの成長モデルの蚊帳の外におかれて恩恵を受けてこなかったと指摘しています。

 

数十年にわたり続いてきた自由貿易成長モデルのひずみが顕在化され、景気後退懸念を認識しながらも米国は大胆な関税政策を発表したものとハント氏は指摘しています。関税で税収を増やし、意図した景気減速でインフレと金利を抑え、その後減税で内需を拡大させる、というシナリオを描いていると考えられます。

 

いままで米国の消費に依存していた国々が自国内での需要を拡大(民間・内需主導)させることでバランスをとる道を模索することが重要になると思います。消費する国と貯蓄する国という二元論からの脱却が必要と感じます。

 

既存スキームの変革がおこるとき、産業界の新陳代謝も起こりうるという前提にたち、上場企業の経営陣との議論を通じて、独自の成長戦略を迅速に実践できる企業を選別することが有効と考えます。

 

アクティブ運用の銘柄選択力が重要な役割を果たす局面となりそうです。

 

注1)Hunt Economics Ltd. Consultant Economist, Andrew Hunt https://www.hunteconomics.com/our-team/

注2)(参考)Andrew Hunt Economics Ltd. 『Global Weekly Review』 10th April 2025, 『Our Bretton Woods Moment』 April 2025

 
 
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