日本株月次レポート:5月
生成AIと日本株
生成AIの普及により、世界的にテクノロジー企業が注目を集めています。生成AIは従来のテクノロジー需要拡大とは異なる道筋をたどると考えるため、市場評価もまだ初期段階と感じています。
過去のテクノロジー相場は、新しいデバイスや機能・サービスによって形成されてきました。典型的な事例は、スマートフォンの普及とその高機能化、またSNSやストリーミングサービスの拡大などでこれらは循環的な波はありながらも需要を押し上げ、テクノロジー企業の株価も上昇してきました。
スマートフォンというデバイスの台数増加と高機能化(台数×単価)で、ハードウェア企業は利益を伸ばしてきました。SNSやストリーミングも顧客の生活に不可欠なサービスとなりました。しかし、これらはいずれも顧客の可処分所得や自由時間の中でシェアを奪うもので、全産業からみるとゼロサムゲームであったように思います。
つまり、スマートフォンが売れる一方でデジタルカメラの売れ行きが低下したり、SNSが普及する一方でテレビの視聴時間が削減されるといった具合に、お金も時間も有限であるため、既存のデバイスやコンテンツよりも便利で面白いものを提供することで消費者のお財布内シェア・自由時間シェアを獲得するという成長モデルであったと思います。
一方、生成AIは本来は人々が行うはずの知的な作業や創造活動を代替する可能性をもっています。これから創り出そうとする芸術作品や、思考そのものがAIのデータ通信量に置き換えられていくもので、お金や時間の取り合いではないため、その需要の拡大規模とスピードは想像がつかないものになると感じます。もちろん法規制やAIサーバの律速要因、データセンターへの電力供給など克服すべき課題は多いですが、ひとたび便利なものを味わってしまうと元の状態にもどれないこともまた事実と感じます。生成AIの普及は社会に革新的な生産性向上をもたらす可能性をもつと思います。
AI半導体は既存技術の応用で開発することができるといわれています。EUVL(注1)という新しい概念での超微細加工の開発が中心だったころは半導体業界全体で20年超の開発年月と莫大な開発費用を投じ、2019年にようやく量産が可能となりました。多額の開発費を減損処理し開発を断念した企業は少なくありません。一方、生成AIは既存のチップ(注2)を数多く並べバケツリレーのようにデータ処理する構造であるため、既存の枠組み内での先端技術で成立するといわれています。
そのため、従前から半導体製造装置に強みをもつ日本は、大企業だけでなく、中小型株企業でも創意工夫を重ねることで台湾の世界的な半導体企業と取引がはじまったり、事業を拡大させることができています。
ここに生成AIバリューチェーンの中における日本企業の投資魅力が存在すると認識しています。
日本にも優秀なアナリストは多くいますが、日本企業からの視点だけでは見落としてしまいがちな世界的な大きな潮流を、当社はグローバル各拠点のアナリストの意見を取り込むことで、世界のエコシステムを大きな視点でながめることができるのです。この俯瞰的観点から産業の分析を展開し、個別企業の投資アイディアに落とし込むことができるのです。
当社では、テクノロジーセクターは台湾と香港在住の2名のアナリストが日本株チームの一員として調査・銘柄推奨を行うため、私たちは日本にいながらにして台湾の最先端半導体企業の動向を随時確認することができ、またアジアの競合企業の開発や設備投資動向もタイムリーに把握することが可能なのです。海外に装置を販売する日本企業の利用者側となる台湾やアジアの顧客の意見を常に確認することができるのです。
企業分析において一次情報にアクセスすることの重要性は大きく、この強みを最大限活かすことができることが当社の差別化の一つと認識しています。
注1:Extreme ultraviolet lithography; 極端紫外線リソグラフィー: EUV lithography systems – Products | ASML(https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems)線幅を極限まで細くし演算能力を高める微細化技術
注2: 3nm Technology - 台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー (TSMC)(https://www.tsmc.com/japanese/dedicatedFoundry/technology/logic/l_5nm), 先端パッケージング技術 - 台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー (TSMC)(https://www.tsmc.com/japanese/dedicatedFoundry/services/advanced-packaging)各種資料から主に線幅3-5ナノのチップが使用されていると推測